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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 50 悩みの種がまたひとつ



街の繁華街に着くと、雨が降っていたせいもあるのだろうがいつもより活気が少なくどこか違和感を感じた。

今は空を覆っていた分厚い雲も千切れ始め、時折晴れ間を覗かせる。

どうやら今日はもう雨は降らなさそうだ。

これ以上雨に晒されたらさすがの俺も風邪引きかねんからな、外套を無くした上に風邪引いて動けませんじゃ本当に申し訳なさすぎる。

それにしても妙に街並みがキラキラしているなぁ。

雨上がりのせいだろうか、あちこちからキラキラとした光が瞬いているように見える。

幻覚…いやまさかこれが話に聞く貧血ってやつか?

とりあえず体を動かしてみた感じ特に体調が悪いような感じはしないけど。

となると、この世界特有の事前現象か何かだろうか?

雨上がりに虹が掛かる的な。


「お、リアあの人見てみろ!背中に翼が生えてるぞ!獣人族だよな?いいなぁ、俺も翼ほしぃ!」


先日の舞踏会でも何人かの獣人族を見かけていたが、あんな風に背中に翼の生えている人は居なかった。

であるのなら、ここに居るのは御付の人か今回に合わせて旅行に来た人とかだろう。

大きさ的に飛べるかどうか怪しい感じだが、見た目格好いいから問題なし!


誰しも一度は夢見たことがあるんじゃないだろうか?

もしも自分の背中に翼が生えていたらどんなにいいだろう、と。

歌にもなってるしな!

何だっけ…翼をください?


「…何を寝ぼけた事言っているのです、そんな人どこにも居ないのですよ。それに獣人族は獣の一族、地を()ける事はあっても空を(かけ)るなんて話聞いたことないのです。」


「へ?でも現にそこに居るじゃん。ほら、そこにも。…え、もしかして仮装!?はぁー、良くできてるなぁ。」


「変な事言うのはやめるのです!どこにも翼の生えている人なんていないし、そんな仮装をしている人も居ないのです!しっかりするのです!…疲れているのですか?」


「いやいや、居るだろそこらに!普通に買い物してるし。…ははぁん、さては俺をからかってるな?そうは問屋がおろさねぇ…ぞ…」


「……………………。」


「え、ガチ?マジでそんな人居ない?」


リアはこくりと頷くと俺の顔をまじまじ見る。

これは…本当に困惑している顔、だな。

マジでマジなのか?

本当にリアには見えていない?

見間違いの可能性を考えて俺は今一度翼のある人々を見る。

が、やはり俺には見える。

どう見てもその人たちの背中には、仮装でも偽物でもない立派な翼が生えている。

どういうことだ?何が起こってる?

リアのいう通り疲れてるのか?

今思えばこのキラキラだって俺にしか見えない物なのかもしれない。

そう思うと増々混乱してくる。

俺の目には他の人には見えない何かが見えている…のか?

…まっさか~!

だって今まで何回か街に降りて来たけど、一度だってこんな風景見た覚えねぇもん。

これはあれだな、リアのいう通り過労で幻覚が見えてるんだ。

自分でも分からない内に疲れが溜まってた結果、幻覚を見ているに違いない!

思い返せばここに来てから色んな事が起こって大変だったもんな、休んでるつもりでも心が限界に達していたのかもしれない。

よし、そういう事にしよう。


「リア、悪いんだけど今日はもう帰るわ。帰って少し休めばきっと大丈夫だと思うから。」


「…分かったのです。あ、歩けるのですか?」


「あぁ、それは全然。ごめんな、折角着いてきてもらったのになんもできなくて。」


「いえ!いえ…それは別にいいのです。えっと、じゃあ帰りましょうなのです。」


「あぁ。」


出来るだけ視線を落としながら城へと戻る。

俺の後ろを心配そうについて来るリアに大丈夫だと言いながら、それを自分にも言い聞かせる。

大丈夫、なんだよな?

おかしくなっちまってないよな?

ただ疲れているだけなんだよな?

そんな自問自答しながらも、それでもそれに答えが出るわけもなくただ黙々と歩き続ける。


―――――


城に着くとリアにノエルの元に戻るように言った。

俺ももう部屋に戻るだけだし、リアも俺と居るよりノエルの側に居たいだろうから。


「…せめて部屋までは送るのです。何かあっては姫様に申し訳が立たないのです。」


「そんなに心配しなくても大丈夫だって。あー、それとさ。俺が街で変なもの見たって話な、できれば誰にも言わないで貰えるか?ノエルなんかが聞いたら絶対心配して様子見に来ちゃうだろうし…忙しいんだろ?」


「それはそうなのですが…。でも…」


「んー、そうだ!ついでと言っては何なんだけど、もう一個お願いしてもいいか?」


「ん、聞くだけ聞いてあげるのです…。」


「俺が外套無くしたこと、やっぱりノエルには内緒にしといてくれ~!」


「なっ、それは絶対に言いつけるのです!決定事項、変更不可なのです!!」


「マジかよぉ…ちぇー、分かった分かった。じゃぁそれ()言って良いから。んじゃーなー!歯磨けよ、宿題やれよ、夜更かしすんなよ、また来週!」


「えっ!?ちょ、…また明日。」


リアの困惑した声を後ろに聞きながら部屋へ向かう。

今日はもう何も考えずにとにかく寝よう。

寝て起きればきっといつも通りになってるはずだ。

きっと絶対間違いない。


――――


時計の音がやけにうるさいと思っていたら、結局一睡もできないまま夜明けを迎えていた。

朝から雨が降っているせいで外はどんよりと暗く、早朝だと言うのに明かりが無ければ周りが良く見えない。

俺はカンテラを片手に部屋を出ると、城内を当てもなく歩いて行く。

今は少し歩きたい気分だった。

朝特有の冷たい空気を胸一杯に吸い込んで脳に酸素を送り、少しでも気分を変えられるよう努める。

うん、気持ちいい。


雨の音を聞きながら歩いていると使用人の人たちとすれ違う。

当たり前のことなんだろうけど、こんなに早い時間にも関わらず結構な人が働いているんだな。

そしてこれから日中に向けてどんどん多くなっていくんだろうな、特に今は他国の要人もいるから尚の事だ。

よく見ると雨の中にも何人かの騎士がいて、忙しなく行き交っているのがわかる。

暗さもあって良く見えないが、心なしか普段よりも多い気がする…

何かあったのか?

そういえば雨の日は痕跡が残りにくいので犯罪が多くなるという話を聞いたことがある。

雨で足跡は消えるし多少の音は雨がかき消してくれるからだと言うが、彼らはそういう事を警戒してるんだろうか?


騎士団と言えば、俺の外套が無くなったって話は結局誰に言えばいいんだろう?

そこをリアに聞く前にお説教が始まっちゃったから分からずじまいなんだよな。

いきなり騎士団に相談して変な顔されても困るし、こんどセバスツァンあたりにでも聞いてみるとしよう。


「よし。結構な人数とすれ違ったけど、背中に翼は見えなかったな。」


結局眠れなかったので休息したことになるのかは怪しいが、今のところ問題なさそうだ。

暗さのせいである程度距離がある人は確認できなかったけど、少なくとも挨拶をしてくれたメイドや執事たちは普通の人間だった。

やっぱり昨日のあれは疲れが出たんだろう。

そう自分に言い聞かせて今日も聞き込みチャレンジをしてみよう。


「ん、あれ?いつの間にかレオンの工房まで来ちまってたか。…まぁ、いいか。せっかくここまできたんだ、挨拶くらいしても罰はあたるまい。」


考え事をしながら歩いていたせいか、気が付けばレオンの工房の前に居た。

中から作業しているような音がするので起きているようだし、軽くノックしたのちに扉を開ける。

返事?そんなのは良識ある人間のするものだ。


中に入って最初に目に入ったものは、片づけたはずの瓦礫の山だった。

マジかよ、たった一日でここまで…?


「お、おーい…レオン?」


姿は見えども返事はなし。

どうやら作業に没頭していてこちらに気づいていないようだ。

それにしてもこの惨状、呪いまで受けて綺麗にした俺の苦労はどこへ行ったんだ。

そこら中に散らばる羊皮紙やよく分からん装置を見てはため息を溢す。

ここまで来たら才能だとしか言えないほどの荒れっぷりだ。

どうしてこんな木片まで落ちてるんですかねぇ…

木片?

ふと部屋の奥に目をやると、そこにはデザインの違う立派なドアがいくつも立てかけてあった。

まさかレオえもん、どこでも行けるドゥアーを完成させたのか!?


「なぁ、レオン。あそこにあるドアってもしかして…?」


「ん?誰だお前は、勝手に入ってくるんじゃない。」


「おいおい、愛弟子を捕まえてそれはひどいじゃねーの。一応アイディア提供したのは俺だぜ?せめて顔くらい覚えておいてくれてもいいんじゃ…」


ここで気がついた。

仮面付けてくるの忘れた。

そう言えば起きてすぐにふらふらと部屋を出たんだったわ。

あの仮面、着けてても何の違和感もないからつい着けてることを忘れがちだけど、まさか逆パターンも制覇しちゃったか。

そして新事実、レオンは俺の事を仮面で判断していたようだ。

そう言えば初対面の時も仮面にだけ反応してたもんな。

他人に興味ない典型的な科学者タイプ団だろうけど、それにしたって傷つくぜ。

せめて声で気が付いて欲しかった…


「…俺です、ナユタ。パーティー用の衣装を作ってもらったり、部屋を掃除したりした。今日は仮面をつけ忘れたけど、これが本来の顔なので出来れば覚えておいて、マジで。」


「…あぁ、お前だったのか。そんな顔をしていたんだな。忘れるとは思うが覚えておく。」


「できれば忘れないでぇ…」


「保証は出来かねる。で、こんな夜更けに何の用だ?」


「夜明けですよ、師匠…。」


「どっちでもいい、同じことだ。アタシは今忙しい、要件は何だ?」


「いや、要件ってほどじゃないんだけど…あそこにあるのは完成してるのかなーって。」


俺が立てかけてあるドアを指さしそう言うと、レオンは露骨に顔を顰めて盛大に舌打ちをした。

こわっ、そんなに怒らんでもいいじゃないの。


「…まだ。あれはただの試作だ、あの形に入り口を固定するのに手間取ってる。出力が全然安定せん。まったく作り甲斐のある道具だよ。」


「なるほど、あれは失敗作でしたか」


「失敗作じゃない、試作品だ!…アタシは今までに一度しか失敗していない、滅多な事言うな。」


「あ、はい、すみませんでした。」


どうやら逆鱗に触れてしまったようで、これ以降何を話しかけても俺を無視するように作業に没頭してしまった。

思ってた以上に失言だったみたいだ、反省します。

と言うことで、少しだけ部屋を整理して帰ろうと思う。

ほんの気持ち程度に、だけど。


「おや、ずいぶんと綺麗に切りそろえられた木片があるな。ドアを作った時の端材かな?ふむ、探せば結構ありそうだ。…なぁレオン、ヤスリみたいなのないか?」


返事はない、どうやら集中しているようだ。

と思ったらゆったりと弧を描くように鉄製のヤスリが飛んでくる。

俺はそれを受け取り礼を言って、木片の角を削り始める。


「あ、もうやっちゃったけどこの辺に落ちてる木片貰ってもいいかー?」


「…あぁ。」


「ついでに部屋も綺麗にしていいかー?」


「…あぁ。」


「………今日のご飯はカツカレーだよー。」


「…あぁ。」


ダメだこりゃ、完全に聞いてない。

まぁこの木片は端材だろうから貰っても大丈夫だろうけど、本格的な部屋の掃除はまた今度にしておこう。

一応立ち会っていると言えなくもないけど、また呪われでもしたら堪ったもんじゃないからな。


「よっし、こんなもんかな?」


しばらく一心不乱にヤスリをかけ続けたところ、計45の木片の角を取り終えた。

これなら安全に使えるだろう。

その辺に転がっている空の袋を拝借して木片を詰める。

今日はこれを持って行ってやろう、きっと喜ぶぞ。


「レオーン、この木片と袋もらって行くけどいいかー?」


「…あぁ、好きにしろ。」


相変わらずこっちを全く見ないで返事しているが、”あぁ”以外の言葉も貰ったので遠慮なく持って行く。

結構熱中していたようで、もうすっかり早朝とは言えない時間になってしまったな。

ひとまず一度部屋に戻って、朝食を摂ってから目的地へ向かうとしよう。



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