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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 40 使用人の子供たち



レオンの工房を後にした俺は、騎士団に情報を提供してもらうべく詰所に向かっていた。

特別急いでいるというわけでもないので散歩気分で歩きながら向かっている。

しかしただ歩いているだけっていうのも勿体ないな、今の内に聞きたい事でもまとめておくか。


まずはやっぱり犠牲者の情報だよな。

身分はもちろん、年齢や性別・家族構成なんかもしっかり聞いておきたいな。

あと分かっている範囲での狙われた理由も。

例えばクフィミヤン男爵の息子は、不当な関税をかけて行商人を揺さぶり賄賂を貰う事で私腹を肥やしていたという。

そういった行いが、変な話だが粛清者の耳に入りターゲットにされたという話だったはずだ。

ならば、他の犠牲者にも同じような何かしらの汚点があるんじゃないだろうか?

それらを辿っていけば、何かしらの手がかりが見つけられる…と思う。


見つかる、よな?大丈夫だよな!?

騎士団だって馬鹿じゃないんだ、これまでの事件でも現場検証とかしてるだろうし何かしらの証拠か手がかり位は掴んでるはずだよな?

何なら容疑者の特定も出来ててあとはしょっ引くだけですぅ、って感じであってくれて私は一向に構わなくってよ?

そうであってくれたらどんなにいいか…、俺の仕事も速攻終わってミッションコンプリート万々歳なんすけどねぇ。


「そんなにうまい事いくわけないよなぁ…」


「すっどーん!!」


「ぐはぁ!!?」


突然の衝撃と共に俺は見事に転倒した。

なんかサッカーボール位の大きさの固いものが俺のケツに突撃してきたんですけどー!?

結構な衝撃だったぞ、何が起こった!

ピエールの魔法ですら踏ん張ってたこの俺がいとも簡単に吹き飛ぶなんて、いったいどんなスタンド攻撃をくらったんだ!?

頭がどうにかなりそうだ!


「あはははは!転んだ転んだ!オレの勝ちぃ!!」


「だ、だめだよぉティム。そんなことしたらあぶないだし、おこられちゃうよぉ…」


「へーきへーき!この兄ちゃんなんかへタレそうだし、俺より弱いもん!それになんか暇そうに歩いてたし、俺らが遊んでやろうぜ!!」


「えぇー…、でも、たしかに、うん…。ティムのいうとおり、なんだかおひま()そだね。あそんであげたほうがいいかも?」


「だろー?」


「でもでも!やっぱりさっきのはあぶないだから、つぎからは『ずつきします』っていうのがいいんじゃないかな?」


「ばーか、こういうのは、あー…”ふいうち”?っていうんだよ、確か!立派な”せんりゃく”なの!それなのに声かけちゃったら避けられちゃうかもしれないじゃん!そうなったら意味ないだろ!まったく、お前って本当に馬鹿だな!」


「う、うぅ…、フィネルはバカじゃ、ないもん!いい子だもん!バカっていうのが、バカ…だもん。う…、うぅ~、うわーん!!」


「あー!ティムがまたフィネル泣かしたー!いけないんだー!先生に言っちゃおー言っちゃおー!」


「おぉ、本当だぞ本当だぞ。ティム、妹は大事にしないといけないんだぞ?大事を大事に出来ない奴は阿呆なんだぞ?」


「いたずらばかりするキペックも人の事言えない、とイブ思う。だから先生に言う資格はない、あるのはイブくらい良い子だけ…とイブ思う。」


「う、うるせーな!いちいち先生に報告しようとすんなよ、キペック!それに、俺はフィネルの兄貴なんだからいいんですー!ほら、お前もこんな事でいちいち泣くな。もう言わねぇからさぁ。」


「う、すんっ、ほんとうに?」


「あー、言っちゃうかもしれないけど…。」


「う~ぅ…」


「わー!な、泣くなって!言わない、言わないように気を付けるからっ!!な!?」


「…うん、わかった。ティムをおゆるしします。」


「はぁー…、よかった。」


うんうん、良かったな。

やっぱり兄妹は画くあるべきだと俺も思うよ。

あぁ、美しきかな兄妹愛。

ちくしょう、泣かせるぜ!


「でもねぇ、無視は良くないと思うなぁ。大の大人が顔からすっ転んでしゃちほこみたいになってるのに総スルー決め込むのはどうかなぁ。いやね?その度胸は買うよ?これを見てノーリアクションなのは逆にすごいと思う。でも結構な疎外感を味わってるんだよねぇ、俺。そろそろお兄さん何かリアクションが欲しいなーみたいな?つーか、お前!お前も勝ったなんだと言い張るなら、せめて負けた方への気配りを忘れんなっての!面倒みれないなら最初から襲うんじゃありませんっ!!」


「ご、ごめんなさい…」


あ、やべ…やっちまった。

子供ら全員ビビっちゃってるよ、これ。

あまりにも構ってもらえなかったからって体勢を崩さず説教喰らわすのは流石にまずかったか…。

あーあ、子供たちが一つに固まってぷるぷる震えながら今にも泣きだしそうな目でこちらを見ているよ。

通報される…、このままじゃ今日の夕刊の一面に載ってしまう…

初めての報道がこんなあられもないしゃちほこ姿だなんて絶対に嫌だ!


「いや、その、なんだ。俺もつい言い過ぎちまったよ。悪かったな、怖がらせるつもりは…」


「なんちゃって回し蹴り!!」


「へぼぉ!!」


「はっはっはー!このくらいでビビると思ったら大間違いだ!こう見えても俺は、この城に居る子供の中じゃ一番強いんだぜ!たかが大人が怒ったくらいで泣くかってーの!!」


「おー!さすがティム、つえー!…んー、でもさぁ。このお兄さんなんか弱そうだったし、勝てて当然だったんじゃないの?むしろ弱い者いじめ?うわー、いけないんだー!先生に言っちゃおー言っちゃおー!」


「な、なんでだよ!確かに弱いしたぶんへタレな兄ちゃんだろうけど、大人だろ!?大人に勝ったんだから、俺すげーだろ!!」


「別にすごくはない、とイブ思う。このお兄さん可哀想、弱い者いじめいくない。とイブ思う。」


「うむ、二人のいう通りだぞ。いくら見かけ以上に弱くて可哀想な大人でも、優しくするのが男ってものなんだぞ?」


「ティム…、いじめだめってせんせいいってたよ?」


「うぐ…むむむー!わ、わかったよ。弱い兄ちゃん、いじめてごめんな?立てるかい?」


ティムと呼ばれている少年は、地面に突っ伏している俺に優しく手を差し伸べてくれている。

その姿からは憐れみと慈悲が滲み出ていて、泣きそうな俺には羽の生えた天使のように思えて仕方なかった。

あぁ、やっぱり子供はみんな天使で、悪い子なんてのは一人だって居ないんだなぁ。

俺は後光さえ見える少年の小さな手を握り、神に感謝しながら立ち上がった。

そして


「よーくもやってくれたな、このクソガキどもめがぁ!!」


「うわー!!?」


俺は瞬時にガキ(ティム)の背後に回り羽交い絞めにすると、その場でぐるぐると高速回転を始めた。

加減をしているとはいえ身体強化を使いつつの回転だ、未だかつて経験したことのない速度にさぞビビッている事だろう。

未知の体験と速度は子供にとって恐怖でしかないはずだ!

どうだ!大人を甘く見てるとこうなるんだぞ!


「あ、あは、あはははははは!すっげー!何これすっげー!!」


ふ、あまりの恐怖に笑う事しかできないか。

語彙力もかなり低下しているとみえる。

どうやら精神的にも参ってきているようだな、仕方ないこの辺りで勘弁してやるか。

俺もそろそろ目が回ってきたし…


俺は速度をゆっくりと落とし今か今かと解放を望んでいる子供心を焦らす。

これは少しやりすぎたかと思ったが、今後の上下関係をはっきりさせるためにもここは涙を飲んであえて鬼になろう。

ふふ、このガキ…ふらふらで真っ直ぐに歩けていないでやんの。

かくいう俺も立っていられなくて座り込んでいるが、確かな達成感の満足感で胸がいっぱいだから問題ないのだ。


さて、これでこのガキたちもだいぶ懲りたことだろう。

これを機に大人は敬うべき存在であることを学んでくれたら嬉しいな。

例え今回の事がトラウマになり、俺を見ただけでフラッシュバックしてしまうくらい恐れおののいていたとしても、俺は甘んじてその事実を受け入れるつもりだ。

むしろ未来ある子供の教育に一役買ってやったぜ、くらいの誇らしい気持ちさえある。

このことで憎まれ忌避されるような存在になったとしても俺は後悔だけはしないのだ。


ただ、もし一つ願うのならば。

どうかこいつらが大人になった時には、今日の俺の行動がどんな意味を持っていたのか…少しでも分かってくれたら嬉しいな。

いや、それは贅沢な願いなんだろうな。

きっとこの子たちはこのまま逃げていって、俺の事を避けるようになるんだから。

ふっ、寂しいもんだ。

でも、せめて少しくらい夢を見ても…


「ねー!お兄さん今のもう一回やってよ!!」


「はぁー!?まさかのアンコール!?」


正気かよこのガキ!

あの技をもう一度受けたいだなんて、頭がおかしくなったのか!?

まさか、あの程度で屈したなんて思うなよという意思表示か…?

…ふ、ふふふ、ふはははは!!いいだろう、この俺を本気にさせるからにはそれ相応の覚悟があるんだろう!

面白い、お望み通りくらわせてやる!


「…全員まとめてかかって来んかーい!!」


「「「わーーい!!!!!」」」


遠巻きに目を輝かせていた他のガキ共も召喚して、順番にジャイアントスイングもどきをかましてやる。

俺の身体強化はこの時の為にあったのだと言わんばかりのフル活用。

体の小さいやつは二人同時に抱えて回ってやったぜ、これが大人の本気だこらぁ!


―――しかし、この時の俺は思いもしなかったのだ。

まさかこのまま、30分以上子供を回し続けることになるなんて…。



「う、おえ。ちょっ、たんま…。もう無理、勘弁してつかーさい。」


「えー、俺もっとぐるぐるして欲しい!」


「オレも、オレも!!」


「まって、冷静に。次はイブの番だったはず、とイブ思う。」


「順番なんていいじゃーん!次は俺ね、ね、兄ちゃん!」


「フィネルもー!」


「…っだー!次はねぇよ!終わりだって言ってんだろぉがっ!もう…勘弁…して。」


各々好き勝手言い始める子供たちにガチ懇願を決め込む大人の姿が、そこにはあった。

情けない話だが、俺の三半規管はとっくに限界なんだ。

このままなら朝食をぶちまける結果になりかねないだ。

いまだって地球の回転を感じまくってるんだ。

だからどうか理解しておくれ子供たち…お兄さんはね、君たちほど若くはないんだよ。


「ねぇ、ティム。おにいさんくるしそうだよ?もうやめてあげよ?」


「んー…、そだな。考えてみれば、兄ちゃんすげー弱そうなのによく頑張ったよ!へへへ、ごめんな兄ちゃん。なんか兄ちゃん見た瞬間、変な感じになってさ。こう…一緒に居てあげなくちゃー!みたいな。」


「分かるぞ分かるぞ!これは抗いがたい庇護の呪いだぞ!すまんな、分かっていたんじゃが儂も止められんかった!」


「いや、良いって事よ。なんだかんだ言って俺も楽しかったし。まぁなんだ、時間がある時にでもまた遊んでくれや。」


「本当!?やったー!!」


「やったー!」


「そういえば、お兄さんはお城に出入りしてる業者?お仕事で来てるなら遊んでたらダメなんじゃないの?とイブ思う。」


「あー、まぁ仕事中って言やそうなんだけど。城に来てるんじゃなくて城に住まわせてもらってるから、その分時間作れんだよ。だからその辺はあんま気にすんな。」


「え…」


…ん?なんだ?

俺の話を聞いた子供たちが瞬く間に青くなっていく…、何かまずいことでも言っちまったか?

社交辞令で言っただけのに本気で次も遊ぶ気だよこのオッサン…的な話だったらへこむんだが、恐らくそれは俺の被害妄想だろうし。

そんな思考を巡らせていると、顔を見合わせた子供たちの中で最初に口を開いたのは、やはりというかティムだった。

この子はおそらく、子供たちの中でもリーダー的存在なんだろうな。


「も、もしかして隣国からのお客様でしたか?確か昨日パーティーがあったって…。ごめんなさい、僕たち何も知らなくて!本当に何も…!だから、どうかご無礼をお許しください。」


「ごめんなさいです。」


ティムが頭を下げると他の子供もそれを合図に次々と頭を下げた。

なるほどそういうことか。

おそらくこの子たちは使用人の子供なんだろうから、こういう(・・・・)事はきちんと躾けられているんだな。

下手したら自分たちのせいで親の仕事が無くなるかもしれないんだ、そりゃ必死にもなるよな。

それに俺の着ている服はノエルが用意してくれたそれなりに良い服だ、それなりの身分に見えなくもないだろう…狐面だけど。

さて、どうするか。

誤解を解くのは簡単だけど、それだけっていうのも何だ。

ここはひとつお節介でも焼いてみるか。


「いいか、お前ら。知らない人にいきなりじゃれつくのは非常に危険な行為だ、それは今回の事で十分理解できたよな?」


「はい…」


「うむ。では問題だ。初めましての人と会った時、お前たちは最初に何をするのが正しいと思う?」


「えっと、うーんと、おはなし…する?」


「そうだな、偉いぞ!まずは相手がどうな奴なのか、何を考えてどう感じるのかを知ることが大事だ。真っ直ぐ相手を見てしっかり言葉を交わす、そうすれば少しずつどんな奴なのか分かってくるはずだぞ。ではもう一つ問題だ、誰かに会って最初にする事といえばなんだ?」


「…えっと、挨拶?」


「正解!お前らだって挨拶してもらえると嬉しいだろ?それは誰でも同じだ。挨拶は人間関係を作る上で基本中の基本!人を喜ばせる第一歩、それをしっかり覚えておくように!!はい、返事!」


「「「はい!!」」」


「えらいぞぉ、お前ら!うりうりしちゃる!」


子供らの頭を撫でまわして褒めてやると、キャーキャーと言いながらはしゃぎ始めた。

うむ、やっぱり子供は素直が一番ですな。

どうもこの子らは城に住んでいるせいか、どこか大人と遊ぶことを”我慢しなくてはいけない”と思っているみたいだ。

まぁ実際、親も周りの大人たちも忙しく働いているから我慢する場面は多いんだろうが…。

でも根本的にはまだまだ遊びたい盛りの子供だからな、大人とだって遊びたいってのが本音なのは間違いないだろう。

ここは一人の大人として、子供の可愛いワガママを叶えてやるべきですな。


「あは、あはは!フィネルの髪がっ、くっ、ふっ…あっははははは!だめだぁ、おっかしー!!」


「むー!ティムのあたまだってすっっっっっごく”へん”だもん!ぼっさぼさだもん!!」


「え!?うわっ、本当じゃん!」


「あはは、やーい!ティム、人の事言えないじゃーん!」


「キペックも人の事言えない、とイブ思う。」


「本当だぞ!すごい頭だぞ!!あはははは!」


「げげっ!」


「あははははは!ひー、くるしぃ!死ぬぅ!あは、あははっ、あーもう!こんなに苦しいのは全部兄ちゃんのせいだかんな、仕返しだ!!」


「うおっ!?ちょ、やめ!」


「うりうり~」


「わー、フィネルもやる!ういういやる~!」


「うわ、おいおい…えーい、全員まとめてかかって来んかーい!!」


本日二度目である。

その後はまさに地獄絵図だった。

ガリバーの如く手足を拘束され、複数の子供に頭を撫で(らんぼう)られる(される)という事案が発生したのだ。

調子に乗った結果がこれだよ。

しかし一通り撫で終えると満足したのか、体感にして10分ほどで解放してもらえたので良しとしよう。

…子供の遊びに対する執念と集中力のなんと凄まじい事か。


「ねーねー、つぎはなにしておあそびするのー?」


「んー、フィネルも出来るのだと…勇者ごっこ?」


「わーい!」


「ご本を読むのもいいな、とイブ思う。お兄さんなら難しいのも読んでくれそう。」


「そうじゃな、教養を深めることは良い事だぞ!」


「えー、勉強の時間に本読むんだからいいじゃーん!!」


「いやいや、俺はもう行かなくちゃいけないんだって。」


「「「えーー!」」」


「お前らよくハモるな…。」


「…時間がある時に遊んでくれるって言ったじゃん。」


「わりぃな、これから騎士団の所へ行かなきゃなんないんだ。仕事っつーか、頼まれごとつーか…まぁそんな感じだ。だから遊ぶのはまた今度、だな。」


「今度…。また”今度”だ」


「ティム?」


「父さん母さんもよく言うよ、それ。大人はみんな同じ事言うんだね。また今度、後でね、ちょっと待ってて…それで遊んでくれたこと全然ないじゃん。俺たちには勉強しろとかお手伝いしろとかいっぱい言うのに、俺たちがして欲しい事は何も聞いてくれないし!約束だって破ってばっかで!大人は、ズルい…」


「…なんだお前、父ちゃん母ちゃんのこと嫌いなのか?」


「ち、ちがうっ!嫌いじゃないよ、大好きだよ!ちゃんと俺たちの為に一生懸命働いてくれてるんだって分かってるよ!でも、たまに、少しだけ…寂しくなって。一緒に居たいのに居れないし、話したい事とか聞いてほしい事とかたくさんあるのに、いつも…ごめんねって。だから、大好きだけど、大事だけど、寂しいよ。もっと俺たちの事見ててよ…。ごめん、兄ちゃんにこんな事言っても仕方ないのに。俺…」


「…。」


どうも大人びてる所があると思ってたらそういう事か。

なるほどな、きっといままでたくさん我慢してきたんだな。

特にティムは兄貴だから。

兄貴ってのは意地でも妹に格好悪い所を見せたくない生き物だからなぁ。

つい色んな事で背伸びしちまうんだよな。

本音を口にした今でさえ、大人(おれ)を気遣う素振りを見せるくらいだ。

しっかりし過ぎなくらいなんだなよな、コイツ。

…まったく、自分が情けなくなるぜ。


「なぁ、ティム。お前の父ちゃん母ちゃんはお前らに優しいか?」


「え…?う、うん、優しいよ。怒ると怖いけど、でも滅多に怒らないし。な?」


「うん!きのうはね、フィネルのすきなパイをやいてくれたんだよ!それにね、ごほんもよんでくれたの!あのね、おんなのことね、おとこのこがおやくそくしてね、なかよくくらしましたとさ!っておはなし!」


「そうか。フィネルも父ちゃん母ちゃんが好きなんだな?」


「うん!だぁいすきだよ!おかしゃんもね、だいすきだよーってぎゅーってするよ!すっごくあったかくてすっごくいいにおいだよ!」


「ほほう、それはなかなか…ごほん!あー、父ちゃんも二人の事大好きだろ?」


「もちろん!」

「うん!」


「だろ?そんな二人の事が大好きな父ちゃんと母ちゃんが、お前たちと一緒に居たくないなんて思うとおもうか?お前たちが今日一日何をしてどんなことを思ったのか、聞きたくないと思うかな?」


「…。」


「逆ならどうだ?母ちゃんが、『良い事があった』って言ったらお前たち聞きたいんじゃないか?父ちゃんが『遊ぼう』って言ったら嬉しいだろ?どうだ?」


「…うん。」


「きっと父ちゃんも母ちゃんも、寂しいのは同じなんだよ。ふたりともお前たちと一緒に居たいんだ。でもそれが出来なくて、きっとすごく悔しいと思う。ティムはどう思う?」


「うん…そう、だよね。父さんも母さんも俺たちと同じで寂しいし、それでも我慢して一生懸命働いてくれてるんだよね。俺たちの事、ちゃんと愛してるから頑張ってくれてるんだよね?」


笑って頷いてみせると、ティムはフィネルの手をぎゅっと握ってくしゃりと笑った。

嬉しいようなどこか照れているようなその笑顔を仰ぎ見ていたフィネルは、釣られるように笑うとぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「ありがとう、兄ちゃん。ずっと一人で考えてて、でも全然答えが見つけられなかったんだけど、なんかすっきりしたよ!父さんや母さんに負けないくらい、俺ももっと頑張らないとだめだよね!」


「フィネルも!フィネルもがんばるするー!」


「うん、一緒に頑張ろうなフィネル!」


「…兄妹仲良くしている所水を差すようで申し訳ないんだが、ここで一つお知らせがある。」


「え…な、なに?」


「実は、大人は子供が我儘を言わなくなるととても不安になる性質があるのだ。だからお前たちは親の為にも適度に我儘を言わなくてならない。言いすぎず、しかし言わなすぎず…、本能に従って行動しておけば大体問題ない。分かったな?」


「えーっと、つまり我慢するのを頑張りすぎないようにすればいいってこと?」


「うむ、その認識で問題ない。頑張らないのを頑張りたまえ。」


「………大人って、へんなの。」


残念だけど、それが真実なのよ。


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