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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 32 Shall we dance? 

第二章31の後書きに会話を追加しています。

読まなくても繋がるように書きますが、興味のある方は読んでみてください。

短いのであしからず。



「せや!折角やし、うちも踊りたい!あんたはん、相手しておくれやす。」


「うおっ!?」


その人はきゃっきゃとはしゃぎながら片手で俺を抱え上げると、重さなんて何も感じていないかのようにスタスタと歩き始めた。

さすが鬼神族、細身の女性でもこの腕力なのか。

シャルルの体は結構筋肉質なのでそれなりの重さがあるはずなんだが、そんなもの小石と変わらへんで~とでも言わんばかりに、易々と持ち上げて優雅にダンスフロアへと向かっていく。

それにしても…

これって鬼神族特有の誘い方とかなの?踊りたい相手を抱え上げて腕に座らせたままダンスフロアに向かう仕来り…みたいなのがあったりするの?

うん、気が付いてたけどそんなわけないよねぇ。

周りの人はもちろん、同じ鬼神族の人たちも動揺してるし、なんなら頭を抱えてため息をついている人までいる。

これは間違いなく常軌を逸した行動なんだろうな。


しかしそんな事実が発覚したからといって、今の俺に出来ることは何もないのだ。

どんなに好奇な目に晒されようと、影でコソコソささやかれようと、俺はただ大人しくこの細腕に座っていることしかできないんだ。

くっ、なんて惨めな気分だろうか!

何より意外と座り心地が良いだとか、ちっとも揺れなくて安心出来るだとか、そんな事を思わざるを得ないこの状況が憎い!

こんな頼りになる細腕を経験してしまったら、他の腕に座れなくなっちゃうわ!


「ふふ、なんや借りてきたヌコみたいに大人しいねぇ。大丈夫、怖ないよ?取って食うたりせぇへんから、安心しよし。」


「いや、そんな心配はしてないけども…。」


「そうなん?ほら、うちら鬼神族は人族とちごて角があるし、牙もあれば力も強いやろ?せやから怖がらせんようにーって思て気ぃ付けてたんやけど…。ふふ、なんや、あんたはんには必要なかったみたいやねぇ。物おじせぇへん言うよりは先入観がないって感じやなぁ…。ええなぁ、あんたはん。うん、うちあんたはんの事気に入りましたわ。」


「え、ありがとう…?」


「ふふふ、ほんまに可愛らしい子。こんまま食うてしまいたいくらい。…さ、踊ろか!」


不穏な一言について追及したかったが、笑顔で流された上に音楽が始まってしまったので何も聞く事はできなかった。

冗談だよね?本当に人を食べるわけではないよね?

はは、鬼神族ジョークはおっかないなぁ!!

という事でなんとか自分を納得させて、覚えたてのダンスに集中する。

慌てなければ大丈夫、基本の動きをしっかりと!

後は堂々としてればそれっぽく見えるから背筋を伸ばして真っ直ぐ向き合う事…、ですよねノエル師匠!!


「あら、踊りも上手なんやねぇ。特にこの、まだ慣れてへん初々しい感じがええわぁ。」


「う、まだ修行中なので…。あなたはとてもお上手ですね。」


「あなた、なんて言い方は好きやないなぁ。うちの事はツバキ姐さんと呼んでおくれやす、身内はみんなそう呼びはるから。」


「了解、ツバキ姐さん。俺はナユタって言うんで、好きに呼んでください。」


「ふふ、知っとるよ。陛下が突然演説やめて窓まで行きはったかと思たら、あんたはんを連れて来はってそりゃびっくりしたわ。あんたはん、今や注目の的やで?みーんなあんたはんと話したがっとる。」


「うわ、あの時見えてたのは暗い部屋じゃなくて王様の目だったのかよ…。しかしまいったな、変に注目されても俺は何もない普通の人間なのに。」


「…それはどうやろな。なんもないと思てはるんは、あんたはんだけかもしれへんよ?あんたはんにとって価値がなくても、他の誰かにとっては喉から手ぇが出るほど欲しいもんかもしれへんやろ?」


「ふむ…。なるほど、確かに一理あるな。それなら…とりあえず警戒しておけばいいのかな?」


「あぁ、それはあかんわ。下策も下策。そない怖い顔したら良縁まで逃げてまうよ?」


「えー、じゃあどうすればいいのさ?」


「それはもう勘しかないねぇ。この人は良い、この人は悪いて直感で決めるしかないわぁ。」


「えぇ…。それでもし良い人だと思ってた人が悪い人だったらどうするんだ?その逆だってありえるだろ?」


「そん時は自分の見る目ぇが無かったと諦めるしかないねぇ。自分で決めたことやし、しゃーないやろ?」


「そりゃそうだけど…。」


「…。うちが、守ったろか?怖ぁい人が近寄って来いひんように。あんたはんが安心して暮らせるように。うちがあんたはんを飼ったげよか?」


そう言った仮面の奥の目はちっとも笑ってなくて、本気で言っているんだって事が痛いくらい伝わってくる。

でもなんでだろうな、不思議と怖くはなかった。

言い方は確かに悪いんだけど、何故かこの人は本気で俺の事を守りたいと思ってくれてるような気がする。

この人はたぶん、俺が本当にそれを望んだら言った通り全力で俺の事を守ってくれるつもりでいるんだと思う。

どうして初対面の、しかも種族も違う人間にそんな事をしようとしてくれたのかは分からないけど、この人はとても、本当にとても優しい人なんだと…そう思うんだ。

うわ、なんだろ。今すごく泣きそうだ。


でも、それを選ぶのは何かが違う気がする。

俺は確かに安全で安心な暮らしを送れるようになるのかもしれないけど、それが同時にこの人の幸せかといえば絶対に違うと断言できる。

この人が求めているのは俺じゃない。


「心配してくれてありがとう、ツバキ姐さん。でも俺は大丈夫だよ。」


「…はぁ。なんやの、もう。男の子ゆうんはみんな同じ事言うんやね。…まぁええわ、今回はうちが折れたる。懐かしい物も見れたし、今はそれで十分や。」


「ん?」


ツバキは俺の仮面を一撫ですると悲しそうに笑ってみせた。

もしかしてこの仮面は、誰か知り合いの持ち物だったのかな?

いや、きっとそうなんだろうな。

だって、もしそうなら俺に話しかけてくれた意味も守ろうとしてくれた理由も何となく分かる気がするから。

そう、たぶんこの仮面の前の持ち主は…


「ツバキ姐さん…」


「あら、曲が終わったみたいやね。ほな、うちはこの辺で。また会おね、ナユ坊。」


「あ…」


そう言うとツバキはあっさり去って行ってしまった。

仮面の事聞きたかったんだけど、もしかしてそれを察して逃げちゃったんだろうか?

もしそうなら…何か悪いことをしたような気分だ。

ツバキ姐さんは結局のところ、俺に忠告するために話しかけてくれたんだろうし。

そのお礼もちゃんと言えなかったな。


「…おい。」


よし、次会えた時は必ず開口一番にお礼を言おう!

またねって言ってたし、これでさよならって事にはならないはずだ。

そんであわよくば、この仮面について何か知ってるのなら話してもらおう。

いや、でも鬼神族って気まぐれらしいしな、本当は深い意味なんてなくて俺をからかってただけって可能性も…


「おい!私が声をかけてるのに無視するなんて、いい度胸してるじゃないか!」


「はいぃ!?大変申し訳ございません!!…て、えっと、どちら様で?」


「私を知らないなんて無知にも程があるぞ!」


「申し訳ございません!なにぶん田舎から出てきたばかりでございまして!!どうぞご容赦ください!!」


「そうであったか。うむ、では故郷を大事にするんだぞ?」


「はっ、了解であります!」


「うむ。…では。」


「………?」


「何をぐずぐずしている!さっさと踊るぞ!」


「えぇ!?は、はいっ!!」


なんて斬新なダンスの誘い方…

俺に声をかけてきたのはキツネのような姿をした獣人族のもっふもふお姉さまだった。

いや、お姉さまというよりは司令官様って感じだったけど…。

キリっとした出で立ちで、ドレスというよりは軍服寄りのパンツスタイルでクールに決めてる様はまさにベルばら。

ダンスの方も女性特有のふわふわした感じは微塵もなく、まるで素早い動きに重きを置いたような訓練色の強い物へと変貌していた。

あれ、俺は今何をしてるんだっけ?


「先ほど、エルフ族とは何を話していたのだ?」


「え?何をってほどの会話はしてないですけど…。」


「本当か?蔑まされたり辱めを受けたのではないのか?」


「え?いえ、そんな知能の高い会話だった記憶はありませんけど。」


「本当に本当か?しかし、それではなぜ鬼神族が間に入ったのだ?仲介に入ったのちに、貴様を保護したのではないのか?」


「いや、ただ話をしてただけでダンスにも普通に誘われましたよ。そりゃ、誘われ方は普通じゃなかったかもしれませんけど。」


「何?ふむ…。あのエルフ族が何もしないなど、どういう風の吹き回しだ…?」


最後のは俺に聞いてると言うよりは自問自答してるような感じだった。

なんだかなぁ、エルフ族と獣人族の仲が悪いのは今の会話でも十分わかったんだけど…。

獣人族が抱いてるエルフのイメージって実際とだいぶ違くない?

いや、シルドとモイモイさんが特別変わってて、本来のエルフはもっと嫌な奴らなのかもしれないけどさ。

それでもあの二人を見る限り、エルフ族はそんなに悪い奴らではないんじゃないかと思うんだよな。

いや、獣人族にだけ塩対応って線も捨てきれないんだけど…。


「エルフ族と獣人族はいがみ合ってると聞いてますが、こういった場所で会った時はどうしてるんですか?」


「む?別にどうもしないが?話はもちろん近寄りもしないからな。他国もその事は承知しているし、仲介役を買って出てくれているから何の問題もないぞ。」


「完全無視なわけですか。一体いつからこんな感じなんです?」


「…さぁな?言われてみればいつからだったか。私が生まれる以前からそうであったと聞いているが、具体的にいつかと聞かれると…分からんな。」


「はぁ?え、じゃあ貴女が生まれる前から直接の交流はないんですか!?」


「ないな、一度も。」


「…なんでそれで今もいがみ合ってるんですか?」


「なぜも何も、昔からエルフ族とは相容れぬものだと言われてきたのだから当然だろう。大体最初に喧嘩を吹っかけてきたのはエルフ族だと聞いているぞ?それなのに奴らときたら、謝る事もせずにただ逃げ続けているというではないか!これを腰抜け腑抜けと言わずしてなんとする!」


「でも、その喧嘩を吹っかけられたのがいつ頃かは知らない…と。」


「ぐぬ、確かにそうだが…」


やっぱり何か変だ。

国際問題にまで発展するほどの劣悪な状況なのに、なぜその発端を知らない?

この場に居るってことは、それなりの地位についてる人なんだよな?

いつ起きたのか忘れるくらい前の事だったとして、それでもこれだけの遺恨を残しているのだからそれなりの何かが起こっていたはずだ。

もし事件や騒動になったのならその記録が残っていてもおかしくないのに、それすらも把握していないって言うのは明らかにおかしいだろ。

おいおい…。なんか裏で糸を引いてる奴が居そうな話に思えてきたんだけど、これは俺の考えすぎなのかね?


「…いつ、何が発端かも分からないのにどうしてそんなに怒ってるんですか?」


「それは!…一族を侮辱した、その事実が…。」


「その事実も揺らぎかねないほど、何も分かっていないのではないんですか?」


「貴様!我ら一族の中に嘘を吐いた者がいると言うのか!?」


「それは俺には分かりません。そうかもしれないし、違うかもしれない。でも、もし仮に万が一、そうだったとしたら…貴女はどうしますか?」


「…。そんな事考えるまでもない!私は我が一族を信じる、それだけだ!曲は終わった、私はこれで失礼するぞ!」


「ありがとうございました。」


「…だが、お前の意見も一考する価値はあると思う。突然すまなかったな。」


「いえ、俺の方こそ。初対面の女性に失礼しました。」


「ふ…、私を女扱いする者は久しぶりだ。」


さて、立て続けに二曲踊ったせいかなかなかに疲れた。

特にキツネさんは、動きが機敏な上に背が高いから踊るのに苦労したぜ。

…もしもう一度会えたら、その時はあの肉厚な耳とフサフサな尻尾を触らせてもらえるよう交渉してみよう。

魅惑的だよな、獣人族。



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