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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 16 雑談相手



「というわけで遊びに来たぜ、レーヴ!」


「…いや、どういうわけかまったく分からないんだけど。」


仮面の件がひと段落して心にゆとりのできた俺は、お土産のタオブを持ってレーヴの店に遊びに来ていた。

うーん、昨日ぶりに来たけど特に何も変わってないな!当然だけど。

それにしてもこの薬だか植物だかの独特の匂いは癖になるぜぇ…すんすん。


「やれやれ、ここは食堂じゃないんだけどね。もしかして暇なのかい、ナユタさんは?」


「まぁまぁ、そう言うなって。それに、文句言いつつしっかりお茶を出してくれてるのはどこの誰だよー。」


「これは…まぁ、習慣みたいなものだから気にしないでくれよ。」


レーヴは俺の前にお茶の入ったカップを置くと、向かいの席に腰掛けた。

ここはレーヴの店の奥、ヴィーが寝かされていた寝台…本当は作業台らしいが、その前に座って二人でお茶をしているところだ。

ムサい男が二人、雁首揃えてお茶を啜ってる図はなかなかにシュールだな。


「へぇ、このお茶変わった味がするな。少し苦いけどなかなか飲みやすい、甘いものとかにも合いそうだな。」


「そうだろう?僕もこのお茶は気に入ってるんだ。知り合いの子に教えてもらったんだけどね、それ以来愛飲してるんだよ。」


「…その知り合いの子っていうのは、昨日来てた緑のリボンを付けた可愛い子?」


「ん?エルさんを知っているのかい?」


やっぱりそうか。

ずいぶん仲良さそうだったから絶対そうだと思ったんだよ。

昨日の会話からしてここには頻繁に出入りしてるみたいだったし、砕けた話し方から決して浅くない関係なんだろうと踏んでいた。

そっかぁ、あの子はエルちゃんっていうのかぁ。


「…で?」


「え、何がだい?」


「いや、だから…二人の馴れ初めとかそういう話を聞きたいなって。」


「…。ナユタさんには悪いけど、僕たちは君が思っているような甘酸っぱい関係じゃないよ。ただの知り合いさ。」


「えぇー、本当にござるかぁ?」


「ふぅ、やれやれ。ナユタさんはこういう話が好きなのかい?なら申し訳ないけどお役には立てそうにないな。だいたい、僕とあの子にどのくらい歳の差があると思ってるんだい?一目見れば分かると思うけどなぁ。」


あれ?一目見てそういう仲だと思ったから聞いたんだけどな。少なくともエルちゃんはレーヴの事をそういう対象として見ているように思えたんだけど。

いやでも待てよ?そもそも俺は恋する女の子の気持ちを察知できるくらいの経験値を持っていただろうか…?

あー…うん、やめよう。考えちゃダメなやつだわ。


「なーんだ、年下の可愛い彼女が居るのかと思って詮索しに来たのに当てが外れたなぁ。てっきり無骨な男の惚気話が聞けると思ったのにぃ。本当に違うのぉ?」


「…本当に違うよ。まったく、いい年した大人が働きもせずこんな所で暇つぶしなんて…、ナユタさんは実は裕福な人なのかい?」


「ぐっ、耳が痛い話だけど、18歳の男の子を捕まえていい大人はないだろう?それに俺は裕福でもなんでもない求職中の身の上だよ。」


「え?ナユタさんって思っていたより若かったんだ…。僕よりは下だろうとは思っていたけど、20歳はとっくに過ぎてると思っていたよ。これは失礼な勘違いをしていたね。うーん、あんまり人の年齢を外すことはなかったんだけどなぁ…」


「あー、うん。まぁそういう事もあるだろうぜ。俺なんかは中身が成熟してるから余計にな!はっはっはー!」


実は正解だけど、黙っておこ。

しかし、今とっさに18歳って言っちゃったけど、俺って正しくは何歳って言ったらいいんだろう?

レーヴみたいに見た目でどうこうしない人には、やっぱり中身の俺の年齢が反映されてるっぽいし…。

でも、この体は間違いなくぴちぴちの18歳だからなぁ。

あ、そっか。俺って今はシャルルの双子の弟なんだから18歳でいいのか!あぶね、これ選択肢間違えてたら後々めんどくさい事になってたかもな。


「18歳で求職中って事はご実家から追い出されでもしたのかい?…あぁ、いや、変な事を聞いてすまない。そんな話を他人に聞かれるのはあまり気分のいいものではなかったね。今の話は無かったことにしてくれるかい?」


「え?いや、俺は別に…」


「いいんだ、無理に話さなくても。誰にだって悩みはあるものだ、それに土足で踏み込むような事はしたくないから。」


「あぁ、うん。そだねー…」


「でも、ちゃんと生活は出来ているのかい?特に君のような善人にはこの世の中は生きにくいだろう?性根の腐った権力者ばかりが得をして、弱いものや優しいものが淘汰されていく。そんな外面ばかりいい悪人達がのさばるこの街では理不尽に思う事も多いだろうけど、どうかナユタさんは擦れず変わらずそのままで生きてほしい。困ったことがあれば出来る限り力を貸すから。」


ん?なんか、俺とレーヴの間ではこの街に対しての印象がだいぶ違うようだな。

レーヴからしたらこの街はそんな風に見えてるのか…。

まぁ、俺はこの街に来てまだ2日しか経ってないし、長年住んで酸いも甘いも噛み分けているレーヴと価値観が違うのは無理もないのかもしれないけど。

何だろうなぁ?急にレーヴの雰囲気が変わったような気がするというか…。

レーヴは過去に強いトラウマを植え付けられるような何かがあったのかな?それで俺の事も心配してくれた、とか?


「ありがとうな、レーヴ。とりあえず今は大丈夫だよ。仮上司の無茶ぶりにもどうにか答えられそうだし、現時点で住むところにも困ってない。概ね順調と言っていい人生を送ってるところだよ。」


「そう…。確かにナユタさんからは強かさを感じるし、嘘や強がりを言っているようにも聞こえない。きっと本当に大丈夫なんだね。…少し羨ましいよ。」


「なんだぁ?羨ましいって言うなら俺だってレーヴが羨ましいよ!あーんな可愛い子に「せ・ん・せ」なんて呼ばれちゃってさ!いいなぁ、俺も女の子から先生って呼ばれたぁい!全くどこで出会ったんだよ、あんなかわいい子。本当ーに、付き合ってないのぉ?」


「やれやれ、またその話かい?まったく、意外と乙女なんだなナユタさんは。」


「乙女の何が悪い!」


「ははは、ナユタさんは本当に面白いね。」


良かった、どうやら元の雰囲気に戻ったようだ。

さっきのレーヴ…、無念さとか憤りとか、何かいろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合ってずっと無くなる事もなく凝り固まってしまったような…変わった感じがしたからな。

正直あの雰囲気のレーヴは少し苦手だな。妙な寒気がするっていうか…。

やっぱりいろんな苦労をしてきたから、知らず知らずの内にストレスが溜まっちゃったりしてんのかな?

うーん、好きな事したり、酒飲んで愚痴ったりすれば多少は解消出来るかもしれないけど…


「レーヴさん、ご趣味は?」


「…なんだい、藪から棒に。」


「いや、何か疲れが溜まってるように見えたからさ。好きな事でもして気分転換したらいいんじゃないのかなーって。」


「そんな風に気を使ってもらうのは嬉しいけど、僕は特に疲れていないよ。ごらんのとおり、今日も店は静かだからね。忙しさとか疲労とは無縁なのさ。」


あー、そういえばこの場所って全然人通りないし、閑散としてるし…大繁盛しそうな立地には見えない、よな?

そもそも何でレーヴはこんな寂しい所に店を構えたんだ?

解呪師と薬屋の二足のわらじとは言ってたけど、どっちにしてもお客が来なきゃ意味ないだろうに。


「ん?ここってもしかして元はレーヴの家だったのか?」


「うん、そうだよ。昔は家族で住んでいたんだけど今は僕一人になったからね、余った部屋を改造して店にしたんだ。だから店の奥側は今でも僕の住まいだよ。」


なるほど、わざわざここに店を立てたんじゃなくて、ここに店を構えざるを得なかったのか。

だよなー、どうせ店を建てるならもう少し人通りのある場所にするもんな。

うーむ、他の家族がどうなったのか聞きたいけど、あんまり他人の事情を図々しく聞くのも憚られるよな。レーヴ自身、他人の事情にあんまり踏み込まないようにしているみたいだし。

そういうのは歳を食ったおばちゃんの特権だよな、俺には無理。


「あのさ、ぶっちゃけこの店って儲かってる?」


「いいや、まったく。」


「店の宣伝活動とか…」


「してないね、全然。」


「逆に聞くけど、儲ける気ある?」


「んん?そうだなぁ…。現時点でも十分生きていけてるから、これ以上お金があっても持て余す、かな。」


なんて無欲!

よぉく分かった、こいつは全く商売に向いてない!

生きていければそれでいいとか、自分が勝手にやってるだけだって言ってタダで薬あげちゃうとか、無欲な上に献身的すぎて商魂ってものがまったくない!

隠居中の爺さんならそれでもいいかもしれないけど、30そこそこの働き盛りの男がそんなんじゃ誰も嫁に来てはくれねぇぞ!

…ったく、しゃーねぇな!ここは俺がひと肌脱いでやろうじゃねぇか!


「よーし、じゃあ俺がこの店の宣伝をしてやるよ!前回はちょっと失敗したけど、宣伝する相手さえ選べばちゃんと上手くいくはずだぜ。なぁに、心配いらねぇって。大船に乗ったつもりで待ってろよ!」


「いや、結構です。」


「なんで!?」


汚名返上・名誉挽回のチャンスなのに、なぜ俺に働かせてくれない!

今回は大丈夫だって!ちゃんと宣伝する相手選ぶから滅多に失敗なんてしないって!

ちょっとだけ、先っちょだけだからさぁ。


「今のままで十分暮らしていけるからね、多くは望まないことにしているんだ。それに、お金は人を狂わせる。どんなに清廉潔白な人でも、巨額の金が手に入れば簡単に悪しき道に落ちるものさ。力もまた同じ…。だから、ほんの少し蓄えがあるくらいが僕の身の丈にはちょうどいいんだよ。」


「…そーぉ?ま、レーヴがそう言うなら余計な事はしないよ。でも、何か困ったことがあったらいつでも相談してくれよ?レーヴは俺の恩人だからな、受けた恩はちゃんと返すぜ!」


「ふ、ありがとう。僕はいい友人を持ったみたいだね。」


「おぅ、自慢していいぜ?ははは!」


「ふふ。おや、どうやらお茶が無くなったみたいだ。少し待っていてくれ、新しいのを淹れてくるよ。」


「あぁ、お構いなくー、って言い終わる前に行っちまったか…。」


本当に気の利くいい奴だよな、レーヴって男は。

うむ、でも少しネガティブ所もあるみたいだったな。

特に弱者をいたぶる様な悪人には、かなりの嫌悪感を抱いているようだった。

確かにこの行いを良しとするような奴は少ないだろうけど、それでもレーヴのそれはかなり根が深いような気がするな。

…一緒に住んでいたはずの家族が居ないのも、何か関係があったりするのかな?

やばい貴族に借金して、その形に強制労働に着かされてるとか…。いや、それだったらもっと焦ってるか。

うーむ、性根の腐った権力者…か。


「レーヴは粛清者みたいな奴と話が合うかもしれないな…ぬぁっと!?」


ぼうっと天井を見ながら独りごちていると、店とここを繋ぐ入り口からバサッっという音がした。

思わず変な声が出たのはご愛嬌。一人だと思って気を抜いていたからつい、ね。

俺は慌てて音の正体を確かめようと入口の方へ振り向くと、そこには足元に花束を落としたヴィーの姿があったのだった。



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