第二章 28 試合開始!!
だいたいさ、この手の自信過剰なナルシスト君って大概たいしたことなかったりするよね。
成果を上げてたとしても、お供の者がやってましたーとか。頭のいい学校に入りました、でも裏口中学ですーみたいな。
だからコイツも実はたいした事なくて、後でこっそり金持ってきてこれで負けろ!とか言ってくるんじゃないかと思うんだよね。金持ちのお坊ちゃんて感じするし。
ちなみに、もしそんなことになっても俺の答えはもちろんnoだ!
そんな金叩き返して、正々堂々魔法で戦ってやるよ!そして勝つ、なんとしても!!
「あ、あの~、そろそろよろしいでしょうか?」
「あぁ、待たせたな。ではそのクジとやらを引いてやろうじゃないか!」
え?くじ…?
そういえばさっきの話、ちゃんと聞いてなかったわ。
そっか、対戦相手はくじ引きなのか。
まぁいいか!何にしても全部勝てば自ずとアイツにたどり着くんだから!
むしろ、アイツが俺にあたる前に負けないかの方が心配だな。もしそんなことになったら、不完全燃焼過ぎて行き場のなくなった憤りを持て余しちまう。
と言うことで、このくじは変に考えたりせず直感で引くのがベスト!
「…はい、みなさん引かれましたね。では一番の方からこちらのやぐらにお名前の記入をお願いします。もちろん、お名前は受付されたもので構いません。」
「よし、ではボクだな。それにしても流石はボク、くじですら一番なんてね。いやはや、やはり神に愛されているんだなぁ。だっはっはっは!」
「え!?お前一番って…」
「では続いて二番の方、こちらへ。」
「…俺、です。」
「ぷっ!なんだ貴様!決勝で待てなどとのたまっていたくせに、もうボクに当たって負けるのか!そぉんなにボクが恋しかったかい!?だぁっはっはっは!」
「ちょ、しょうがないだろ、くじなんだから!!あー、もう!お前の笑い方、なんか腹立つ!!」
そしてその他大勢も笑ってんじゃねぇよ!
くそ、まさか初戦でコイツに当たるなんて…!くじ運無さすぎだぞ、俺。
まぁいい。どうせいつかは当たるんだ、早いに越したことない。切り替えるぞ!
見てろよ天才君、見事ぎゃふんと言わせてやるからな!フラグじゃないからな!!
「ん?なんだ、そんなにボクを睨んだりして。…さては貴様、決勝まで行けばさすがのボクも弱ってると思っていたんだろう!?だっはっはっは!馬鹿め、ボクの魔力はそこらの魔法使いの10倍はあるんだぞ?ましてやここに居るのは格下ばかり、こんなのと戦ったところでたかが知れているわ!!」
「っだー!うるせー!!その格下がどこまで出来るのか、目に物みせてやるからな!!」
「ほほぅ、それは楽しみだなぁ?だっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」
「だからうるせー!!!!!」
まったくツイてないが、こうなったらやるしかない。
いや、よく考えたら焦らされる事なくコイツと戦えるんだからむしろラッキーだったな!
うん、この調子で前向きにやっていこう。
どんなに傷ついたって前向きに考えれば、きっと道は開けるはずだ!
―――――――…
魔法・召喚部門は初戦だけで16試合ある。
ちなみに肉弾戦部門は24試合で、剣技部門は32試合もあるのだそうだ。
さすが、騎士団に入団出来るってこともあって剣技部門の人気な事。
やはり観戦する側もどうせ見るなら剣技に長けた武人たちの試合が良いようで、そっちは超満員ですし詰め状態になっているのだそうだ。
…なら、俺たち側はどうなっているかというと。
「うーん、疎ら!!」
この訓練場はコロッセオのようにぐるりと観客席があるのだが、その観客席にはちらほらと人が座って居るだけで、圧倒的に空席が目立つ。
もちろん注目されたくてここに来ているわけではないので、それに対しては特に何も思わないんだけど…。
その数少ない客の殆どがローブを着用しているという状況は、いささか抵抗感が生まれるのだ。
なんかもうね、ただの怪しい宗教団体にしか見えないんですよ。
こんな呪いの一つでも貰いそうな状況で安心して戦えるかどうか…
それにしても、そんなに一般客は魔法戦に興味ない物なのか?
俺個人の意見を言わせてもらえれば、魔法戦の方が何かと派手だし見てて楽しいと思うんだけどな。
まぁ、人それぞれと言われてしまえばそれまでだけども…。
この状況を見るに、どうやらこういう所に来る客のほとんどは、手に汗握る接近戦の方がお好みなようだな。
ま、その気持ちも分からんではないけど。
「ん?なーんか、あそこだけ客が密集してるような…」
「あぁ、あれはボクの勇姿を見に来た家来たちさ。どうしてもと言うので特別に同行を許可したんだよ。なにせ稀代の天才召喚士だ、期待されるのも仕方がない事だよ。で?貴様は誰か見に来て…あぁ、無粋な事を聞いてしまったかなぁ?間違いでここに来てしまったのだから、誰も居るわけないよねぇ?だっはっはっはっは!!」
「…なら、あの人たちには可哀想な事をしてしまうなぁ。」
「なんだって?」
「だってそうだろ?お前の勇姿を見るどころか、格下だと散々バカにした相手に無残にも負ける姿を見ることになるんだから。」
「…。だっはっはっはっは!!よくも次から次へとそんな妄言が出てくるものだなぁ?万に一つもありえないけど、もし仮に百歩譲ってボクが負けるなんて事になったその時は、あれらは安心するだろうさ。ボクという天才でも運悪く転ぶことはあるのだな、と!だっはっはっはっは!!」
「ちっ、ナルシストめ!」
「え?な、ナル…?」
「とにかく、お前の伸びきったその鼻を俺が見事へし折ってやるから覚悟しておけ!」
「鼻を、へし折る!?お、おま、お前、肉弾戦なら余所へ行けよ!!」
「たとえ話だよ!!」
ったく、マジで怯えるなよ調子狂うじゃねぇか。
ともかく、作戦を立てるとしよう。
俺の眠れる才能がまだオネムだった時に焦らないためにも、あらゆる想定をしておこう。
よし、まずは状況把握からだ。
俺が今使える魔法は、火魔法(たいまつ位)と風魔法(心地良いそよ風位)だ。
風魔法はともかく、火魔法は何とか戦闘でも使えるはずだ。風魔法だって目晦ましくらいには使えるかもしれない。
火魔法で地道に体力削っていけば、いくら自称天才でもいずれは倒れてくれるだろう。…客からのブーイングは間違いないだろうけど。
えぇい!魔法で勝てばいいんだから文句は言わせねぇよ!
ともかく、方針としては敵の攻撃を身体強化で避けつつ地道に火魔法ぶっ放して体力削っていく感じだな!
まぁ、ぶっちゃけ敵の魔法なんて当たらなければどうという事はないのだ!と言う、魔法戦と言っていいのか怪しい戦い方に成っちゃうんだけどね。
「それでは時間になりましたので、第一回戦を始めます!魔法・召喚部門、第一回戦。ピエール様対マスカレード仮面様。………はじめっ!!」
始めの合図と共に俺とピエールはお互いに距離をとった。
俺は攻撃をかわしやすくするためにした行動だったんだが、ピエールの奴…俺に殴られると思って慌てて距離をとりやがった。
真っ青な顔して一目散に距離をとる様はお前の美学的に有りなのかと問いただしたいところではあるが、それよりも魔法で戦う宣言をした俺に対してその反応はあんまりじゃないか?
こちとら苦手分野でも何とかして戦ってやろうって覚悟決めてるのに、なーんで戦う相手のお前が肉弾戦前提で動いてるんだよ!マジで殴るぞ、こらぁ?
「ふ、ふん!どうやら本当に魔法で戦うつもりみたいだな!…よかったぁ。ではその蛮勇に敬意を称して、貴様に先手を譲ってやろう!」
「…そうやって俺の手の内を探るつもりか?ずいぶんと勇敢でいらっしゃるんだな、ピエール様はよぉ!」
「邪推もいい所だな。ボクは貴様が何もできず一撃で負けてしまうのではあまりに哀れだと思って、慈悲を与えてやっているのだぞ?だというのに、貴様ときたらみすみす棒に振るつもりか?やれやれ、これだから愚か者の考えは理解できないな。」
「ちっ!どこまでも腹の立つ男だな!いいぜ、それなら受けてみろよ。これが俺の最大威力!!うおぉぉぉぉりゃぁ!!!!」
「………ん?……え?ちょ、本気?今の本気なの?全力魔法…あれが?ボク、ちょっと困惑を隠しきれないんだけど…。貴様本当に棄権した方がいいんじゃないか?」
「だぁ!本気で心配すんのやめろぉ、泣いちゃうだろ!!いいんだよ!これでもお前を倒す作戦はちゃんと練ってあるんだから!お前は安心してやられてくれ!」
「だっはっは!なんと滑稽な。あんな魔法ではボクの服さえ焦がせないぞ?やれやれ、弱いものいじめは嫌いなのだけどなぁ。ま、これも慈悲だ、一瞬で終わらせてやろう!いでよ、ボクの従僕!」
「うわっ!!」
突如ピエールを覆うように巨大な竜巻が発生した。
それは、俺はもちろん観客たちをも巻き込みかねないほど強大な力を有していて、少しでも気を抜いたら一瞬で吹き飛ばされてしまいそうだった。
やばい!やばいやばい!!こんな状況じゃ俺の魔法なんて意味ないし、下手に動こうとすると吸い寄せられちまう!
これじゃ俺の立てた作戦なんて何の意味もないじゃないか…!
どうする、どうすればいい!?
くそ、完全に見くびってたぜ。
これが、馬鹿だけど天才と言わる召喚士の力なのかっ!!
…召喚士?
「あ。」
「えっ?」
えーっと、もしもーし。そこに居るのはウィンディさんじゃないですかー?
やあ、また会ったねナユタ。
こんな所で風遊びとは、なかなか乙じゃないか。
いやいや、遊んでねーし。真剣勝負だし。
そうなのかい?
この程度の風で動かなくなってるから
あえて浴びているのかと思ったよ。
僕の力を体全体で感じていたいのかと。
んなマニアックな趣味は持ち合わせてねぇよ!動かないんじゃなくて、動けないの。お前の力がハンパさな過ぎなの!という事で、その力…俺に貸してくんない?
ふふ、もちろんいいとも。
僕のハンパない力でここに居る全員の
ローブをひっぺ返そう!
いや、そこまでしなくても…。ていうか、ローブって…スカートじゃなくてもいいのかよ。
まぁね。
正直、人の服ってよく分からないし。
ところでナユタ。
前に僕が話したこと、覚えてる?
ん?どれの話だ?
僕とイフリートの話さ。
僕らの相関関係の話。
あぁ、そういえば言ってたな。えっと…、お互いがお互いの力を高め合う関係…みたいな話だったけ?
はは、さてはナユタは考えるのが苦手だね?
でもまぁそんな認識でいいか。
僕とイフリートは仲良しだからねー
一緒に居ると力が湧くんだよー?
確かに俺は考えるのも理解するのも苦手だけどな、そんな子供に言い聞かせるような言い方はよせ。ダンディな大人の男を目指してる俺に失礼だぞ?…えーっと、それで?それがどうしたんだ?
やれやれ。
こういうのなんて言うんだっけ…
ボケ?
何でそんな言葉知ってるんだよ…。お前ちょっと俗世に染まり過ぎなんじゃないか?スカートめくりにしてもさ。
そうかな?
ま、確かに僕は
人の営みが好きだけどね。
ずっと見守ってきたし
これからも見守るつもりさ。
ウィンディ…。………あ、いや、今はそんな話してる場合じゃないんだった。もっとシリアスで結構なエマージェンシーな俺なんだった。で?で?結局何の話だったんだ?
はぁ、まったく風情がないなぁ。
仕方ない、それじゃ簡単に。
いいかい、ナユタ。
この後、僕を纏ったら
僕がこれから言うとおりに
してごらん?
え?う、うん。分かった。




