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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 21 世の中そんなに甘くない…事もない!!



時間にして一時間くらいだろうか?俺は広場内にある馬車の下に潜り込んで騒ぎが収まるのをじっと待っていた。

最初の内は建物の中にでも入ってしばらく隠れていようと思っていたのだが、予想以上に人の往来が激しく入り込む隙がなかったのでやむなく諦め広場に戻ったのだ。

とは言ったものの、どこで誰が見ているかもわからない状況で迂闊にウロウロするわけにもいかない。

ここは広場の荷物に紛れて、ほとぼりが冷めるのを待つしかない!と、思っていたんだけど…。

先ほどの騒ぎに人が集まっているとはいえ、どうも完全に人払いが出来ているとは言い難い状況みたいだ。

騒ぎに興味がないのか、はたまた気づいてないのかはわからんが、何人かの商人や役人は各々の仕事を着々とこなしているようだ。

仕事熱心で何よりでございますね、この野郎。

俺はウィンディの力を借りつつ馬車の間を移動していき、何とか人目を避けながら山積みにされた荷物の側まで近づいていく。


「よし、あともうちょい…!」


油断禁物とはよく言ったもので、俺は安地を目の前にして張っていた気を緩めてしまったようで、近づいてくる人の気配に気づくのが遅れてしまった。

やばい!よりにもよって挟み撃ちかよ!

俺が今居るのは馬車と馬車の間で、その前後どちらの道からも人が近づいてくる気配がする。

前もダメ、後ろもダメとなると残すは…!


と、いった経緯で俺は馬車の下に潜り込んだんだけど、騒ぎが収束したのか人がどんどん戻ってきてしまって出るに出れなくなり現在に至るのだ。

もし今誰かが、おもむろに馬車の下を覗きでもしたら絶対悲鳴を上げると思う。どう見たって怪しさマックスだからね、今の俺。

ていうか、これって見つかったら確実に豚箱行きじゃね?軽く犯罪者の香りがするよね?

うーん、ナユタくん地味にピーンチ。



   まったく不便だねぇ、人間って生き物は。

   (しがらみ)だらけで面倒ったらないよ。



…否定できないのが辛いところだぜ。つか、俺の周りに風が巻き起こってるけど、これって砂埃とか立って周りに気づかれたりするんじゃないのか?今更かもだけど。



   うん?まぁ、だろうねぇ。

   一応拡散してあげてるけど、

   そろそろ誰か気づいてもおかしくないかもね。



ですよね!んー…じゃ、ウィンディにはそろそろお暇してもらっちゃおうかな?



   そ?僕はずっとこのままでもいい位だけど…。

   そういえば、イフリートから聞いてるかい?

   お前は召喚の素質がないから、

   僕らの力を借りたかったら誰かに召喚してもらうしかないって。



あぁ、聞いてる。情けない話だよな、まったく。



   あはは、才能がないなんて可哀想ぅ。

   でも代わりに僕らから直接力を貸してもらえるんだから、

   むしろ代償としては少ないくらいだろうね。

   この盟約は普通の人間が行う契約よりも強いから、

   相手の召喚した精霊を奪う事になるわけだし?



なにそれ、初耳!え!?って事は、召喚士相手なら俺って最強なの!?効果はバツグンなの!?



   なんだ、イフリートはそんなことも言ってないのか。

   さすが口下手、相変わらずだねぇ。それならこれも聞いてないだろう?



え、まだ何かあるのか?



   イフリートと僕の相関関係について…



「なぁ、他に知らねぇか?少しでもいいんだけどよ。」


「うーん、俺の知り合いじゃもういねぇなぁ。悪いけど、力になれそうにねぇわ。」


「そうかぁ…。」


「…。あー、知り合いじゃないんだけどな、さっき俺の前に並んでた商人たちがそんな話をしてた気がするぜ?どれ、ちょっくら話聞いて来てやるからここで待っとけよ。」


「本当か!?恩に着る!」


ウィンディと話をしていると、馬車の持ち主と思われる商人が戻ってきたようだ。

そいつは連れと少し話をすると、またどこかへ行ってしまったようだが…。

とりあえず俺は礼を言ってウィンディと別れると、こっそり馬車の下から残った男の様子を窺った。

今の声、聞き覚えがある気がするんだよなぁ。


「あぁ、やっぱりおっさんか。」


「うわぁ!?な…兄ちゃんか?おいおい、そこで何やってんだよビビったじゃねぇか。かくれんぼか?」


「あー、近からず遠からず…だな。で?今の商人はどこに行ったんだ?」


「遊んでんじゃなぇよ、呑気な奴だな。…今のは俺の古い知り合いでな、鬼神族の仮面を持ってるかもしれない奴に声を掛けに行ってくれてんだ。ま、あんまり期待はできないんだけどな。」


「…もしかして、あんまり芳しくない感じか?」


おっさんは無言で頷いた。

顔色から察するに、思っていた以上に仮面の入荷が少ないんだろう。

さっきの商人もあまり色よい返事ではなかったようだし、このままだと本当に集まらないかもしれないな…。

もし集められなかったとしたらそれは………


「一応言っておくが、覚悟は決めておけよ兄ちゃん。このままだと俺たちに明日は無いかもしれねぇからな。」


「っ!…すまん、おっさん。俺が余計な事をしたばっかりに、巻き込んじまった。」


「なぁに、こればっかりは誰にも読めねぇよ。それにあれだ!まだ完全に終わったわけじゃねぇんだから、もう少し足掻いてみようぜ!」


「おっさん…!!」


俺のせいで命の危機にまで瀕しているのに、なんて優しいおっさんなんだ。

もし俺が女だったらここでフラグの一本でも建ってたかもしれないぞ!?…男だからそれはないけど。


そうして俺たちは馬車の持ち主が戻るのを待ってから、もう一度他の商人たちに声をかけて回ることにした。

ちなみに戻ってきた商人の話は、予想通り残念な結果に終わった。



俺は着ていたローブを脱いで腰に巻くと、おっさんとは別々に新しく来る商人たちに話しかけていった。

仮面を着けている俺に商人たちは軽く警戒していたが、俺が鬼神族の仮面を探していると言うと、どうやらコレクターだと勘違いしてくれたようで話の進みはなかなか良かった。

しかしそれで仮面が出てくるという事はなく、俺が声を掛けた商人の中に仮面を取り扱っている者は一人も居なかった。

まさかここまでとは…


「よぉ、どうだった?」


「残念ながらこっちは収穫ナシだ。」


「そうか…、俺の方は何とか30は見つけたぜ。つっても全部で100ちょいだけどな。」


広場の壁に寄りかかって荷馬車の様子を眺めながら、お互いに成果を報告し合う。と言っても俺には成果何て立派なものはなかったんだけど。

それにしても、こんなにたくさんの荷馬車があるっていうのに、どうしてうまくいかないんだろうか。

まさか流行り廃りにここまで人生を左右される日が来るとはなぁ…。

もうすぐ夕暮れ時だ。空がだんだん茜色に染まっていく中、今から新しい行商人が来るという事はないだろ。

となると明日の朝が最後のチャンスって事になるのか…


「朝に着く馬車ってどのくらいなんだ?」


「ん?そうだなぁ…、多くても今ここに居る馬車の1割ってところだな。…なかなか絶望的だろ?」


「はは、そうだな。絶望過ぎて笑いが込上げてくるぜ。」


「だな。ははは…」


乾いた笑い声が空に吸い込まれていく。

まいったな、打つ手が何も思い浮かばない。

…おっさんは今何を考えているんだろうか?店の事か、それとも家族の事か…

はぁ、本当に悪い事をしたなぁ。俺があんな提案しなければ、少なくともこのおっさんは今もあの店で商売していられたのに。

二号店も夢じゃないなんて嬉しそうに言ってたのに、今じゃ明日の命さえ怪しい。

人が見る夢と書いて”儚い”なんて言うけど、全くムカつく言葉だぜ。

それじゃ今まで積み重ねてきた努力に何の意味もないみたいじゃないか。

努力は報われるべきだ、理想論だと言われたとしてもそう願わずにはいられない。

それが人ってもんだし、それが人情ってもんだろ。

せめてやり残しが一つでも無くなるように、もがいて足掻いて生きていきたいんだ。


「…そういえば。俺、おっさんの名前聞いてないんだよね。」


「あ?そうだったか?はっ、今更名前も何もないだろうに、変な兄ちゃんだなぁ。」


「別にいいだろ、心残りは少しでも減らしておきたいんだよ。で、おっさんの名前は?」


「心残りねぇ…、それもそうだな。俺はリュークだ。リューク・シーク。ま、短い付き合いになるかもしれんがよろしく頼むぜ、ナユタの旦那。」


「おう、よろしく頼むぜリュークのおっさん。」


こうして俺はおっさん改めリュークの名前を知ることに成功し、さらに絆を深める事が出来た…と思う。

しっかしずいぶん格好いい名前じゃないか。よく見るとおっさんもなかなかなイケメンだった面影があるし、これは結構遊んでたのかもしれないぞ?

ずばり、所帯を持ってやっと落ち着いたプレイボーイだろ!うん、間違いないな。

それにしてもこのおっさん、誰かに似ている気がするんだよなぁ。

うーん、もう少ししっかり見れば思い出せる気がする…


「そこの者、動くでないぞ!」


「げっ!」


「お?クフィミヤン男爵だ。二日連続で会うなんて珍しいな。」


やばい、クフィミヤン男爵が全力早足でこっちに向かってくる。

何でだ?さっき逃げたのが俺だってバレたのか!?いや、ローブは脱いでるし顔は見られていないはずだ。

じゃ何だ、また例の説教激励か!?

それにしては後ろに門番君が付いてきてるんですけどー!

あれか、嘘ついて入場したのがバレちゃったやつか!

何にしても明日を待たずにゲームオーバーの予感が止まらない!


「そこの仮面の、名を何という。」


「えぇっとぉ、ナユタ…です。」


(うじ)は?」


「ナユタ・クジョウ…、ユエルです。」


「ふむ、この者で間違いないのだな?」


「はいッス!腰に巻いてるローブを来て、確かに入場手続きをしてたッス!」


「ふむ…。」


「え、なんだ?どうしたんだ、ナユタの旦那?」


マジでやばーい!!入場の時に嘘ついたのがバレたやつでしたー!

あの門番君め、チクリやがったな…!俺はお前のこと黙ってやろうと思ってたのに、裏切られた気分だよこん畜生!

でも今は門番君を睨んでる場合じゃない!どうしよう、どうやって誤魔化そう…

あくまでクフィミヤン男爵に呼ばれてるとは言ってないとシラをきるか?それともすっとぼけて知らぬ存ぜぬで通してみるか…?


「…どうやらこの者で間違いないようです、殿下。」


「そうか!やっと見つけたぞ、ふわふわの人!」


「え?」


俺の目の前でにっこりと指をさしていたのは、さっきの騒動の中心人物。

無賃乗車のお坊ちゃまだった。

え、なんでここに居るの?てか殿下?今殿下って言った?

って事はノエルの…弟!?んー、あんまり似てないな。


「こちらに御座す方は、第6王子のギルベルト様である。訳あって普段は王都を離れて暮らしていらっしゃるが、今回は陛下を想い単身お越しくださったのだそうだ。」


「殿下はずっとナユタさんの事を探してたんッスよ~?どこを探しても見つからないし、もう帰っちゃったのかと諦める手前だったんッスからね~?大体、急に目の前から消えた人を探せーだなんて無茶にも程があ…」


「まったく驚いたのだぞ?強い風が吹いたと思ったら、いつの間にか居なくなってるんだもん!なぁペッコ!」


「…はい。」


「それでお前を探していたら、ここに居る男爵が探すのを手伝ってくれたのだ!まったくこんなに歩いたのは初めてだぞ、ふわふわの人!」


「えぇっと、恐縮です。」


「それでな!男爵がな!せっかくここまで来たんだから、泊まっていってもいいと言ってくれたのだ!すごいだろう?!僕ちゃんは感謝で胸がいっぱいなのだぞ!」


「それは…、良かったですね。」


「どうしたのだ?なぜそんなしゃべり方をする。さっきと同じように話せばいいのだぞ!もしかして僕ちゃんのこと覚えてない…?」


「いえ、そういう訳では…。」


「そうか!とにかく見つかって良かったのだ!男爵、この者ともっとおしゃべりしたい!お部屋に連れてってくれ!」


「はっ。」


「お、俺は門のところで待てるわ…。」


おのれ、裏切る気かおっさん!

かと言って嫌ですという訳にもいかないので、遠くなるおっさんを睨みつつ局内の応接間に連れていかれる俺なのであった…。


それからしばらくの間、坊ちゃんの世間話に付き合わされる俺であったが、正直話の半分も頭に入って来ない。

だってこんな圧迫面接あります!?

なぜか俺は王子様の正面に座らされて、王子の後ろにはお供と男爵が控えて鋭い目つきで始終睨んでくるんですよ!?

こんな状況でさっきみたいに”お前”なんて一言でも言おうものなら、即刻後ろの方が何かするでしょ!?具体的には何かは考えたくないけども!

…あぁ、帰りたい。ノエルに会って安心したいよぉ。


「それにしても、なぜあの時急に居なくなったのだ?僕ちゃんはちょぴっとびっくりしたのだぞ!」


「え!?あー、それはぁ…。」


男爵の姿が見えたからです!なんて本人目の前にして言えない!言えるわけない!!

今だってデフォなのか知らんけど、親の仇でも見るかのように睨みを利かせているのに本当の事なんて言った日には…!


「き、急用を思い出しましてー。えぇ、そう、急用をね…。」


「む?それはなんだ?あんなに急ぐほどの事だったのか?魔法を使う程の?」


「それはーですねぇ。ええっと…。陛下から直接賜った仕事がありまして、それを完遂すべく焦っておりまして。しかし知らなかったとはいえ、殿下には大変な失礼を…」


「陛下から直接、だと?確か貴殿は昨日もここに来ていたはずだが…。鬼神族の仮面を探している、のだったか?」


「あ、はい。陛下のご命令で、例のパーティー用に集めてくるように言われておりまして。」


「パーティー!僕ちゃんそれに出たくて内緒でここまで来たんだよ!母様にはダメと言われたけど、どうしても見てみたくてペッコと一緒に抜け出してきたのだ!」


ん?じゃあ殿下はもともとパーティーには呼ばれていなかったのか?

そういえば馬車に隠れてやってきたみたいな事も言っていたな。

てっきり待ちきれなくて一足先に来たのかと思ってたけど。


「して、それは集まったのかね?」


「あー………。」


「…、まさかこんな所で繋がるとはな。」


「え?今何かおっしゃいましたか?」


「いや…。仮面が手に入りにくいのは、おそらく愚息の行いが絡んでいるからだろう。死してなお、障りを残すとは…どこまで恥を晒すのか。」


自分の息子なのにずいぶん厳しいんだな。いや、自分の息子だからか?

それにしたって、もう亡くなってる人に対しての言葉としては、ちょっと眉を顰めざるを得ないな。

例え出来の悪い息子でも子供は子供だろうに。

この人は親である以前に、男爵という地位に着いた厳格な貴族ってわけか。


「しかし、それが思わぬ幸運をもたらす事もあるのだな。まさかあの愚息が陛下のお役に立つ日が来ようとは。」


「え?それってどういう…?」


「我が愚息が民から賄賂を受け取っていたのは知っているだろう。愚かな事であるが、どうやら中には金ではなく貴重な物品で支払っていたものもあったようだ。そしてそれには鬼神族の仮面も含まれていた。それも100や200では利かぬほどの、な。」


「え、それじゃあ…!」


「あぁ、貴殿に贈呈しよう。好きなだけ持って行って構わん。本来なら陛下に献上するはずの物だが、巡って陛下の下へ行くのなら問題なかろう。」


「あ、ありがとうございます!!」


「うーむ。よく分からないけど、良かったなふわふわの人!」


まさかこんな所で助けられるなんて…

これはおっさんも喜ぶぞ!首の皮一枚繋がったんだからな!

それにしても、人の縁ってのは本当に不思議な物なんだなぁ…


―――――――…


「彼は、来ましたか?」


「あぁ。思わぬ来客はあったが、それが上手く(はま)ったようだ。明日の朝には引き取りに来るだろう。」


「そうですか、それは何よりですね。」


「…珍しいな。貴様が他人に興味を抱くなど。」


「ふ、そんな事ありませんよ。人間関係は大切にする方ですのでね。」


「化け物を生み出し人を殺めている者が、よく言えたものだな。」


「それはお互い様でしょう?これもすべて、あなたの正義の為に。」


「…あぁ、そうだ。正義はいつも正しくあらねばならない。」


「…。あなたも大概、狂ってますね。」




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