昔むかし、現代未来に異世界。
昔むかし、現代未来に異世界。
「頼む!海底の魔女のところに行け!行って薬貰おて飲んで、人間になってくれ」
海底の宮殿で、王が末の息子に頭を下げています。
「はいい?その薬の副作用、声無しになるんやで、しかも歩く度に痛いちゅうのも。俺は知ってんねん、こー見えても前もそのも、その一個前のも、ちょっとだけ、記憶あんねん!」
彼はやんごとなきワケありで、弟に尻から刀をブッ刺され厠に棄てられた兄者が、その後転生を果たし、別次元の男子高校生として、前世をうろ覚えに思い出しながらも平穏無事に、ひっそり生きていた、過去を持って産まれていたのです。
そう……ある性癖に目覚めた弟が、天から突然、劔を片手に、高校の放課後体育館裏に、降りてきたのです。
「あの時の兄者の『丘陵』に惚れたのです」
「は?お前誰や?……あ!なんや!なんで、ここ迄来るねん!や、やめろ!来るなボケ!アホンダラァァ!厩戸に帰りやがれぇぇ!」
「お願い!もう一度、刺したいだけ!」
………、哀れ彼はうら若き身空で、純白の菊の花びらを散らして、時を終えました。
あまりの惨劇に、神はその御霊をお救いになり、異世界へと送りました。生まれ変わったら、尻を守ることなく生きよと。
彼は人魚の王子として、メルヘンな世界に生を受けたのです。元々美青年だった彼は、麗しの人魚族に転生したことにより、その相貌の美しさは海面の煌めき。
そしてその美貌が、新たなる苦難を与えました。
「ほんでも!地上の王子はガソリン撒いて流した後、火をつけちゃるって、脅して来てるんや、その様な事になったら、海はお終いや、ちりめんじゃこ族が、助けてくれと、言ってきてるんや」
「せやかて!何で人間にならなあかんねん、ここは人魚の本質に従い、歌ってヤツをとり殺す!ばっちしや」
「アホな!そんな事になったら、地上の王が、わいらを討伐しようとするわ、戦争になったら……負けやぁぁ」
事の起こりは、海上に遊びに行った人魚の王子が、たまたま海水浴をしていた、某国の王子に出会ったのです。
「美しい、真に……美しい、そなたは美しい、我の嫁に…
…」
「あー?そんなの知らんし!とっとといね!」
シャ!見惚れる彼を鼻先を、美しい尾ビレが、すれすれに過ぎます、海面をビシャリ!と打ち付けると、さっさと海底に戻ったのです。しかし……マズイ相手に出会っていた彼。
「ああ、俺ちゃん人魚、イイ……父上!俺ちゃん人魚を、人間にして、妃に欲しい」
一目惚れをした地上の王子は、恋い焦がれて父王にそう頼み込みます。
「何だ?ようやく結婚する気になったか、お前はおホモの呪いを受けて生まれたからな、子供など、我が血統から優秀なのを養子に貰えばよい事、皇太子妃が居らぬほうが見栄えが悪い、なに?人魚だと?美しい、ドレスが似合えばよいよい……。ほほう、ならば脅して人間になる様に言え、拒否したら戦争をすればいいだけだ」
という親子のやり取りがあり、王子は行動にでたのです。海に船を出すと、脅迫状を読み上げたのです。
「たちけてくだちゃい!」
「海洋汚染がくるのでち!」
水面近くに居を構えている、ちりめんじゃこ族がそれを聞きつけ、リュウグウノツカイに、その文言を知らせる様に頼み込んだのです。
「俺!今から泡になんねん!」
「親を置いて先立ちゅうのかいんや!この!ど阿呆う!」
海の平和を守る為、泣く泣く彼は海底の森奥深く住む、魔女の元へ出向きました。
「あらん、いらっしゃーい!お薬用意してあるわよ」
年寄りかと思えば、若い姿。ボイイーン!ダイナマイトな胸!細いウエスト!下はタコと思えば、ダイオウイカの脚!なお姉さんが大きなシャコガイを鍋代わりにし、何やら煮込んでいました。
「ふう……ねえちゃん貰いに来てん……なんや準備バッチリやんけ。ほんとに、何でも知ってんねんな……あー、ややなぁ、それ飲んだらひどい目あうやん」
「あら!大丈夫、これは改良版なのよ!真実の愛のキスもいらないの!飲めば人間になるだけ!副作用は一切無いの!ワタシすばらー!」
キンキン声で魔女はウキウキとして、千年万年生き抜いた巨大タラバ蟹の爪の殻の器に、どろりとひとすくい入れました。
勿論魔女が捕獲し茹でカニにして、綺麗に食べ尽くしたそれの再利用です。
「ふーん、そりゃええやん。やけど、代金引換で、対価は『声』なんやろ?」
不機嫌マックスで、赤いピースの逆さ形のそれを、そろりと受け取る王子。
「声!そんな一文もならないものいらないわよ!ちゃんと海の王からボッタくるから大丈夫!」
「は?せいちゃんってか!まさか……ねえちゃん、おとんのコレ?」
小指を立ててそう聞く王子に、うっふんそうよと答えた魔女なのでした。
という訳で、声も無事、歩くときの痛みもない、ちゅ~しなくても、泡にならないという、完璧バージョンの改良版の薬を胸に抱き、海の世界に別れを告げて、地上の王と王子親子が、今か今かと待ち構えていた岩場で、渋々飲んだ海の王子は………。
「そなた!ふぉ!おっぷあい………」
なんと胸元豊かな、光輝く美しい姫になったのです。勿論、前世からの引き継ぎで、美尻なのは言うまでもありません。
「えー!なんでやねん!」
ぼやく真っ裸の美女。
「ほほう……」
目を輝かせ上下左右に忙しく動かしている、助平な王。
「女ならばいらない」
不機嫌にソッポを向く、その身清らかなる王子。
「んじゃぁ、諦めるんやな、海に手ぇ出さへんって、ここで誓え」
「うん、そうする、二度と海に喧嘩を売りません。え……と、父上どうしよう」
王子は、一糸まとわぬ姿で、玉の肌をキラキラとさせている絶世の美女をどうするべきか、父王に問いかけました。
「うむ。ワシがもらう」
「はあ?オッサン寝ぼけとんのか?このボケ!」
そしてその後、この二人は波乱万丈な期間を終えた後、目出度く挙式に至ったのでした。
ようやくかの魂は、なんとか幸せを掴みとったのです。
地上の王子は……
男子修道院に自ら出家をし、彼もまたそこで、彼にとっては、大変に有意義で、満ち足りた暮らしを、過ごしたというそうです。
めでたしめでたし。