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第十三話:ジェイとの再会(前編)

 ――ネコ先生と出会ってから一ヶ月ほどが経ったある日――


「ふぅ……」


 鬱蒼と茂る草木を踏み分け、私は軽く息をついた。

 今、ホークとハヤテを連れて森の中を街へ向かって歩いている。

 一方、ネコ先生は留守番をしていて、コネコちゃんやレッサちゃんの面倒を見ていた。


 まぁ基本的には、じゃれて遊んでいるだけなのだが。

 私も早く帰って遊びたいところだ……。


 私の二匹の頼もしき護衛だが、ホークは私の背中の矢筒に止まっていて、ハヤテは森の中を散歩がてら私から離れて自由に歩いている。


 ここからハヤテの姿は見えないが、私が指笛を吹けばすぐに来てくれる。

 二匹が居れば、魔獣と出くわしても大きな問題はないだろう。


 ちなみに、街へ向かっている理由は買い物だ。

 人里離れて暮らしているとは言え、調味料や衣服等や生活用品など必要な物はある。

 猟民の村より街の方が品揃えが多いので、街に向かっている。

 といっても、私が住んでいた街ではなく、その隣の街だし、街に入ったらマントのフードで顔を隠しておけば問題ないだろうと思っていた。


「ただ、お金がなぁ……」


 私は独り言を言いながら溜息をついた。

 基本的に食べ物はほとんど自給自足で賄っていて、パンや米などは時々、猟民の村に出て買っているぐらいで、そこまでの散財はしていない。

 ただそれでも、さすがに一ヶ月も経てば持ってきたお金が尽きかけている。


「今日の買い物を済ませたら、無一文になっちゃうかも……」


 これはかなり深刻だ……。


 いつもなら森の中を歩くときは人と出くわさないようにしているのだが、

 今回はそんなことに頭を悩ませていた為に、人が近づいている事に気が付かなかったようだ。


「おい! あれ、みろよ」


 森の中で男の声が聞こえた。


「猟民じゃないか? 見ろよあの格好。革の胸当てに弓だぜ。弓!」


(しまった……。でも、この声……!?)


 聞き覚えがあった。学院の同級生だったお調子者で女好きのジェイだ。

 腰には片手剣を持っていた。


(まさか! こんな所で会うだなんて……!)


 私はとっさにフードで顔を隠した。


「魔術も使えない(たみ)風情がこんなところで危ないですわよ」


 今度は女の子の声。

 私を心配しているわけじゃなくて見下しているだけだろう。

 魔術が使える貴族は、そうではない民を下に見ている。


 弓という武器も飛び道具である魔術が使えない者が使う物だという先入観がある。

 ジェイが馬鹿にしたように言ったのもそのせいだ。

 特に彼は思慮深さに欠ける男なので、そういった固定概念は強いタイプなのだ。


「ジェイ様、見て下さいよ! あの人、背中に羽根が生えてますよ!」


 また別の女の子。どうやら三人パーティで行動しているようだ。

 私の背中に止まっているホークが、ストレッチのように軽く羽根を広げたのを見てそう思ったのだろう。

 それはそれで天使のように見えないだろうか?

 いや、色が違うから無理か……。


「いや、翼獣だ。翼獣が背中に止まってやがる!」

「ケモノを引き連れているなんて、猟民というのはホントに気持ち悪いですわね」

「きっと、一人じゃ狩りも出来ないんですわ」


 ジェイと二人の女の子が私の姿を見て好き勝手に言っている。

 猟民の中にも翼獣を使役する者など少なくとも猟民の村には居ないのだが、そんな事を指摘するつもりはない。


 彼らの発言から察するに、恐らくケモノを狩りに来ているのだろう。

 といっても、猟民と違って狩りをして獲物を食べるのが本当の目的ではない。

 魔術によってケモノを狩ることは、貴族、特に男性にとってはある種のステータスなのである。

 貴族の嗜みと言われることもある。


 そこまで頻繁に行うものではないはずだが、偶然というのは怖い。

 今回は、ジェイが他の二人に対して良い所を見せるために、年下の女性二人を引き連れているということだろう。


「女……か? なんか見覚えがあるような……」


 ジェイが私に気づく素振りを見せて、私は少し焦る。

 正体がバレたらマズい。


「……」


 とにかく何も言葉を発さず、顔を隠してさっさと街に向かって歩くことにした。


「な〜んだ、愛想がない人ね」


 連れの女がそんな事を言っていたが、当然無視した。



 ◇ ◆ ◇



 そこから歩いて十分もしていない。

 街までもう二十分もかからないぐらいの場所まで来ていたのだが――


「きゃああああ!」


 大きな悲鳴が聞こえた。

 おそらく、先程ジェイが連れていた女の子たちだろう。


「……」


 私の正直な気持ちとしては、無視したかった……が――


「グォオオン!」


 明らかに通常のケモノとは思えない太く激しい咆哮が耳に入った。


「ピィ! ピィ!」


 魔獣だぞ、とホークが鳴いている。


「……もう!」


 仕方がない。

 自分が最後に見た人間が死んだら寝覚めが悪いし、魔獣であれば他のケモノに害をなす可能性が高い。

 流石に放ってはおけない。


 私は踵を返して悲鳴と咆哮が聞こえた方角へ駆け出した。



【あとがき】

 コボルト無双のshiba様からレビューを頂きました。ありがとうございます!

 今後の物語については、前半と少し趣きを変えていく予定です。

 ゆるりとお楽しみ下さい。

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