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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 22 任務完了



翌朝、俺は夜明けと共に起きて急いで仕度を済ませるとおっさんの下に向かった。

男爵の話は昨日の内に管理局の外で待っていたおっさんに伝えてある。

その時の俺たちの喜びようといったら、さながら逆転さよならホームランで優勝を果たした野球チームのファンの様だった。

お互い抱き着いて意味もなくぴょんぴょんと跳ねる様は、傍から見ればさぞ不気味であっただろう。

でもテンション最高潮の俺たちに周りの様子を慮る余裕などなく、無駄に大声で騒ぎまくり踊りまくった結果、近所に通報され自警団に追われる羽目になったのだ。

正直逃げ切れてよかったぜ。


「よう、おはようさん。昨日はよく…寝れたようには見えないな。」


「そういうリュークだって人の事言えないだろ。目の下に隈が出来てるぜ?」


「まぁ、仕方ないだろ。」


「あぁ、仕方ないな。」


くっくっく…と俺たちは顔を見合わせて怪しく笑う。

なんてったって絶望の淵から一気にエデンへ導かれたようなもんだ。

そりゃ興奮して寝れなくもなるだろうよ。

男爵が足りない分の仮面を提供してくれるおかげで、俺はユエル家の名前を汚す事無く王様の期待に応えられるし、リュークは無事依頼を成功させて売上金がうまうま…ん?そういえば。


「なぁ、男爵から譲ってもらう分の請求ってどうするんだ?納品の殆どがもらい物なわけだし、リュークの取り分ってもしかしてそんなに発生しないんじゃないか?」


「あー、そうだな。俺が交渉出来たのはせいぜい仮面100個分だ。だから陛下にお支払いいただくのもその分だけって事になるな。」


「んー…俺が言うのもなんだけどさ。全部リュークが買い付けたことにして料金ふんだくる事も出来るんじゃないのか?」


「…まぁ、考えなかったと言えば嘘になるな。そりゃ俺だって儲かるならそれに越したことはないし、それで二号店が出せるならそんなに嬉しい事はないけどよ。」


「だよな。今回のリュークの頑張りを思うと、仮面100個分の利益じゃ割に合わないだろ。初対面の商人と交渉したり、知り合いにもだいぶ無理を言ったんじゃないか?」


「あぁ、問題があるとすればそこなんだよなぁ。あいつらには俺からきっちり詫びを入れとかないと、この先の商売に影響が出る可能性があるからな。商品が滞ってちゃ店も成り立たんし…。あー、こりゃ売上金ほとんど持って行かれるな。」


「ならやっぱり…」


「いや、でもな。俺は今回の件でそれに見合うだけの事を学ばせてもらったと思ってんだわ。俺ぁあれだ、地道にコツコツ稼いでいく方が性に合ってるんだな。下手に欲掻いて一攫千金なんて考えたから、人生を棒に振り兼ねない事態に陥っちまったんだ。だから俺はこの納品を終えたら、初心に戻って心機一転頑張って行こうと思う。なぁに、損はしてねぇんだから大丈夫だよ!」


「…リュークには本当に悪いことをした。いろいろと迷惑かけし、元はと言えば俺が…」


「おいおい、ナユタ。お前何回それ言うつもりだ?それに元を辿るなら、俺が城中に宣伝しろって言ったのが始まりだろ?まさか陛下のお耳にまで入るとは思わなかったが…。まぁ、なんだ。結果的に期待に応えられたんだから、それで十分じゃねぇか!それに男爵からの支援が受けられたのだって、結局はアンタのお蔭だったんだろ?自信持てよ、あんたはよくやったって!」


「いや、でもそれは、たまたま運が良かっただけで…。」


「あぁ?まだそんな事言うのか?よし、一発ぶん殴っとくか!」


「ちょ、それはやめれ!…えーっと、じゃあお互い様ってことで。」


「おう、そうしとけ!そんじゃ、そろそろ行くか。」


リュークは自身で集めた仮面を背負子に乗せると、意気揚々と歩き始めた。

しかし元気だよな、このおっさん。いい歳なのにどこか子供っぽいし…

そういえば昨日の昼間に管理局へ向かう途中で店の前を通った時、店の中に知らないお姉さんが居たんだよなぁ…。

まさかあれが奥さんじゃないよね?

既婚者ではあると思うんだけど、あんな美人の若妻と所帯を持ってるわけじゃないよね?娘とかだよね!?

…俺は信じてるからな、リューク!


朝の市場は商人たちが黙々と開店準備を始めていて、依然来た時と同じ場所だとは思えないほど静まり返っている。

俺はなんだかすごく珍しい物を見ているような気分でその中を進んでいき、しばらくその静寂を楽しみながら歩いて行った。

そうして管理局の門前まで来ると、そこには見覚えのある1人の男が立っていた。

そいつは近づいてくる俺たちに気が付くと、満面の笑みを浮かべて両手を思い切り振ってくる。

朝っぱらから元気なこって。


「おはようございまッス!お話は伺ってるッスよ!ささ、どうぞ。あ、お話と言えば昨日の夜、自分は外の酒屋で新しく入った酒を飲んでいたんッスけど…」


「あー、その話もなかなか魅力的なんだけど、今は少し急いでるからまた次回で頼むわ。」


「そうッスか?では、こちらをどうぞッス!男爵様からお預りした鬼神族の仮面ッス!どうぞ遠慮なく確認して下さいとの事でしたッス!」


「おう、あんがとよ。そんじゃ失礼してっと…」


門番君は奥から大きめの木箱を持ってくると、地面に置いて蓋を開けた。

リュークは箱の前に膝をつくと、一つ一つ手にとっては品物の鑑定を始める。


「…大丈夫そうだが、一応全部見させてもらうぜ?」


「もちろんッス!こちらとしても不手際があっては怒られてしまうッスから、鑑定はしっかりお願いしたいッス!」


「ん。そんじゃここからは俺の仕事だな。しっかり確認して昼前には城に納品するからよ、ナユタはここまででいいぜ。ありがとうな、旦那。あー…アンタに出会えた事が今回の一番の収穫だったぜ。」


「やめろよ照れくさい。そんなの俺たちの柄じゃないだろ?」


「けじめだよ、けじめっ!無事に仕事が終わるんだ、最後くらいしっかり締めくくった方がいいだろ!」


「そんなもんか…。じゃお言葉に甘えて、ここはリュークに任せるよ。ありがとうな。」


「おう!大船に乗ったつもりで、どーんと任せておけ!がはははは!」


豪快に笑うリュークと、なぜか同じように笑っている門番君に別れを告げ、俺は一人城へ戻ることにした。

それにしても、まったく頼りになる男だぜ、リュークって奴は。

思えば最初から、俺はリュークに頼りっぱなしだったんだよなぁ。

仮面探しも商人との交渉も、そのほとんどがリュークの人脈と人柄に頼るものばかりで…。そう、丸投げしたのだ、俺は。

街に来たばかりで何も知らないから、この街に知り合いは一人もいないからと。それっぽい理由を並べては、自分の中で言い訳をしていた。

それなのにリュークは俺に対して嫌味を言うでもなく最後まで付き合ってくれて、あまつさえ俺と出会えた事が一番の収穫だ…なんてのたまう。

この街で商売を生業にしている人は数多く居るだろうけど、いったいその中にリュークのようなデカい器を持った気のいい男はどれくらい居るんだろうか?

きっとこれは、奇跡に近いような確率の出会いだったに違いない。

俺も同じだな。リュークという男に出会えた事が、この一件での一番の収穫だ!


―――――――…


「ナユタ!よかった、探していたのよ!」


「ノエル?」


城に着いてからとりあえず部屋に戻ろうと思っていた矢先、走ってきたノエルに声を掛けられた。

あぁ、今日のノエルたやもかわゆすなぁ。

というか、なんか久しぶりに話したような気さえする。この輝かしいオーラ、最高だぜ!

ハアーイ、ノエル!元気ですかー!!!


「はぁ、はぁ…。もう、どこに行っていたの?」


「ちょっと仮面の件で街までな。」


「まさか!もしかして集められたの?!」


「当然だ!大丈夫だって言っただろ?」


「す、すごいわ。おめでとう、ナユタ!頑張ったのね、よしよし。」


な、ナデナデだとぅー!?

まさかこんなご褒美がこの身に待ち受けていたなんてっ!あぁ柔らかい。

しかも高さが少し足りないのか背伸びまでしてるしっ!あぁいい匂い。

こんな、こんな幸せがこの世に存在していいのだろうかっ…!


「あ、いけない!こんな事している暇はなかったんだったわ。」


「oh…。」


さらば、幸福の時間よ。

いつかまた、会えるよね…?


「それで?俺を探してたみたいだけど、何かあったのか?」


「何かあったんじゃないわ、何もないのよ!!」


「ん?」


「ナユタがパーティーで着れるような服が何もないの!」


「……………あ、何も考えてなかった。」


「普段着ならいくつか用意もあったのだけれど、今回のような大きなパーティーに着れるような服は用意してなかったの。本当にごめんなさい。今日はお昼から会食があるからそれまでに用意しないとまずいわ!」


「そ、そうなの!?あわわ、急いで街に戻らないと!」


「何を言っているの?それじゃ間に合わないわ!ついて来て、レオンの所へ連れて行ってあげる!」


レオン…、誰だそれ?という俺の当然の疑問も、俺を引っ張るノエルの手の感触にすべて吹っ飛んでしまった。

あら、やわっこい…

そして俺の前を走るノエルの姿は、まるで光る粒子を纏っているかのように神々しい。

サラサラとなびく髪に、はぁ、しなやかな…あ、足、はっ、はぁっ…

足が速い!!

つい見惚れたまま一緒に走ってたけど、ノエルさんめっちゃ足速いんですけど!!なんだこの脚力!?競歩だけじゃなくてフルマラソンもお得意ですかぁ!?


「レオン、いますか!?大至急、彼の服を見繕って欲しいんですけど!」


「いない。あと服作るのは面倒くさいから拒否。」


こっそり身体強化を使いつつノエルの後について走って行くと、いつの間にか城の地下に来ていたようだ。

石造りの階段を下りて壁に掛けられたろうそくの火を頼りに進んで行くと、その先にあった暗い部屋でぼさぼさの長い髪を適当にまとめた白衣の女性が煙草をふかしていた。

この人が、レオン…。いったい何者なんだ?

てか拒否すんのかよ!



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