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第二十二話:パーティ(後編)

 給仕からワインを受け取り、テラスに出ると、秋の風が気持ちよく私たちを迎えた。


「今日は来てもらって感謝する」


「いえ、以前に約束もいたしましたし……」


 私たちはそっと微笑み、グラスを軽くあてた。

 一口ワインに口をつけると、その甘味が口と喉に広がる。


「ご両親とは仲直りできたかい?」


「え? ええ……多分……」


「ははは。まぁ簡単な事ではないのかも知れないな」


「そうですね……。人の気持ちというのは難しいです……」


「ふふ……。そうだね、難しい」


 微笑みながらレナードは目を伏せて、少し何かを考えているようだった。


「リン……一つ、いや二つ話があるのだが……」


「はい?」


「……うむ……まず一つ目だ。そなた、この国の為に働く気はないか?」


「はぁ……それは勿論。レナード様や国のために為すべき事はしなければならないと思いますが……」


 国に対して特別の忠誠心があるかと言われると別だが、私とて貴族の娘であるし、人々の役には立ちたいという思いがないわけではない。

 どちらかといえば彼の役に立ちたいという個人的な想いのほうが自分の中では大きいかも知れないけれど……。


「そなたとケモノの接し方を見て、少し考える所があってな……国の中でケモノをもっとよく学ばなければならないのではと思ったのだ。具体的には研究機関の設立と言ったところか」


「……なるほど」


 私は少し考える。

 確かに、この国のケモノに対する忌避感は、ケモノに対する理解不足から来ているとも思われる。

 人は理解できないものに対しては恐怖を抱くものだから。


「それは、魔獣対策という意味でも役に立つのではないかと思ってな」


「……おっしゃる事は筋が通っているかと存じます」


「うむ……加えて言えば、そなたにそのトップを任せられないだろうかと思っていてな……」


「そ、それは……」


 とても有り難い申し出だ。

 自分の為だけでなく、他の人の為にケモノを学ぶのはとても意義あることだし、私のやりたい事がそのまま仕事にできるという事でもある。


「今すぐの返事は期待していない。少し考えて貰いたいだけだ」


「は、はい……」


 突然の話だ。

 お言葉に甘えて、頭を冷やしてからゆっくり考えさせて頂くことにした。


「……しかし、リン、硬いな。もう少し気楽にしてくれ」


「そうは言われても……」


 彼の身分を知ってしまった以上、なかなか難しい。


「私のことも様などいらぬ。前も言ったが、レナードでいいぞ。既に私たちは友人になっているであろう?」


「は、はい。レナード……」


「うん、そうだ」


 その顔は少し嬉しそうだ。

 彼自身も今までより気楽になったように見える。

 少し進んで、テラスのレールに体重をかけていた。


「それで……もう一つの話なんだが……」


 そう言い掛けて、残っていたワインを飲み干していた。


「はい」


「リンが良ければ……私と……結婚を考えてくれないだろうか?」


「は?」


 ひゅ〜バンッ――と花火がタイミングよく打ち上がる。

「まさか狙っていたのか?」などと考える余裕は当然、ない。


「な、何を?」


「い、いや。すまん! もう少し時間を掛けるべきだったか!?」


 先程までとうって変わった、等身大の一人の男の姿。

 王族としての威厳は消え去っていた。


「いや、しかし……私が貴女を好いているのは事実だ」


 彼は気を取り直して、私を真剣に見つめる。

 そんなにストレートに表現されると私も照れてしまう……。


「は、はい! ありがとう……ございます!」


 頬が赤く染まっているのを感じる。

 声も上ずってしまっていた。


「こんな話を、先ほどの話と一緒のタイミングですべきではないと思ったが……すまん、はやる気持ちを押さえられなくて……」


「い、いえ」


「……初めて王族としての大きな役目を果たせた所だ。柄にもなく気持ちが昂ぶってしまったのかもしれん……だが、真剣だ……これも時間を掛けて良いので考えておいてくれ」


「は、はい」


 勿論、とても嬉しいのは確かだ。

 けれど、いきなり過ぎて気持ちの整理がついていない。


「……」


 少し気まずい雰囲気が私たちの間に流れた。


 ――と、そこに、コンとテラスの窓をノックする音が聞こえた。


 目をやるとレナードの従者と思われる男性が窓の内側に立っている。


「……すまん、席を外す」


 ある意味、ちょうど良いタイミングだったかも知れないと思う。

 自分たちだけでは、なかなか話を切ることが出来ない空気が流れていたから……。


「ふぅ……」


 残された私はテラスから外を眺めた。

 広々とした庭に色々な植物が生い茂っている。

 もう暗いけれど、たまに打ち上がる花火が明かりを提供してくれていた。


 それに照らされる小さな木を見ていると、何やら黒い影が動いていた。


 どうも私に向かって手を振っているような……。


「ネコ先生!?」


 いや、それだけじゃない。

 レッサちゃん、コネコちゃん、ホーク、ハヤテ――皆が勢揃いしていた。



【あとがき】

 空気を読む花火先輩でした。

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