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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 58 新たなる犯行



昨日リアと喧嘩…ではないにしても微妙な空気になってしまった手前、今日も一緒に行動するというのは少々気まずい。

と言うか寂しいのだ。

あの他人行儀な話し方で側に居られるくらいなら始終怒られていた方が全然マシだ。

今までとの温度差で風邪引きそうだよ。

ほんと、どうしたもんかなぁ…。


あわよくば機嫌が治っていればいいなとか一度寝てリセットされてないかなとか期待していたんだが…まぁそんな都合の良い事が起きてるわけもなく。

俺の部屋の前で待っていたリアは残念ながら昨日のまま白々しくも余所余所しい、他人行儀で冷たい…まるで機械の様な反応をするばかりだった。

いつもなら会ってすぐに嫌味の一つや二つをかましてから本題に入るのに、今日は挨拶もそこそこにノエルから聞いたという噂を話しはじめた。


「姫様から聞いたお話ですと、一昨日の晩にまた粛清者の犯行と思しき殺人が行われたそうなのです。今回の犠牲者は5人、今まで一番多いのだそうなのです。」


「5人か…確かに多いな。活動が活発になってるのか、それとも偶然なのか…。で、今回は何をした貴族だったんだ?」


「いいえ、今回は貴族ではないのです。」


「え?…あぁ、確か豪族とかも対象なんだっけ?」


「そういう事ではないのです。今回の犯行は犠牲者の数だけでなく対象さえも大きく変わっているのです。」


「どういう事だ?対象が違うって…貴族でも豪族でもないのなら一体誰が殺されたんだ?」


「今回殺されたのは収容されていた罪人、貧民街の住人4人とその場に居合わせた騎士だと聞いているのです。」


「貧民街の?それって市民って事か!?それに騎士だって?それって…だ、誰だ?」


「名前までは分からないのですが、その事でいま騎士団はごたついているのだそうです。今まではどこか義賊として認識されていた粛清者なのですが、今回の件で一変してただの殺人鬼と化しました…だそうなのです。」


「……騎士団に行こう。行って誰がどんな状況で殺されたのか詳しく聞かなくちゃ。」


「わかりましたのです。」


軋む胸をぎゅっと掴み荒くなる呼吸を整えながら急いで騎士団本部へと向かう。

俺の頭の中は最悪な”もしも”の状況で埋め尽くされ目の前の景色を霞ませていく。

勝手に出てくる涙を乱暴に拭い、後ろから着いて来ているはずのリアの事などまったく考えもせず身体強化をフルに使って1秒でも早く着けるように全力で掛ける。

そうして到着した騎士団本部は、以前来た時のような静寂とは真逆の喧噪で溢れかえっていた。

これは…どうなってるんだ?


「ちょっと、そこのあんた!この間の導使節でしょう?…何しに来たのよ?」


「アリス!!よかった…実はさっき粛清者の話を聞いて、居てもたっても居られなくなって。…それにしても、これはどういう状況なんだ?」


忙しなく行き交う騎士たちはみな鬼のような形相を携えて、まるでこれから戦にでも出るかのような空気を醸し出している。

これが街中だったら間違いなく市民は怯え子供たちは泣いているだろう。

今から人を殺しに行く、そんな雰囲気を全面から出しているような殺気だった面持ちの奴ばかりだ。


「…詳しい話は中でしましょう。うん?後ろの子はあんたの連れ?」


「え?あ、あぁ、そうだ。」


「そう、子供に聞かせるような話じゃないのだけれど。あんたが連れてるって事はただの子供じゃないんでしょ?さ、入って。」


そう言って心なしか暗い顔のアリスは、前回と同様に受付の奥にある小さな給湯室に俺たちを通した。

リアは雨も降っていないのに外套のフードを深々と被り部屋の隅の方にそそくさと陣取る。

俺はイスに掛けるよう言われたが、どうにも落ち着かないので丁重に断り話を促した。


「…今回殺されたのは全部で5人。内4人は地下牢に入れられていた貧民街のゴロツキどもで、先日の誘拐事件の容疑者として投獄されていたの。この件は知ってる?」


「あぁ、良く…知ってる。」


それもそうだ。

その誘拐されたって言うのがこの俺なんだからな。

確かラプラント公爵に雇われたとか言っていたっけ。

そっか、あの時の奴ら…死んだのか。


「そう…なら話は早いわ。その4人は粛清者によって殺されたラプラント公爵と繋がりがあった。おそらく使い捨てとしてだろうけど、それでも何か手がかりになる事を知っているかもしれないと思ってその4人に話を聞こうとした騎士が居たのよ。」


「それが5人目の被害者…。アリス、教えてくれ。その殺された騎士ってのは一体誰なんだ?」


「…アルフレッド・デイズ。あんたに渡した資料を作った粛清者事件の調査を担っていた奴で、私の後輩。生意気だったけど実力はみんなも認めていた優秀な奴だったの。だからみんな躍起になってるのよ。アルを殺されて黙っていられないもの。団長がみんなを宥めてなかったら騎士団はもっと荒れていたと思うわ。」


「アルフレッド…デイズ?一昨日亡くなった…、デイズ…優秀な、息子…?」


そこで話が繋がった。

テレサ先生の亡くなった息子が騎士団のアルフレッド・デイズだったんだ。

そして俺が捜査をする上で何度も読み返したあの資料を作った張本人、か。

直接会った事はなくてもこんなにも関わりのあった人物が…殺された。

でもどうして、だって粛清者は…


「本当に粛清者の犯行なのか?だって今までと全然違うじゃないか!市民を苦しめる権力者を粛清していたから粛清者なんだろ?これじゃ…」


「胸に焦げたような穴、消失した心臓、そして現場に残された謎の魔法陣。あんたも資料を読んだのならわかるでしょう?これは間違いなく同一人物の犯行よ。」


「なんで…だってこれじゃ…ただの殺人鬼じゃないか!」


「ただの殺人鬼よ、それはいままでもそうだったじゃない。」


「そうだけど!なんつーか、今まではあえて悪い事をして誰かを助けてたダークヒーローみたいな…。それなのに今回殺したのは裁かれた一般市民と正義に属する騎士…こんなのまるで納得できねぇよ!」


「納得?それじゃまるで今までは納得してたみたいじゃない?あなた、本当は粛清者に同調してたんじゃないの?」


「ちがっ!俺はただ!…ただ、こんな風に殺したら…」


「口封じと見せしめみたい?えぇ、私たちも同じように考えていたわ。足が付きそうになったから口を封じた、捕まるのが嫌だから捜査の抑止の為に騎士を殺した。きっとそういうことなんでしょ?その程度のクズ野郎だったって事よ。」


「保身の為に殺した…?は、なんだそれ。ふざけてやがる…!」


「…貴族や豪族が殺された時も憤りを感じたわ、一体何様のつもりなのよってね。どんなに悪行を重ねていたって、それは命を奪っていい理由にはならない。でもそこに固い信念のようなものは感じていたわ。やっていることはクズでもその志だけは清いものなんだろうって…だからって肯定はしないけど。ま、それもただの勘違いだったみたいだけれどね。粛清者は本物のクズよ、それを私たちは再認識して何としても早急に奴を豚箱にぶち込まなくてはならない。」


「………。」


「そういえば、あんたクフィミヤン男爵って知っている?」


「え?あ、あぁ、知ってる。世話になった人だ。」


「あらそう、なら教えてあげる。昨日の夜、胸から血を流し倒れている男爵が発見されたのよ。」


「…はぁ!?まさか、それって…!」


「男爵は無事よ。傷は深くて今も静養しているみたいだけど、命に別状はないんですって。…ただね、気になることがあるのよ。そのクフィミヤン男爵の傷、まるで火傷をしたような妙な傷だったんですって。」


「火傷のような、胸の傷…?おい、それってまるで!」


「えぇ、私たちもそう思って男爵に話を聞きに行ったわ。ま、結局何も答えてはくれなかったのだけれど。何かを隠しているのか、それとも誰かを庇っているのか…。ただ単に傷が痛んで話す気にならないのかもしれないけどね?」


「お、俺、男爵の所に行ってみる!傷の具合が気になるし、それに…。とにかく話してくれてありがとうな、アリス!」


「…貸しにしておくわよ。今度でいいからきっちり返しなさい?何なら、体で返してくれても構わなくってよ?」


「い、いやそれは…別の形でお願いします。」


「あら残念。」


「じゃあもう行くわ。しんどい時に来て悪かったな、アリスもあんまり思いつめるなよ?愚痴ならいつでも聞くから辛くなったらいつでも呼べよ!じゃな!!」


「…やだ、きゅんとする事言うじゃない。」


去り際にアリスが何か呟いてた気がするがその時には走り始めていたので聞き取ることが出来なかった。

きっとまたセクハラ紛いの問題発言でもしたんだろうし、スルーしまぁす!

今は何より男爵のことで頭がいっぱいだ。

なにしろ男爵を襲ったのが本当に粛清者だったとしたら、この事件唯一の生存者という事になる。

何故なにも話そうとしないのか俺が行って話してくれるのかは分からないが、それでもこの件を素通りするなんて事は絶対に出来ない。

粛清をやめた粛清者は、次誰を襲うか分からない。

そんな危険人物を一刻も早く捕まえてみんなが安心して暮らしていけるように、誰も理不尽な涙を流さなくてもいいように俺にできることなら何でもするんだ!

寡黙で厳格な男爵の事だ、街の人の為だと言えばきっと分かってくれるはずだ。


「はっ、はっ…やべ、着いたはいいけどどうやって入れてもらおう。」


クフィミヤン男爵の屋敷には、鬼神族の仮面を集めている時に何度か来たことがある。

正確には屋敷に隣接している管理局と荷下ろし用の広場にだが。

あの時は門番を介して入れてもらったんだが、今回入りたいのは広場ではなく屋敷の方なんだよなぁ。

さすがに男爵の屋敷に易々と人を通すような門番は居ないだろう。

導使節を名乗れば大丈夫かもしれないが、城の中ならまだしもここの門番が俺の存在を知っているだろうか…?

えぇい、考えてても始まらん!

何事もやってみなくちゃわかんねぇ、当たって砕けろだ!


「たのもー!!」


「お?こんにちはっす、仮面のお兄さん。その仮面格好いいっすねー!あ、今日はどういったご用件っすか?」


「あー、実はですね。俺はナユタ・クジョウ・ユエルという導使節…って分かります?とにかく、陛下から特別な命を受けている者なんですが…」


「あー!知ってるっすよ、導使節さん!城中で噂になってるらしいじゃないっすか!いやーこんな所でお目に掛かれるなんて光栄っすー。この間もアンって子が言ってたんっすけど、なんでも陛下に特別目をかけられてるって話じゃないっすか!すごいっす!ヤバいっす!あ、目を掛けるって言えばこの間っすね…」


「悪い!その話もすっげー気になるんだけど、今ちょっとばかし急いでて…。あー、男爵に会いたいんだけど、取り次げたり…する?」


「あ、いいっすよ。」


「軽っ!え、そんな簡単に通していいのか?」


「大丈夫っす!身分がはっきりしてて害のなさそうな人なら通していいって言われてるんで!」


「それ門番の意味あるの!?…まぁ、入れてもらえるなら何でも良いや!じゃ、入るよ?」


「はいっす!屋敷に入ったら執事のグスターさんが対応すると思うんで、そこで男爵に会いたいって言えば会わせてもらえると思うっす!」


「うっす、あざっす!」


「どうもっす!」


「…リア?」


「ここで待っているのです。リアはお会いできるような身分ではありませんので。」


「………、分かった。すみません、コイツは残りますのでよろしくお願いします。」


「はいっす、お任せください!自分にも幼い弟と妹がいますんで、子供の相手は得意っす!」


「あ、特に相手する必要はない…よな?」


こくりと頷くリアを見て門番は「そうっすかー、残念っす…。」とあからさまに肩を落とした。

子供好きなのか話し相手が出来て嬉しかったのか…恐らく両方だったんだろうが、リアが相手してくれないのが本当に残念で仕方ないといった感じだ。

この青年はリアとは正反対だな。

初対面だろうと積極的に話しかけて簡単に懐に入ってくる。

どこからどう見ても人畜無害の人好きする雰囲気を持っていて、それを裏切らないこの好青年っぷりだ。

少々しゃべりすぎるのが玉にきずだが、リアにはこの十分の一でもいいから見習ってほしいものだな。

っと、俺は俺のやるべきことを…だ。

いざ、男爵の下へ!…会ってくれればいいんだけど。



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