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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 9 クレアシア国王との会談



「失礼いたします。第二王女ノエル・ヴェリテ・ド・クレアシア、ただいま戻りました。」


扉を開き中に入ると、正面の玉座には青い髪を一つに束ねた俺とさして変わらなそうな若いイケメン君が座っていた。

え、あれ?真正面の立派なイスって玉座…だよね?

なんであんな若い青年が座ってるんだ?

周りの騎士や臣下らしき人たちの反応を見るにその人が王様、なの?

へー、思ってたより若いんだなー、それにやっぱイケメンですわー。

まぁ、ノエルのパパ上だし、納得の顔面偏差値ですけどね。

…いやいや、何だよこの若さ!

どう見たって10代後半から20代前半にしか見えないんですけどぉ!?

待って待って?ノエルが今17だから、どんなに若く見積もっても30過ぎなはずですよね!?

詐欺じゃん!どう見たって少年から青年に変わった辺りじゃん!!


「陛下、ただいま帰還いたしました。陛下におかれましてはご健勝の様で…」


「ほう、そこに居るのが件の異世界から来たという男か。良い、こちらに参れ。」


「…はい。」


おいおい、ノエルの挨拶は無視ですかパパ上野郎?

こんな可愛い娘がわざわざ会いに来たっていうのに、ずいぶんな反応じゃねーか。

世の中の娘に蔑ろにされてるすべてのお父さんに謝れ。

こんな娘を持っただけでも贅沢なんだぞ?わかってねぇな?

…言いたい事はたくさんあったのだが、ここでいきなり説教するほど俺は空気の読めない男ではないので大人しく側まで行き王の前で膝をつく。


「ふむ、話に聞いていた通りシャルルの体で生きているのか…実に面白い。だが、それ以外はつまらぬ男よな。秀でた才能がある訳でもなく、強い野心がある訳でもない。どこにでも居る平凡を体現させたような男よ。」


何か会って早々かなりディスられてませんか?

まだここに来て「はい」しか言ってないのに随分な言われようだ。

お前に俺の何がわかるってんだよ、あぁ?

…とは言っても全部その通りだから何も言い返せないんだけどね。

なんだろな、この全部を見透かされているような感覚は。


「…ふん、反論もせぬか。ここで憤りを見せるくらいの甲斐性もあれば、余ももう少し楽しめたという物を。」


…別に改めて訂正するようなことでもないし、ここで怒って不敬罪で打ち首にされても困るし…第一この男を楽しませるためにここまで来たわけじゃないですからー!

はーい、残念でしたぁ。

ま、ここはあえて空気を読まずに沈黙を貫くけど。


「まぁ良い。シャルルの皮を被りし異世界の住人よ。そなたに仕事を与える。なに、難しい事ではない。そなたには邪竜を倒した英雄、シャルルとしてこの城で過ごしてもらうだけで良い。」


「…は?」


「三日後、この城で各国の代表者を集めたパーティーを開く予定だ。邪竜の討伐成功をその場で正式に公表するためのな。その際、討伐者不在では締まらぬからな、そなたには勇者シャルルとして参加してもらう。その体はシャルルのものなのだ、それを使うものとしては当然の責務と言えよう?」


「何、言って…」


「案ずるな、未来永劫シャルルとして生きよとは言わん。折を見てシャルルは邪竜の呪いで死んだものとする。それ以後はそなたの自由に生きよ、もちろん顔は変えてもらうがな。褒美についても考えておるぞ?一生困らぬくらいには取らせてやろう、それを持ってどこへなりとも行くがいい。」


さっきから声が遠く聞こえる。

コイツはいったい何を言っている…?

おい…

おい!本当にコイツは何を言っているんだ!!

シャルルの代わり?折を見て死んだことにする!?人を馬鹿にするのも大概にしろってんだ!

だいたい邪竜は死んでないかもしれないって話になったんじゃなかったのか!?

そんな不確定な平和をこの街の人に、世界の人に信じろって言うのかよ!?

ふざけやがって…


「舐めた事言ってんじゃ…」


「これは何のお戯れでしょうか、陛下?」


俺が怒鳴り散らしてやろうと声を荒げた矢先、今まで黙っていたノエルがひどく冷たく、しかし強い口調でそう言い放った。

こんなに怒ってるノエルを見るのは初めてだ。

依然として膝をついたままではあるが、それでもノエルから発せられるこの威圧感は全く霞むことなく真っ直ぐ王に向かっていた。

な、なんだこれ。もしかして壮大な親子喧嘩が始まるのか…?


「…何を怒っている?この者に余の提案を聞かせていたに過ぎないであろう?もちろん此奴には願ってもない話であろうがな。何しろシャルルとして振舞うだけで良いのだ、こんなに楽な仕事はあるまい。それとも報酬の話か?余は役立つ者にはそれ相応の褒美を取らせるようにしている、それは知っておろう?余の言葉に二言はない、必ずや此奴の欲望を満たすほどの財を与えると約束しよう。」


「そういう話をしているのではありません、陛下。」


「…ならばどういう話をしているというのだ。」


「それでは恐れながら、お話しさせていただきます。まず最初に異世界からの来訪者たる彼に対してあまりに礼を欠く発言が多すぎます。言うなれば彼は我が国に訪れし客人。その方に対してなんですか、あの人の皮を被った魔物のような言い草は。あれでは言われた側はもちろん聞いた側も不愉快です。次に邪竜の件ですが、シュヴァリエ辺境伯の屋敷にて私たちは邪竜と思しき姿のものと交戦しています。その報告は既にお耳に入っているはずですが?もしそれを無視してのお考えであるのなら即刻改めて頂きたく存じます。そして彼の事ですが。彼はナユタです。彼がシャルル様として生きたことなど一瞬たりともありませんでしたし今後もありません、させません(・・・・・)。彼はあくまで偶発的に、本人の意思とは関係なくこちらに連れてこられてしまっただけの最大の被害者です。それをなんですか、こちらの都合のいい時だけシャルル様のフリをさせ終われば顔を変えて立ち去れ?失礼ですが、陛下におかれましては人権という言葉をご存じではないのでしょうか?あまりに非礼が過ぎるので(わたくし)は一瞬眩暈を覚えたほどです。」


「…以上か?」


「まだ申し上げても?」


「いや、もういい。」


長文、あまりに長文すぎますよノエルさん!

息継ぎしてました?気のせいか一息で今のセリフを言っていたような気がするんですけど。

あまりのマシンガントークに俺も、たぶん王様も呆気にとられ口を挟む事ができなかった。

なんだこの強気なノエルは…。

さっきまで偉そうにしていたはずの王まで、なにやら疲れたように眉間を抑えている。

何か、最初の印象とだいぶ違うんですけど…。

二人の意味で。


「そんなにか…?」


「そんなに、ですね。」


「…。わかった、この話は無かったものとする。ナユタ、といったか?そなたも我が娘と同意見か?」


「え?あぁ、まぁ概ね。」


「そうか…。」


俺の答えを聞いた王様は、眉間に深く皺を寄せると考えるように腕を組んで首をかしげた。

えぇっと?さっきの話は全面的に無かったことになった…でいいの?

ちょぉっと急展開を迎えたようであんまり着いていけてないんですけど…


「ふむ、ではこうしよう。邪竜の体は討伐に成功したものの力の封印までは及ばなかった。謎の邪竜もどきに関しては、今後とも各国と力を合わせ調査及び討伐を目指し邁進する。今回のパーティーはそういった趣旨の下行い、シャルルは邪竜との戦闘の末命を落とした。これならばどうだ?」


「よろしのではないかと。」


「うむ、ではこれで行くとしよう。大臣、そのようにせよ。」


「はっ。」


脇に控えていた大臣さんは、返事をするとすぐにどこかへ行ってしまった。

丸く収まった…のか?


「…して、ナユタ。そなたは今後どうするつもりだ?お前の姿を見れば、誰しもがお前をシャルルだと思うだろう。その時そなたはどう説明する?」


「あ、俺は既にユエル家に身分を証明してもらってます。なので今後はシャルルの双子の弟として生きていくつもりです。」


そう言って俺は首から下げている紋章を王様に見せた。

リュカが俺を想って作ってくれたこの世界での俺の身分。

大切な絆の結晶だ。


「ほう、そうか。またつまらぬ生き方を選んだものだ。いっその事顔を隠し騎士団にでも飛び込めばまだマシな…」


「陛下…?」


「…これもダメか。はぁ、今言った事は忘れよ。」


「あー、はい。それはいいんですけど…。その、さっきからずいぶん気軽に発言の撤回をされてますが、いいんですか、それ?」


最初こそ横暴で庶民の気持ちを理解しない暴君のような雰囲気を醸し出していたのに、今となっては足を組んで座り頬杖をついて手をひらひらとつまらなそうに揺らしている我儘なお坊ちゃまに見える。

ノエルがズバズバと王様にツッコミを入れてる時は心臓が止まるかと思ったくらい焦ったっていうのに、この王様ときたら怒るどころか簡単に許容しちゃうし!

なんなんだこの人、本当にこの国で一番偉い人…なんだよな?


「別に珍しい事でもない。余は昔から人の心が分からぬのでな、こうして我が考えを口にし反論があるのならそれを認めている。ただそれだけのことよ。」


「で、でも、そうなると臣下の思い通りに(まつりごと)を進められてしまうのでは?」


「ほう、そなた思っていたよりも頭が回るではないか。王政にも精通しているのか?異世界の知識というのも馬鹿には出来んというわけか。…なに、答えは簡単だ。余は余に仇なすような臣下を側には置かぬ。故に臣下の意見を取り入れても問題ないということだ。余の意向を曲げるのは構わん、むしろそのままでは民を苦しめる結果となろう。しかし、我欲の為に口を開こうものならその首を刎ねる。それだけの事よ。余はそうやって政を行ってきたのだ。結果は…言うまでも無かろう?」


「確かに街は活気があって人々も生き生きしていますが…。それならば、その…」


「よい、申せ。」


「えっと、臣下の意見を採用するのなら…王様は、要らないんじゃないかなーなんて…」


「ふん、よくも余を前にして恐れずそのような事が言えたものよ。それは称賛に値しよう。王は必要だ。なぜなら民の声を聴き、臣下の声を聴き、そのうえで選択するのは王たる余であるのだからな。そして余はその選択を誤らない。この国が繁栄していることが何よりの証拠だ。」


す、すごい自信だ。

間違えない…なんてよく言えるな。さっきは発言を間違えたから撤回したんだろうに。

いや、間違えないのはあくまで選択…か。

いつだって正しい道を選べるのなら、そんな頼もしい王様もいないだろうけど。


「でも、その臣下の意見が我欲かどうかってどうやって見極めるんですか?」


「はぁ、まったく次から次へと。貴様はすべての疑問に必ず答えが返ってくると思っているのか?余はこれでも忙しい。貴様の好奇心にいちいち付き合ってなどおれんわ。」


おっと、どうやら聞きすぎてしまったようだ。

明らかに機嫌が悪くなった顔をして王様は俺を睨みつけている。

王様要らない発言にはむしろ上機嫌だったのに…分からん人だ。

しかしなんでだろう?最初ほどの恐怖や緊張は全くない。

何となくだけど、この王様は理不尽に権力を行使するようなタイプじゃないような気がするんだよな。

言葉選びは最悪だし態度も横暴だけど、筋の通ったいい王様なんだと思う。

さっき本人が言っていた通り、街の様子を見てもそれは明らかだ。


「えーっと。では、俺はこれで失礼させてもらうって事でいい…んですよね?」


前言は撤回されたし、俺がシャルルとしてパーティーに参加しなくていいのならここに居る必要もないはずだ。

なんか王様も不機嫌そうだし、何より隣のノエルが疲れてるみたいだから出来るだけ早くここを立ち去りたい。


「いや、待て。そなたユエル家に属したと言っていたな?シャルルの双子の弟になった、と。」


「え、まぁそうですけど。それが何か…?」


「ふむ…。ではナユタよ、そなたには3日後のパーティーへの参加を命ずる。兄の名代として立派にその務めを果たしてみせよ。」


「は、はぁ!?なんで…、さっき撤回するって言ったじゃないですか!」


「シャルルとしての参加を撤回したのだ。ナユタとしてなら問題ないのだろう?シャルルもユエルの家に連なるものだ、本人は居ないにしてもそのかわりは必要であろう。ユエルの家から名代を立てようと思っていたが、そなたならすべての条件を満たすではないか。文字通り、血のつながった弟なのだからな。」


「いや、でもやっぱりそれは…」


「…。話は変わるがそなた、今後の生活はどうするつもりなのだ?」


「へ?」


「今後の生計をどう立てるつもりなのだと聞いている。シャルルのようにギルドに所属するのか?それともユエルの家を頼ってこの街を出るのか?」


そういえば、何にも考えてなかった。

王都に呼ばれて話が済んだらシュヴァリエの所に戻るつもりでいたけど、今思えばそれも変な話だよな…。

あれ?俺ってもしかして、この世界ではニートなのでは。


「そ、それは追々考えて行こうかと…。」


「追々?…ふむ。余の勘違いでなければそなた、一文無しなのではないのか?」


「ギクッ!」


「加えてこの街に知り合いも居ないであろう。はて?今夜はどこで過ごすつもりだったのか。」


「ぐっ、確かに…。」


「陛下、彼は私の友人でもあります。少なくともこの街に居る間の身の保証は私が引き受けるつもりです。」


「ノエル…」


さすが優しさの塊であるところのノエルさんや。

あまりの優しさに土下座したくなるぜ。

出来るだけ早く独り立ちするから、その間だけお願いします!

…なんか彼女に養われてるヒモ感あふれるシチュエーションな気もするが、この際目を瞑ろう。

ついでにノエルの後ろで嫌そうな顔をしてるリアにも目を瞑ろう。


「ほう、ではそなたは衣食住を我が娘に頼り、且つ雑費まで出させるつもりというわけだな?」


「なっ!?それはさすがに…」


「しかしこの街で生きるというのならそれなりに必要であろう?それともこの城から一歩も出ず部屋にこもって無為な時間を過ごすか?独り立ちをするつもりであるというのに?」


ド正論ぶちかましてくるじゃねーか。

確かに街に出て仕事を探すにしても、ユエルの家を頼って行くにしても先立つものが何もないと動けない…!

くっ、これじゃ本当にヒモになっちまうじゃねーか!

ノエルはそれでもいいと言ってくれるだろうけど、そんなの俺が無理だ。絶対にっ!

ど、どうしよう…。


「そこで余からの提案である。」


「へ…?」


「シャルルの弟であるナユタよ。3日後に行われるパーティーに参加せよ。さすればそれまでの衣食住はもちろん、報酬としてクレア金貨10枚を与えよう。当面の活動資金としては十分な金額のはずだ。」


「金貨10枚…」


正直それがどのくらいの金額なのかは分からなかったけど、ちらりと見たノエルの驚いた顔を見るに結構な金額なのだと思う。

うーむ、正直これ以上ないくらいの好条件だ。

俺が今必要なものがすべて与えられるわけだからな。


だがしかし、だからこそ疑問を禁じ得ない。

どうしてそこまでして俺をパーティーに参加させたがるんだ?

シャルルの名代としてなら、確かに俺は適役だろう。シャルルと同じ顔をした俺が居れば、さぞ会場は盛り上がるだろうさ。


しかし、俺はシャルルについてほとんど知らないに等しいんだぞ?そんな俺が、英雄シャルルの代わりに参加して何を話せっていうんだ。

壁の花じゃあるまいし、そのまま立っているだけで良いってわけでもないだろう。

パーティーに参加する人たちが会いたいのはあくまでもシャルルだ、そっくりさんの俺じゃない。

むしろ俺と話すことによってガッカリする人も出てくるんじゃないのか?


うーん、考えれば考えるほど、俺が参加して得るものは何もないんじゃないかと思うんだが?

むしろデメリットの方が多くないか?

この王様は俺に何をさせたいんだろう…


「どうした?何を悩むことがある。決して悪い話ではなかろう?」


「…悪い話じゃないから警戒してるんっすけどね。」


「ほう、ではやめるか?」


「………。いや、謹んでお受けします。どうかよろしくお願いします。」


「うむ、許す。ではその時まで自由に過ごすがいい。じぃ、ナユタを部屋へ案内してやれ。」


王様がそう言うと、どこからか現れた執事のような老人が丁寧な口調で部屋まで案内してくれるという。

その対応はまるで、どこかの国の王子にでもなったかのような錯覚を起こすほどだ。

考えた末の結論とはいえ、ここまで丁寧に扱われるとなんか調子が狂うんだよなぁ…


「それでは陛下、私たちもこれで失礼致します。」


「まて、我が娘よ。そなたにはまだ聞きたいことがある。このまま残って報告せよ。」


「………はい。ごめんねナユタ、そういう訳だから。夜までには部屋に行けると思うから、その時いろいろ話しましょう?今後の事とか…、ね?」


「あ、あぁ、分かった。」


ノエルは疲れた様子を隠すように笑ったが、残念ながらそのオーラまでは隠す事が出来なかったようだ。

どうもノエルはこの王様が本当に苦手なようだ。

少し話しただけでも理解できる癖のあるこの男が、生まれた時からそばに居たんじゃそうもなるよなぁ。

そんな様子のノエルを残していくのは忍びないんだが、どうやら王様は俺の退出を待っているようなので足早にこの場を後にする。

薄情でごめんな、ノエル。

…生きて戻れよ!



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