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1話 恩恵授与式


 人は生まれつき、天より【天恵】というものを手にする。

 それはその者の今後の人生を大きく左右するもので、授かった天恵で我が子に一喜一憂するのはこの世界では当然のことだ。


 例えば【剣術適性】という天恵がある。

 これ文字通り、剣に対する適性があることを指し、生まれ持った者はほぼ確実に剣を扱う職に就くことができる。

 

 他にも【職人適性】、【聡明】、【異常記憶】など今後、生きていくのに大きな助けとなる能力が与えられる。


 だが、中には不運なことに全く役に立たない天恵を貰ってしまう者もいる。

 

 俺はそのうちの一人。


 名を【根性】という天恵を持っている。

 

 この天恵は名の通り、人より精神力が強くなるというだけの劣等天恵。

 周りが将来に大きな影響を持つ天恵が与えられている中、俺だけは違った。


 だから俺は周りからよく笑い者にされた。


 底知れぬ根性があるからと、学校では力仕事ばかり任されたこともあった。

 おかげでついたあだ名が『銅鉄心アリシア』。


 響きは良いが、俺にとっては不名誉極まりないものだった。

 

 そんな日々を重ね、俺は15歳になった。

 

 今日は俺にとっては多分、人生の中で一番と呼べるほど大事な日。

 

 そう……恩恵授与式の日だ。



 



「アリシアくん、いよいよだね」


「ああ。この時をどれだけ待ち望んでいたことか」


 俺、アリシア・アルファードは中央都市にある教会を訪れていた。

 隣にいるのは腐れ縁のアリス・レイヴン。


 学園の初等部から一緒に勉学を共にしてきた、俺の()()()()の理解者だ。


 彼女は俺とは違い、【万能治癒術】という名前の通り万能な天恵を天より授かった。

 治癒術の才能が与えられ、将来は神官候補としての期待がされている。


「どんな恩恵が貰えるんだろうね~」


「さぁな。でもアリスは【神官】確定だろう? 天恵で万能な治癒術の能力を貰っているんだからさ」


「そうとも限らないらしいよ。過去に天恵とは無縁の恩恵を授かった人もいるみたいだし」


 恩恵。

 それは15歳になると、女神より授かるとされる第二の審判。


 恩恵は天恵とは違い、能力ではなく役職が与えられる。

 早く行ってしまえば、今後数十年の人生が決まる瞬間でもある。


 ちなみにどんな役職を貰うかは人それぞれだ。


 さっき説明した【剣術適性】を持つ者なら【剣士】か【槍兵】といった役職が授けられる。

 場合によっては【勇者】なんて超上位の恩恵を授かる者もいるらしい。


 大体は自身が生まれ持った天恵と関連する役職を手にすることができるが、アリスの言う通り関連のない役職を手にすることもあるのだそう。

 

 まぁどちらにせよ、この恩恵というものは天恵とは違って今後の人生を確実に決めるものだということ。


 普通なら天恵から恩恵の内容は予想できるものだが、俺は【根性】という意味不明な天恵を持つ者。

 それから連想される役職なんて皆目見当がつかないので、不安しかなかった。


(まさか奴隷……とかじゃないよな?)


 でももしここでまともな恩恵を授かれば、今までの苦労は報われることになる。

 バカにされ続けた毎日からようやく解放されるのだ。


 だから俺は信じていた。

 恩恵こそは良いものを、という可能性に……。


「えー、これより恩恵授与式を執り行う。順次名前を呼んでいくので、呼ばれたら返事をして前に出てくるように」


 前で分厚い聖書みたいなものを持った司祭様が次々に名前を呼んでいく。

 周りは皆、自分たちと同い年だ。


「とうとう、始まったか……」


 緊張で心臓が張り裂けそうだ。

 この日を長い間、待っていたためかその高まる緊張は人生で初めての経験だった。


 そんな緊張しまくっている俺を隣にいたアリスが背中を擦って治めてくれた。


「君は……おお、こりゃすごい【剣聖】だね。【勇者】と並ぶレベルの最上位恩恵だよ」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 剣聖。

 この役職を耳にした途端、周りがざわつき始めた。


「――おい、剣聖ってマジかよ」


「――いいな~これでもう残りの人生は安泰ってわけか?」


「――俺もなりてぇ!」


 どうやら、稀に出るという上位恩恵が出たらしい。

 緊張で他の人の恩恵など聞く余裕すらなかったが、周りの騒ぎ具合で分かった。


 ちょうど人だかりで誰が授かったかまでは分からないけど。


「次、アリス・レイヴン!」


「あ、はいっ!」


 アリスの番がやってきた。

 アリスは俺の方を向き、ニコッと笑みを見せると、


「じゃあ、行ってくるね」


「おう、行ってらっしゃい」


 スタスタと司祭様がいる壇上へと歩いていく。

 司祭様は名前と本人確認をすると、その分厚い書物を開いた。


「なっ、君……!」


 突然驚きの声をあげる司祭様。

 他の人とは明らかに違う反応に周りの人たちも釘付けになる。


 司祭様はゴクリと息を呑むと、驚きを隠せない顔のまま口を開いた。


「あ、アリス・レイヴン……君の恩恵は【大神官】だ」


「だ、だい……しんかん?」


 この恩恵に周りからは先ほどの剣聖騒ぎを越えるどよめきが。

 

 何せ【大神官】という職は治癒術を扱う者の中では最上位の役職。

 全世界でも指折りほどしかいない役職の誕生にどよめきが起こらないわけがない。


「ま、まさか……数百年に一度しか現れないと言われる大神官()が……! な、なんということだ!」


 流石の事態に司祭様も終始驚きでばかり。

 周りもそれに乗じて、


「――す、すげぇぇぇぇ! あんな可愛い子が【大神官】だってよ!」


「――あんな可愛い子に癒してもらえるなら、俺喜んでケガしちゃうよ!」


 次々とすげぇぇ! の嵐。

 おまけにアリスは誰もが認めるレベルの美人さんなこともあってか、一気に注目が集まる。


 現に俺も、その恩恵の発表に驚きを隠せないでいた。


 それから司祭様は他の人に聞こえないようにアリスと何らかの話をした後――


「次、アリシア・アルファード!」


「は、はい!」


 いよいよ俺の出番がやってきた。

 俺は高まる緊張感を何とか抑えて、壇上へと歩いていく。


 戻ってきたアリスもウインクをして頑張れと言ってくれた。


(いよいよだ……)


 この時を待っていた。

 生まれて物心ついた時から、ずっと。


 今日この日、俺の人生は決まる。


 そして同時に、今まで歩んできた屈辱のレールから外れることのできる最後のチャンスでもある。


 俺は司祭様の前に出ると、ふぅ……と一呼吸。

 心を整える。


「では、アリシア・アルファード。貴殿の恩恵を言い渡す」


 ゴクリ……


「ん、これは……!」

 

 例の書物を開いた途端、司祭様の顔色が変わる。

 まさか、俺の恩恵は……


「ば、バカな……こんなことが……」


「ど、どうされたのですか司祭様?」


 不安と期待感が混ざった複雑な感情が渦巻く中、俺は司祭様に問う。

 司祭様は震えた手で書物を持ちながら、答えた。


「役職じゃないんだ。君の恩恵は……」


「役職……じゃない?」


 どういうことだ?

 役職じゃないって……


「君の恩恵は【経験力】。要は役職なし、という意味だ」


「や、役職……なし……?」


 さっきのどよめきとは反対に、静まり返る教会内。

 

 俺はその驚愕の結果に、言葉を失った。

第1話をお読みいただき、ありがとうございます!

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