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第十一話:ハヤテとの出会い(中編)

 オメガは怪我しているにも関わらず、そのままかなりの距離を走り続けた。

 私たちは、その走りが止まるまで追い続けた。


「群れから出たという事ですよね?」


「ふむ……。まあ一時的に離れるつもりだけかも知れないが……」


 群れを作るケモノから、一時的に離脱者が出ることは珍しくない。

 そのまま一匹で暮らしたり、別の群れに入ったり、場合によっては元の群れに戻ることもある。

 いずれにしろ、今が助けるチャンスなのは間違いない。


 十五分ほどは走ったと思う。

 私たちが追いつくと、オメガは走りを止め、木の影で横になっていた。

 見たところオスのようだった。


「クウゥ……」


 仲間に噛まれたところを舐めながら、悲しげな声で鳴いている。

 いや、人間で言えば涙を流して泣いているのと同じだろう。


「……近づきます」


「ふむ……。恐らく人間に対しても、かなりの警戒心があるじゃろう。何か手に巻き付けていきなさい」


 私は革のバックパックの中から布を一枚取り出し右腕にぐるぐると巻いた。

 ネコ先生は警戒させないようにホークと共に遠くから見守るようだ。

 ゆっくりと歩みを進める。


「ガゥゥ……」


 私が視界に入った所で、彼は私に対して威嚇の唸り声を上げた。


「直接、目を合わせないようにするんじゃ」


「はい」


 ケモノに対して、まっすぐ目を合わせる事は、挑戦状を叩きつけていると受け取られる事もある。

 私は、自分の経験とまたネコ先生の知識からそれを学んでいた。

 ぼんやりと木々を見ながら、回り込みつつ近づく。


「ガゥゥ……」


 明らかに怯えていた。

 仲間から酷い仕打ちを受けた直後だったから余計に警戒心が強くなっているのかも知れない。

 ここは焦らずに時間を掛ける必要があるところなのだ。


 私は十メートル程の距離まで近づくと、一旦その場に座り込む事にした。


「ウゥ……」


 彼が私の方を見つめている。

 この距離で少し時間を過ごし、私に敵意がないことを理解して貰わなければならない。


「……そうだ……」


 あの群れの事だ、獲物を取っても彼の取り分は少なかったのではないだろうか。

 私はカバンの中に以前作った燻製肉が入っていることを思い出した。

 それを取り出し、オメガの目の前に投げてやる。


「どうぞ」


「ウゥ……」


 私のことを警戒してすぐには食べないようだ。


「毒は入ってないわよ」


 私の言葉は通じていると思う。

 ただ、このソトウルブが心を閉ざしているのも分かる。

 その中にある悲しい気持ちが伝わってきた。


 十分以上、何もせずに待ったと思う。


「クゥ……」


 やっと口を付けてくれた。

 ペロペロとちょっとづつ舐めて確認をしてから口の中に入れて食べだした。


「おかわりもあるわよ」


 私は燻製肉を更に数度、投げてあげた。

 回数を重ねるごとに、食べるまでの時間が早くなって来た。

 少しづつ私のことを信頼してもらっている証だ。


「ちょっと近づくね……」


 背を屈めたまま、四つん這いで進んだ。

 立ち上がってはびっくりさせる可能性があるからだ。


「ガゥゥ……」


 手を伸ばせば届くほどの距離まで近づくことは出来たが、また唸り声を上げている。

 じれったくも思えるが、また少し待った。

 ここで、失敗して逃げられてしまえば、全てが無駄になってしまう可能性もある。


「……」


 唸り声を発しなくなり、オメガが地面に突っ伏した。

 多少はリラックスしているという事だ。

 また、ちょっとづつ信頼を勝ち取れている。


 私は意を決し、布を巻き付けてある手をゆっくりと伸ばした。


「ガウッ!」


 その手に反応して、彼が牙を剥いて私の手を噛もうとした。

 私は敢えてそれを避けなかった。


「……痛っ……」


 巻いた布の上からでもその鋭い牙は私の手に食い込んだ。

 防護術式を展開すればその痛みは防げたかも知れないが、私はその痛みを受け止める必要があると感じていた。


「ウウゥ……」


 唸りながら私の手を噛み続ける。私の手に血が滲んできた。

 しかしここで、この手を引いてしまっては信頼を得ることが出来ない気がした。


「私はあなたの味方だよ……」


 そう優しく声を掛けた。

 しばらくすると噛む力が次第に弱くなり、そして最後には私の手から離れた。


「キュゥ……」


 寂しげな声で、また地面に突っ伏した。


「お前も、痛かっただろうねぇ……」


 彼が仲間に噛まれた傷を見る。

 血は止まっているようだが部分的に骨と肉が見えているところもあって、痛々しい。


「よしよし……」


「クゥン……」


 頭を撫でてやると、最初は少しびっくりしたようだが、次第に安心感を感じるようになったのか、甘えた声で鳴くようになった。


 少し離れた位置で待機しているネコ先生が、両脚を頭の上にあげて丸を作っているのが分かる。

「いいぞ」という事だろう。

 ネコの姿で、人間のようなジェスチャーをする先生が可愛らしい。


 上手く進んでいる。ここまで行けばもう少しだ。

 そう考えていた矢先、人間の怒鳴り声が私の耳に届いた。


「お前、ここで何をしている!」



【あとがき】

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