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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 7 困惑と混乱



――時は少し前、ナユタが別室へ移ったすぐ後の事…


ナユタが部屋を後にすると一同は緊張の糸が切れたかのように深く息を吐いた。

安心した者、落胆した者、呆れた者。

それぞれ意味は違えど、いちように肩の力を抜いたのは間違いなかった。

この屋敷の主、シュヴァリエも例に漏れず力の込もっていた拳を解くと深くため息をついていた。

目下の問題が解決したわけではないが、何がどう問題なのかがここに開示されただけでも状況は進展したと言えるだろう。


事は4日前。

最強と名高いシャルル・モマン・ユエルが、死闘の末にかの忌まわしき邪竜を討伐したという話から始まる。

忌まわしき邪竜は、何百年と前から魔物を生み、病を流行らせ、人々を悪しき道へと誑かすこの世の闇そのものと言える存在だった。

幾度となくその時代の勇者達が奴に挑み、そしてその命を散らした。

そして数多の犠牲を払い封印に成功したとしても、それも数年と経たないうちに破られ復活を許してしまう。


最後に奴の封印に成功したのが150年以上も前の事だと言えば、奴の恐ろしさも伝わるだろう。

そんな計り知れない力を持つ邪竜を封印ではなく討伐したというのだから、シャルル・モマン・ユエルはまさに救世主と言えるだろう。


しかし現在、この偉業を知るものは少ない。

大賢者ノアヴィス様が箝口令を敷いたからだ。

曰く、


「特殊な事案が発生した。事態の把握が済むまでは予断ならない状況になる。最悪の場合、邪竜の復活もあり得る為これよりこのことは他言無用とする。」


ということだった。

その特殊な事案を解決するべく集められたのが我々である。

当時の戦闘の状況は聞き及んでいないが、シャルル殿は邪竜の討伐に成功するも最後に油断したのか呪いを掛けられ絶命したという話だった。

それ自体は姫巫女様が確認したというので間違いないのだろう。

しかし問題はその後に起きたという。


絶命したはずのシャルル殿が奇妙な声を上げて息を吹き返したのだそうだ。

まったく、それだけでも到底信じられない事だというのに、その息を吹き返したシャルル殿は人が変わってしまったかのような振る舞いをしたという。

竜の呪いの影響か、はたまた蘇生したことによる混乱か…

ノアヴィス様は最悪の場合も視野に入れ、シャルル殿に眠りの魔法をかけると一番近い我が屋敷へとやってきたのだ。


ここまでが4日前に起こったことだ。

そして今朝、件の勇者…と呼ぶ事は果たして正しいのかは分からないが、問題の彼が目を覚ましたとメイドのクロエから知らせを受けた。


魔力が底をついていたとは聞いていたが、まさか4日も目を覚まさないとは予想だにしない事態だった。

通常の人間ならば魔力が無くなり意識を失ったとしても半日もあれば目を覚ますものなのだが…

ノアヴィス様の掛けた魔法が強すぎたのか、何らかの理由で魔力の回復が遅くなっているのか。

何にしても目覚めてくれたおかげでやっと正確に事態を把握することができるだろう。


そう思い私は彼を朝食へと招いたのだ。

しかし事態はあまり良くない方向へ向いているようだった。


「ノアヴィス様、彼は嘘を吐いているのでしょうか?」


目覚めたシャルル・モマン・ユエルはかつての彼とは似ても似つかない男になっていた。

直接話したことこそなかったものの、彼も貴族の血を引く立派な男児である。

ましてや類稀なる剣と魔法の才能を持っているとなれば、社交界や式典などに召集されることも少なくなかった。


私も領地を預かる身としてそういった場によく赴いていたが、彼は決まってその場に居たものだ。

ゆえに言葉こそ交わしたことはないが、彼の所作は少なからず把握していた。

その程度の私でさえ、今の彼の違和感に気づけるのだ。

それ程までに彼の所作は変貌を遂げていた。


まるで作法を覚え始めたばかりの子供の様に拙く食事をする姿は、彼を知っている者ならすぐに違和感を感じただろう。

少なくともここにいる彼は我々の知る人物ではないと確信を抱き、食事の最中ノアヴィス様に目配せをしたがやはり私と同じ違和感を感じているようだった。

私はこの違和感を解消すべく、彼がお茶を飲んた後を見計らい下手に言葉を濁さず率直に尋ねてみることにした。

その結果があれだ。


正直な話、彼が何を言っているのは半分程しか理解できなかった。

ただはっきりしたことはある。

やはり彼はシャルル・モマン・ユエルではないという事、そして本人もそれを自覚しているという事だ。

自分はクジョウナユタという人間であると、確かに彼はそう言った。


本音を言ってしまえばとても信じられる話ではないと思った。

気が付いたら他人の体になっていたなどと、ましてや自分にもその理由はわからないと、一体誰がそんな世迷言を鵜呑みにするだろうか。


しかし信じる云々以前に、我々はすでに確信してしまっていた。

彼は違う。

我々の知るシャルル・モマン・ユエルとはまるで別の人間だ。

しかし、ならばなぜ彼はここに居る?

元のシャルル殿はいったいどこへ行ってしまったというのだ?


分からない、と彼は言った。

自分でも何が起こっているのか分からないと。

果たしてそれは事実なのか、あるいは我々を欺くための詭弁なのか。

それを確かめる術を我々は有しているのだろうか?



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