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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 10 優しい執事のおじいちゃん



王の間を出て改めて後ろを振り返る。

うーん、ノエルは王様と何を話しているんだろう。

夜には部屋へ来ると言っていたけど、果たしてその余力が残っているかどうか…


「それではナユタ様、お部屋までご案内いたします。」


そう言って促すこの老人はにこやかに笑いながら歩き出す。

何というか、孫に愛されてるおじいちゃんって雰囲気を醸し出してる優しそうな人だ。

いつもニコニコ絶対怒らない、孫を溺愛して家族思い…そんなイメージが勝手に脳内に形成されていく。

この、人の善さそうなオーラは荒んだ生活を送っていては絶対に出せないものだろう。

少なくとも、あの王様にいびられてるといった事はなさそうで安心した。


「ここでのお勤めは長いんですか?えっと…」


(わたくし)はセバスツァンと申します。」


「セバスチャン?」


「セバスツァンです。」


残念、執事と言えばセバスチャンというイメージがあったんだけどそう上手くはいかないようだな。

ちなみに犬といえばヨーゼフだよね。


「私はかれこれ50年になりますね。今やこのような案内など簡単な仕事しか勤まらない老骨でございますが…。」


「50年!はー、そんなに長く勤めてるなんてすごいですねー。それに簡単な仕事って言っても大事な事じゃないですか。大事なお客とかの案内も任されてるんでしょ?王様も真っ先にセバスさんの事呼んでたし、頼りにさせてる証拠ですよ。」


「ほほほ、お優しくていらっしゃるのですね、ナユタ様は。まるで陛下の若い頃を見ているようです。」


「え、王様と俺って似てるの…?人の心がわからないとか言ってたけど、優しさは持ち合わせていたのか?てか、ぶっちゃけ王様っていくつなの?今でも十分若そうに見えるんだけど。」


もし何も知らない状態であの王様を見たとき、あなたより年下ですよって言われても絶対信じる自信がある。

それだけ若すぎるんだよ、あの王様は。

童顔とか若作りとかそういうレベルの話じゃまったくない。

あんなの遺伝子レベルでどうにかしてなきゃ保てないって、絶対。


「第一王子が27歳におなりですから、陛下は今年で42歳ですね。やれやれ歳を食うわけです。もうそんなに経っていたんですねぇ。」


「へぇー……」


え?42?あれで42歳は詐欺じゃない?

てか第一子が27って事は…15歳の時の子!?

マジか。

………………まじか。


「おや、いかがなさいましたかナユタ様?」


「いえ、15歳で親になってる人もいるっていうのに俺ときたら…と思って。」


「…なるほど。ほほほ、ナユタ様もまだまだお若くていらっしゃいますから、そう焦る事でもございませんよ。それに我が国でも15歳で親になるというのはいささか早い方でございます。陛下は生まれながらにしてこの国の王となられることが決まっていたお方。ご自身もその事を踏まえた上で早めに跡継ぎをお作りになられようと思われたのでしょう。陛下は昔からこの国の事を第一に考えてくださっておられるのです。」


うん、そうだよね。

生まれ育った環境と立場が違うんだから仕様がないよね?

俺が今の今まで童貞でも何もおかしな話じゃないよね…?


「俺も絶対幸せな家庭を築いてやるんだ…。」


「えぇ、その域ですぞナユタ様。なに、若さは武器になります故大丈夫でしょう。ましてやナユタ様は魅力にあふれる優しい方、そのような方は女性の方が放っておきませんよ。」


「そ、そうかな?俺、この世界でならモテると思う?」


「えぇ、思いますとも。モテモテでございますよ。」


「セバスさんっ!」


なんていい爺さんなんだ。

ノアヴィスといいセバスツァンといい、この世界の爺さんはみんないい奴に違いない!

やっぱり若者を育てるのは理解ある先駆者様なのだ。


「さ、到着いたしましたよ。こちらが当面ナユタ様が過ごしていただくお部屋になります。この部屋にあるものはどうぞお好きに使って下さいませ。もし何か必要なものがございましたら、そちらのベルを鳴らしてくだされば係りの者が参りますので何なりとお申し付けください。」


「おー、凄い豪華な部屋だなぁ。サービスも充実し過ぎなほど充実してるし。こんな部屋にタダで泊まらせてもらえるとは…、ありがたやありがたや。」


「ほっほっほ、気に入って頂けたのなら幸いですなぁ。」


案内された部屋はかなり広く統一感のあるインテリアと揃えられたアメニティーがまるで一流ホテルの様な雰囲気を醸し出していた。

…いや、一流ホテルなんて泊まったことないんけどね。

窓も大きいし、ベッドもふかふか。

こりゃ快適に過ごすなって方が無理だわ。


「そうそう、ナユタ様。どうぞこちらをお受け取りください。」


「ん?なんだこれ?」


セバスは俺の手を優しくとったかと思えば、そこにずっしりと重みのある巾着袋を置いてにっこりとほほ笑んだ。

手の平に収まるその袋からは、金属特有のチャリっという音が鳴る。

これって…


「こちらは先ほど陛下がお約束された報酬です。どうぞお受け取りください。」


「あぁ、ありがとう。ん?でもこれって今貰っていいの?てっきり成功報酬というか、パーティーが終わってからくれるんだと思ってたよ。だってほら、俺がこれ持って逃げるって可能性もあるでしょう?」


「ほっほっほ、心配はございませんよ。その可能性はありませんから。」


「え…。いや、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、なんで断言できるんだ?可能性ならゼロとは言えないだろ?」


「陛下がそうおっしゃられましたから間違いございません。陛下の人を見る目は絶対(・・)ですので。」


そんなに?

王様だって人間なんだから、騙されたりすることもあると思うんだけど。

ま、貰う側の俺がこれ以上何か言うのも逆に疑わしいし、くれるって言うんだからありがたく貰っておこう。


「そういう事なら遠慮なく、頂戴しますよっと。」


「えぇ、えぇ、どうぞお持ちになってください。…それでは私はこれで失礼させていただきますが、ナユタ様はこれからどうされますかな?」


うーん、城の中を探検したい気持ちはあるけど、さすがに一人でウロウロするのは避けたいよなぁ。怪しまれても嫌だし。

となると探検はノエルとか誰かが付き合ってくれる時にでもするとして、今は城下町の様子でも見に行こうかな?

ちょうど昼ごろだし折角お金も貰ったから、名物料理でも探しつつ街をブラつくのも悪くないだろう。


「それじゃ俺はこれから街に出てみようと思う。ここから歩いて行ける距離だよな?」


「えぇ、可能ですよ。しかし、ふむ…。街で金貨を使うのは少しまずいかもしれませんね。」


「え?使えないのか、金貨?」


「いえいえ。使えるには使えるのですが、そのような大金を下町で使っては嫌な顔をされるでしょうね。釣銭を用意できない店もあるかもしれませんし。」


そういう事か!

日本でいうところの、子供の通うような駄菓子屋で万札出す大人…みたいな感じか。

ははーん、そりゃ嫌な顔もされるわなぁ。

嫌味なお客だと思われるのは今後の為にも避けたいところではある。


「んーと、じゃこれ全部両替した方がいいかな?」


「いえ、全てを変える必要はないでしょう。大きな買い物をされる場合もございましょうし。…失礼ながらナユタ様は、この国の硬貨の相場をご存じないのではございませんか?」


「あー、そういえばそうだ。まったくわかんないや。」


「ふむ、では少々お待ちください。」


そういうとセバスは足早に部屋を出て行った。

何だろ、両替表みたいなのを持ってきてくれたりするのかな?

セバスが戻って来るまで暇だったので、袋の中の硬貨を調べたり窓の外を眺めたりしながら時間をつぶす。

お、子供がいる。城の中にも子供はいるんだなぁ。

ぼーっと遊んでいる子供たちを見ていると、少し息を切らしたセバスが戻ってきた。

おいおい、走ったのか?

いい年なんだから走ったりすんなよ、心臓発作でも起こしたらどうすんだ。


「いやいや、お待たせして申し訳ございません。使用人の部屋はここからですと少し遠いので、些か時間が掛かってしまいました。」


「全然大丈夫だからとりあえず休んでくれよ。ほら水飲んで!自分で若くないなんて言っておいて無茶すんなよなぁ。」


「おぉ、ありがとうございます。ナユタ様は本当にお優しくていらっしゃいますね。ふぅ…。ではナユタ様、金貨を一枚こちらにお出しいただいてもよろしいでしょうか?」


セバスは机にお盆のような四角い板を置くとそこに金貨を置くように言った。

なんだ?この板に金貨を置くと魔法で両替される…とか?

うーん、よくわかんないけどセバスが言うんだから何か意味があるんだろう!

俺は袋から金貨を一枚出して言われた通り板の上に置いた。


「ありがとうございます。では改めてご説明を。まずこのクレア金貨ですが、これ一枚でクレア銀貨6枚分の価値がございます。」


そう言うとセバスは金貨の隣に白っぽい硬貨を6枚置いた。

なるほど、硬貨の説明をしてくれるのか。

セバスだって他に仕事があるだろうに、まったく人の良い爺さんだぜ。


「次にクレア銀貨一枚ですが、これはクレア銅貨12枚に相当します。」


セバスが銀貨を一枚置くと、その隣に十円玉のような色をした硬貨を12枚並べていく。

なるほどなるほど、って事は金貨1枚は銅貨72枚分ってわけか。多いな。


「そして最後にクレア銅貨一枚ですが、こちらは銭貨24枚分に相当します。」


そう言って銅貨と銭貨も同じように並べて行った。

おぉ、こうしてくれると分かりやすいなぁ。

そして当たり前だけど、小銭になればなるほどジャラジャラ細かくなるんだな。重そう…。


「街で使うのでしたら銭貨と銅貨があれば十分でしょう。日によって多少変わりますが、リンムなら一つで銭貨5枚、パンなら大体6枚から8枚といったところでしょうか。」


「リンムって?」


「召し上がったことはございませんか?こう…丸くて赤い、皮を剥くと白い果実なのですが。」


あぁ、たぶんリンゴの事だろう。

なるほど、それなら分かりやすいな。

リンゴが一個で銭貨5枚なら、銭貨1枚で大体20円くらいなのかな?

いや、日本円に換算したところで意味は無いか、たぶん相場が違うだろうし。


「ありがとうセバスさん。これなら街に出ても大丈夫そうだ。」


「ほっほっほ、礼には及びません。私も孫に教えているようで楽しかったですから。」


やっぱり孫大好きおじいちゃんなんですね、分かります。

俺の事散々優しいだのと言ってくれてたけど、そういうセバスの方が断然優しいじゃねーか。

もうかなり好きだぜ、このじいちゃん。


「ではこの金貨一枚は私が両替いたしましょう。使う分だけお持ちになって、あとはこの部屋に置いて行かれた方がよろしいですな。恥ずかしながらこの街にもスリや強盗のような輩も少なからずおりますので。」


「マジか!助かるよセバスさん。もう親しみを込めてセバスじいちゃん…略してセバスちゃんって呼ばせてもらうわ!」


「ほっほっほ、それは嬉しいですな。ではこちら…銀貨5枚と銅貨10枚、銭貨48枚です。金貨と銀貨は置いて行っても問題ないでしょう。それとこちらもどうぞ。」


「紙…?これって。」


硬貨と一緒に渡された紙を広げてみると、そこにはこの街の地図が記されていた。

おぉ、これは助かる!

ふむふむ、住宅地区と商業地区は結構ごちゃごちゃに混ざってるんだな。

街の東側は割と隙間があるな、農耕地なのか?

そんでぐるっと水路が通ってて…お、この辺りは食べ物やが密集してるみたいだ。

んじゃ今日はこの辺りを目指してウロウロしてみようかな。

ん?なんかここに手書きで書き足してあるな。

”おすすめです”…?


「なぁ、セバスちゃん。これって…?」


「あぁ、そこは私の行きつけのお店でして。ぜひナユタ様にもお立ち寄り頂きたく書かせて頂きました。」


「おー!いいね、じゃあここにも寄ってみるよ。ありがとうな、セバスちゃん!」


「ほっほっほ。」


改めてセバスにお礼を言って見送った後、金貨と銀貨を机にしまって部屋を出る。

余談だが、銅貨と銭貨が入っている袋はセバスがくれたおさがりだ。

金貨が入っていた袋は、明らかに大金を入れるような上品な作りになっていたため、日常使いには向いていないのだそうだ。

そういう細かい所にも気が付くのは、さすが執事暦50年の大ベテランだなと思う。



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