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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 55 お節介とケンカ



俺たちは聞き込みをしている内にどんどん城から離れていき、今は城門近くの一本下の道に降りたところに居る。

俺はリアに金を持たせチョコレートを買ってくるように言うと店の中に押し込んだ。

そう、初めてのおつかいだ。


会ってすぐの頃から思っていた事だが最近リアと共に行動するようになって改めて痛感したのだ。

リアはこのまま大人になったらいつか絶対痛い目をみる。

子供の内はいいだろう、誰か心の許せる奴の後ろに隠れてやり過ごせる内は。

しかしこれから先、たとえばリアの周りに居るノエルや俺なんかが側に居れなくなっとして、その時リアはどう生きていくのだろう?

家事全般はこなせるとしても、食材がなくなったら?食器が壊れたら?誰かの手が必要になったら?

何かあった時に人見知りでうまく話せなくて助けてもらえませんでした、では困るんだ。

赤の他人でも困った時にはなりふり構わず助けを求められるように、今から少しずつ慣らしておいた方がいい。


そこでこの店を選んだ。

ここは以前セバスツァンに紹介されて来た街の東側にある店だ。

初めて来店した時も店員の態度は凄く丁寧で誠実だったし、何より城に仕える人間がよく利用してするような信頼できる店だからリアにはうってつけと言えるだろう。

始めから一人にするのは気が引けたが、ここは心を鬼にしてリアの成長を見守ろう。

正直、店に押し込んだ時のリアの絶望したような顔が頭から離れないが、これはリアの為なんだと言い聞かせて全力で見ないふりをした。


リアが店に入ってすぐに店員が声をかけていたので、その様子を店の影からこっそりと見守る。

あー、俯いたまましゃべらないから店員さんが困ってるよ。

頑張れリア!勇気を出すんだ!!

たった一言、チョコレートくださいって言えばいいんだぞ!


「べっきし!!」


くしゃみをしてから改めて店内に視線を戻すとリアと話していた店員と目が合った。

気まずくてとりあえず会釈すると、何か察したような顔をしてからリアの前に次々と商品を出し始める。

なるほど、話さないなら虱潰しに品物出してみようという作戦か。

これはなかなかのファインプレーなんじゃないだろうか?

お、おお!

どうやら早い段階でチョコレートが出てきたおかげで話しが円滑に進んでいるようだぞ!

お金を渡して…商品受け取って…よし!よくやったリア!大成功だ!!

はじめてのおかいもの、完!


「ありがとうございました、足元にお気をつけてお帰り下さい。」


「あ、どうも。お世話様です。」


「……………………。」


「うふふ、可愛らしい慎ましやかなお嬢様ですね。」


「え、いや…あーはい、ありがとうございます。て、おいリア!すみません、失礼します。」


気が付くとリアは一人で帰り道を進んでいた。

呼び止めても歩みを緩めることはなく、一人でどんどん進んで行ってしまう。

どうやらとても怒っているようだ。

俺は店員さんとの挨拶もそこそこに、急いでリアの後を追いかけていく。

…思ったより足が速いな。


「リア。…リア!そんなに怒るなって、これもお前の成長を思っての事だったんだ。それに、お前ちゃんと買い物出来たじゃねーか!よ、さすがリア様!やれば出来る子、偉いえら…」


「ふざけるなです。」


「え?」


「何がリアを思ってなのですか、思い上がりも甚だしいのですよ。いつ、誰がこんな事をしてくれと頼んだのです?誰が、何のために?こんなの何の意味もないのです。」


「…意味は、あるだろ。リアの人見知りを治すにはこういうのも必要だって思ったから」


「だからそれが思い上がりだと言っているのです!!リアは一度だってそんな事頼んでない!それなのに勝手に解釈して勝手にお節介を焼いて…、そんなのただの独りよがりなのです!リアの為だとか言ってリアの気持ちを無視して…こんなのあなたがただ気持ち良くなりたかっただけなのです!…別にそれはいいのです。構いません、それもあなたの自由です。ですが、それにリアを巻き込まないでください!迷惑なのです!!」


「なんだよ…そんな言い方ないだろう?お前全然分かってないよ、お前がどれだけ周りに依存してるか。もしお前の周りの人がみんな居なくなったらどうするんだ?…人間はな、一人ぼっちじゃ生きていけねぇんだよ。だから誰かとの繋がりを持とうとするんだ。その繋がりを作るにはどうしたって対話が必要になる。リアは今ここで躓いてるから今の内に治したほうがいいんだ。今はまだいいだろうさ、子供の内はな?でも大人になったら嫌でもそれが必要になる。それを培う力は大人になってからだとつけるのがとても難しんだよ。だからな、リア?怖くて嫌かもしれないけど、今は頑張って人と関わることを覚えなきゃダメだ。」


「………。」


「…リア」


「言いたい事はそれで全部なのですか?」


「え…?」


「きっとあなたの言っていることは正しいのです。確かにリアの話せる人は姫様以外にあなたを含めても片手で足りる程度です。それはきっとリアくらいの年ごろの子供にしてはとても少ないのでしょう。ですが、それが何なのです?埃を被っていたリアにはそれでも十分だと思うのです。それではいけないのですか?そんなに数が大切ですか?」


「違う!俺はただ、リアが困った時に助けてくれるような人が1人でも多く居てくれたらって思っただけで、リアの大切な人を蔑ろにしてるわけじゃない。そういう事を言いたいんじゃなくて…、リアだっていつか大人になるしノエルだってずっとリアの側に居られるわけじゃない。もしリアが一人ぼっちになったとしたら、その時はリアが自分の力でまた新しい繋がりを作らなくちゃいけないんだ。俺はその時が来ても安心できるようにと…」


「いつか一人ぼっちになる事くらいリアだって分かっているのです!!ずっと一緒にはいられない、いつかみんなリアを置いて居なくなってしまう、そんな事…ちゃんと…知っているのです。」


「いや、そんなみんながみんな突然いなくなったりはしないけど…」


「するのです。みんな居なくなって、リアだけ取り残されて…その時はいつか必ず訪れるのです。必ずです。…それはもういいのです、その埋めようのない差は苦しいくらいどうしようもなく理解しているのです。ですから、放っておいてください。その時にリアがどうするかはリアの勝手、リアの自由なのです。…リアは、お母さんが居なくなって姫様が居なくなったのなら、その後は一人で居たいのです。誰の側にも居たくありません、一人で静かに眠っていたいのです。」


「そんなのダメだ!そんなの俺もノエルも許さねぇよ。リア、お前の世界は狭すぎる。もっと周りに目を向けろ、他人に興味を持て。でないとお前の人生、寂しすぎるだろう…。」


「人の生など、リアには関係ない。リアはそれに触れる事さえ本当なら許されるはずもなかった。でもそれを許して、色を与えてくれたのは姫様なのです。確かに寂しさを知りました、悔しさも怖さも…でもそれ以上に幸福を知りましたのです。だからリアは、このままでいいのです。このままがいいのです。」


「でも…。」


「あなたに理解できるとは思っていませんし改めて話す気もありません。…人からしたらやはりリアは劣っているのでしょう。ですが、それでも。リアはこのままで居たいのです。出来るだけ長い間、このように在りたいのです。」


「…。」


「今日はこのまま帰るのですよね?では行きましょう。リアにはあなたを城まで送り届けるという義務があるのです。…あと、これはあなたのです。」


突き放すような言葉と共に紙袋が差し出される。

先ほど店で買ったチョコレートの入った袋だ。

俺はそれを受け取り礼を言おうとしたが、口を開ける頃にはリアは背を向け歩き出していた。

深い溝があるような感覚に襲われ咄嗟にリアの名を呼ぶと、リアは何とも無いように返事をした。

しかし目が合わない。

いつもなら顔を上げて俺の目を見ながら話をするのに、今のリアは深く被った外套のせいで口元しか窺えない。

さっきまでふざけ合っていたのが夢だったみたいに、リアの対応が他人行儀だ。

いや、他人行儀であるのならこうして話すことすらままならないか。

だが十分すぎるほどの距離が俺とリアの間に出来ているのを感じる。


―――これ以上関わる気はない。


そう言われているような気がしてならなかった。



――――――



城までの帰り道、俺は始終リアに話しかけて何とかいつものような反応をしてくれないか試み続けた。

リアをからかってみたり、呆れさせようとフラついてみせたり…しかしどれも空振りに終わった。

リアは俺が何をしようと素気なく、ただただ無機質に返事をするだけだった。

いつものような罵倒も反論も何も返さずただ相槌を打って、必要以上の事は口にしない。

これじゃ会話って言えないな…

結局城について別れる時までとうとうリアからいつもの様なリアクションを引き出すことは出来ず、始終俺だけが話し続けるという寂しい状況で終わってしまった。


「…怒ってる、わけじゃないんだよな。」


確かに最初の内はリアも怒っていたはずなのだが、途中からは俺の方が諭されているような感覚だった。

子供の我儘に諭されるなんておかしな話だが、リアのあの言い方はどうも子供のそれとは思えなかった。

達観してると言うよりは悟っている。

駄々をこねていると言うよりは諦めている。

何がリアをそうさせているんだ?

それに、どうしてあいつは置いて行かれることを前提で話していたんだろう?

確かに俺ももしもの話で同じような事を言ったが、アイツのそれはまるでそうなることが決まっているかのような言い方だった。

まさか…未来予知?

いや、まさかな。


「へ、へっくしょい!!こりゃいかんな、さっさと部屋に戻ってあったまらにゃ。」


本格的に体が冷えてきて震えが止まらなくなってきた。

これで風邪なんか引いた日には情けなくてノエルに合わせる顔がない。

俺は一度頭をリセットする意味も込めてシャワールームへ直行した。



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