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第十四話:ジェイとの再会(後編)

 森の中を走りながら私は指笛を吹いた。


 ピィィ!


「オォォン!」


 すぐにハヤテが遠吠えに近い声を出しながら森の中を私と並走する形になる。


「急ぐわよ!」


「ウォン!」


 速化の魔術も使って加速し、森の中を全速力で走り抜ける。

 私にとって森の中の移動は既にお手の物。

 本気を出せばまさにケモノ並のスピードで移動することが出来る。


 悲鳴が聞こえてから数分でジェイがいる場所についた。

 現れていた魔獣はオークだった。

 二足歩行の純粋な魔獣で、ケモノとして類似するものはこの世に存在していない。


 背の丈は人間の二倍以上ある巨大な怪物。

 有名な魔獣ではあるものの、直接見るのは初めてだった。


「ひぇぇ……」


 ジェイは尻もちをつきながら、螺風の魔術をでたらめに放っていたが、オークの発する魔力の前に虚しく霧散を繰り返していた。


 彼の体中に傷跡があり、既にかなり痛めつけられた所だということが分かる。


「……」


 私は周囲を見回した。

 ジェイが侍らせていた女の子二人が見当たらない。


「あの二人は何処に行ったの!?」


 私はジェイの前に飛び出して彼に尋ねる。


「ひえええ!」


 混乱しているジェイは私とハヤテの姿に更に驚いて顔を背けた。

 恐らくあまり魔獣との実戦経験がないのだろう。

 実際に前線で戦うような貴族は限られているので無理もないが。


「ホーク! ハヤテ! あいつを引き付けて!」


 私は彼らに防護術式を掛けると陽動を命じた。


「ピィ!」


「ウォン!」


 二匹がそれぞれ私の元を離れてオークの周囲に位置どる。


 私は混乱しているジェイに再度向き直る。


「ジェイ! 聞きなさい!」


 彼の正気を取り戻すために、あえて彼の名前を呼んだ。


「お前……リン!? お、お前、何で――」


 やっと気がついたようだ。


「そんな事は後よ! 二人は何処にいったの!?」


「に、逃げたよ!」


「あのねぇ……魔獣と戦う時に一人で戦わないのは基本でしょ! 隊列崩してどうするの!?」


 基本的に一対一では人間が不利なのである。

 だから人間側がパーティを組んで戦うのだ。

 攻撃要員、補助要員と回復要員と役割を分け、協力するためにパーティがある。


「そんな事言われても……」


 彼のリーダーシップがないのも事実だし、仲間が薄情だったのもまた事実だろう。


「……取り敢えず助けるけど……」


「グォォォ!!」


 ハヤテとホークが周りをうろちょろしているのが気に入らないのだろう。

 魔獣は咆哮しながら暴れまわっていた。


「あ、あんなの倒せるのかよ……」


「私たちなら倒せるわ」


 正直言って、余裕だ。


「ほ、ほんとかよ……」


 ジェイはかなり不安そうな顔をしている。

 それを見て、私の中の悪戯心が目を覚ました。

 ちょうどお金もなかったしね。


「助けるけど、タダじゃなぁ……」


 ニッと笑ってやった。


「か、金なら出すぞ! 金貨一枚!」


 一ヶ月は食べていけるぐらいの金額だ。


「命を助けるのよ。あなたの命安すぎじゃないかしら?」


「わ、分かった! 金貨二枚!」


「よし、金貨三枚ね! 決まり!」


「お、おい――」


 ジェイの返事を待たずに私は魔獣に向き直った。


「ホーク、引っ掻け(クロウ)! ハヤテ、噛んで(バイト)!」


 私の合図で二匹が魔獣の頭と脚に同時に攻撃を仕掛ける。

 二匹には強化術式も展開。

 すぐに私も弓を構えて攻撃態勢をとる。


「グォォォ!」


 上下から同時に攻撃を受け、痛みで魔獣の体の動きが止まる。

 狙いが付けやすくなった。


「おい、弓なんかで――」


 シュ――


 魔獣の心臓部に向かって矢を放つ。


「グォォ!」


 命中。このまま待っていても死ぬだろうが――


 シュ――


 すぐにもう一本を同じ箇所へ打つ。

 魔獣のためにも早めに止めを刺したかった。


「グ……ォ」


 魔獣は地面に倒れて絶命した。


「ひぇ……、すげぇ……」


 ジェイの声は恐怖と感嘆が入り混じっているようだった。



 ◇ ◆ ◇



 その後、ハヤテにも手伝ってもらって森の中に隠れていた女の子二人を探し出した。

 二人とも相当恐怖していたのか、スカートがびっしょりと濡れていた。


「とりあえず、私がここにいたことは内緒にしておいて。それと、お金は後でこの子が取り立てに行くから」


 森の出口で彼女たちを帰した後、私はホークを撫でながらジェイにそう説明した。


「分かったよ……」


「全く、実戦経験も大したことないのにこんな所に来るから……」


「お前、強くなったな……。いや、元から強かったか……」


「……私じゃなくて、『私たち』が強いのよ」


「……ハハ……。そのうち魔獣すら使いこなしてそうだ……」


「流石にそんなことは出来ないわよ」


 それは無理だ。魔獣はまともな理性を持っていない。

 魔力を持ちながら理性を保っているケモノが、もしいれば可能かもしれないが。


「それじゃあ。元気でね。もう一回言うけど、もしバラしたら痛いなんてもんじゃ済まないからね!」


「ガゥゥゥ!」


 私に合わせてハヤテが威嚇する。


「は、はい!」


 ジェイはと戦々恐々としながら去っていった。


「とりあえず当面の金銭問題も解決しそうだし、めでたしめでたし……なのかな? 疲れたぁ……」


 体力的にはそこまで疲れていなかったけれど、久しぶりに昔の知人とあったことで少し気疲れした。


「とりあえず、今日は帰るかぁ……。買い物はまた今度ね」


「ピィ!」


「ウォン!」


 二匹も同意してくれたようだ。

 ゆっくりと森の中を引き返して家へ帰った。



【あとがき】

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