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第十話:ハヤテとの出会い(前編)

 それから一週間ほどが経った。

 私はネコ先生とホークと一緒に、ネコ先生の家がある森から続いている大きな山に来ていた。

 色んなケモノの勉強をしようと、ちょくちょくこうやって山に入っているのだ。


 家から一時間以上は軽く歩いたと思う。

 山歩きにもかなり慣れてきていて、これぐらいの距離ならば全く問題がなくなっていた。

 この生活をしていて、自分でもかなり精神的に逞しくなってきた事を感じる。

 既に魔獣も何体か倒している。


「ネコ先生……あれを……」


「ふむ……」


 山の中腹の草木が生い茂っている崖に立つと、崖下にソトウルブという大きなケモノ達の群れを発見した。

 四足歩行のケモノとしては最大級の大きな体躯に、白くて長い体毛。

 そして、鋭い牙と爪。

 これは先生の故郷のオオカミというケモノにかなり似ているらしい。

 群れは崖下の小さな川に沿ってゆっくりと移動していた。


「もふもふ感が凄いですね」


「ふむ……。だが奴らは危険なケモノじゃ。気をつけい」


「はい」


 ちなみに、ソトウルブと良く似ているが、それよりも小さくて大人しいケモノをウチウルブと言う。

 人間の生活地域と比較的近い位置で生活しており、私たちの社会では珍しく、猟民に使役される事もあるケモノだ。

 それでも、貴族などは嫌がってよっぽどの物好き以外は飼わない。


「十匹以上の大きな群れですね……」


 人間がソトウルブの群れに出会うのは非常に珍しく、私も初めてだ。

 なおかつ、これだけ大きな集団というのは凄い。

 私たちは崖の上に隠れ、距離を置いてその様子を観察することにした。


「……あの一番体が大きな奴がアルファじゃな」


 しばらく見ているとネコ先生が前脚で、群れの中心を移動している一番大きな個体を指した。


「アルファ?」


「簡単に言えば群れのボスじゃな。普通はその群れの中で一番古株のオスじゃ。群れのメンバーは奥さんや子どもというパターンが多いのじゃ」


 大きな家族のようなものだろうか。

 こうやって家族みんなで生活しているのは微笑ましい、そう思っていたのだが……


「キャウン!」


 移動が落ち着いたと思ったら、群れの中で最後尾を歩いていた個体に、他の仲間が飛びかかった。

 飛びかかられた方は大きな悲鳴をあげて、地面に背をついた。


「えっ?」


 私は初めて見る光景にびっくりして声をあげてしまった。

 幸い距離があるので、群れには気づかれないで済んだ。


「あれは……」


 ネコ先生が何か呟き始めるが、言い終わる前にさらに他の仲間が背をついた個体の前脚に噛み付いた。


「キャウ!」


 再度、聞こえてくる悲鳴。

 さらに他の数匹の仲間達がその個体を取り囲んでいた。

 先生の言うアルファもそれに参加している。


「あれは……オメガ。つまり、群れの序列の中で最下位のものじゃろう」


「……最下位?」


「ソトウルブの社会は厳格な序列社会。そして一番下のオメガを周りの者がいたぶる事があるのじゃ。アルファまでそれに参加しているとは……。あの群れ、何かストレスが溜まっているのかもしれんの……」


「でも、だからって……」


 可哀想だ。


 あんな風に、群れの中で「のけもの」にされるなんて……。

 私は自分の境遇と、そのオメガの事を重ねて考えた。

 物理的に痛い目にあっていない分、遥かに私の方がマシだろう。


「……どうにか出来ないでしょうか?」


 何とかして上げたい、救ってあげたい。心からそう思う。


「……気持ちは分かるがの……」


 ネコ先生はうなだれた。


「人間が積極的にケモノの群れに関与するのは、出来るだけ避けるべきだと吾輩は考えている……」


「……そんな」


 ネコ先生も本当は私と同じ気持ちだという事は分かる。

 先生も今まで他のケモノを救ったりしてきているのだ。

 その結果がコネコちゃんやレッサちゃんで、今の仲間なのだ。

 私は、ネコ先生もどうすべきか葛藤しているのだとその様子から感じた。


「ガゥ!」


「キャン!」


 ついにアルファがオメガに噛み付いた。

 オメガの前脚や胴体から出血しているのが見てとれた。


「……私、我慢してられません!」


 私は弓を構えた。


「お、おい、リン!」


 先生が止めるのに構わず、矢を放つ。


 シュッ――


 狙ったのは川近くの岩肌だ。狙い通りに大きな甲高い音を立てて、矢は跳ね返って落ちた。


「ガゥ!」


 群れはその音に驚き、警戒態勢を取りながら散った。


「クゥ……」


 オメガはその場に残されていたが、群れが散ったのを見て逆方向に走り出した。

 といっても、怪我をしていて全力では走れない様子だ。


「先生! 追いましょう」


「まったく……しょうがないの!」


 口ではそう言いながらも、ネコ先生は嬉しそうだった。



【あとがき】

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