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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 52 新しい遊びと自己紹介



「っ!終わったー!」


「すごいすごい、いつもより全然早く終わった!」


「お兄さんが教えてくれたおかげ、とイブ思う。」


「フィネルもね、きょうはいっぱいわかったんだよ!」


「うんうん、お前らよく頑張ったな!偉かったぞ。」


「…えへへ。」


「ねーねー!ちゃんと宿題終わったんだし、もう遊んでいいんだよね?ね?」


「おう、約束だからな。これをお前たちに授けよう!」


そう言って木片の入った袋を渡すと、子供たちは嬉しそうにそれを受け取り机の上に広げた。

そんな期待に胸躍らせていた子供たちが一瞬息をのんだかと思ったら、見る見る内に目の光が失われ何とも形容しがたい表情なり硬直した。

え、そんなに?


「えっと…兄ちゃん、これ何?」


「き、だよね?なにかまほうがかかってるのかな?」


「全部同じ大きさの木…。これが新しいおもちゃなのぉ?」


「むぅ………。」


「お、おう。そんな露骨にがっかりすんなって、絶対面白いから!…たぶん。ひとまず一回遊んでみようぜ?な?いま準備すっからさ。」


子供たちの悲しそうな視線をチクチクと受けつつ、俺は木片を三つずつ揃えて互い違いに積み上げていく。

最初こそ落胆した子供たちも、積み上げられていくそれに興味が出てきたようでその様子を不思議そうに見ている。

どうやらこれが何なのか分かっていないようだ。

よしよし、ならばとくと見るがいいこれが完成形だ!


「さぁ出来たぞ、ジェンガだ!!」


「「「「じぇんが?」」」」


ジェンガ、それは直方体のパーツを三つずつ互い違いに重ねていき塔にした後、崩さないように注意しながら一つずつ引き抜き最上部へ重ねていくゲームだ。

これなら小さな子供から大人までみんなで一緒に遊べるし、狭い場所でも気にせず出来る。

確かこういう風に木に触れるのも子供の教育に良いとかなんとか聞いたことがあるし、なかなかいいアイデアだったんじゃないだろうか?

子供たちにも一通りの遊び方を教え、いざゲーム開始だ!


「これ?これを取ればいいの?え、え?………うわ、すごい揺れる!」


「あわわ、ティムがんばって!」


「ドキドキなの、とイブ思う。」


「……っよし、いけた!次はキペックの番な!」


「任せろー!……………あ、あれ?あれれれれ!?」


「あーあ、崩れちゃった!」


「もう一回!もう一回やろ?次は絶対崩さないから!!」


「今度はイブが組み立てたい、とイブ思う。」


結果は俺が思っていたよりも遥かに良いようだ。

先ほどから白熱したバトルが繰り広げられ、始終笑い声が響いている。

楽しんでもらえているようで、製作者冥利に尽きるってもんだ。

考え出したのは俺じゃないけど。


子供たちも最初の内は殆ど抜けずに序盤で崩してしまっていたのだが、今となっては引き抜いた木片を上に乗せるのにイスを使わなくてはならないほど続けられるようになった。

さすが子供、上達が早い。

楽しいは最強だな。


「…お兄さん。」


「お?どうしたイブ、もう飽きちゃったか?」


「ううん、ジェンガとっても楽しいの。でも…。」


「どうした?」


「…お兄さんとご本読むのも同じ位楽しい、とイブ思うの。」


「おぉ、そうだったな。んじゃ一緒に読もう。どれがいいんだ?」


「あのね、あのね、これ…とかすごく面白いとイブ思う。」


「オッケー、これな。イブ、膝座るか?」


「え!?…いいの?」


「どうぞ、お姫様。」


そう促すとしばらくモジモジしてたイブが遠慮がちに膝に座る。

耳まで真っ赤にしている可愛さにおもわず叫びそうになったが、ぐっと堪えて差し出された本を読む。

ん…?人族奮闘記~邪竜との激闘編?あれ、なんか見覚えあるな。

これって俺が読んだ本と同じ…だよな?

…うん、絵本版かと思ったがやっぱり字がびっしりだわ。

え、じゃあ何?イブったらもうこんなに難しい本読んでるの?

確かにこれは少年漫画みたいなワクワクさのある面白い作品だったけど。

でもまだ分からない言葉とかたくさんあるんじゃないのか?


「お兄さん?」


「ん?あ、いや…イブさ、本当にこれでいいの?これ読んでお話し分かるか?」


「うん、前にお父さんが少しだけ読んでくれたから。ずっと続きが気になってた、とイブ思う。」


「そっかぁ…」


そっかぁ。

どうしよう、これってイブ父の楽しみを奪う事にならない?大丈夫?

いつか暇が出来たら続きを読んであげようとか、お父さん楽しみにしてるんじゃないのかなぁ?

親子水入らずの機会を台無しにしてしまうんじゃないかって不安が俺の中に湧いて出てるんだけど…どうしよ。


「…お父さんはたぶんもう忘れちゃってる、とイブ思う。だからお兄さんが読んで?」


「………了解。心を込めて読ませて頂きます!」


「わくわく」


せめてもう一度読みたいと、お父さんにも読んでもらいたいと思ってもらえるように、俺はできるだけ感情を込めて読み始める。

もはやこれは読み聞かせではない、一人芝居だ。

そう言っても過言ではないほど熱を込めて読み上げていると、いつの間にかジェンガで遊んでたティムたちもこっちに来て一緒に聞いていた。

ギャラリーが増えたせいかその内俺のテンションも上がってきて、最終的には振り付きで歌まで歌ってしまった。

子供たちも楽しそうに拍手してくれたり、一緒に踊ってくれたりしたので俺もかなり楽しかった!

もしかして今の俺たち、輝いてる!?


「見つけたのです!こんな所で遊んでいるなんてどういう了見なのですか!!」


その声で現実に引き戻されてドアの方を見ると、そこには昨日と同様に腰に手を当てて仁王立ちしているリアの姿があった。

え、なんでリア?


「よ、よぉ。こんな所で会うなんて偶然だな。」


「何が偶然なのです!リアがどれだけ探したと思っているのですか?それがこんな所で遊んでるなんて…やっぱり万死に値するのです!!」


ずんずんと部屋に踏み込んできたリアは俺の腕を掴むと凄まじい力で引っ張り部屋を出ようとする。

大の男が女の子に引きずられている姿はさぞシュールだった事だろう。

しかしそれも、イブがリアの前に立ちはだかる事で終了した。

お、なんかリアが年の近い子供と一緒に居るのはかなり新鮮だな。

まぁリアの方か一回りくらい上だろうけど。


「っ!?あ、あの、退いてほしい…のです。」


「だめ、とイブ思う。お兄さん連れてっちゃ…だめ。」


「そうだぞ!なんだよお前…見ない顔だな?兄ちゃんは今俺らと遊んでるんだぞ!順番守れよな!」


「あ、の…リアは…。」


ここでリアの人見知りが発動、ぼそぼそと聞き取れない程度の声で何かを呟くと素早く俺の後ろに隠れる。

そっかぁ、年下の子供相手でもこうなるのかー…


「あー、ごめんな?コイツ恥ずかしがり屋なんだ、勘弁してやってくれな?」


「それは別に…、でも順番は順番だろ?今は俺たちと遊ぶ時間だから、その子と行っちゃダメ!」


「ごめんなティム。コイツは俺が仕事の時間を忘れてたから知らせに来てくれたんだよ。な?ありがとうな、リア。ってわけで俺はもう行かなきゃ。お仕事の時間だ。」


「「「「えー!!」」」」


「ごめんな?また明日来るからさ。」


「…ん。仕事なら…仕方ないし。」


「ありがと、ティム。ジェンガは置いてくから、みんなで遊んでくれ。」


「………お兄さんが居ないとつまらない、とイブ思う。」


「…。リア、先に外で待っててくれるか?すぐ行くから。」


「はい、なのです…。」


リアが出て行くのを横目で見ながらイブの前で屈んで目線を合わせる。

イブは俯いていて表情は読み取れないが、怒っているというよりは不貞腐れているようだ。

こんな時だっていうのにこんなに懐いてくれていることに嬉しくなって顔が緩みそうになる。

いかんな、誠意を見せる場面でにやけ顔は頂けない。

俺は顔を引き締めてイブの頭を撫でながら謝る。

離れがたいと思ってくれる事のどれだけありがたい事か。

それを裏切ってしまう事がどれだけ申し訳ないか。

その気持ちが少しでも伝わるように何べんも。


「…お兄さんが謝るのは違う、とイブ思うの。謝ってほしいんじゃなくて、そうじゃなくて…一緒に居てほしい。」


「うん、ありがとうイブ。でもごめんな、俺もイブのお父さんやお母さんと同じでお仕事しなきゃ。明日また来るからさ、それまで我慢できるか?」


「………出来る、とイブ思う。」


「うっし、イブは本当にいい子だな。きっとお父さんもお母さんも鼻が高い…あ。」


「ふふ、お鼻が高くなったら怖い、とイブ思うの。」


「だな?」


顔を見合わせて笑うと、それがうつったのかティムたちも笑い出した。

まったく、良い子ばっかりだぜ。

一通り笑っていよいよリアの元に向かおうと立ち上がった時、ふいに服の裾を引っ張られる。

振り向くとまたしてもモジモジしたイブが何か言いたげにこちらを見ていた。


「どうした?」


「あ、のね。イブたちまだお兄さんのお名前知らないの。」


「え?…あれ、そうだっけ?」


そう言ってティムたちを見ると同意するように深く頷いている。

あらま、それは完全にうっかりしていたわ。

そう言えば出会いも仲良くなった経緯も嵐のように突然だったから名乗る暇がなかったんだな。

しかしこれは子供相手とはいえ失礼をしてしまった。

ここで汚名返上できないと手本となるべき大人とは言えないな。

俺は仮面をそっと外して出来るだけ立派な大人に見えるように紳士的にお辞儀をする。


「これは大変失礼をいたしました。私の名はナユタ・クジョウ・ユエル。陛下より導使節(どうしせつ)の名を頂きその任についております。どうぞ、よしなに。」


顔を上げて笑ってみせると、何故か子供たちにもみくちゃにされた。



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