表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

第六話:抜群! 翼獣ホークとのコンビネーション!!(後編)

 私の手から飛び立ったホークは、バサバサッと小さな羽音を数回立て、低空飛行で敵に向かって進む。

 低空飛行が、あのケモノ――アシビットの得意技だということは私も知っていた。

 羽を広げて地面すれすれを滑空する姿がとても優雅でそして格好いい。


(防護術式!)


 私は草木の合間を縫って飛行するホークに魔術をかけた。

 あの飛行の速さであれば、一瞬で魔獣の位置に到達するだろう。


「弓の準備を!」


 ネコ先生の声だ。

 背負っていた弓を左手に持ち、矢筒から一本矢を取り出して右手に持つ。


「ガァッ!!」


 魔獣の唸り声が聞こえた。

 草むらから身を出して、その姿を両目でしっかりと捉える。

 魔獣は地面付近から接近するホークに気がついて両腕を振り回して振り払おうとしている。


「速化術式!」


 私の魔術で加速したホークは、敵の腕をかわしながら上昇し敵の顔の位置を狙う。


「グアアッ!」


 魔獣の悲鳴。

 ホークは鋭い足爪で相手の目を切り裂き、そのまま相手の手が届かない位置まで距離を取った。


 魔獣は視界が奪われ、怒りに任せてでたらめにブンブンと両腕を振るっている。

 その両腕から、かまいたちのように黒い魔力が放たれて木々を深く傷つけた。

 あれに当たってしまえばただでは済まないだろう。


「ふぅ……落ち着け……」


 私は自分に言い聞かせるように言いながら弓を構えた。

 魔獣までの距離は二十から三十メートル程。

 家で練習していた時は、この程度の距離であれば難なく的に当てていた。


 ホークが、バサバサと大きな羽音を立てながら魔獣の周りを挑発的に旋回している。

 それに対して魔獣は立ち上がって応戦しようとしているが、足の動きは止まっている。

 自分の頭の上を飛び回っている相手に対して、上半身だけで対応しようとしているからだ。


「……今なら狙える……」


 矢を放とうとしたとき、ふいに自分の過去の出来事が思い出された。

 初めての実戦のさなか、こんな緊張を強いられているのに不思議だった。

 私はその意味を理解する。


「……そうか……」


 この一射は私の初めての一撃なんだ……。

 単に、初めて魔獣に矢を放つという意味じゃあない。

 過去への決別の一撃であり、決意の証でもあるんだ――


「やってやる!」


 すうっと私の周りの音がなくなっていく。

 思考はすべて彼方に消えていった。


「……当たる……」


 不思議と確信があった。


 シュッ――


 私が放った弓は空気を鋭く切り裂き、まっすぐに魔獣の右脚の腱の部分に命中した。


「グアァッ!!」


 魔獣が痛みで大きな悲鳴を上げて、地面に前脚を着いた。


「もう一発じゃぁ!」


 ネコ先生の指示を待たずに私の体が動いていた。既に次の矢を構えている。

 狙いを定めて――射る。


「ガアァッ!!」


 今度は魔獣の左脚の腱に命中。


「トドメを!」


 ネコ先生の声。分かっています。一刻も早く終わらせます。


 魔獣も苦しんでいるのだ。ここまで来て、ためらいは何も生まない。

 腰の短剣を手に取り、同時に速化の術式を自分自身にかけた。


「うわああああああ!!」


 大きな雄叫びを上げながら一直線に駆け出し、勢いよく空中へ飛び上がる。

 そのまま私よりはるかに大きな魔獣の背中に両足を着地させた。


 今度は強化術式を自分にかける。補助魔術の連続は私の得意技。

 今までは他人のために、これからは自分のために使う。


「だあああああああ!!」


 両手に力を込めて、思いっきり魔獣の首の後に短剣を突き刺した。


「グガアアッ!」


 魔獣の大きな悲鳴。私は魔獣の背中で足を踏ん張って、更に短剣を押し込む。


「ガ……アッ……」


 魔獣の声が消えた。


「はぁっ……はぁっ……」


 後に残ったのは私の荒い呼吸の音。


「……なかなかやりおるわい……」


 そして、静かに私を称賛するネコ先生の声だけだった。



 ◇ ◆ ◇



 その後の事は良く覚えていない。

 翌朝、目を覚ますと毛布にくるまって山小屋の中にいた。

 簡単な寝具以外には特に何もない寂しい山小屋だった。


 傍らにはネコ先生とコネコちゃんが身を寄せ合って眠っていた。

 すぅすぅと二人で可愛らしく寝息を立てているのを見ると、本当の親子にしか見えない。


 小さな窓から注ぐ光で、気持ちが温かくなる。

 昨夜の出来事が、まるで夢の中で起きた事のように思い出された。

 手にはうっすらと魔獣に止めを刺した時の感覚が残っている。


 しばらくすると、ネコ先生が目覚めたようだ。


「……んにゃぁ」


 ケモノと人間の中間のような動きで目をこすっている。


「おはようございます」


「ふむ……おはよう」


 ネコ先生は床に前脚をついて、うぅ〜と言いながら背筋を伸ばした。

 元人間と言えども感覚はケモノなのだろうか。

 コネコちゃんはまだぐっすりと眠っていた。


「さて……お主これからどうする気じゃ? 猟民の村までなら案内するぞ」


「ネコ先生もそこに住んでいるのですか?」


「いや、吾輩たちは村から少し離れたところにある空き家に住んでおる」


「そうですか……」


 私は考える。昨日の出来事からして、ネコ先生はケモノにとても詳しい。

 こんな人、この国のどこを探してもいないだろう。

 そもそも本人からしてケモノになってるんだから……。


「……ネコ先生に弟子入りさせて頂けないでしょうか?」


「駄目じゃ」


「そ、即答!? なぜですか!?」


「その前に、なぜお主は弟子入りしたいのじゃ?」


「それは……この世界ではケモノは嫌われ者で、でも可愛いケモノもたくさんいて……。もっとケモノの事を知りたいし、仲良くなりたくて……」


 言っていることは紛れもなく私の本音だ。

 それと、人の中で生きていくのに少し疲れたという事もあったのかもしれない。


「……ケモノの道は修羅の道……、生易しいものではないのじゃ」


「……それは私も分かっています。彼らがただ可愛いというだけでないのも」


 しかし、ここで簡単に引き下がる訳にはいかない。

 私は片膝を突き、姿勢を正してネコ先生を見つめる。


「……駄目ですか?」


「駄目じゃ」


「こんなにお願いしてるのに?」


「お願いされてもダメなものはダメじゃ!」


 ネコ先生は私と目を合わせないように上を向いた。


 よし! 私は手段を選ばないことにした。


「うりうり」


 ネコ先生のあごの下を掻いてあげる。


「お、お主! な、何をする! うっ……おぉ」


 やはり気持ちが良いようだ。


「知ってますよ。ここが良いんですよね? 自分では掻き辛いですからね」


「おぉ……おぉ、そこは……」


 ネコ先生がコテンと床に寝転んだ。目がウットリしているのが分かる。


 私は追撃の手を緩めない!


「そらそら」


「おぉ……ふぉ」


 まだまだ容赦せずに攻め続ける。


「ほらほら」


「おぉ……こ……こんな事しても……無駄なのじゃ……おぉ」


「ネコ先生、後ろ脚が動いてますよ」


 先生の後ろ脚がふるふると引っかくように動いている。

 気持ち良すぎて、無意識に自分で掻くような動きになっている。


「おぉ……これは……ま、孫の手……いや、神の手……」


「さぁ! 弟子にして下さい! お願いします!」


「……わ……分かった……」


 ネコ先生は観念したようだ。私の手に身を任せて脱力し目をつむった。


「……この娘、本当にやりおるわい……」


 マッサージが終わると、ネコ先生は昨晩と同じような台詞を吐いていた。



 ◇ ◆ ◇



その後、ネコ先生に連れられて森の中を進み、家に入ると――


「う、うひょ〜〜!!」


見たこともない、とんでもなく可愛いケモノを見て、私は素っ頓狂な声を上げた。



【あとがき】

 ブックマーク、ポイント評価ありがとうございます!


 [動物豆知識(現実世界)]

 鷹は野生化では一匹で狩りをするので、鷹狩でも殆どを鷹に任せます。

 一方で、群れで生活する犬は、猟でも人間と協力する事があります。


 [次回予告]

 作者が世界で一番カワイイと思っている動物をモデルにしたケモノ登場

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ