第二章 24 気付かぬ再会
せっかく格好いい衣装を作ってもらったし、ノエルたやにも感想を聞きたいと思って城の中を探しまわっているんだが…
「うーん、ノエルの部屋ってどこにあるんだ?」
よく考えたら、この城の中を探検したいとか言っておいて結局何もやってないじゃないか。
いや、それ所じゃなかったって言うのもあるんだけど。
城に居る時間の殆どを自分の部屋で過ごしていたせいで、どこに誰の部屋があるのかなんて全く把握できていないぞ。
…仕方ない、そこらの可愛いメイドさんに聞いてみよう。
「へい、彼女!ちょっと話したいんだけど、時間あるぅ?」
「仕事中ですので。」
「あ、はい。すみませんでした…」
目を合わせることなくそそくさと逃げて行ってしまった。
うん、分かる…今のは俺が悪かった。
壁にもたれて進路を塞いだ上に、あんな古臭いカビの生えたナンパのセリフを言われたら誰だって警戒するよね。
でもさ?そんな変質者みたいな扱いする必要なくない?
ただのナンパみたいになったのは謝るけど、そこまで避けられるとさすがのナユタ君でも心が折れちゃうよ?
「ええい、こんな事でめげてなどいられん!ナユタ強い子めげない子!!」
一度冷たくあしらわれたからって、ここで諦めたら試合終了だぜ!
俺はこのすんばらしい衣装をノエルに見せて、ぜひ再びのよしよしをしてもらうのだ!
こんな所で立ち止まってたまるかよぉ!
「あ!そこの道行くお嬢さん!実はお尋ねしたい事があるのですが…!!」
「はい?」
よっし!今回は成功した!
いいぞぉ、やれば出来るじゃないか。さすがだぞナユタ!いえいえ、それほどでも!
しかし参ったな。
勢いで話しかけちゃったけど、この人ドレス着てるぞ?
もしかしなくてもお客さん、だよな?これはノエルの部屋を聞いても知らない確率が高いよなぁ。
「えっと、突然すみません。ノエ…第三王女様にお話があって探しているのですが、どちらにいらっしゃるかご存じありませんか?」
「…失礼ですが、あなたのお名前は?初対面でお顔も分からないような方に、おいそれと姫様の居場所はお教えできません。」
「あ、そうですよね。失礼をいたしました。私の名前はナユタと申しま…」
「ぶぉほっ!」
「………、えっと、大丈夫ですか?」
「い、いえ。失礼しました…。」
何だろう。
この女性、俺が名乗った瞬間おもいきり噴き出したよな?
今だって俺を上から下まで舐めるように観察してるし…、何なんだ?
そんなに変なこと言ったか?それともこの服が似合ってなくて思わず笑っちゃった…とか?
カッコいいと思うんだけどなぁ、この服…。まさかどこかで会ってるって事も無いだろうし。
うーん、よく分かんないけど、ここは出来る限り紳士的に対応しよう。
変に怒って、後から他国の姫様でしたーなんて事になったら怖いし。
「では、改めて。私の名はナユタ・クジョウ・ユエルと申します。ノエル様とは懇意にして頂いておりまして、今回のパーティーに於きましてもいろいろとお世話になりましたのでご挨拶をと。」
「ぐふっ!っ…!そ、そうでしたか。それは大変失礼を、いたしました。姫巫女様でしたら、パーティーのご準備の為に自室にいらっしゃると思います。左手の階段を上がって頂いた奥のお部屋です。部屋の前に騎士が居りますのですぐに分かるかと思います。」
「そうでしたか。ご親切にどうもありがとうございました。」
「いえ、それでは私はここで…」
「あ、よろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「な、なぜでしょう?」
「あなたのそのドレス…。あなたもパーティーに参加されるのですよね?実は私はこちらにあまり知り合いが居りません。ですので、少しでも見知った方がいらっしゃると安心します。」
「………………………ア」
「ア?」
「アンリ…です。」
「アンリ…。」
「………。」
「驚きました。私の友人と同じ名前です!こんな偶然ってあるんですね、なんだかとても親近感が湧きます!ではアンリさん、後程お会いいたしましょう。」
「………………えぇ、ぜひ。」
そう言うとアンリさんはスカートの裾を軽く上げ頭を下げてから身をひるがえして走るように去って行った。
あれ、もしかして急いでたのかな?呼び止めちゃって悪い事をした。
それにしても、初めて生でカーテシーをみたぞぉ!あれが可憐なお嬢様の代名詞…素敵だ。
アンリさんはなんというか…お淑やかなのかお転婆なのか分からない不思議な女性だったけど、それでも綺麗に着飾って礼儀正しいしっかりした人だった。
変に愛想笑いとかもしないで、ちゃんとノエルの事も心配してくれてたし。男女関係なく、ああいう人がノエルの近くに居てくれると一安心だな。
なんか気も合いそうだし、パーティーで会えたらもう少し話しをしてみたいと思う。
「っと、忘れちゃいけない本来の目的ぃ。ノエルの部屋へ、いざ行かん!」
確か左手の階段を上った奥の部屋だったよな。
部屋の外に騎士が立ってるって言ってたけど、姫様の部屋だから常に護衛が居るって事なのかな?
何にしてもいい目印になるな、この城かなり広いから。迷子になっても笑えないし、ナイスだぞ護衛!
――――――…
「ただいま姫様はお召替え中ですので、お会いになることはできません。」
ががーん!
なるほど、そうだよね。女の子の準備はいろいろ時間がかかるものだよね。
それなのに俺に付き合ってくれたものだから、急ピッチで支度をしなくちゃいけなくなっちゃったのね。
ごめんよ、ノエルぅ。
しかしそうなると、この後どうしたものか。
ノエルの着替えが終わるまでここで待って…、あ、ダメだ。
さっきから騎士の睨みがすごい。
お前まさか姫様の着替えを覗こうだなんて思ってるんじゃないだろうな、という心の声が聞こえてきそうだ。
…仕方ない、ここは一旦自室に戻ろう。
昼まであと3時間はあるからな、久しぶりにガッツリ特訓するのもいいかもしれない。
「えっと、じゃあノエルに伝えてもらえるか?ナユタってやつが来て、部屋に戻って行ったってさ。」
「…かしこまりました。」
うわー、不服そう…
まぁ、どこの誰とも知れない野郎が突然現れて姫様を呼び捨てにしやがったら、そりゃ警戒するってもんだよな。
この人たちはそういうのが仕事なんだから、しょげないしょげない。
とりあえず伝言は頼んだし、大人しく部屋に戻ろう。
それにしても、みんな忙しそうに走り回ってるなぁ。
メイドも執事も、騎士たちだって右へ左へ忙しそうに動き回っている。
それでも優雅さを感じさせるのは、やっぱり流石としか言いようがないな。
うーん、宮中使えは身のこなしが違うよねぇ。
あんなに全力疾走な人でも、全然見苦しくないんだから。
「わっっと。」
「これは失礼を。」
「いえいえ。」
いけないいけない、よそ見をして歩いていたせいで危うく騎士君とぶつかるところだったぜ。
すんでのところで騎士君の方が気が付いて避けてくれたから大事なかったけど、こんな子供みたいによそ見をして人に迷惑かけるとは我ながら情けない。
割といい年なんだから、とりあえず落ち着こうな…
にしても多いな。
城の中の警備にしても、やたら騎士がうろついているような気がするんだが…
この数はちょっと多すぎやしませんか?
「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが。」
「はい、なんでしょうか?」
「今日はずいぶんと騎士の皆さんが多くいらっしゃるような気がしますが、これはすべて警備の為ですか?」
「そうですね、半数は警備の為に居ります。しかしもう半数は模擬戦の運営の為、急遽呼び出された者たちです。」
「模擬戦の…?しかしそれは以前から決まっていたことですよね?どうしてまた急に増員されたんですか?」
「それが…。今回の模擬戦参加者が予想以上に多くて、急遽分類ごとに分けることになったのです。」
「分類分け、ですか。それはつまり…剣を得意とするもの、肉弾戦を得意とするもの、魔法を得意とするもの…そんな風に分けるという事ですか?」
「えぇ、まさにそれです。最終的には各優勝者1名ずつも戦って頂き、そこで勝ち抜いた方が真の優勝者となります。」
「へぇ…。ちなみに剣の部に出たとして、魔法を使う事も可能なのですか?」
「えぇ、可能です。あくまで何を得意とするか、ですから。」
なるほどなぁ。
グループ分けすることで時間の短縮にもなるし、それぞれ得意な技を披露する機会も増えるってわけか。
なかなかいいアイデアだな。騎士団としても戦力に成りうるものは多く見ておきたいって感じか?
確かに効率的だけど、これって王様のアイディアなのかな?戦闘好きではなくとも効率廚ではある、と。
「そしてそれに伴い、各部門の優勝者は望めば騎士団への入団が許可されます。同時に、賞金も別途で与えられるので、参加者はさらに増えるかと思います。」
「それは活気が出て素晴らしいですね。ちなみに飛び入りもできるんですか?」
「えぇ、もちろんです。開始の号令がかかる前であれば誰でも出場可能です。」
「そうですか。いや、お話しよく分かりました。お忙しいのにありがとうございます。」
「いえ、お気になさらず。それではどうぞ、ごゆるりとお楽しみ下さい。」
そう言うと騎士は恭しく頭を下げ仕事に戻って行った。
なんか、俺の事お客様だと思ってね?いやお客っちゃーお客なんだけど。
にしても良い事聞いたなぁ。
ジャンルごとに分かれて勝ち抜き戦か、肉弾戦なら俺でも良いとこまで行けるんじゃないかな?
飛び入り参加も受け付けてるって言ってたし…うん、ありだな。
確か顔合わせも兼ねた軽い昼食会の後は、夜の仮面舞踏会まで時間があったはずだ。王様たちは間に話し合いみたいなのをするらしいけど、それに俺は呼ばれてない。
よし、時間もあるし力試しも兼ねてエントリーしてこよう!
「っ、はぁ、はぁ」
「なんだ、ここに居たのか。探したぞ、アンリ。」
「坊ちゃん。」
「どうしたんだ?ずいぶん息が上がっているようだが。」
「いえ、何でも…。」
「あぁ、そういえば姫様はどちらに?」
「自室におられるとの事でしたが、お召替え中でした。挨拶は後ほどでよろしいかと。」
「ふむ、そうか。では仕方ないな、先にナユタの部屋に…」
「私はいません!」
「え、なんだどうした。アンリだってナユタに会うの楽しみにして…」
「してません、してるわけありません!あと私は今日、ここへは来ていません!」
「何を言って」
「来ていません!!」
「あ、あぁ。」
「(こうなったら意地です。あっちが気づくまで私からは何も言いません、言いませんから!)」




