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13話 望む先へ


「忘れ物はないか?」


「大丈夫、もう何度も確認したから」


「気をつけてね。寂しくなったらいつでも帰ってきなさいよ」


「ありがとう、母さん」


 あれから少し経って。

 とうとう出発の時刻となり、俺は玄関先で両親に見送ってもらっていた。


 こうしていざ行こうとなると、やはり寂しさが募って来る。


「この後の手順は理解しているな?」


「何度も言わなくても分かっているよ。もう子供じゃないんだから」


「そうよ、あなた。こうして自立を選んだ以上、もうアリシアは子供ではないわ」


「だ、だがなぁ……」


 少し顔を顰める父さん。

 ここまで心配されるのは息子として素直に嬉しい。


 だからこそ、父さんたちの期待を裏切らないような人間になりたい。

 次帰ってきた時はせめて今よりも成長したんだってところを見せられるように。


「ありがとう、父さん。でも俺なら大丈夫だから。心配しないで」


「お、おう……」


 父さんは怪訝な表情を浮かべながらも、渋々頷く。

 

 俺は玄関に用意した荷物を持ち、扉に前に立つ。


「じゃあ、そろそろ行くね」


「うん、くれぐれも身体には気を付けてね」


「な、何かあれば言えよ。一応遠くにいてもギルド経由で助言くらいはしてやれるから」


 二人に見送られ、俺は募る寂しさを抑え、扉を開く。

 

 最後に一言。


「行ってきます」と笑顔で告げて、俺は玄関を飛び出したのだった。




 ♦



「今日はやけにいい天気だなぁ……」


 

 玄関を出ると俺を迎えてくれたのは雲一つない晴天の青空だった。

 まるで旅の門出を祝福してくれているかのように澄んだ空は見ているだけでも、気分が安らぐ。


 春特有のポカポカした気温も相まって、胸の内にこっそりと潜めていた寂しさもいつの間にかなくなっていた。


「いい旅になりそうだ」


 気分が高揚し、少しだけ歩く速度が上がる。

 

 だがその時、ふとあることが脳裏を過った。


「……これで、いいんだよな?」


 歩くスピードが段々と遅くなり、遂には止まってしまう。

 そして俺の脳内では二つの選択肢がひしめていた。


「やっぱ、一言言った方がいいよな……」


 一言言う相手。

 それは俺が昔からよく知る人物。


 そして、俺をこの決断まで導いてくれた人。


「アリス……」


 ふと声に出る。

 俺はあの日……アリスに学園の屋上に呼ばれた日に自分の下した決断を告白した。


 ……冒険者になって、旅に出ると。

 

 その後、アリスはずっと黙っていた。

 でも5分くらい経った時だろうか。


 アリスは「そうなんだ……」と少し寂し気な表情でそう言った。

 そして間髪入れずに「頑張ってね」とだけ言われ、彼女は去って行ってしまった。


 それからというもの。

 俺は彼女とは一度も話せていない。


 卒業してしまったからか必然的に会う機会も無くなり、今日に至るまで一度も顔を会せることはなかった。


 何か気を悪くしてしまったことを言ったのかと心配して、自ら会いに行こうとはしたが、チキンハートが行動を阻害し、結局会うことはなかった。


 本当なら会いに行って真相を確かめたい。

 そう思ってはいるが、中々行動に移せない。


 それに……


「会ってどうする?」


 真相を確かめた上で、その先は?


 別にこれから同じ世界を歩んでいくわけでもないのに。

 

 いや、違う。

 俺は密かに望んでいるんだ。


 彼女と一緒にいたい……と。


 でもそれは叶わない夢だ。

 向こうにも向こうの人生がある。


 それも俺なんかよりとびきりスゴイ人生が。


 中等部を出てから、宮廷魔導士に入るなんて前代未聞の話だ。

 恐らくアリスはとんでもない逸材として、迎え入れられるのだろう。


 世の人間が喉から手が出るほどほしい役職であり、なりたくてもなれない人が大勢いる。

 それが宮廷魔導士だ。


 普通の人間なら微塵も迷わず、その道を選ぶだろう。

 それが普通であり、自然の成り行きってやつだ。


 だから……


「きっと、アリスも――」


 

「……わたしが、どうかしたの?」



 …………………ッ!?



 突然聞こえてくる聞き慣れた声。

 久しぶりでも声を聞いただけで一発で分かる。


 この少し高めで透き通っていて、可愛らしい声は……


「あ、アリ……ス……?」


 振り返ると、そこにはアリスの姿があった。

 

 まるで夢でも見ているかのようだった。


 でもこれは間違いない。


 ……現実だ。


「あ、アリス? 何でこんなところに?」


「さっきアリシアくんの家に行ったら、ちょうど出て行ったって聞いて、行先を聞いたら街のギルドに行くってことだったから急いで追いかけてきたんだよ。そしたら道端で立っているアリシアくんを見つけてこうして声をかけたってわけ」


「追いかけて来たって……何で……?」


「何でって、わたしもこれからアリシアくんと一緒に旅に出るからに決まっているじゃない!」


「……え、どゆこと?」


 分からない。

 どういった経緯でそうなったのか……


(分からん……全く分からん!)


 段々頭の中が混乱してくる。

 でも何とか持ちこたえ、俺は彼女に問う。


「な、なんで俺なんかと……? あ、アリスは宮廷魔導士になるんじゃなかったのか?」


「それも考えたんだけどね。やっぱり、止めたよ」


「止め……た、だと?」


「実はあの屋上での一件の後ね、自分なりに物凄い考えたんだ。これから自分はどうしたいんだって。それこそ毎日毎日ずーっと考えてた。そして昨晩、ようやく答えがまとまったんだ」


「まとまった?」


「うん。やっぱりわたしはアリシアくんと一緒にいたいって。離れ離れになるのは嫌だって」


「アリス……」


「まぁ、自分でも結構思いきった決断をしたな~とは思ってる。宮廷魔導士になれるチャンスなんて、もう二度とないかもしれないのに。あ、でも悔いはないよ! 自分で考えた結果だからね。あ、もちろんアリシアくんが嫌っていうなら強要はしないよ!?」


 少しそわそわしながら、経緯を語ってくれる。


 ……俺は何を悩んでいたのだろう。


 変に捉えて、勝手にネガティブになって……

 挙句の果てに自分が被害を被ったみたいな解釈までして……


「ホント……バカみたいだ」


「えっ、なにっ!? バカってわたしのこと!? まぁ確かに周りに人から見ればおバカに見えるかもしれないけど!」


「ああ、いやそういうわけじゃないんだ。嬉しいんだ。アリスにそう言ってもらえて」


「え?」


 首を傾げる愛しき天使に、俺は本音をぶつける。


「俺も同じことを考えていたんだ。アリスと一緒に旅をしたいって。一緒にいたいって……」


「え、じゃ、じゃあ……」


「俺もアリスと一緒にいたい。一緒に……来てくれるか?」


 少し恥ずかしながら。

 俺は本音の全てを彼女に伝えた。


「い、いいの……?」


「もちろんだ。逆に俺なんかと一緒でいいのか?」


 少し不安げにそう聞いてみると、彼女は迷わず答えてくれた。


「いい……むしろアリシアくんだからこそいいの!」


 その一言に俺の心の奥底に眠っていた何かがブワッと湧きだした。

 嬉しさを越えた喜びが。


 俺の心臓は音まで鮮明に聞こえるほどバクバクになっていた。


 そしてしばらく経ち、鼓動が収まってくると……


「というわけでふつつかものですが、これから宜しくねアリシアくん!」


「お、おうっ! こちらこそよろしくな、アリス!」


 互いに握手を交わし、二人横並びになって再び街へ向けて歩み出す。

 

 ホント……世の中何が起こるか分かったもんじゃないな。


 今回は死ぬほど嬉しいことだったけど。


「そう言えば、アリス。お前そんな軽装備で大丈夫か?」


「あぁ……そのことなんだけど、街で必要なものを揃えようかなって。昨日の今日だから全然準備できなかったの」


「そういうことか。なら、街で一緒に必要なものを揃えようか」


「ホント!? ありがと、すごく助かる!」


 そんな会話をしながら、俺たちは目的地まで進む。


(ホント、今回の件に関しては神様にしっかりとお礼を言わなくちゃな)


 そう心の中で思いながら。

 これから始まる旅に心を躍らせる、俺であった。

これにて一章完結になります!

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