第八話:ネコ先生、飛ぶ
勇んで「王国建立!」などと言ったものの、まずは地道に生活基盤を整えなければいけない。
とりあえず、家の掃除や洗濯から始めることにした。
しばらく人が住んでいないので、所々ホコリが溜まっていたり汚れたりしていたからだ。
「おお、すまんのぉ……、リン」
何だかずいぶんと年老いた様子で、ネコ先生が感謝の意を示してくれた。
汚れはネコ先生たちが食い散らかした果実やお肉などによるものが殆どなのだ。
少し気恥ずかしいのかも知れない。
ちなみに、ネコ先生自身はあまり肉を食べないらしい。
ホークは肉食なので魚やケモノを狩ったりはするんだとか。
コネコちゃんは狩りが下手なので、そのおこぼれに預かっている。
レッサちゃんは果実中心の食生活とのこと。
「いえいえ……。とはいえ、結構しんどいです……」
家にいた時、私は自分で掃除をした事がほとんどなかった。
ペティが掃除をする時に、世間話をしながら簡単な手伝いをしていたぐらいだ。
慣れない作業だったので、とりあえず目につく所だけ簡単に済ませる。
まぁ今後、ゆっくり綺麗にしていけばいいだろう。
時間はたっぷりあるはずだ。
「さてと……水は大丈夫ね」
近くに小さな渓流があったので水にはあまり困らなそうだ。
これまで暮らしてきたのと同じように便利な生活ではないし、家だって小さいけれども私としては満足だった。
生まれて初めて自由を感じられたことが、何よりも嬉しかった。
一息つくと、ネコ先生が、
「そうだ、良いものをやろう」
と言って、家の物置のようなスペースから変わった形の弓を持ってきてくれた。
本体の弧になっている部分の先端付近が、弧全体と逆側に反っている。
素材も木だけではないようだ。
私が家から持ってきた弓よりも少し小さい。
「ケモノの骨と腱を貼り付けて作った合成弓じゃ。威力はお主のものよりも遥かに上だろう。以前に吾輩が作ったものじゃ」
ネコ先生は一体何者なんだろう……。
「……ありがとうございます」
とりあえず受け取っておくことにした。
◇ ◆ ◇
「さて……」
次の日、私は父と母に対して手紙を書くことにした。
喧嘩をして家を出てきたものの、私を探そうとする可能性は否定できなかったからだ。
それが親としての愛情から来るものか、世間体の心配から来るものにしろ、私としては都合が悪い。
「見つかってしまえば、もふもふ王国の存続も危うくなってしまうわ!」
無事に生きている事と「猟民の村を抜けて隣国に入る」という事を手紙に書いた。
出てくる時にペティに伝えた事と、ある程度の辻褄は合うだろう。
それと、探す必要は全くないし、戻る気も全くないということ。
かなり強めの言葉で書いておいた。
「ふむ……。では、吾輩とホークで手紙を届けてやろう」
手紙を小さく折りたたんでホークの足に括り付ける。
そして、私の家の場所をネコ先生に伝えた。
「それで、どうやって行くんですか?」
ネコ先生は飛べないだろうに……。
「こうやってじゃ! ホーク、頼む!」
「ピィーーー!」
ホークが空中から飛んできて、地面に座ったネコ先生をガシッと足で掴んだ。
そのまま勢いで空へ舞い上がる。
流石、美しい飛行姿勢だ。
だけど……
「どうじゃ!?」
空に浮かんだネコ先生が尋ねてくる。格好いいだろう、という事だろうか?
しかし、その姿はまさに――
「……完全に捕まった獲物ですね……」
空を飛ぶ翼獣に捕まってしまった、哀れな小型の陸獣の姿にしか見えなかった。
あのままホークに食べられてもおかしくない気がする。
「ええい、うるさいわい!」
ネコ先生は、そう叫びながらホークと共に空を飛んでいった……。
【あとがき】
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