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第九話:初めての狩りと……

【まえがき】

今回、狩りの後に解体のシーンがあります。

描写はかなり薄めにしてありますが、苦手な方はお避け下さい。

「す、凄い!」


 ネコ先生から貰った弓から放たれた矢が、木の的をいとも容易く、真っ二つに貫通した。

 数センチは厚みがある木の的だ。

 私が持ってきた前の弓ではこうはいかない。


「ふむ……、これなら狩りなど余裕じゃろうて」


 弓というのは、この世界では猟民ぐらいしか使わない。

 魔術が使える貴族たちには、あまり必要のないものだ。

 しかし、これだけの威力を出せれば、普通の魔術士には劣らないだろう。

 それに、魔獣ではないケモノであれば、軽く弓を放つだけで余裕で仕留めれそうだ。


「それでは……、早速、狩りに行くかのう?」


「……やっぱ行かないと駄目ですか?」


 私としては、ケモノを狩るのはあまり気が進まなかった。


「森の中に、果物や山菜があるじゃないですか?」


「ふむ。じゃが、そう多くは穫れんだろう」


 確かに、毎日の食事分を森の植物からだけ手に入れるのは難しいだろう。


「それに、お主の健康のためにも、肉は食わんといかん」


 いわゆる、タンパク質というものを摂取しないと、体の調子がおかしくなるらしい。

 それには肉が最適とのことだ。

 魔獣の肉は食べられない。

 味が不味いのもあるが、食べれば病気になる事が知られていた。

 普通のケモノの肉を頂くしかない。


「……分かりました」


 これは、私がここで暮らすと決めた時に十分に覚悟していたことではある。

 自分と仲間のケモノの食い扶持は確保しなければならない。

 それが自然の中で生きるという事なのだ。


「……よし! 行きましょう」


 改めて決心した私は、新しい弓を持って、森の中へ入った。

 ネコ先生とホークも一緒だ。

 ホークは私の矢筒の後ろを足場にして背中にくっついている。

 この状態でホークが羽根を広げたら、私に羽根がついたように見えるかも知れない。


「……見つけました……」


 森の中を三十分ほど歩いたところでカルフを見つける。

 カルフは中型の四足歩行の陸獣。

 頭に分岐した大きな角を二本はやしている。

 ネコ先生の故郷のシカという生き物の面影が少しあるが、それよりは一回り小さく、その分素早いらしい。


「……気付かれないようにな……」


 獲物は、五十メートルほど離れたところで、うろうろと地面を嗅ぎ回っている。

 餌となる植物を探し回っているのだろう。

 ここからでも狙えないこともないが、確実に仕留めたい。


「……ホークに引きつけてもらいます」


 右腕を後ろ手にして、背中に止まっているホークに腕のグローブに止まるように促す。

 ホークは黙ってその腕に移動した。


『準備完了』

 ホークの目がそう言っている。


「引きつけるだけでいいからね」

 私は右腕を後ろに引いて準備動作を始める。


 ホークが羽を軽く広げたタイミングを見計らって右腕を前に振る。

 飛び立つと大きく羽をはためかせ、得意の低空飛行で木々の間を蛇行しながら、獲物へ向かった。


 十分に近づくと、あえて減速しその周りを挑発するように一周した。

 それに気づいたカルフは、その挑発に乗ってホークに突進しようと足を軽く地面から離している。

 こういった挑発はホークの得意技なのだ。

 コネコちゃんやレッサちゃんと遊んでいるときも、いつも挑発してからかっている。


 ホークはそのまま、私の方へ向かって飛んできた。

 木々の間を素早く飛ぶホークを追うのに夢中で、カルフは草木に潜む私に気がついていない。


 私は直立して弓を構えた。

 ホークが私の横をすれ違いざまに飛び抜けていく。

 それを追ってカルフが草木をかき分けて私の正面に姿を現した。

 急所が丸見えだ。


 ――シュッ


 脳天に向けて軽く矢を放つ。


「キャウ!」


 カルフは悲鳴を上げて私のすぐ横に倒れた。

 急所に入った矢ですぐに絶命してくれたようだ。

 苦しませずに倒せて良かった……。


「ごめんね……」


「幸運じゃな。オスよりメスの肉のほうが美味いのだ」


「へぇ……」


 初めて普通のケモノを倒した事に感傷を感じていた私に、ネコ先生は冷静に解説を続けた。


「それと、美味しく頂くには、早く血抜きをしなければならない。ホントは今すぐやった方がいいのじゃが……お主は初めてじゃ。家からそこまで遠くないので持ち帰って処理しよう」


「うう……やりたくない……」


 正直、何をやるか想像したくなかった。


「ピィィ! ピィィ!」

 ホークが戻ってきて絶命している獲物の上に乗っかって鳴いた。

 不満の声のようだ。


「アシビットは野生下では一匹で狩りをする孤高のケモノじゃ。自分も狩りをしたいんじゃろうな」


 ホークの頭を撫でて、なだめてあげる。


「また、今度ね」


「ピィ! ピィ!」


 分かったから、早く食べようということらしい。


「はは……分かったわ」


 その後、獲物を家の近くまで持ち帰って、解体作業をした。

 狩りよりもこっちの方が遥かに大変だった……。


「うぅ……おぇ……」


「内臓を傷つけんようにな! ほれ! 何をやっとる!」


 正直言って、初めての作業に頭がクラクラした。

 鎖骨付近から血抜きした後、渓流の水で洗浄して、腹を割って内臓を取り出す。

 吐き気と涙を我慢しながら出来るだけ無心になってネコ先生の指示に従った。


 その後、家で肉を焼いて山菜と一緒に頂いた。

 家の中に少しだけ残っていた調味料も有り難く使わせてもらった。


 ちなみに、火を起こすときは私の魔術で石に火の属性を付加して、その石を何かに打ち付けると簡単に火が起こせる。

 直接火を出せる訳じゃないという、相変わらず地味な魔術が役に立ったのだ。


「うん……なかなかイケるわね」


 自分が今まで食べていた肉よりも柔らかく、あっさりしていて、美味しい。

 多少及第点のところもあるが、自分で料理するのが初めての私にしては良くやったほうだろうと褒めてあげたい。


「ピィ、ピィ! ピィ、ピィ!」

「ンマ、ンマ! ンマ、ンマ!」


 正直、自分のことよりも、ホークやコネコちゃんが夢中になって食べてくれたのが何よりも嬉しかった。

 皆が食べている姿はとても可愛いものだ。

 辛かった解体作業が報われた気がする。


 普段は果実中心のレッサちゃんや、ネコ先生も加わって肉を食べたものの、さすがに一頭まるごとはすぐには食べきれない。


「食べ切れん部位は燻製にするぞい」


 その後、数日かけて、焼いたり、鍋で煮込んだりして食べたが、残った部分は腐ってしまう前に家の中にあった燻製器を使って燻製にした。

 かなり大量の燻製肉となったので、これでしばらく餓える事はないだろう。

 まずは一安心だ。


 また、この燻製肉はすぐにとある事件で役に立つことになった。



【あとがき】

ご愛読、ブックマークありがとうございます。

次回、この肉を使って……

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