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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 27 間違えたぁ!!



模擬戦の会場は城に隣接された騎士団の訓練場を解放しているのだそうだ。

今回は参加者が多かったため3グループに分かれて開催されるという話だったが、会場は観客と参加者でごった返していた。

おい、まさか…。試合会場は別々でも、入り口や受付は共通なのか?

折角混雑緩和のために試合内容をいじって三つに分けたのに、これじゃ全然意味ないだろ。

あーあ、どこから観客でどこまでが選手なのかまったくわからんじゃないのよ…。

せめて選手と観客は受付の位置を分けるべきだったな。


さて、エントリーした時に貰ったこの木札、これを時間内に参加したい部門の受付に出さなきゃいけないらしいんだが…

こんな状態じゃ、どこに受付があるのかなんて分かりゃしねぇよ!

さっきからアナウンスみたいな事はしてくれてるみたいなんだが、これだけ人が集まる場所で声を張ったところで簡単にかき消されちゃうのよねー。

拡声器みたいなものはこの世界には無いのかな?あの人の喉が潰れないことを祈るよ。


それにしても、このままでは試合に出るどころか受付にたどり着けずに不戦敗なんてことになりかねないな。

どうにかしてこの肉壁を突破しなくちゃ、スタートラインはその先なんだから。

なぁに、安心してくれ。

俺は学生の時、とある高校生がアメフトの選手になって活躍するという漫画を読破したことがあるのだ。

その記憶を呼び覚ませば、このくらい軽く避けてタッチダウンしてやるぜ。

くらえ、ナユタバット・ゴースト!!


「ぐえ、むぎゅっ…、うわわわ。ぎゃっ!いでででで、と…通してくださぁい!ふえぇ、通してよぉ!」


統率のとれていない不規則な動きをするラインに見事阻まれつつも、うまく人波に流されるような形で少しずつ受付に近づくことに成功した。

見たか!これがナユタバーゲンセール戦法だ!

安心してくれ、ここまで計算通りだぞ。


「―――の受け付けはこちら!剣技部門は右です右!!受付を済まされた方は、判を押した木札を無くさないように控室へ向かってください!!」


「あ、あのー!俺も参加しまーす!!」


「はいはい、ローブのお兄さんはこっちへどうぞ。木札を拝借。…はい完了です。控室および会場は三番になりますので、開始まではそちらでお待ちください。くれぐれも木札は無くさないようにお願いしますね!この込みようだと再発行は出来ませんから。」


「あ、はーい。了解しましたー。」


「他に参加される方はいらっしゃいませんかー?こちら―――――」


「むぎゅ、潰される…!」


受付を済ませてからも、あの空間から抜け出すのにゆうに10分は掛かってしまった。

周りの声が大きすぎて、正直受付の人が何を言ってたのかほとんど聞き取れなかったけど、辛うじて”三番”と”無くすな”ってのは聞こえたから問題ないだろう。


さて、この三番控室に向かう道にはさすがに参加者しか来ないみたいだから、人だかりに阻まれる心配もなさそうだな。

一時はどうなるかと思ったが、無事参加できるようで一安心だな。

しっかし、なんで参加者と観戦客の入り口を同じにしちゃったかな?

これを計画した奴はちょっと爪が甘かったな。

次回…があるかは知らないけど、その辺りを改善してもらわないと間違えて参加しちゃったり、逆に参加できない人が出ちゃいそうだな。

ま、後者はともかく前者のようなお間抜けさんはそうそう居ないと思うけどねー。

おっと、三番控室!ここだな。

うーん、さすがの俺も緊張するぅ。どんな屈強な男たちが待ちかまえているのか…


「うっ、おえ…」


やばい、ゴリゴリマッチョのおっさん達が中で筋トレしてるのを想像したらちょっと気持ち悪くなった。

控室の中がおっさん達の汗で湿度120%になってたらどうしよう…。

盛り上がった筋肉、黒くテカテカな肉体、異様に白い歯。何な奴らがこの室内に寄せ集められて一心不乱に筋トレをしていたとしたら…

くっ、肉弾戦を選択したのは間違いだったかっ!?

まだ剣技の方だったらこんな恐怖とは無縁だったろうに!

こわい、この扉の向こうが未知すぎで怖いよぉ!!


「ちょっと、そこに入りたいんだけど。」


「あ、ごめんなさい。」


「ふんっ!」


ローブを纏った気の強そうな女性に声を掛けられて、素早くドアの前から離れる。

おや?このいかにも魔法使い風なお姉さんも、もしかして肉弾戦?

あ、そうか!

俺と同じで身体強化魔法を使ってる人もいるよな、そりゃ!

よかったぁ、どうやら俺が想像してるよりも中は湿度低そうだぞぉ!少なくともカビる心配はなさそうで安心したぜ。

そういう事なら俺もこの控室を利用させてもらおうかな。

あー、安心した。試合前に変な疲れを溜めたくないもんなぁ。


「し、失礼しまぁす…。」


控室の扉を開くと、そこは予想通り…というか予想以上に細身の人が多かった。

これは驚いた、身体強化魔法ってのは俺が思っていたよりもポピュラーな魔法だったんだな。

こんな見るからに魔法使いだろお前って奴らまで肉弾戦に自信ありとは。

いやぁ、つくづく人は見かけによらないんだなぁ。

ま、俺もローブ着てるしマッチョでもないし、人の事言えないんだけどね!わっはっは!


「ん~?ここがボクに負ける奴らの控室かぁ!どれどれ…ははっ、どいつもこいつも弱そうな奴ばかりじゃないかぁ!まぁ分かりきっては居たけどね、これはボクの一人勝ちだなぁ!それも一瞬でケリをつけてやろう、この天才召喚士・ピエール様の手によってな!だーっはっはっはっは!!」


うっわー、なんだこいつ。

いきなりドアを蹴破ってきたかと思えば、大声で見事な負けフラグ建てちゃって。

しかも部屋間違えてるし、ここは肉弾戦に参加する人の控室ですぅ。

召喚士って言うからには召喚で戦うんだろ?ここに居たってワンパンでやられるよ?ここに居る人たちみんな身体強化の使い手とかだからね?

ほら、周りの方も呆れちゃってるじゃないの。さっさと居るべき部屋にお戻り。


「ピエール?召喚士ピエールって、あの!?」


「げ、マジかよ!あの、馬鹿だけど天才って噂の召喚士!?」


「うわー、これは勝ち目ないな…。こんなところで怪我するのもバカバカしいし、もう不戦敗でいいから帰ろうかな…。」


え。え?えぇ!?

どどどどういうこと!?何その反応?

別に天才だろうと召喚士なんだから肉弾戦なら勝てるんじゃないの?

なんでみなさん一気にあきらめムードなの?!肉弾戦もできちゃう召喚士なの!?

誰か説明プリーズ!!


「皆様お待たせいたしました。これより三番訓練場にて、魔法・召喚部門の試合を始めます。まずはお一人ずつ木札を回収致しまして、その際この箱から紙を1枚とって頂き…」


ん?んん?今あの人なんて言った?

マホウ・ショウカンブモン?

あれ、耳がおかしくなったかな?ここ肉弾戦部門でしょ?だって受付の人はそんなこと何も…

そうだ、何も言ってなかった。一言も肉弾戦部門の受付ですなんて言ってなかった。

でも、ならどうして…。

ローブ、そうだローブだ。あの時ローブを着てたから魔法使いだと思われて受付されちゃったんだ!

え、じゃあ何。これってもしかして…


「ま、間違えたー!!!!!!!?」


「はい!?ど、どうなさいました!?」


「間違えた、間違えたんです!俺、本当は肉弾戦の方に参加したくて…。ローブ着てたから間違えられたみたいでっ!」


「あー、それは…。」


「い、今から変更できませんか!?俺、魔法はからっきしで!!」


「申し訳ございませんが、受け付けは既に終了していて…。肉弾戦を行っている二番訓練場では既に試合が開始されておりますので…。」


「そ、そんな…」


どうしよう、まさかこんな事になるなんて…。

一か八か魔法で戦ってみるか?いやいや、あんな日常ですら使うか怪しいレベルの魔法で何が出来る!?

でも待てよ?身体強化魔法も一応魔法なんだからあり、か?

いや、でもやっぱり肉弾戦になる訳だからブーイング待ったなしだよな。下手したら退場もありえる。

魔法は使い物にならない、身体強化は使えないとなると残りは…、何もない。

あれ、もしかして俺…詰んでる?


「うわ、あんな奴居るんだ…」

「俺、アイツと当りたいなぁ。」

「わかる、初戦敗退ってさすがに恥ずかしいし。アイツとなら楽勝っしょ。」

「アイツと当った奴は運が良いよなぁ。」


ぐぅ、さっきからひそひそと聞こえてくるぞぉ…

分かるよ、今の俺は完全に鴨がネギ背負ってるようなもんだもんな。

でもさ、出来ればもう少し小さな声で言ってくれるかなぁ?

ただでさえ打ちのめされてメンタルボロボロなのに、その上陰口とか追い打ち掛けないでほしいんだけど。

あーあ、何やってんだろ。折角のチャンスだったのに、阿呆だなぁ…俺。


「コソコソと煩いぞ愚民ども!この者に魔法の才がない事を笑っているのか知らないが、ボクからしたら貴様ら全員大して変わらないからな!むしろ、才能もなく声を潜めて他者を哂うような貴様らよりは、よほどこの者の方がまっとうな人間であるわ!他人を笑ってる暇があるなら、魔法の一つでも覚えたらどうだ?ま、こんなうっかりをしでかすなど、阿呆としか言いようがないのは認めるがな!だっはっはっは!!」


「あ、あんただって、馬鹿にしてるじゃないか!人の事言えんのかよ!」


「ボクは聞こえるように言っているから良いんだ!それに、実力も伴っているからな!それともボクに意見するのか?それは相応の覚悟があっての事と思っていいんだよな?ん?」


「ぐっ…」


「ふん!実力をつけてから出直せ、愚か者。それとそこのうっかり者!」


「えっ、俺!?」


「他に誰が居る、このうっかり者。貴様はさっさと棄権しろ!ボクはともかく他のやつらは手加減できる程の能力が無い、怪我をしたくなかったらさっさと帰れ。それにこいつらは、ボクという天才の登場で優勝も諦めざるを得ないからな、さぞ鬱憤も溜まっていることだろう。そんな奴らがお前に優しくしてくれると思うか?死なない程度に痛めつけられるのがオチだ、わかったらさっさと帰れうっかり者。」


「な、なんでそんな忠告してくれるんだよお前…。」


「なぁに、ボクは力も才能も教養もある紳士だからな。弱いものいじめを見過ごせないだけなのさ!お前は精々、泣かないように上を向いて帰るといいぞ?だぁっはっはっは!」


「…する。」


「ん?今何か言ったか?」


「参加するって言ったんだよ!!庇ってくれた事には感謝してるよ。でもな、弱いもの呼ばわりされて黙って帰るほど落ちぶれてもいねぇよ!いいかよく聞け、お前らも全員だ!俺は必ずこの戦いを勝ち抜いてやる!そんで決勝でお前をけちょんけちょんにして、今の言葉をお前にも送ってやる!いいか、絶対だからな!今の内に覚悟しておけよ!!」


「…はっ!何を言うかと思えば。どんな卑怯な手を使う気かは知らないが、この試合は魔法・召喚に重きを置いているんだぞ?そこに腕力で対抗しようなどと無粋な事は考えるんじゃないぞ?いいな、絶対だぞ?何を隠そうボクはかなり打たれ弱いからね!だぁっはっはっは!」


「うるせぇ、んなこと胸を張っていうんじゃねぇよ!つーか、卑怯な事なんかするか!どうにか魔法で戦ってやらぁ!!」


「ふん、言うじゃないか。では宣言通り、決勝で当たるのを待っていてやるよ。本当に勝ち上がってこれればの話だけどね!だぁっはっはっは!!」


くそぅ、ここまで言われて逃げ出すわけにはいかねぇよなぁ…?

男ナユタ、今こそ眠れる才能を開花させる時と見たぜ。

窮地に追い込まれるとき、人は今までにない力を発揮するのだ!




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