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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 53 雨の中の花



「…何をどうしたらそうなるのです?」


「いや…俺にも何が何やら。」


子供たちの勉強部屋を出て待っていたリアと合流する。

リアは俺の変わり果てた姿に呆れながらも衣服の乱れを直してくれる。

何故こんな事になったのか…

俺が名乗った後、急に子供たちのテンションが振り切れあれよあれよという間にもみくちゃにされたのである。

テンションの落差にあっけにとられ、気が付いた頃には服が(はだ)け髪が乱れているという状況だった。

テンションの振り切れた子供って怖いんだな…

髪を整えながらしみじみと思う。


「これでよし、なのです。」


「ありがとな、リア。それで…なんでここに居るんだ?」


「はぁ?何をトンチキな事言ってるのです。リアはあなたの監視役だと言ったはずなのですよ?それなのに部屋には居ないし遊んでいるし、きちんとお仕事しないのなら姫様に報告しますのですよ!」


「あーあー、悪かったって!リアの監視は昨日だけかと思ってたからついフラフラっとな。以後気を付けさせて頂きますのでどうかご容赦ください。」


「よろしい、なのです。それと…さっきは、その…」


「ん?どした?もじもじして…便所か?」


「んもう!なんでもないのです!それとこれ、姫様から渡すように言われたのです。」


「お、なんだ?………これって、新しい外套か?」


リアに手渡された布を広げると、それは新品の外套だった。

前回の物とはデザインが違うので新しく用意してくれた物だろう。

ありがたいが、よく昨日の今日で用意出来たな。


「姫様からの伝言なのです。『外套の事聞きました、残念だったね。リアに渡したものは予備にと思って以前から用意しておいたものです。これからはこっちを使ってください。風邪に気を付けて。』以上なのです。」


「さすがノエルたや、マジ天使!今度こそ大切に使わせてもらいますっ!」


「…リアとしてはもう少し罵倒してもいいと思ったのですが。」


「おいおい、リアともあろう者が姫様のご意向に不満があるって言うのか?ん~?」


「む、その顔やめるのです!腹立たしいのです!」


「あべしっ!」


リアの右ストレートが俺の顎に直撃する。

良いもん持ってんじゃねぇか…完敗だぜ。

俺は一発KOで地面に倒れ込む。

誰か、タオルを投げ込んでくれ!


「何を寝ているのです、さっさと行きますのですよ。」


「情け容赦ナシすぎんだろ。」


リアは聞く耳持たずと言った風に俺を無視してどんどん歩いていく。

やれやれ、難しいお年頃だぜ。

俺は一つため息をついてから外套を羽織り、リアを追いかけて走っていく。


「………その後はどうなのです?まだ見えるのですか?」


「いや、今のところ大丈夫。…心配してんのか?」


「………ちっ。」


「これ!女の子がそんなはしたない事するんじゃありません!」


「クソうるさいのです。」


「んまぁ!どこでそんな汚い言葉思えたの!あれ程付き合う人は選びなさいと言ったでしょう!?」


「えぇ、出来ればリアもそうしたいのです。特に口も気持ちも悪い男には近づきたくもないのですよ。」


「そこまで言わなくてもいいだろぉ、仲良くしようよー。」


「その鬱陶しい話し方をやめるなら少しは譲歩してあげるのです。」


「ギギギ…」


そんなやり取りをしながら城を出ようと跳ね橋に差し掛かった時だ。

何かが視界の端に留まりなんの気なしに視線をやると、そこそこ距離があるのでわかりずらかったがこの雨の中ひとりで遊んでいる子供が見えた。

それだけならそのまま通り過ぎて終わりなのだがその子供、外套を着ていない。

頭からつま先までびしょ濡れだ。


「っ!?何やってんだ、アイツ!」


「ちょ、どこへ行くつもりなのですか!」


「悪い、すぐ戻るからちょっと待っててくれ!」


リアの制止を振り切り今も遊んでいる子供に駆け寄っていく。

子供は遊んでいるのに夢中なのか俺が近づいていることに気が付いていないようだ。

よくこんな雨の中、俺に気づくことなく遊んでいられるな。

ここまで来たら呆れるのを通り越して感心するわ。


「おい、そこのお前!外套も着ないで遊んでたら風邪ひくぞ!」


「うお!?なんじゃお前、儂に言っておるのか…?」


「何キョロキョロしてんだ、お前以外に誰が居るってんだよ!まぁいい、とにかくすぐに中に入れ。そのままだと確実に数日は寝込むぞ?」


「馬鹿を言うでない、儂がこの程度の雨で寝込むわけなかろうぞ!それに、儂はこの城には入れぬ。そういう約束だからな。」


「あ?なんだ、城に入っちゃダメって言われてるのか?…じゃあお前もう帰れ。あれだろ、城の子供たちと遊びたかったんだろ?確かお前、昨日も一緒に居た奴だよな?残念だけどあいつらは今日一日外には出てこないと思うから、今日は帰ってまた晴れてる時にでも遊びに来い。んでしっかり体を拭いて温かくしとけよ。風邪ひいたら結局遊べなくなるんだぞぉ?」


「ふむ、ぬしは変わっておるのぉ…儂の事など放っておけばよかろうに。」


「アホ、そういうわけにはいかないの。大人はそういうものなの。」


「だははは、ぬしは子供であろう!ふむふむ、儂を放っておけないと言うのなら仕方がない。今日の所は大人しく帰ってやろう!嬉しいか?嬉しいかのぅ?」


「はいはい嬉しいよ。家はどこだ?街まで行くなら送ってってやるぞ?」


「よい。儂の寝床はすぐ近くじゃ。」


「近くって…この辺に民家なんてあるのか?ん…ま、いいか。とにかく、一人で帰れるんだな?」


「二言はない!」


「はぁ、そうか。…んじゃせめてこれ着ていけ。これ以上濡れたら本当にシャレにならんぞ。」


そう言って着ていた外套を頭から被せる。

だいぶデカイが無いよりマシだろ。

後でリアにどやされそうだが、今回は無くした訳じゃないってことで大目に見てもらおう。


「…ぬし、もしかして阿呆じゃろ?これを儂に貸して、それでぬしはどうするんじゃ。」


「俺は気合で風邪ひかないから良いの。免疫力が違うんですぅ!」


「うっははははは!とことん変わり者じゃのぉ…じゃが儂はぬしの事気に入ったぞ!ほれ、これをやろう。儂のとっておきじゃ、持って行くがよい。」


「あ?ありがとう…、花?見たことないけど綺麗だな、これってなんていう花なん………あれ?」


気が付くと目の前に居たはずの少女は居なくなっていて、俺だけが雨に打たれていた。

なにこれ、幻覚?いや、でも花はちゃんとあるし…


「ま、まさか…幽霊!?」


この花を誰かに渡すことによって成仏して消えた…?

そう思うと途端に背筋に冷や水でも垂らされたかのような悪寒が走る。

いやいや、いくらないんでも幽霊はないだろう。

普通に話してたし、外套だって掛けられたし!

きっとあれだ…、凄まじく早く動ける子だったんだろう間違いない。

とにかく用事は済んだから今すぐにリアの元に向かおう。

決して怖くなったからとかそういう事ではなく、これ以上リアを待たせるのも申し訳ないと言う良心の呵責から来る行動である。

きっと一人寂しく俺の事を待っているに違いないから身体強化増し増しで素早く戻ってやろう。


「ただいまっ!」


「……………、リアの今の気持ちが分かりますか?」


「え…なんだろ?寂しかった、とか?」


「絶句なのです!呆れて言葉もない!どうしたらこんな短時間で二着目を無くせるのですか?姫様のご厚意をこんなにもあっさりと…さっきの言葉は嘘だったのですか!!」


「ちが、ちょっと、話を!話を聞いて頂きたい!あっちで雨に濡れてる子供が居たから貸したの、ちゃんと所在は分かってるの!」


「どうしてそんな分かりきった嘘を吐くのです!本当にろくでなしのコンコンチキなのです!」


「どこの言葉!?ていうか嘘じゃないって、リアだって見てただろ?雨の中ひとりで遊んでた子供!あの子に貸してきたんだよ。」


「…………………。」


「本当だって!なんでそこを疑う必要がある!?」


「…嘘、ではないのですね。ではやっぱり今日は街に行くのやめた方がいいかもしれないのです。」


「なんでさ。」


「だってリアにはそんな子供が居るようには見えなかったのです。あなたが何もない所で突っ立っているようにしか見えなかったのですよ。」


「………マジで?」


となるとやっぱり幽…いや、リアが言ってるのはそういう事ではないだろう。

昨日の今日なのだ、これはやはり俺がおかしいって話だろう。

昨日に引き続き…俺はおかしなものを見ている、か。

原因が分からないからどうしたらいいのか分からないけど、これはもう腹を決めて確かめに行った方がいいのかもしれない。

直接話を聞けるのならそれに越した事はないだろう。


「どうするのです?やっぱり今日も止めておくのですか?」


「いや、今日は行く。もしまだ見えるなら話し聞いてみたいし、…様子見つつだけど。」


「そう、ですか。分かりましたのです。でも外套はどうするので…その、花は?」


「あぁこれか?さっきの女の子に外套渡したらくれた。」


「では実在はするのですね?………。」


「なんだよ、突然黙ったら不安になるだろ。何かあるなら教えてくれよ。」


「いえ、思い当る話が無いわけではないのですが、憶測の域を出ない上にあり得ない事ので気にしないでください。さぁ、そろそろ行くのですよ。」


「え、外套は…?」


「借りられる当てがあるのならどうぞ、リアは先に行ってるのです。」


「無いです、すみません!だから置いてかないでー!」


雨の中、少女を追いかける男が1人。

現代日本なら通報待ったなしの不審者案件だが、この世界では(俺に限って)良くある現象なのでどうにか見逃して頂きたい。




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