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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 39 できたらいいな!

遅くなりましたが続きです。

これからまた少しずつ更新していきますので、よければお付き合いくだされ。



明らかにゴミだと分かるものを手近にあった袋に詰めて何とか掃除を進めてはみたが、それでも床に敷かれた絨毯がうっすら姿を現す程度にしかならんかった。

すまん、完全に俺の力不足だ…。

しかしこの部屋、物が多すぎやしないか?

何に使うのか分からない部品のようなものや、魔法薬にでも使いそうなおどろおどろしい干物、おそらく魔導書であろう分厚い本から子供の落書きのような羊皮紙まで。

ありとあらゆるものが共存しているカオス空間であることはすでに俺の中では確定事項だ。

まったく、どうすりゃいいのか全然分からん。

とりあえず同じような種類に分けて整頓するだけしてみるけどさ…


「おい、洗ってきたぞ。」


それにしても、やっぱり本の数が半端じゃないな。

備え付けられた本棚はすでにいっぱいみたいで、床に積まれて今にも崩れんばかりのコイツらを収納するスペースが存在しない。皆無である。

俺にも覚えはあるちゃあるが、床に積んでも碌な事にはならないし、さっさとニ○リ(の異世界ヴァージョン)か何かで買って来てほしいものですな。

いや、魔具師なら自分で似たようなの作れるのか?


「いってぇ!!んだよ、これ…宝石!?」


クソほど痛ぇ、何だこれ。どんな足つぼマッサージだよ。

大体なんでこんな高そうな財宝がゴミと一緒に散らばってるんだ、いい加減にしろカオス汚部屋。

高価な品はトラブルの原因にもなりますので、各々しっかり管理しておいてほしいもんですな…まったく。

とりあえず宝石類はその辺の箱にでも詰めておくか。

はは、まさかこんな雑な扱いを受けるなんてこの宝石たちも思わなかっただろうな!

同情するぜ、いや本当に。


「おい、聞いてるのか?」


「うお!?なんだ、戻ってたのか。一声かけろよ、心臓麻痺でも起こしたらどうすんだ。あと、もう少しで切のいいところまで片付くから待ってろ。」


「…いや、もう十分だろ。それに、どうせすぐ汚くなる。」


「うーん、これは…あれと一緒にしておくか。本はとりあえず端に積んでおくしかないな…。いてっ!くそ、まだ宝石あるのかよ。もうこの箱も一杯だな、こっちを空けるか…」


「聞けよ…」


後ろから恨めしそうな声が聞こえたが…残念、俺はいま忙しい。

せめてこの机が使えるくらいには足場と空間を確保したいからな。もうチョイ待っててもらうぜ?

なぁに安心しろ、あと30分もあれば片付くから。



――――


「いやぁ、すまんな!こういうのやり始めると止まらなくなる系男子なもんで。」


「…まぁ、探してた素材が見つかったから許す。が、今度からアタシも立ち会わせろよ。アタシの部屋なのに蚊帳の外なのはいい気分じゃない。それに、お前だって下手に呪いをもらいたくはないだろ?」


「ちょ、呪われるようなものが転がってるのかよ!もっと早くに言えっつーの、あぶねぇな!」


レオンは何でもなさそうに言っているが、片づけ中にうっかり呪われるなんで死んでもごめんだね。

つーか大丈夫なんだろうな?

こんな平然と言うからには簡単に解呪できる、直ちに身体に影響を及ぼすようなものではないんだよな?

そんでもって今の俺は呪いなんてもらってないんだよな?な!?


「それで?さっさと本題に入れ。何のために顔を洗ってきたと思ってるんだ。」


「いや、顔は自分の為にも洗っとけって。お肌をケアを怠ると老後の楽しみが減るってばっちゃが言ってたぜ?…こほん、では俺の欲しい理想の魔道具を発表します。準備はよろしいですか?」


「前置きはいい、さっさと言え。」


「情緒も何もないな。…では、俺が欲しい魔道具。それはズバリ、透明マントだ!」


「………。」


「傍目からみれば普通のマントなんだが、あら不思議。裏返して着ると透明になって誰の目にも留まらなくなる!どうだ、良い考えだろ?とある映画からアイディアを拝借したんだけど、これあったら便利だろ!色々と!!何とは言わんが色々とっ!!」


「ふー…、なるほどな、着るものが透明になるマントか。」


「そう!昨日、俺の衣装を作ってくれたみたいにレオンなら作れるんじゃないかと思ってさ!へへっ、なかなかいい発想だろ?」


「あぁ、そうだな。今から20年くらい前なら画期的だったかもな。ふぁ~あ。」


「…20年前?」


「あぁ、そうさ。透明マントだろ?それなら20年くらい前に作ったよ、アタシが。陛下にもお渡しして、今は…そうさな、宝物庫に眠ってるんだろうな。出回ったら厄介だからもう作るなって釘を刺されるくらいだ、厳重に保管されてるんじゃないのかね。ま、アタシも満足いく出来の物が作れたから、そのあとの事は別にどうでも良かったしね。」


「えっ、ええっ?俺の発想って…古いの?」


「安心しな、あれをアタシ以外の奴が作るには、あと30年以上はかかるから。アタシにとっては懐かしい話だけど、凡人にしてみたら新しいんじゃないか?」


まさにズーンって感じ…撃沈ですわ。

完膚なきまでに叩きのめされた気分だぜ。

「凡人には新しい」って言うのがまた、心を抉る。

さすが天才さん、飛躍した発想でも現実に出来るだけの実力がおありなのですねぇ。

しかも一般人が現実化するにはまだ30年以上の時間が必要って…、もう言葉もございませんよ。

お手上げ、白旗、凡人の俺にはこれ以上の発想のストックはございません。

いや、そもそも俺の発想ではなかったんだけどさ。

子供のころ夢見た魔法道具、異世界の天才を前にして敗北。


「はあぁ…マジかよぉ。なんか役に立てるかもーとか思ってたのが恥ずかしくなってきたぜ。なまじ出し惜しんだ分ダメージも半端ねぇ~。」


「はっ!そもそも凡人がアタシにない発想を持ってるなんて思うこと自体が烏滸がましいってもんだ。アタシは天才で、あんた達との間には越えられない差ってもんがあるんだからね。」


「ですよねー!正直、天才の境地を舐めてましたすんませんっ!もうね、俺みたいな凡人にはヌコ型ロボットの未来道具くらいしか面白そうなアイディアないですわ。四次元ホ○ケットとかどこで○ドアとかねぇ。」


「…なんだって?」


「ん?いやね、次元を超えて収納することでほぼ無限に収納できるポケットとか、行きたい場所を頭に浮かべるだけであとはドアを開ければそこに繋がってる扉とか。まぁ、そういう物があったらいいなって思ってたんすけど、まー作ってますよねぇ?天才レオン様ですもんね!いやー、感服しました。脱帽っすよ!」


「次元を超えて収納する…?いや、そもそも次元を超えるすべがないか。まて、召喚魔法はいわば次元を超えて精霊を召喚しているようなものか?高次元からこちらに引っ張り出せるなら逆が出来ても…。それに思い浮かべた場所に行けるドアだって?それはつまり転移魔法を簡略化した上に確実性を上げ、さらにドアという物体に固定するということか?もしそれが可能だとしたら、その際消費する魔力は極限まで減らさなければならないな。うん、でないと使用者の魔力によっては”どこでも”とはいかなくなる…。ならば魔力結晶と魔法陣のインクを共鳴させて大気中の魔力を出来るだけ活用できるように集束させて…」


「も、もしもし?レオンさん?おーい、…聞いてる?」


「…おまえ、名前なんて言った?」


「は?な、名前!?ナユタ…ですけども。」


「ナユタか。ふむ…。よし、あんたアタシの助手になる気はないか?」


「………………ぱどぅん?」


え、なんて言ったのこの天才様は?

やめて、そんな死んだ魚のような目をキラキラ輝かせないでっ!

ギャップ萌えを狙っているなら違う方向へシフトして!

てか何?急にスイッチ入ったみたいだけど。

突然ぶつぶつと呟き始めたかと思ったら、新しいおもちゃを見つけた少年のような顔しちゃって。

そりゃ面食らうって。


「安心しろ、難しい事は何もない。お前はたださっきやっていたように、私の身の回りの世話をしながら時々思いついたことを口にすればいい。面白いものがあればそれを私が形にして、お前は相応の給金をもらう。理想的な関係だろう?もちろん金額もそれ相応支払うつもりだ、好きな額を言え。」


「いや…いやいや、そういう話じゃなくて!…うん、悪いんだけど謹んでお断りするよ。俺は天才と並んで立てるようなできた男じゃないし、俺から生まれた発想でもないからな。あ、でも、俺の言ったことが現実になるっていうのは本当に夢のような話だからさ、提供だけさせてもらうってのはどうだ?それなら俺もレオンも後腐れ無いと思うんだけど。」


「…そうか。まぁ、無理にとは言わん。良く考えれば他人と共に作業するなんてまっとうな人間がするようなこと、アタシに出来るわけもないしな。寝ぼけていたとでも思って忘れてくれ。あとな、発案するのなら金は払わせなよ。詳しい事情は知らないが、それをアタシに寄越すのは間違いなくアンタなんだろ?その面白い発想を形にするのはもちろんアタシだが、これはあくまであんたのモンだ。だから借りを作らないためにも、せめて金は払わせろ。別に金以外でもいいんだが、アタシには他に思いつかん。」


「借りだなんて…俺はそんな風に思ったりしないけど、レオンがそういうなら…。しかし、うーん、金…かぁ。いらないとは言わないけど、生々しいっていうかそれこそ(たか)ってるみたいで気分良くないんだよな。…なぁ、レオンが今まで作ってきた魔道具って、作った後はどうしてるんだ?」


「ん?そうだな…大体は陛下に献上しているが、いくつかはアタシが所有し続けているな。それほど数がある訳でもないが、陛下に「いらぬ」と言われたものに関してはアタシの方で保管してる。捨てるのも危険だし、売るのも面倒だしな。」


さぁて、ここで一つお勉強だぜ?

保管とは、なにか?

それは傷がついたり紛失してしまわないようにきちんと管理し保つことを言います。

ここでこの部屋の現状を見てみましょう!

うんうん、片づけたとはいえまだまだ物が溢れかえっていますねぇ。これはどこに何があるのか分からないでしょう。

それでは、この部屋の現状を垣間見て一番適した言葉は何なのかと言うと?

そう、放置だね!

危険だなんて言ってるくせに大雑把に転がしているこの状況のどこに『管理』なんて言葉を当てはめてるんだろうねぇ、不思議怖いねぇ!

それも王様がいらないって言った未知&デンジャーな物をこんな所に放置しているんだぜ?

何を作ったのかは知らないが、うっかり呪われるっていうのはこの辺が理由なのかなー?


「はぁ。つまるところ、流通するかどうかは王様次第で、場合によっては購入することもできなくなるって事だな?」


「あぁ、そうだな。というか、ほとんどがそうだ。『今はまだ…早いな。』などと仰って宝物庫に行くのが常で、実際使っているのはいくつもないんじゃないか?まぁアタシは作れればそれでいいから、特に何も気にしてなかったが…。それがどうかしたのか?」


「うんうん、なるほどな。やっぱりどこの世界にもお金で買えない価値があるものって存在するよなぁ。」


「はぁ?なんだ、藪から棒に。」


「いやね?この世の中、金ばかりがすべてじゃないと。もっと大事な物があるよなー、と思うわけですよ僕ぁ!それは友情だったり愛情だったり、人それぞれ違いはあると思うんですけど…。」


「まどろっこしい!うだうだ言ってないではっきり言え!」


「えーっと、つまり俺が言いたいのは、報酬はお金じゃなくて作った物がいいなぁって。作る時に一つじゃなくて二つずつ作ってもらって一つは王様に、もう一つは俺に貰えたら嬉しいなと。…ど、どうっすかね?」


「………。」


レオンは腕を組んでしばらく考えるような仕草をしていたが、途中で口さみしくなったのか白衣のポケットからくしゃくしゃの煙草を取り出して吸い始める。

その煙草、そのままポケットに入れてるのかよ。

せめて箱か何かに入れた方がいいんじゃないかと思うんだが、なにせ俺は喫煙者ではないのでその辺のこだわりとかはよく分からん。

分からんものは総じてスルーが円満のコツだぜ。

というかいちいちツッコんでたら話が進まないんだよな、レオン(こいつ)の場合。

そんな事を考えながらしばらく黙って様子を窺っていると、考えが纏まったのかレオンは煙草を机でもみ消して最後の煙を吐いた。

…とりあえずこの部屋には灰皿が必要だな。あと携帯灰皿も持たせよう。


「アタシとしては別に構わないんだけど、こればっかりはアタシの独断では決められない。だからここは一回預けてもらうよ。陛下にはアタシから伺っておくけど、お許しが出なかったら大人しく金で我慢しな。」


「あぁ、それで頼む。ありがとな、それと無理言ってすまん。」


「別に大したことじゃないさ。新しいものを作れるならそれでいいんだよ、アタシは。それじゃアタシは作業に入るから、あんたはさっさと帰りな。」


「おぅ!そんじゃまた来るわー。」


「あぁ。…この辺の掃除、ありがと。」


「なぁに、いいって事よ!次はもう少し装備を整えてから本格的にやるからさ、期待しちゃってくれよな!おっと、本来の目的を忘れるところだったぜ。昨日貰ったパーティー用の正装、あれ本当に良かったよ。動きやすいし丈夫だし…、マジで助かった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとうな!」


「…あぁ。」


「えぇっと、それだけ言いたくてさ。あー、じゃあ…俺は戻るな?」


「…あぁ。」


レオンは返事こそするものの明らかに生返事で、俺の話をきちんと聞いていたかは怪しい所だ。

おもむろに机の上に紙を広げて一心不乱に何かを書きはじめてる辺りから期待してなかったけど、すごい集中力だな。さすが天才。

にしても、どうしたらそんなに早くペンを動かせるんだよって思うくらい次から次へとびっしり書かれた紙が積み重なっていく。

とうとう重なりきれなかった紙が雪崩のように崩れていき、あっという間に元の汚部屋に戻っていく。

なるほど、こうしてこの部屋は散らかっていくのか…。

しっかしこんなペースで進んでいくなら、結構すぐに出来上がりそうだな四次元くん。

これは完成品を見れる日もそう遠くなさそうだな!

俺の胸は期待でいっぱいだぜ!


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