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無料案内所ってなぁに?お母さんに聞いてみよう!!


「フンフンフン~俺の名前は御手洗健~ラララ~来週はぁ~筆・お・ろ・し~♪ イエーイ……」


他人に聞かれたら憤死もののオリジナルソングを口すさんでいる俺は、現在一人でアルバイト先の開店準備に勤しんでいる。

職場は歌舞伎町の一角にある無料案内所だ。

……ん? 無料案内所が何かって? 分からない人はお母さんに聞いてね!

しかしその後の事は保証しない。


都内の大学に通う俺が、なぜ歌舞伎町の無料案内所で働いているというと、ムフフな体験ができるかもしれないという淡い期待、要するに下心によるものだ。


童貞諸君も一度は妄想した事があるのではなかろうか。

風俗街の無料案内で働いていると嬢のお姉さんと親しくなって……とか、大人のビデオの撮影現場のADとして働いていると女優さんと……といったことである。


だが所詮妄想は妄想、そんな事は起こることもなく気がつけば勤務開始から一年が経とうとしていたのだった。

現実は非情である。


事態を重く見た俺は目標をシフトし、普通に風俗で筆おろしをしてもらう事に決めた。

一週間後の21歳誕生日に向けて三ヶ月前から節約生活をして、ようやく目標金額に届くことが出来たのだ。

冒頭の上機嫌も仕方がないというものだろう。


上機嫌のまま開店準備を終えた俺は、入り口のシャッターに手をかける。


「さぁ今日も頑張るかな」


そして、いつものように案内所のシャッターを開けた。


「ふう、清々しい風……心が洗われるようだぜ……って、んん?」


清々しい風? 心が洗われる? 

――――そんな馬鹿な!?


いつもシャッターを開けて感じるのは、アルコールやドギツい香水の匂いで清々しさなんて物は欠片もない。

歌舞伎町で心が洗われる時なんて、一本一万円コースで可愛い娘が出てきた時くらいだって職場の先輩が言ってた。


焦った俺は慌てて辺りを見ると、そこは見慣れた雑多な街並みではなく中世ヨーロッパを思わせる街並みが広がっていた。


「は? ええっ? ……ここ何処?」


恐る恐る案内所を出てみたところで、俺は更に驚愕することになる。

まず道路はアスファルトではなく石畳になっており、お隣のお花屋やコンビニも忽然と消えていて更地になっていた。

焦った俺は店に戻り、案内所のシャッターを閉じた。


「いやいや、待ってよ……なにこれ? ドッキリ?」


突然の状況に俺が困惑していると、案内所の裏口の方から小さいが人の話声が聞こえたような気がした。


「人が……いる?」


少し迷ったがこのままだと埒があかないと思い、カウンター横のスタッフルームから気配を殺しながら裏口へと向かう。

鍵がかかった裏口のドアに物音を立てないようにゆっくりと耳を当てると、確かに人の声が聞こえた。


……やっぱり誰かいる。

何かあれば即座にドアを閉めればいいと判断した俺は、音を立てないようにドアから離れ護身用購入しておいた刺叉を取り


にスタッフルームへと戻る。


「な、何かあった時の為にamadanで買った。俺の相棒ジョナサンお前の出番だ!!」


ちなみに送料無料、お手頃価格の税込4980円である。


再び裏口にたどり着き、一度深呼吸。

ドアの鍵を開け恐る恐るドアを開けた。


ドアを開けた先には、ローブを頭まで被った俗に言う魔法使いのような輩が数人と、剣を持ったいかにも兵士といった格好


した人たちが合わせて十数人ほど待ち構えていた。


「ッ!?……ど、どちら……さまでしょうか?」


予想外の光景に俺が混乱していると、裏口にドアの前に居た団体がモーゼの十戒の海の様に左右に別れ、出来た道の奥から


一人の人物が歩いて来て俺の前で立ち止まる。

その人物は今までリアルでは見た事無いが、この言葉でしか言い表せない、いかにもな格好をした初老の男性だった。


「おっ王様?」


そう、どう見てもお王様だ。


「ふぉふぉ。いかにも! ワシがこの国の王じゃ。」


突然の状態に警戒し、思わず手に持った相棒のジョナサンこと刺叉を構える。

警戒心むき出しの俺とは裏腹に、王を名乗るその人物はにこやかに両手を平げ名乗りを上げた。


「ワシはシコリア王国の国王、ライオネル・ジースキー・ヌッキ・シコリア45世じゃ。」

「なんて卑猥な名前だ!! なにやっぱりドッキリ? 木曜の18時から二時間放送のあの番組?」


だが一人遊びが好きそうな王様の名前はゴールデンタイムの放送コード的に考えると、間違いなくアウトだ。

秘密結社BP○が黙っちゃいない。

では、深夜番組か? だが素人に大掛かりなドッキリを仕掛ける番組なんてあったけ……


困惑した俺を尻目に王様は話を進める。


「それにしても、杖を持っているということは、恐らくお主は魔法使いじゃな?」


王様が魔法使いと断定した俺の姿は、ジョナサン(刺叉)を持って、店のユニフォームであるハッピに身を包んだものだ。


なにかひどく勘違いをされている……



「皆の者!! 異世界から召喚されたのは魔法使いの大賢者様じゃ!」


王様が、自分の後ろに控えている取り巻きに高らかに宣言すると、その宣言を聞いた取り巻き達が嬉々として騒ぎ出す。


「ウェーイ!! 大賢者様! 時代と俺たちはこんな人を待っていたァー!」

「そーれ! 賢者様! 賢者様! 賢者っ様!」


兵士たちは、小気味良い手拍子で何処かで聞いたことあるようなリズムを奏でている。

ええぃ! はしゃぐな! 大学生の飲み会かお前ら!?


「いや待って待って! 俺は魔法使いじゃないし、賢者でもないよ? それに異世界って言った!?」


web小説でよく見た展開なだけに薄々そんな気がしていたが、現実にはありえないと頭の中で選択肢から除外していた。


「ところで青年よ。この街を見てどう思うかね?」


突然真剣な口調になった王様に、俺の混乱した思考はまだついて行けていない。

当然の疑問がわいた俺は口を荒げ問いかけた。


「てか、あのですね? この状況なんなんですか? 俺はマジで異世界召喚されたの!?」

「青年よ。言わなくてもわかる…素敵な街並みじゃろ?」


王様は俺の質問に耳を貸さずに話を続ける。


「いや待って待って、まだ俺何にも言ってないって!」

「そうなのじゃ! この素敵な街並みにも問題があってのう…」

「話が通じねぇ!?」



「お主には、その問題を救ってもらう為にこの世界に来てもらったのじゃ!」

「は?」

「は?」

「え?」

「え?」


どうやらドッキリではないらしい。

まさかweb小説でよく見る異世界転移が我が身に降りかかるとは……

色々と言いたいことがあるが、一番重要な事をこの場では叫ばせていただこう。


「これじゃあ筆おろし出来ねぇじゃねーか! 俺の三ヶ月を返せぇぇ!」


そう、これが異世界で無料案内所を始めて、国を救ったお話しの始まり。



無料案内所で救われる国って……





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