第十九話:招待
護衛の仕事から二週間弱が経った。
どうやらノルム王国との交渉については上手くいったらしい。
セプト島の共同統治条約と両国間の関税条約により、今後多くの経済発展が見込めるということで国中の期待が高まっているようだ。
時々出かける村や町での人々の様子から、その立役者となったレナードについても一躍、名を挙げていることが良く分かった。
「彼が次期国王なのでは?」
そのように調子の良い事を口に出している気が早い人もいた。
まぁ何はともあれ、世論がポジティブであって良かったと思う。
私の護衛も彼の功績に貢献しているということだ。
これが逆だったら私も少し辛い。
そんな事を考えつつも、平穏な日々を送っていたところに、セスさんがやって来た。
「お久しぶりです、リン様。といっても、以前お会いしてからそれほど経っておりませんが」
「そうですね……そこまででも」
護衛依頼に関連して、彼から多大な報酬を受け取ることになった事もあり、その後も何度か会っている。
「今日は、何か御用ですか?」
「ええ……。実は――」
セスさんの話によると、ベクトールとノルムの今回の条約締結を記念して王室がパーティを開くそうだ。
それは結構な事なのだが……。
「招待!? 私を?」
「はい。レナード様が是非にと」
「はぁ……。ですが……」
そんなパーティに行くのは気が引ける。
そもそも今の私は貴族かどうかも微妙な所だし……。
場違いなのではないだろうか。
「失礼ながらリン様のご実家については、少し調べさせて頂きまして――」
「え、えぇ……」
流石に王族だ。
その辺りの身辺調査などはお手の物なのかも知れない。
「ご両親はリン様に対して法律上の手続きなどは取っておりませんので……」
なるほど、廃嫡や勘当されたという事ではないのか……。
「でも……」
「どうでしょう、これを機にご両親と仲直りされては……? その……要らぬ事かも存じませんが……我々の方で多少便宜を図っても構いません」
何か話を取り持ってくれるという事なのだろうか?
「い、いえ! 単なる親子喧嘩みたいなものですから……」
さすがに恐縮すぎる。
「まぁ……。いずれにしろ一度、親とはもう一度話をしないといけないと思っていましたから……」
このままだと、家に顔を出す事はずっとないだろうから、これはいい機会なのかも知れない。
「そうですね……。せっかく呼んで頂けるのをお断りするのも失礼ですし、レナード様とももう一度会うとお約束しましたしね……」
今となっては分からないし、些細なことだが、彼はもともとそのつもりで言っていたのだろうか。
「分かりました。一度、家に帰ってみます」
「招待状は、そちらにお送りしますので……」
「は、はい……」
招待状が届いたら、父と母も混乱するのではないだろうか。
いずれにしろ、それについても話をする必要はありそうだ。
「それでは、また……」
セスさんから招待状が届く予定の日を聞いて、その日は帰ってもらった。
「ネコ先生、そういうわけで私一度家に帰ろうかと……」
「うむ、構わないぞ。親とは話をつけたほうが良いと吾輩も思うでな」
「ガウゥ……」
「ピィ……」
いつも行動を共にしている二匹が私に目を向けてきた。
連れて行けということだろうか。
「う〜ん」
流石に帰る時に二匹を連れて行ったら驚かれるだろう。
ハヤテは人に懐かないと信じられているソトウルブだし体も大きい。
ホークも、翼獣を連れて歩いている人間なんていないから明らかに畏怖される。
かといって二人を置いていくのも心もとない。
「なぁに、心配することはない。吾輩が面倒を見ておこう」
ネコ先生は胸を張って自信ありげだ。
「そういうことなら……すいませんが、お願いします」
「出発の時に、皆で森の出口までは送ろう」
「ガゥ……」
「ピィ」
ハヤテはまだ不満げのようだったが、仕方ない。
我慢してもらおう。
そういう事で私は一度家に帰ることになった。