第二十話:帰省
帰ってきた。
実家よ……私は帰ってきたぞ。
「ふぅ……」
秋の涼しい風が吹く中で一息をついてから、私はドアをノックした。
「は〜い!」
ペティの声とパタパタと足音が聞こえる。
ガチャっとドアを開ける音とともに……
「……!!」
ペティは目をまんまると開けて驚いている。
「久しぶりね、ペティ」
私は彼女に微笑んで答えた。
「……お嬢様」
ペティの顔は驚きから次第に泣き顔に変化し――
「……リンお嬢様ぁ!!」
ガシっと勢いよく私の体に抱きついてくる。
「もう! 危ないわよ!」
「うわぁぁぁん!」
「……心配掛けてごめんね」
「……うぐっ……ホントです! でも……良くご無事で」
「まぁなんとかね……」
ペティは少しして落ち着きを取り戻し――
「とりあえず屋敷へお入りになって下さい。今、旦那様と奥様を呼んで参りますので」
と家の奥へ向かった。
「……」
私は少し緊張しながらそれを待つ。
しばらくすると……
「……帰ったか……」
父が母を引き連れて屋敷の二階から降りてきた。
「はい……お久しぶりです」
「……なんて格好しているのかしら。着替えてらっしゃい!」
母が最初に指摘したのはそれだった。
私が着ているのは、普段使っている猟民の服だ。
貴族としてはあまり相応しくないという事だろう。
「いや……そんな事はいい」
だが、父はそんな母を制した。
「とりあえず……よく帰ったな」
父は無表情ながら私を見据えてそういった。
「元気そうでなによりだ……」
言葉少なげだが、少なくとも私が戻ってきたことを不快には思っていないようだ。
「……レナード王子からパーティの招待状が来ている」
「は、はい! それは――」
「いや、いい。だいたいの話は把握している」
私が説明しようとしたのを父は遮って言葉を続ける。
「……とりあえず、ゆっくり休みなさい。久しぶりのお前の家だ」
「は、はい……」
「お嬢様、こちらへ」
「う、うん」
以前とうって変わった父の態度に拍子抜けしながら、私は自分の部屋に向かった。
部屋の中で室内着に着替える私に、ペティが話をしてくれる。
「リンお嬢様が家を出られて、旦那様もすっかり毒気が抜けたようでして……。やはりショックだったのでしょう」
「う〜ん、そうなのかしら?」
「そうですよ! たった一人の娘なんだから当然です!」
「……そ、そうねえ……」
力強く語るペティに少し圧倒されてしまう。
「そこに、つい先日パーティの招待状が届きまして――」
「うん。一応そのために帰ってきたから……」
「ふふふ……。旦那様喜んでましたよ」
「……まぁ、王族からの招待状だしね」
権威を気にする父なら当然だと思う。
「確かにそういう所もないとは言い切れませんが……それだけじゃないですよ」
「……どういう意味?」
「同封された手紙があったようで、その中でお嬢様が生きていることが分かったのが嬉しかったんだと思います」
「へ、へぇ〜」
レナード様たちが気を使ってくれたのだろう。
「手紙を読んでいる時、旦那様泣いてましたから。『無事だったのか! 立派になったな!』って」
「いやいや、まさか」
「ホントですよ!」
「う、う〜ん……」
あの父に、そんな気持ちがあったのか……。
というか家を出て半年も経ってないのに、そんな風に思われていると考えると逆に気恥ずかしい。
「と・に・か・く! 久しぶりに帰ってきたんですから今日はゆっくりして下さい。パーティも明後日ですから、その準備もしないといけませんね」
「う、うん……」
押し切られるように部屋に閉じ込められた。
私が出ていったことで父なりに心境の変化があったということなのだろうか……。
私としては複雑な気持ちだったが、悪い気持ちではない。
やはり親と喧嘩別れしたままというのは、私の中でも引っかかっていたからだ。
「とはいえ……」
またすぐにこの家を出ていくつもりだ。
そう考えると逆に後ろめたさも出てくる。
「う〜ん……」
なんだか頭がごちゃごちゃとしてきて疲れてきた。
「え〜い! 寝よう!」
とりあえず久しぶりのふかふかのベッドで眠ることにした。
ネコ先生の家のベッドに不満はないが、やはり大きなベッドだと気持ちが良い。
その柔らかさに抱かれて、直ぐに眠りに落ちた。