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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 18 世の中そんなに甘くない



さて、どうしたものか…


このオロールにある税関管理局は、クレアシア王国に数ある貿易を行う街の元締めとなる場所である。

各街で取引きを行った国と品物、金の管理を行っていて、年に2回は大規模な監査を行うのだそうだ。

もちろんこの街・オロールからも海外への輸出入は行われている。

しかしその数は国全体の数%にも満たない程の少量で、その恩恵はさほどない。

そもそもこの国には特産と言える程栄える産業はなく、あえて挙げるなら農業と染色業、それと養蚕業を少しといった具合らしい。

折角海と川に面した国なのだから船舶業にでも力を入れればいいのになんて思っていたら、驚いたことにこの世界に船というものが存在しないのだそうだ。

いや、正確には船というものはあったようなのだが、何とかの鯨が何とかしたせいで海に出れなくなったとかなんとか…正直その辺りの話はよく分からなかった。

ともかく、この世界の貿易のほとんどは陸路で行われているのだそうだ。


と、いったような話を管理局の入り口に居た門番のような男に聞いた。

その男はずいぶんおしゃべりな奴で、聞いてもいないのにギルドの内情や貴族の浮気疑惑まで色々な事を教えてくれた。

さすがに管理局の内情までは話さなかったけど、こんなおしゃべりな奴が門番で大丈夫なのか?


その門番曰く、局内へは貴族かそれに準ずる豪族からの紹介状がなければ入室できないのだが、手前にある馬車を置いておく広場になら受付を済ませれば出入りしてもいいのだそうだ。

それならおっさんが居るかの確認が出来るのではないかと思って、現在広場に居る人のリストを見せてもらったのだが、考えてみればあのおっさんの名前を知らなかったので何の意味もなかった。

こんな事なら先に店の様子を見てからこっちに来ればよかったぜ…、失敗したなぁ。


よし。とりあえずダメ元で入ってみて、居なかったら店の方に戻ってみよう!


「うわ、結構広いぞ…。」


中に入ってみると、想像以上に広い場所に何台もの馬車が並べられていて、その周りを囲むかのようにわんさか人がいる。

恐らくドラ息子暗殺の噂を聞きつけてやって来た商人たちと、その予想外の積み荷や書類の確認に追われている役人達だろう。

どこを見ても忙しそうに人が行きかっているな。

そうか、鬼神族の品を取り扱う商人って本当はこんなに居たんだなぁ…。


「つーか、この中からおっさんを探すの?…無理くね?」


荷馬車という遮蔽物に加え、常に動き回る役人と商人。そんな中から出会ってまだ2日のおっさんを探し当てなきゃいけないなんて、どんな無理ゲーですかって話だよ。

一応辺りをざっと見回してはみたものの、残念というかやっぱりというか、おっさんの姿は見つけることができなかった。

そもそもこの場に居ない可能性もあるんだと考えると、やはり一度店に寄って来なかったのは痛恨のミスだったな。


「はぁ、どうすっかなぁ…。」


「おい、兄ちゃん。入り口で突っ立ってたら邪魔になるだろ!」


「あ、すみません。すぐ退きます…っておっさん!」


「よう!まさか先に来てるとは思わなかったぜ、兄ちゃん。」


突然後ろから声をかけられた時はずいぶん驚いたけど、どうやら今来たおっさんのちょっとした茶目っ気だったようだ。もー、やめてよぉ。びっくりしちゃったじゃなーいこのハゲ。

しかし俺より後に来たって事は、まだ知り合いの行商人って奴には会えてないんだろうか?

つか、俺よりかなり早く出たっていうのに、今ここに到着っていうのはどういう了見だ?

まさか寄り道して遊んでたんじゃあるまいな?


「おいおい、俺より後に来るなんてずいぶんな重役出勤ですな?そんなに余裕があるのですかなぁ?」


「まぁまぁ、そう突っかかるなって。知り合いには検問の所で話を着けて来たんだ。今回の積み荷に仮面はないが、村まで戻ればあるから倅に取りに行かせるってさ。って事でとりあえず10個は確保できたぞ。」


「え、10個?わざわざ取りに戻ってくれるのはありがたいけど、目標までには全然足りないじゃないか。…こんな調子で大丈夫なのか?」


「ま、大丈夫だろう。俺もちょっと心配になってこっちも来てみたけど、思っていたよりも行商人の数が多い。これならまぁ、集まるだろう。鬼神族の仮面はそれ専門の収集家が居るほど人気のあるもんだからな、それだけでも取引する価値はあるはずだ。小さくて軽いから多く運べる行商向けの品なんだよ。」


「なるほど、それを聞いて安心したぜ。それならもうここに居る商人達にも声かけて、譲ってくれるか交渉しちまわないか?」


「もちろんそのつもりだぜ!まぁ見てなって、仮面500個なんてあっという間だ。もしかしたら今日中に集められるかもしれねぇぞ!?がははは!」


「おい…、フラグ建てんのやめろや。」


自信満々のおっさんに続いて、俺はこの広場に集う行商人たちとの交渉に臨んだ。

弾む会話、弾ける笑顔、そして困惑する行商人の真意とは!?

果たして俺たちは仮面500個を手にする事ができるのか!?おっさんの建てたフラグの効果は如何に!

次回、「だからフラグを建てるなと言ったんだ!」お楽しみに。

みんなもフラグには気を付けるんだぞ☆


「…………。」


「…………。」


「仮面は軽くて小さいから行商向きって言ってたよな?」


「…。」


「専門の収集家が居るほど人気もある、とも言ってたな…。」


「…。」


「それも踏まえて聞きたいんだけど、買い付けできたのって全部で何個だったっけ?」


「あー、…50?」


「そっかぁ、もう50個も集まっちゃったかぁー。…んがー!!1/10だぜ!?じゅうぶんのいち!!どうすんの、どうすればいいの!?明後日の昼までには、あと450個集めなきゃいけないんだぜ?!このままだと絶対無理な気がするのは俺だけですか!?」


それに行商人達の話だと、最近は鬼神族の仮面より民族衣装の方が流行ってて、それを目当てに買いに来る客が多いから、商人の方もそっちに力を入れているんだそうだ。

鬼神族の商品自体が品薄であるこの街からしたら、外の流行なんて知る由も無かったんだろうけど…。

それにしたってこの流れはまずい。

商人たちだって売れる可能性が高いものを多く仕入れているはずだ。そうなると明日来る行商人たちも仮面ではなくて民族衣装を多く積んでいるのかもしれない。というか、絶対そうだろ、この感じは。

すると明日、この倍の行商人が来たとしても、単純計算で100個か。やばい、全然足りない…。


「…もういっその事、仮面はやめてその民族衣装って奴に変更してもらっちまうか?」


「無理だな。鬼神族の民族衣装は着方が複雑だから、専門の知識がある奴でしか着せられない。例え着せられる奴が居たとしても、お客全員を着替えさせるのはどう考えても無理だろ。」


「ん、だな。あー…、どうする?今から近場の村や街に手紙を出して、高値で買うから持ってきてくれって言ったらどうなるかな?」


「例えいい返事が貰えたとしても、どう考えても間に合わんだろうなぁ。それに、今流行ってるのは民族衣装なんだろ?そっちの在庫ならまだしも、仮面となると…。」


もうこれ詰んだんじゃね?

運に任せるにしたって分が悪すぎる。

まさか流行とかあるなんてなぁ…。いや、そりゃあるんだろうけど。

人任せな上に運任せにして、結局全然無理でしたーって…

ダメダメじゃん、俺。


「そこの者、何をしている。」


「え…俺?」


「クフィミヤン男爵…!?」


「え、男爵!?」


おっさんと二人して地面に座り込んで項垂れていると、とても神経質そうな男の声が俺たちに向けられた。

声の主は何人かの役人に囲まれながら俺たちの下へ近づいてくると、睨みつけるように見下ろしてくる。

すごい剣幕なんですけどぉ、かなり怖いぞぉ…

その男はクフィミヤン男爵と言って、ここを取り仕切っている貴族なのだとおっさんが小声で教えてくれた。

そうか、この人がドラ息子の父親か。


「えっと、この度はご愁傷様で…」


「ここは暇人が時間を潰す場所ではない。用がないなら即刻立ち去れ。」


「いえ、男爵。私たちは鬼神族の仮面の買い付けに…」


「ならば座っている暇などないだろう。交渉は時間との勝負である。それが終わったなら次の仕事へ向かうべきだ。」


「あー、それが…。必要な分が集まらなくて。」


「だからどうした。満足いく結果でなかったのなら、それは己の精進が足りなかっただけの事。これをバネに研鑽を積めば良い、俯いていても何も変わらんぞ!」


そう吐き捨てるように言ったかと思えば、取り巻きを連れて忙しそうに去って行った。

あ…嵐のような人だな、食い気味に話す嵐。

でも何か良い事言ってたし、なんだかんだ励ましてくれてたような気がする。

あんな人の息子が汚職してたなんて、何かの間違いなんじゃないかと思うくらいに印象が違うな。


「すごかっただろ?あの人いつもああなんだよ。男爵なのに俺たちみたいな平民にも普通に話しかけてくるし、あんな風に説教じみた激励まで送ってくれるんだぜ。」


「あぁ、ちょっとびっくりしたけどな。それにしてもあんまり落ち込んでいるように見えなかったよな?つい先日息子を殺されたなんて、言われたってそうは見えないぜ。」


「だな、むしろ仕事が増えただけって感じだ。いつもよりずっと忙しそうにも見えるしな。…さて、男爵の言ってた通りこのまま落ち込んでても何も始まらないし、俺はもう少し知り合いを当たってみることにするわ。兄ちゃんはそろそろ帰った方がいいな。日が暮れると城までの道は真っ暗だぞ?」


「げ、マジかよ。うーん、それじゃ今日の所はおっさんに頼むわ。また明日、朝一で来るからさ。」


「朝一に来たって何もねぇよ。来るなら昼過ぎにしてくれ、それなら荷馬車もある程度来てるだろう。」


「了解!じゃ、すまんがあとは頼む!」


「おうよ、また明日な。」


明日の積み荷に仮面が多い事を祈りつつ、俺は城へと戻ることにした。

本当なら残って何か手伝いたい所なんだが、おっさんの知り合いに会いに行くのに俺が着いて回るのも説明が必要になりそうだしそれだけ時間を食われちまうだろう。

ここはおっさんを信じて任せるしかないな。

なぁに、もしかしたら500個くらいコレクションしてる奴が居て、ポーンと売ってくれるかもしれないじゃないか。

焦るのは明日にとっておいて、今日のところは大人しく帰ろう。


「とは言っても、やっぱり不安だし。城に戻ったらノエルかセバスちゃんにそれとなく聞いてみるかな。」




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