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第十五話:???の護衛依頼(前編)

 ――それからまた数週間ほどがたったある日――


 私は、もふもふ王国の仲間と家の中で遊んでいた。

 まずはレッサちゃんだ。

 彼女は女の子なのだが、非常におてんばと言うか荒っぽい遊びが好きだ。


 両脚を掴んでぐるんぐるんと体を振り回してやると、キャッキャッと鳴きながら喜ぶ。

 そのまま思いっきりベッドの上に投げ飛ばすと、嬉しがってまた私の所に戻ってくる。


 ひとしきり彼女と遊んでやると、今度はハヤテだ。

 ハヤテは私に撫でられるのをとても楽しみにしている。


 彼は私が他の子と遊んでいても、そばに寄ってきては自分の存在をアピールし、自分を撫でて欲しいと横になるのだ。

 私の神の手によりお腹を撫でてやるとハッハッハと息を荒くして喜んでいる。

 群れの仲間と一緒にいた頃とは大違いのようだ。


 ホークは基本的にクールだ。

 家の中では、時々体を掻いて欲しい時以外は、私に直接的に甘える事は少ない。

 私とは相棒同士という気分なのかなと思う。


 その癖、悪戯好きで空を飛べないコネコちゃんやレッサちゃんをからかうように、そばに寄っては飛んで逃げるという事を繰り返すという遊びが好きだった。


 ただ最近、コネコちゃんはもう成獣と言っても良いぐらいになっており、気分が乗らないときは若干つれない態度を取ることも多くなってきた。

 なかなか子育てというのも難しい。


 もちろん、ネコ先生にも時々神の手でマッサージをしてあげている。

 まさに昇天しようかという勢いで気持ち良くなっている。

 先生によると、ネコの体というのは掻きづらいところも多いし、意外と凝るらしい。


 そんな一日を送っていた所、私たちの家に一人の男が訪ねて来た。



 ◇ ◆ ◇



「ガウッ」


 何者かが家に近づいたことを察知してハヤテが吠えた。

 私は窓近くに移動し身を隠しながら外を見る。


「猟民? いや……」


 小綺麗なマントを被った男だ。

 顔はフードで隠しているが、恐らく初老といった所だろう。


 明らかに私たちの家に向かって歩いてきている。

 人が訪ねてくるのは初めての事だった。


「……」


 コンコンコンと家の扉がノックされた。

 私はハヤテに静かにするように指示を出し、マントとフードを素早く身につけて扉を開けた。


「……初めまして。私はセスと申します」


「……何か御用でしょうか?」


「こちらに、ケモノの姫と呼ばれる方がいらっしゃると伺いまして……」


 そんなに人には会っていないのに、すっかり噂が広まっているようだ……。


「そんなものはあくまで噂だけの存在かと思いますが」


「そうでしょうか? ソトウルブいや他にも珍しいケモノたちと一緒にいらっしゃるようですが……」


 誤魔化そうとしたが、家の中の仲間たちには気がついていたらしい。


「……仮に、そのような人間がいたとして何か用でしょうか?」


「折り入って、お願いがございまして……」


 セスさんの物腰から上流階級だと思われる。


「お願いと言われても……。私たちはここで静かに暮らしているだけですから……」


「そこを何とか。お礼も致しますので……」


「お礼って……。特に欲しいものなんて……」


 お金はジェイから取り立てた分があるし、今はそこまで困っていない。

 もちろんあればあったで嬉しいのは間違いないが。


「そうですか……」


 セスさんが、がっくりと肩を落とした。

 表情も非常に暗く、落胆の色がありありと見て取れる。


「そんなに落ち込まなくても……う〜ん……」


 なんだか困っているのは間違いなさそうだ。


「……分かりました。とりあえず話だけでも聞きましょう」


 このまま有無を言わさず帰してしまうのは忍びなくなってしまった私は彼を家の中に入れて話を聞くことにした。



 ◇ ◆ ◇



「とりあえずお茶でも……」


「……ありがとうございます」


 机に座ったセスさんにお茶を用意する。

 お客様用のカップなんて上品なものは家に置いていなかったので、普段私が使っているカップだけれど……。


「それで、お願いというのは……?」


「はい。実は貴女様に護衛をして欲しい人物がおりまして……」


「護衛って……? 私はそんなものしたことないですよ。事情はよく分かりませんが、専門の方にご依頼された方が良いのでは?」


「それがまぁ色々と御座いまして……。まずお伝えしたいのが、目的地があの山を抜けた隣国のノルムなのでございます」


 ノルム王国、私たちが住んでいるベクトール王国の隣に位置する。


「それなら大街道を抜けて行けば良いのでは?」


 別に山を抜けていく必要性はないだろうに。


「大街道を抜ければ国境の検問所がございます。そこを通りたくないのです」


「……つまり密入国って事?」


「いえ、少し違うのですが……。先方からは入国許可を頂いてますし……。申し訳ありませんが、細かな事情についてはご容赦下さい……」


 煮え切らない返事だけれど、セスさんが悪い事をしようとしているようには感じなかった。


「あの山を抜けるなど普通の事ではございませんし、大勢の護衛をつけるわけにもいきません。魔獣やケモノに詳しく、腕の立つ方を探していた所、猟民の村にて噂を聞きまして……」


「はぁ……」


 多分、尾ひれのついた噂だと思うけど……。


「お茶のおかわりをお入れしますね」


 私は、そう言って茶葉とお湯を取りに一度席を離れた。

 セスさんに聞こえない所でネコ先生と相談する。


「どう思いますか?」


「ふむ……まぁ悪い奴ではなさそうじゃな」


「山を抜けるというのは……」


「うむ……色んなケモノを見られるという意味では面白いんではないかとも思うがの」


「確かに……」


 私たちの判断基準はそこだった。

 いつかは山を抜けてみようとは思っていたし、良い機会かもしれない。


「……分かりました……やりましょう」


「本当ですか! ありがとうございます!!」


 セスさんは深々とお辞儀をした。


「ところで、山を抜けるまではだいたい五、六日といった所でしょうか? 少し日程を調整しなければならないもので……」


「う〜ん。多分、二日もあれば抜けられるんじゃないかしら。私とこのケモノたちだけで急げばね」


 寄り道せず突っ切ってしまえばそれぐらいだろう。


「なんと! あの山を二日で!? なんと!」


 セスさんはひどく驚いて、同じ言葉を二回繰り返していた。

 まぁ確かに普通の人なら驚くところなのかも知れない。


「あとは、その護衛対象の人の体力次第ね」


「……それは、ちょっと心配かもしれませんが……」


 おそらく私が護衛する人も上流階級の人なのだろう、山歩きは慣れていない可能性が高い。


「う〜ん。まぁ、それなら念の為、更に一日ぐらい余分に頂ければなんとかなると思います」


 私はかなり楽観的だった。

 家を出て以降、精神が図太くなっているのを自分でも感じている。

 特に、ホークやハヤテがいれば大抵のことはなんとかなるという自信もある。

 もしかしたらこれが私の本質で、家にいた頃は封じ込められていたものなのかも知れない。


「それでは、また追って詳細な日程をご連絡させて頂きます」


 そういってセスさんは帰っていった。



【あとがき】

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