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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 6 自分という定義




「お待たせいたしました、こちらをどうぞ。」


軽くノックをした後入ってきたクロエは、手帳くらいの大きさの鏡を持ってきて手渡してくれる。

それにしてもいやに早かったな?

息が上がってるわけじゃなさそうだし、クロエの部屋は意外と近かったりするのかな?


何はともあれ現状確認だ。

俺は震える手で鏡を受け取ると、何度か深呼吸をする。

過度な期待をすると後で辛い思いをするかもしれないからな。

シャルルはゴリラ、シャルルはゴリラ…

ん~、よし!感動のご対面だっ!


「……………………、え」



おぎゃーと生まれて早二十数年、ナルシストというわけではないが生活するうえでそれなりに自分の顔は見て生きてきた。

特別不細工ってわけではなかったと思うが、絶世の美青年とは程遠い存在だと自負している。

「どことなく○○に似てるぅ~」と言われた数知れず。

つまりどこにでも居るようなよくある顔なのだ。

特徴がないのが特徴と言ってもいいくらい、平々凡々といった顔つき。

それでも自分の顔ですから?化粧をしようがタイツを被ろうが”俺の顔”って認識くらいはできる。

どんなことをしようが醸し出される俺オーラはそう簡単には消えないっつーことだ。

で、まぁ何が言いたいかっていうと、目の前に映し出されたそれ。

鏡に映ったその姿は、間違いなく俺の顔だった。


いや、正確には違う。

俺はこんなにイケメンじゃないからな。

黒い髪はそのままだけど、目つきの悪い常に眠そうと言われた奥二重はぱっちり二重の青い目に。

鼻は高く肌は白くきめ細かい。

何と言うか全体的にシュッとした印象だ。

簡単に言ってしまえばそう、雰囲気俺のイケメン。

なにこれすごーい。

異世界に生まれてたら俺ってこんな風になれたのかなぁ?

異世界補正みたいな?

えー、ずーるーいー!


…………どゆこと?


「あ、あのさ、この顔って間違いなくシャルル君?本当に絶対紛うことなく?」


「え?はい、間違いなくシャルル様のお顔です。」


ということはつまり…どゆこと?


俺とシャルルは同一人物でした、みたいな?

いや、違う。俺はシャルルなんて人間じゃない。

絶対違うよな?…うん、違う。

じゃあただの他人のそら似?

うーん…無くもないだろうけど、たまたま似た顔の奴の体と入れ替わるって一体どんな確立だよ。

異世界召喚(仮)された上に憑依(仮)した先がそっくりさん?

それって隕石が頭の上に落ちてくる確率とどっちが高いの?

絶対他人だと思ってたのに、いざ目の前にしたら俺が居るだなんて…これならゴリラの方が全然マシだったぜ。


…うん、やばい。

全然受け止めきれない。

うわーなんだこれ気持ち悪。

考えれば考えるほど混乱してくる。

なんか俺って概念がわかんなくなってきたぞぉ?

今まで日本で生きてきた俺って本物の俺?

そもそも日本って存在する?ちゃんとあったよね?

俺じゃない、俺に似てる体に入った俺って何?

コイツは俺なの、俺じゃないの?

俺を俺だって証明できるものが、何もない…。

やべ、吐きそう。


「ナユタ様、大丈夫ですか?その、顔色が…」


「うん、ごめんちょっと…、一人になりたいかも。」


「………かしこまりました。何かございましたら遠慮なくお呼びください。」


クロエの言葉に軽くうなずいてみせると、彼女は静かに出て行った。

情けねー。

自分でやったことなのにすげぇ後悔してるだなんて。

まったく、よく考えて行動しないからこういう事になるんだっつーの。

しかし、まさかこんな方面からダメージが来るとは予想外だったなぁ…自業自得って言葉が身に染みるぜ。

加えて混乱して余裕なくして女の子に笑ってみせることもできないなんて、どんだけへタレなんだよ。

あんな心配させて…男としても大人としても失格だわ、赤点赤点。

お得意の大人の余裕はどこ行った?

たかが俺って存在が揺らいだだけの話じゃないか、ちょっと落ち着こうぜ。

よくある話だ、そうだろ?


「うっ、おえぇ、っ、うえぇあぁ、はっ、ぅ」


思い切り吐いた。

とっさにゴミ箱か何かないかと探したが全然間に合わなかった。

本当に情けない。

頭の芯が氷みたいに冷えていて手の震えが止まらない。

鼻からも出てきた吐瀉物のせいで涙まで出てきやがる。


「はは…俺、吐くの下手過ぎるぜ…。」


ふんっ、と鼻に詰まった残り物(・・・)を出してその辺にあった紙で鼻をかむ。

吐いたら少し気分が楽になったな。

とりあえず落ち着こう、深呼吸だ深呼吸。


「すーはー、すーはー」


よっし、だいぶ調子を取り戻してきたぞぉ。


おい九城那由他!このまま落ち込んでるだけでいいのか?

それで事態が好転するか?

元の世界に帰れるのか?

ノーだろ!なんも変わんねぇって!

俺って本当に存在してたのかだって?

「帰りたい」そう思ってる自分は間違いなく本物だぜ!

疑いようもない本当の俺の気持ちだ。

だったら落ち込むのは後にしようぜ!

仕事で失敗した時だって落ち込むのは家に帰ってからだったろ?

やりたいことは後回し、やるべきことを最優先、だ!

全部終わったらビール飲んでおでん食ってたくさん泣こう!

めっちゃ怖かった、めっちゃ帰りたかったって喚き散らそう!

でも、今はその時じゃない。分かるよな!

頑張れ那由他!自爆するのは今じゃねェ!


「っしゃー浮上したぁ!そう、これこそが俺!エセポジティブシンキングでも笑ったもん勝ちぃ!全部解決してとっとと帰るぞっ!おー!!」


クロエが淹れてくれたすっかり冷めちゃったお茶をグーっと一気飲みして、ビールみたいにぷはーと言ってみる。

うーん物足りない!やっぱりこういう時は酒が欲しいな。

ビールの喉越しに思いをはせていると、コンコンっと控えめにノックする音が部屋に響いた。

げ、さっきの聞かれてたかな?恥ずかちぃ!

変な汗が背中を伝っていくのを感じながらとりあえず平常心を装って返事をする。

あ、やべぇ!床のこれ(・・)どうしよう…


「お取込み中失礼します。ナユタ様、旦那様よりお連れするよう申し付かりましたのでお迎えに上がりました。」


「お、おぉ、了解。えっと、うん、行きましょうかねー」


その辺の紙で出来るだけ集めてみたがそれ以上はもうどうしようもなくて、やばいやばいとわたわたするばかりだった。

クロエも俺があまりに部屋から出て来ないので、ずいぶん訝しげに声を掛けてきた。

…諦めよう、もう女の子にみっともなく吐いたことがバレるのは恥ずかしいとか言ってられない。

部屋をこのままにする方がよっぽど恥ずかしいわ!

俺はもう自分ではどうにもできないと判断してクロエを部屋に呼ぶと、華麗に土下座を決めて片づけてもらった。

何度も謝罪しつつ手伝おうとする俺にクロエは「どうぞお気になさらないでください、どうということはありません。」と表情一つ変えずに言い放ち、テキパキと吐瀉物を処理するとあっという間にきれいな床に戻してみせた。

メイドってすげぇー。

改めてお礼と謝罪をして、借りていた鏡を返す。

クロエは少し心配そうに俺の様子を窺っていたが、特に何も聞かず「では参りましょうか」と部屋のドアを開けてくれた。

この子は本当にいい子だなぁ。


俺は長い廊下を歩きながらこの後の事をシュミレートする。

まずは最初の難関だ。

どうにか俺が人畜無害の一般人であることを伝えなくてはならん。

何とかここを突破できないと最悪死ぬかもしれないからな、気を引き締めていくぞ。

男、九城那由他。

何が何でもここを乗り切って明日も平和に生きてみせるぜ!


そうこうしている内にクロエが大きな扉の前で立ち止まる。

先ほどまで俺たちが食事を摂っていた部屋だ。

そして俺の命運を分ける人たちが集っている部屋でもある。

俺は一度大きく深呼吸をしてから、意を決してその扉をノックする。

するとすぐに返事が聞こえて来たので、汗ばむ手で扉を開け中へと進んだ。


「いやはや、すっかりお待たせしてしまって申し訳ない。さぁ、どうぞお掛け下され。」


「し、失礼します。」


さながら就活中の学生と面接官のような雰囲気を感じながら朝食の時とは別のイス、シュヴァリエ辺境伯と向かい合う形で席に着く。

てか、面接といえば面接なんだよな。

待っているのか合格か死かの違いであって。

…はは、何それ意味不なんですけどぉ?


「さて、我々が何について話しどのような結論に至ったか、さぞお悩みの事と思いますが」


「ごくり…」


「単刀直入に申し上げますと、ナユタ殿にはしばらくここに滞在して頂くこととなりました。拒否権はありません、これは決定事項です。もし拒否するとおっしゃるのであれば…」


「言うのであれば…?」


「そうですね、少々痛い思いをしていただく事になるでしょうかな?」


「っ!?ぜ、ぜひここに居させてください!」


「それは良かった、友好的なお答えに感謝いたします。」


いやいや!

そんないい笑顔作ってもさっきの凄みが全然消えてないから!

腹黒だ!このおっさんは腹黒紳士で間違いない!


それと厳つい格好をした男…たぶん格好からして近衛騎士団の団長とかいう奴だと思うけど、辺境伯と示し合わせていたみたいにばっちりなタイミングで鞘から剣を覗かせてみせてたぞ!

ナユタ君見逃さなかった!

ニヤリって笑ったの見逃さなかったよ!


もうやだ、何なのこの人たち…

か弱い一般人をビビらせてそんなに楽しいですか!?


しかしまぁ、その辺りを除けばこっちとしても願ったり叶ったりな提案ではある。

良くて監禁、悪くて昇天かなって思ってたからだいぶ平和的な結論だ。

それにしても、得体の知れない相手にずいぶんと寛大な対応を取るんだな。

俺が言うのもなんだけど、もう少し警戒した方がいいんでないのかね?


うん、まぁいいや、何でも。

この場で殺されないなら重畳だ!

命あっての物種っていうしね。


今後の展開は…まぁ、おそらく俺の頑張り次第ってことになってくるんだろうな。

そういう意味での滞在許可なんだろうし。

だったら俺のするべきことは明瞭だ。

出来うる限り敵意がないことを示しつつ、友好的に接するのみ。

そうして仲良くなった暁には、俺が帰る方法を一緒に探してもらっちゃおう!

うーっし!忙しくなってきたぜー!




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