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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 48 解呪師レーヴ



リアと軽く話しながら歩いていると、とうとう本格的に雨粒が落ち始めた。

おいおい、これ街に着くころにはもっと強くなってるんじゃないのぉ?

死なないにしても風邪位は引いちゃうんじゃないかなー、俺か弱いからさー。

チラチラとリアにお伺いを立てるような視線を送ってみたが、それに気が付いたのか外套を深く被って視線を切られてしまった。

くそ、どうせ無くした俺が悪いんですよーっだ。

俺は少し不貞腐れながらまだまだ続く坂道に深いため息を溢した。


「あ、そうだ。なぁリア、せっかくここまで来たし寄り道してもいいか?」


「…寄り道ぃ?そんな事言ってサボろうと思っているのなら容赦なく絶ち(・・)ますのですよ?」


「何をだよ!?」


スッと手刀を振り下ろしてみせるリアに思わず震え上がる俺。

何を絶つ気かは知らないが、何にしても本当にやりそうだから怖いんだよなコイツ。

これ以上俺の好感度を下げないためにもしっかり弁明させてもらおう。


「ちゃんと聞き込みするんだよ、お仕事お仕事!この先に知り合いの店があるから、そいつに何か聞いてみようと思ったの!決して雨の中この坂を進みたくないとかそう言った理由ではないぞ!勘違いしないようにっ!」


「…わかりましたのです。そういう事なら許可します、骨身を惜しまず働きなさいなのです。」


ずいぶん深めのため息をつかれちゃったぞぉ…

なんかどんどん偉そうな態度に拍車がかかってくるな。

実際頭が上がらない状況なので大人しく従っておくが、今に見てろよ。

あっという間に犯人も外套も探し出して「さすが、見直しましたのです!リアはナユタ様にメロメロずっきゅんなのでもう好きにしてくださいなのですぅ」って言わせてやるんだからな。


―――――


雨が次第に強くなる中、しばらく歩くと目的の店が見えた。

ふと休みの可能性もあるんじゃないかという不安に襲われたが、手を伸ばした先のドアが目の前で開かれ中から見覚えのある可愛い女の子が出てきたのでその不安は一気に吹き飛んだ。

この子って確か。


「あ、ごめんなさい。どうぞ?」


「あ、すみません。ありがとうございます。」


「いいえ。どうぞごゆっくり。」


まるで雨の中で見つけた向日葵のように笑ったその子は、店内に入る俺たちに頭を下げると外套をすっぽりと被り足早に去って行ってしまった。

可憐だ…。

確かあの子は、レーヴの弟子(暫定)のエルちゃんだ。

ノエルと同じか少し下くらいの歳だろうか?

美しいと言うよりは可愛らしさが際立つ子だ、特にあの笑顔が良い。

どうもあの子とはすれ違ってばかりだけど、出来れば俺とも仲良くしてもらいたいなぁ…


「おっといけね、本来の目的を忘れるところだったぜ。レーヴは…っと。」


「お客さんかな?どうもいらっしゃい。すまないね、少し待っていてもらえるかい?」


あらま、接客中だわ。

思えばこの店に客が居るのは初めて見るな。

まぁ店なんだから、客が来ないと困るんだけどさ。

ちゃんと店として機能してるところをみた事なかったからちょっと心配してたんだよね。

良かった、繁盛と言えるほどではないけど客は来てるんだな。

さてさて。

仕事の邪魔をするわけにはいかないし…しゃーない、この辺の商品でもみて待つとするか。

問題はそれをリアが許すかどうかなんだが…


「なぁ、リア。レーヴの手がすくまでちょっと待ってようと思うんだけど、いいか?………ん?リア?」


「えと、はいなのです。リアは別に構いません。」


「なんで小声?別に普通に話してても怒られないぜ?」


「………。」


なぜか声を潜めていたリアだったがついにはしゃべらなくなり、仕舞いには俺の側にくっついて離れなくなった。

あらやだ可愛い、もしかしてこの子人見知りなのかしら?

始終俯いては服の袖を握りしめて離さない。

結局会計を終えた客が帰るまでずっとその調子だった。

ちょっと意外だな、俺との初対面があれだったからてっきり我儘系従者なのかと思ってたぜ。


「やぁ、お待たせしたね。それで、今日はどのようなご用件かな?」


「よぉレーヴ。悪いな忙しい時に。」


「あれ、ナユタさんだったのか。………なんだかずいぶん雰囲気が変わったね、気が付かなかったよ。」


「お、なになに?あまりに男らしくなってて気が付かなかったって事?」


「はは、そういう所は相変わらずみたいだね。」


「おいおい、そりゃどういう意味だよー。」


「もちろん褒め言葉さ。でも、ふむ…なるほどそういう事だね?それじゃ僕はお茶を淹れてくるから少し待っててもらえるかい?」


「あ、お構いなくー…って聞いてないし。」


何に納得したのかレーヴはお茶を入れに奥に下がってしまった。

お構いなくなんて言ってもお茶を出すのは社交辞令みたいなもんだし、仕方ないよね。

まぁこの世界でもそれが当たり前なのかは分からないけど、それでも何となく元の世界との共通点を見つけられた気がして頬が緩む。

そういやガキの頃も家庭訪問とかで教師が家に来たとき同じこと言ってたよなぁ…

なつかし…。

おふくろ元気にしてっかなー…


「………表情がコロコロ変わって気持ち悪いのです。一緒に居るとリアまで変な目で見られてしまうので慎みなさいなのです。」


「お、しゃべったなシャイガール。お前って人見知りするタイプだったんだな、可愛い所あるじゃん。」


「意味の分からない事言わないでほしいのです。リアは別に…人見知りってわけではないのです。」


「なんだよー、ちょっと意外だなって思っただけで別に責めてるわけじゃないぜ?そう不貞腐れるなって。…ただな、どうしても腑に落ちない事が一個だけある。お前、俺との初対面の時はずいぶんボロクソに…」


「お待たせしたね。さ、熱いから気を付けて。」


「あぁ、ありがとさん。あちっ!」


「おや、大丈夫かい?」


「へーきへーき!」


予想以上に熱いカップに苦戦しつつお茶を受け取る。

以前来た時に出されたお茶とは別の種類なのか、やけに濃い緑のドロっとしたお茶だ。

思わず本当にお茶なのか疑いたくなったが、レーヴが俺に変なもの出すわけないしせっかくの厚意に水を差すのも気が引けるので黙って飲もう。

…なんか苦そう。

あれ、そういえばリアの分は?

ヴィーが居た時はしっかり三人分用意していたのに、今カップを手にしているのは俺だけだ。

レーヴがお客にお茶を出さないなんて珍しい…って言えるほど長い付き合いってわけではないけど、少なくとも無礼を働くような人間でないことは知ってるつもりだ。

ははーん、さてはリアが一言も話さないから居るのに気が付いてないんだな?

まぁこれも人生経験だと思って黙っておくとしよう。

いいかリア、初対面の人には自分からきちんと挨拶をしないとダメだぜ?

だから今、お前はお茶を出してもらえず指をくわえて俺が飲み干す様を見ることになるのだ。


「では頂きます!………ぷぁはっ!?アチィ上にくっそ苦いぞ!!うへぇ、なんだこれ。」


「まぁ薬だからね、苦いのは仕方ないさ。」


「なるほど薬か。そりゃ苦いわな………え、薬?」


「それにしてもまさか約束通り、本当にお客として来てくれるなんて思ってなかったよ。さ、立ってるのは辛いだろう?このイスに座ると良い。」


「え、ちょっろ…ろういう、ころなの…」


「大丈夫、安心してゆっくり力を抜いて。すぐに済ませるから。」


何それ全然安心できないんですけど!

呂律回らないし視界はぼやけてるし、安心できる要素何一つないよ!?

俺の反論もうまく言葉にならずそのままもたれ掛かるように椅子に腰かけ、朦朧とする意識の中でレーヴの声だけが鼓膜を揺らした。

うっすらとレーヴの手が俺の頭を掴むように添えられるのがわかる。

う…気持ちが悪い…

まるで激しい車酔いでも起こしているかのように胃液が込上げてくる。

あ、ヤバい、これは普通に吐けるやつっ!


「うぉえぇ!!はっ、はっ、かはっ」


「おや、戻しちゃったか…。もしかして解呪は初めてだったかな?どうもナユタさんは薬が効きにくい体質みたいだね。」


「っ…ぺっ。か、かいじゅ?」


「おや?今日はそのために来てくれたんじゃなかったのかい?ナユタさん、しっかり呪いを受けているよ?」


「………マジで?」


「うん、マジで。」


衝撃の事実!ナユタ氏、何者かに呪いを貰う!!

なんでー!?

俺何か恨みを買うような事しました!?

いやいや無いだろ、品行方正・質実剛健・健康第一の体現者だぞ俺は!

それとも逆恨みか?

世のモテない男たちが、結果的とはいえ周りに美人を侍らせている(かのように見える)俺に呪いを掛けていたのか?

あり得る!が、たぶんそれはない。

何にしても今大事なのは俺の命だ。

寿命が削られてましたとか、体のあちこちに腫瘍が出来ましたとか…そういうのだったらマジ笑い話にもならん!

聞きたくないが聞かなきゃならん時がある。

男ナユタ、覚悟を決めて呪いと向き合う!


「そ、それで?俺の呪いは…」


「まだ途中だから何とも。とりあえず、続けてもいいかい?」


「え…?まさか、あの吐き気マックスのあれをまたやるの?」


「うん。すまないけどそれは解呪の反動だから仕方ないんだ。」


「せ、せめてもう一度あの薬を。今度はもう少し多めに飲んでみるから…!」


「一口で効かないならあまり期待できないと思うよ。苦い思いをしても結果は同じなら、もうこのままやっちゃった方が早い。」


「え?え?慈悲は、ないのですか?」


「ナユタさん………なんとか気合で頑張って。」


「嘘だろぉ!?」


そうして何度か吐きつつも耐え抜き、レーヴによる解呪は無事終了した。

もう吐かなくて済むかと思うとまるで楽園にでもたどり着いたかのような爽快感で胸が一杯になる。

対して胃は空っぽなんですけどね。

それにしても、解呪がこんなに負担のかかるものだとは思いもしなかった。

レーヴの話では、ここまで薬の効かない人は初めて嘔吐(えず)く人は居ても吐くまでいったのは俺が初だったそうだ。

わーい、やったぞ第一号だ!

ちなみに、この世界に来てからやたらと吐く回数が増えたのでそれも何かしらの呪いなんじゃないかとレーヴに確認してみたところ、残念ながらそういう類の呪いではなかったそうだ。

これは呪いであってほしかった!!



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