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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 29 戦いの行方。



「だっはっはっは!!どうした、何もできないか?そうだろう、そうだろう!だから棄権しろと言ってやったのに、怪我をしてもボクは責任持たないぞ!それが嫌なら今の内に負けを認めておけ!痛いのは嫌だろう?ボクなら嫌だ!」


「…お前ってさ。笑い声はうるさいし、言い方はいちいちムカつくし、態度はデカくて腹立つけどさ。実は結構優しいよな。」


「は、はぁ!?なっ、え、ほ、本当?あ、いや!違っ!何を馬鹿な事を言ってるんだ!そんな風にボクを絆そうったってそうはいかないんだからな!貴様のような雑魚庶民とは、本当なら同じ空気を吸うのも嫌なんだぞ?本当だぞ!?」


「…それが分かってるだけに、ちょっと罪悪感が生まれるんだよな。でもこれは試合で、お前は倒すべき俺の壁だから。」


「?何を悠長に…」


「だから、ごめんな。」


「は?……、………え?な、何だ、何が起こった!ボクのシルフはどこに行ったんだ!?」


先ほどまで嵐のように吹き荒れていた風は夢から覚めたかのようにぴたりと止んでいる。

そんな状況に狼狽えるピエールを余所に俺はウィンディを纏うと、言われた通りに両腕を前へ突き出して指を繋げて輪を作る。

俺の魔力とウィンディの魔力、二つを混ぜ合わせて…

穏やかな風が体を覆うようなイメージを持ちながら少しずつ循環させる。

暖かい…いや、熱い(・・)

俺を纏う風がその熱を徐々に上げていくと準備は完了だ。


「告げる―――汝、四精(しせい)に導かれし星の門。巡り、満たし、時を待つ永遠の光。淵源を閉ざせし其の身に、風の調べを鍵せよ。伝えよ、そして迎えよ。我が星に刻まれし久遠の(とも)を、ここに。―――イグニス!!」


俺の中から激しい炎が巻き上がっていく。

それはそのまま天高く伸びていき巨大な火柱となり空を焼く。

しかしそれも一瞬の事だ。

炎は風によって霧散し渦を巻くようにして俺の中へと戻ってくる。

熱い熱い、炎と風。


俺は大きく息を吐くと、今の状況を確認するように自分の手を見つめた。

初めてイグニスを纏った時と同じだ、俺の体は余すところなく炎で覆われてる。

そしてそこには熱さはない、ただ暖かく満たされているような高揚感があるだけだ。

さらにもう一つ。

俺の中に存在している精霊…イグニスとウィンディ。

そう、俺は今、双方の力を同時(・・)に借りているんだ。


「な、なんだ貴様。それは、召喚か?いや、しかしそんな召喚の仕方なんてエルフでもない限り出来ないはずだ!何なんだ…、貴様は何者なんだ…!?」


「ふー…さてな、その疑問に対して俺はお前を満足させられるような答えを持ってねぇよ。自分でもよく分かってねぇんだ。あー…そうだな、じゃあお前がそれを調べてくれよ。俺の代わりに、この力が何なのかをさ。」


「ふ、ふざけるのも大概にしろ!ボクの召喚を打ち消して、同時に自分も召喚するなんて…。それを理由もわからず使えるもんか!なにが…何が”魔法は苦手”だ!そんな卑怯な嘘を吐いてボクを油断させて…それほどボクに勝ちたかったか臆病者!」


「嘘はついてねぇよ、俺の魔法の才は姫様を困惑させる程絶望的なんだぜ?そんな俺がこうしてお前と対峙できているのは、単純に友達に力を貸してもらえてるからに過ぎないんだよ。ま、魔法である事に変わりはないし、規則的にも問題ないはずだぜ?」


「友、達…?貴様…どこまでボクを虚仮(こけ)にすれば気が済むんだ!他人に力を譲渡するような魔法なんて存在しない!貴様はボクに嘘を吐いていたんだ!でなければこのボクが遅れをとるはずないんだ!そうだ、そうに違いない…。ボクが今召喚できないのも、きっと何か卑怯な手を使っているんだろ?なんて卑劣な!お前は魔法使いの風上にも置けない卑怯者だ!ふん、しかし残念だったな。ボクには召喚しかないと思ったら大間違いだぞ?魔法だけでも貴様を倒す事は容易いんだ!ボクは!天才!だ・か・ら・な!!」


「そうかい、それを聞いて安心したよ。じゃあ気張れよ、天才召喚士。初めての事だから手加減できるかわかんねぇぞ。」


「っ!く、来るなら来い!!」


そう叫ぶようにして言い放ったピエールは、自身の周りにシールドのようなものを張り身構えている。

さすが天才と呼ばれるだけあって多才じゃないか。これなら万が一調節を誤っても、死ぬことはないだろう。

俺は右手を掲げそこに巨大な火球を生み出した。

これから使うのはイグニスとウィンディの合わせ技だ。

イグニスの炎にウィンディの風を合わせて作ったその白い(・・)火球を、出来るだけ圧縮してあまり広範囲に被害が出ないように調整する。

…このくらいなら大丈夫かな?


「いくぞ、ピエール!!」


ナユタ選手、だいぶデカい第一球投げました!

早い早い!辺りを焼きながら真っ直ぐピエールの下へ向かい…ストラーイク!!

見事、強烈な爆音と爆風を生み出した火球は観客席を含めた周辺を吹き飛ばしました!

凄まじい、これは倫理的にどうかと思う程の威力です!

もはや大惨事と言わざるを得ません!

圧倒的過剰暴力、これは虐殺でも始める気でしょうか!?


「って、えええぇぇぇぇぇぇ!?ちょ、ま、マジ!?こんな、え、ピエール!無事か!?返事しろ、ピエール!!」


「………けほ」


「おぉ、生きてた!さすがだぞ、ナイス生命力!…本当に良かったぁ。あー、無事…じゃないけど、生きてて良かったよほんと!!」


煙の向こう側で辛うじて立っていたピエールは、全身黒焦げで髪はちりちりというギャグ漫画の鉄板ネタのような変わり果てた風貌になっていた。

すごい…。とても酷い怪我なはずなのに、見た目が完全にギャグな為か全然大丈夫そうに見える。

なんならジングル挟めば次の会話で復活して来そう気さえする。

リアルでこんな風になる奴がいるなんて…、初めて見た。

って感動してる場合じゃない!


「おい、審判!!」


「…へ。あ、はい!!」


「医者は駐在してるのか?」


「あ、はい。いや、いいえ。」


「どっちだよ!!」


「あの、医者や治癒魔法使いは剣技や肉弾戦の方におりまして、こちらには一人も…。」


「はぁ?魔法部門だからって手抜きしてんじゃねぇぞ!治癒魔法使えるやつが居なかったらどうすんだよ!…ちっ、おい誰か!お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!?」


まさかこのセリフをリアルで口にする日が来るとは思いもしなかった。

しかし今は一刻を争う。

どんなにギャグ焼けだからと言っても重傷は重傷だ。早くこいつを治療しないと!

焦らず、しかし急いで周りを見渡していると、客席の上の方から短い悲鳴が聞こえてきた。


「な、いきなり何するんですか、だんちょ…」


「おい!そこのあんた、医者なのか!?」


「え!?いや、私はその…治癒魔法使いで…」


「本当か!今そっちに行く!」


俺は身体強化を使ってその女性が居る観客席まで跳んでいった。

いきなり目の前に現れた俺にその女性は一瞬面食らったようだが、今は何にしても素早い治療が必要だ。

とんでもなく失礼だし、普段の俺だったらこんな大胆な事出来っこないんだが、今は相当焦っているのもあってかあまり考えずにその女性を横抱きにしてピエールの下まで跳んだ。


「ひっ、いやぁー!!」


「悪い!でも、事態は急を要するから!いや、本当にごめんなさいっ!」


「っ、分かってる!私の方こそ叫んでごめん。ふぅ…、治療するわよ?」


「はい。お願いします!!」


女性はいつの間にか倒れていたピエールの前に膝をつくと、両手をかざし治療を始めた。

わぉ、これはすごいな。ピエールの傷がどんどん塞がり皮膚が元の色に戻っていく。

チリチリになった髪はそのままなんだけど、体の傷や火傷はもうほとんど見る影もないくらいに綺麗に治っている。

すげぇ…、観客のほとんどは魔法使いだろうけど、ここまでレベルの高い治癒魔法使いが居たなんて奇跡に近いな。そしてそれを一発で見つける俺もすごくね?

…てか、このお姉さんは何者なんだろう?

まさかこれで一般人です、なんてわけないだろうし。むしろそんな事言われたら警戒するし。

騎士団の人…であってもおかしくないよな。

それだけこのお姉さんは熟練した治癒魔法の使い手であると思う。


「これでもう大丈夫よ。しばらくすれば目も覚めるでしょう。」


「ありがとう、助かったよ!はぁ~よかったぁ。ごめんな、ピエール。少しは加減したんだけど…。」


「あなたは…。」


「ん?なんだ?」


「いいえ、なんでも。えっと、それじゃ私はもう行くわね。」


「あぁ。本当にありがとう!」


その人は軽く頷くように頭を下げると、控室の方から帰っていった。

それと入れ替わるように担架を持った男たちが現れたかと思えば、あっという間にピエールを乗せて会場を去ってしまった。

なんという速さ。その迅速さがもう少し早ければ、感謝の一言でも送れたんだけどな…。速いけど遅い!!

それにしても…


「あぁ、恥ずかしかったぁ…。」


戦いの記憶が、今になって俺に羞恥心を植え付けてくる。

何が原因か何て言わなくてもわかるだろうがあえて言う…、なんでここに来て詠唱なんてさせるんだよ!!

あと10年くらい若かったら意気揚々と恥も外聞もなく大声で唱えられていたかもしれないけどさ、あんなガッツリ厨二詠唱するおっさんなんて痛々しい事この上ないよ!

しかも急。あまりに急すぎだ。

もう少し心の準備をする時間があれば、こんな余波で悶え苦しむ必要はなかったかもしれないのに…

あぁ、恥ずかし…。穴があったら埋まりたい。


「…っと、そういえば。なぁ、審判。この場合、試合ってどうなるんだ?俺の勝ちか?それともやり過ぎで退場か?」


「え…、はっ!しょ、勝者、マスカレード仮面様!!」


「わーい。」


どうしたって拭えない恥ずかしさのせいで、どうしても心から喜べない。

ごめんなピエール、お前を丸焦げにしたくせに俺ってばこんな体たらくで。

にしても…。

はー、またずいぶん派手にやっちゃったなぁ。

観客席も含めてごっそり地面が抉り取られてる。あちこちでボヤも起こってるみたいだし。

それに関しては運営側はもちろん、観客たちも総出で鎮火に当たってくれているので、これ以上被害が広がることは無さそうなんだけど…。

大丈夫かな?これ。

弁償…なんてことになったらどうしよう。

せめてピエールと折半にしてくんねぇかなぁ?



   なかなか面白い事になったね。

   ナユタはどうやら

   僕らの力を伝えやすいみたいだ。



おぉ、お疲れ。いやー、なんか思ってたよりも威力が出てビックリしたわー。これが二人の合わせ技の威力なんだな。



   然リ。

   我ト風 (いにしえ)ヨリ 共ニ在ッタガ故



よぉ、久しぶりだなイグニス。それにしても。実は今回の事、俺自身があんまり理解できてないんだけどさ…。どうしてイグニスはここに居るんだ?俺は召喚できないんだよな?



   あぁ、それは単に僕のお蔭だね。

   感謝してくれていいんだよ?

   何せ僕がいる時はイフリートを

   イフリートがいる時は僕を

   いつだって呼ぶことが出来るんだから。



えぇ、マジかよ!何それ、そんなお得な事あります?!どっちかが居たら必ずダブルアタックできるとかチートかよ!強すぎる、強すぎるぞお前たち!あ、でも待って。もしかしてなんだけど…毎回あの詠唱しなくちゃいけない感じ?結構苦痛なのよ、あれ。



   あ、それね。

   すごく不思議だったんだけど

   なんでわざわざ声に出したの?



え?だってウィンディが…



   僕は唱えろとは言ったけど

   声に出せとは言ってないよ?

   あはは

   自分で自分の首

   絞めちゃった、みたいな?



嘘だドンドコドーン!!なんてこった。俺はあんな大勢の前で自ら痴態を晒してしまったのか…。恥ずかしい部分を自分で曝け出すなんて、こんなの露出狂と同じじゃない!うわーん、お家帰るぅー!!



   へー

   僕には分からないけど

   それってそんなに恥ずかしい事?

   詠唱を行う種族は居るし

   そんなに気にする必要ないんじゃない?



あ、そういえばピエールも言ってたな。エルフでもないのにそんな方法でーって。そっか、エルフは詠唱するものって認識があるんなら、詠唱自体が恥ずかしい行いであるという感覚はないのか。…いや、俺は恥ずかしいんだけど。



   ナユタが召喚できれば

   その悩みとも無縁なのにね。



うぐっ!た、確かに…。抉って来るじゃねぇか、人の傷口をよぉ。



   ふふ…

   安心しなよ

   ナユタはこのままで

   大丈夫だから。


え、それってどういう意味だ?



   そのままの意味だよ。

   さて、そろそろ僕らは

   戻ろうか。



   同意 無為ニ 過ゴセバ 負担ト ナロウ



え、ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺はまだこの後も戦わなくちゃいけないんだよ。だからもう少しこのまま居てくれないか?あんな啖呵切った手前、負けるのもなんかあれだし…。



   うーん

   それはおすすめしないな

   これ以上は君が…



「あのぉ、少しよろしいでしょうか?」


「うぇい!?は、はい、ワタクシでしょうか!?」


話の途中だったので思わぬ乱入者に心底驚いてしまった。

いや、この人は乱入したつもりなんてないんだろうけど、なんせ完全に外の様子を気にしないで話し込んでたものだから虚を突かれてしまったぜ。

むしろこの人は、ただぼうっと突っ立てるようにしか見えない俺に話しかけただけなのに、こんなに動揺されて逆にびっくりしただろうな。すんませんこってす。


「はい、あの。実はですね…。」


「なんでしょう?何でも気にせずおっしゃって下さい。」


「…実は、他の参加者の皆さんが一人残らず棄権されるとおっしゃられまして。」


「………ん?」


え、棄権?しかも全員?

それってここにいる全員が戦わずに負けを認めるって事…だよな。

あんなに初戦敗退は恥ずかしいとか言ってたのに、どうしたんだよみんな!

思わず観戦していた他の選手を見るが、俺がそっちを向くと同時に全員が怯えるように後ずさった。

ドン引きである。


「あー…、他に何か言ってました?」


「そ、そうですね…。話が違う…ですとか、自分だったら死ぬ自信があるとかそういうような事を…。」


「な、なるほど。えっと、そうなるともしかして俺が…?」


「はい、今後の全試合不戦勝となります。お、おめでとうございます、あなたがこの魔法・召喚部門の優勝者です。」


「あ、はい。」


素直に喜べないパート2。

まさかの事態だ。こんな事になるなんて…言葉もないよ。

マジかぁ…。こんな結果になっちゃうのかぁ。

そりゃ戦わなくていいに越したことはないよ?怪我はしたくないし、させたくない。

でも、これはなんか…違うよなぁ。


もしかしなくても原因はこの強すぎる魔法…だよな?

最初こそ召喚士相手ならチート出来るじゃん、やっほーぃ!くらいにしか考えていなかったけど、こんな大勢の人の戦意を消失させてしまう程の格差があるのは些か以上に問題あるんじゃないか?

これは人相手に使っていい魔法じゃない、な。

今後は使わない方向で行くか、ウィンディたちには悪いけど。

…ん、あれ、なんだ?

なんだか、目の前が霞む。足もふらつくし…すごく、眠い…。



   だから戻るって言ったのに。



ウィンディ?おれ、なにが…?



   魔力が底を尽きかけてて

   意識を失う寸前なんだよ。



ま、りょく…?



   そ。

   僕を纏って

   イフリートを呼んで

   イフリートも纏って

   短い時間でも戦って

   そしてこの状態を維持している

   これらってものすごく

   魔力を消費するんだよ?

   普通の人ならあっという間に

   気を失う程に、ね。



え…あ?



   かなりもってる方だけど

   さすがの君でも

   もう限界みたいだね。

   お休み、ナユタ

   次に会う時はもう少し

   力をつけておきなさい。



   サラバ 我ガ 盟友。



遠くでウィンディとイグニスの声が聞こえたような気がする。

でも、今は何も考えずに眠りたい気分だった。

あ、でもここで寝ちゃったら、また何日も目覚めない…のかな?

それは、かなり嫌だな…

   


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