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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 8 クレアシア王国王都 オロール



―――――初めまして、ナユタ やっと―――なりま―――


ん…

なんだ、ここ?真っ暗だな…

この声、どこから聞こえるんだ?



―――――ナユタ、私は―――、あの 竜――――


え?

待ってくれ、良く聞こえないんだが…

あんたはどこに居るんだ?



―――――お願――あの人、―――と――助け―――


助けて…?

あの人って誰だよ。

何の話をしてるんだ?

待てって、もう少しで何か見えそうなん気が…


「もう!何度言えば起きるのですか!?あーさーなーのーでーすーよっ!いい加減に起きるです!!」


「…………おはよう幼女、今日もリアしてるな。」


「寝ぼけてないで早く下りてくるのです!姫様を待たせるなんて万死に値するのですよ?」


ぼーっと頭を掻いている内にリアは呆れて下に降りて行ってしまう。

はて、さっきの夢は何だったんだろう?

どこかで聞いたことのある声だったような…、あれ、何て言ってたっけ?

んー、と…


「ナユター?早く来ないとナユタのご飯食べちゃうよー?」


「うぇ!?ちょ、ちょっと待ってなー?」


急げ急げ!

ノエルが俺の分の飯を食べるなんてことはないだろうけど、怒ったリアが没収する可能性は非常に高い!

さっきだって結構なお怒り具合だったし…

俺は慌てて毛布をたたみ、バタバタと下に降りて行った。


「おはよう、ノエル。待たせてごめんな?」


「いいえ、大丈夫よ。…あ。ふふ、食事の前に顔を洗った方がいいみたいね。私の事は気にしないで、さっぱりしてくるといいわ。」


「むぅ、姫様がそうおっしゃるのなら仕方ないのです。3秒で仕度してくるがいいのです!さぁ、早く!!」


リアに急かされるまま俺は風呂場に向かい、備え付けられ洗面台で顔を洗った。

ついでに髪も整えようと触れてみると、なんということでしょう、とんでもない寝癖が付いているではありませんかー。

くっ、さっきノエルが笑ってたのはこの事か!鏡が無いせいで全く気付かなかったじゃねーか!

髪にしっかり水を含ませて頑固な寝癖をやっつけてからノエルの下へ戻った。


「お待たせ。まったく頑固な寝癖野郎だったぜ。」


「くすくす、あれはあれで可愛かったわよ?」


「寝癖がか?はー、女の子の可愛いは良く分からんですなー。」


「ふふふ、ナユタったらおじいさんみたいなしゃべる方ね。」


「あー?何か言いましたかのぉ、ノエルさんや?」


「あははは!やめて、ナユタ。面白すぎるわ。」


「まったく面白い冗談なのです。おじいさんならもっと早起きするものなのです、まったく…。」


料理を運んでくるリアは文句を言いつつも次々と料理をテーブルに置いていく。

お、おい、朝食にしては量が多いんじゃないか…?


「あー、起こしてくれてありがとうな、リア。あと朝食の準備も…こんなに。」


「姫様の手を煩わせるわけにはいかなかったから、苦渋の選択だったのです。でなければ誰が好き好んであなたを起こしに行くっていうのですか?それに朝食も、です。すべては姫様の為に。あなたの分はあくまでついでなのですよ。」


そう言い終わる頃にはすべての料理がテーブルに並んでいて、当のリアはグラスに水を注いでいた。

うーむ、さすが出来る子。抜かりないぜ。


「んじゃ頂きまーす。」


「あ、トマテは…」


「ん?」


俺がトマトのような赤い野菜を食べようとフォークを突き立てると、なぜかノエルが止めようとする。

なんだろ?もしかしてノエルはこれが好物なのか?


「あ、ごめんなさい。つい間違えてしまったわ…。」


「え?いや、別にいいけど。…好物なの?いる?」


「んっと、違くて…。あの、気分を悪くしてしまったらごめんなさい。私、まだ少し寝ぼけていたみたいで…。トマテはシャルル様がお嫌いな野菜だったから…。」


あー、なるほどそういう事か。

嫌いだったはずの野菜を食べようとしたから、驚いて止めようとしてくれたわけね。

オーケー、理解した。

申し訳なさそうにしょげているノエルを横目に、俺はフォークに刺したトマテを口に運ぶ。

ふむ、やっぱり味も見た目もトマトだな。

しいて言えば若干こちらの方が青臭さが強いような気もするが…


「もぐもぐ…。うん、俺はトマテ大丈夫だな!酸っぱさの中に甘さがあって瑞々しくて美味いよ。これが食べられないなんて、シャルルは意外とお子様舌だったのか?」


ふざけたようにそう言うと、ノエルの顔に笑顔が戻った。

良かった、変に気を使われるのも嫌だしな。

俺の前でシャルルの話はタブーだとか思われても困るし出来るだけ何でもないように笑ってみせると、ノエルも安心したように食事を始めた。

しかし、そうか…

王都に行けば、こういう事も増えるんだろうか?

シャルルはこうだった、シャルルならこうするああするって言われる事になるかもしれないと思うとちょっとだけ気が滅入った。


「姫様、シャルルって誰なのですか?なぜその人が嫌いなものをこの男が食べようとするのが不思議なのですか?」


「ん、なんだ?リアはシャルルと面識ないのか?ははーん、だから俺と会った時も特に反応しなかったのか。」


いままではシャルルの知り合いばかりと会ってきたから、初対面で俺の事シャルルって言わなかったのはコイツが初めてだったんだよな。

しかしなるほど、知らなかったんなら納得だ。そりゃ間違いようもないよな、初対面なんだから。

…え?初対面で何も言ってこなかったのは御者の方が先じゃないかって?

馬鹿野郎、アイツ等は仮面被ってる上に基本雑談は無視してくるんだからノーカンだよ!


「…いえ、リアは私と一緒にシャルル様と何度もお会いしているわ。ただ…」


ただ?

その後の言葉がなかなか続かないみたいだけど、どうしたんだ?

…、まさか!リアは昔の記憶を無くしてる、とか?

うわ、もしかしてリアの隠したい事ってこれなのか?

やべぇ、間接的とはいえリアが隠したい事しっちゃったかも!?

俺は恐る恐るリアの表情を窺ってみる。


「あぁ、そうなのですね。リア、姫様以外の人は師匠くらいしかお顔と名前を覚えていないので全然知らなかったのです。」


「…は?マジで言ってるの?じゃあ何、俺の名前を頑なに呼ばないのは単純に覚える気がないからなの?」


「覚える必要もないので。」


さも当然みたいな顔でひどい事言われたー!

マジかよ、今のはかなり傷ついたぞ。

確かに言われたけど!明日までの短い付き合いがどうとかって言われたけど!!

まさか本当に俺の事忘れる気でいたなんて思わないじゃん!

え?本気で覚える気ないのか…?

いや、いままでそうしてきたんだから俺だけ例外なわけないですよね!

つか、コイツの世界狭すぎるだろ!

このまま成長したら絶対にダメな気がする、てかダメだよ!


「な、なぁ。さすがにノエルと師匠だけっていうのは嘘だろ?他にも覚えている奴は居るんだよな?」


「……………………………………………………………、陛下のお顔なら…薄らと…たぶん、見れば。」


ダメだこいつ!

こんなに考えておいて自国の王、且つノエルの父親ですらギリってもうとんでもねぇよ。

俺の顔を覚えるよりも先にそっちを優先させないと、いつか不敬罪とかで死ぬぞお前。


「あー、ノエルさんや。俺が言うのも変な話なんだけどさ、リアの事よろしく頼むな…?」


「えぇ。私も今、改めて考えなければいけないのだと思ったわ。このままじゃ危ないわ、いろいろと。」


「?」


リアは何の事か分かっていないように首をかしげている。

ま、今後ノエルからいろいろ言われることになるだろうが、大好きな姫様からの言いつけなら頑張れるだろう。


思わぬ事実を知りなかなか食事が喉を通らなかったが、とりあえず俺たちは食事を済ませ身支度を整えると馬車へと戻ることにした。

窓から外の様子を見ると、どうやらちょうど日が昇り始めたようだ。

御者の二人も当然起きていて、一度馬車の中を確認したかと思えば短く出発することを告げた。

まったく無愛想で嫌になるが、二人が見張りをしていたおかげで無事に朝を迎える事ができたのも事実なのでとやかく考えるのはやめて素直に出発を喜ぶことにしよう。


その後、馬車は何事もなく順調に王都への道を進んでいき、俺がノエルたちと楽しく雑談をしている内にいつの間にか王都の城壁へと到着したのだった。

ノエルの言っていた通り、昼前に着いたな。

高い城壁のせいで中の様子は分からないけど、この検問を通れば晴れて王都の中というわけだ。

オラわくわくしてきたぞぉ。


「珍しいわね。王家の紋章が着いた車を止めるなんて。何かあったのかしら?」


検問で待っているとノエルがそんなことをつぶやいた。

ノエルが言うには、普段なら顔パスで待たされることなく王都に入る事ができるのだそうだ。

それが今日に限って御者と検問官が長々と話をしている。

予定より到着が遅れたから揉めてんのかな?


「あ、やっと動けるみたいなのですよ。ようやく着きましたのですね、姫様。」


「えぇ、そうね。…迎えに来てくれてありがとうね、リア。」


「滅相もないのです!リアはただ、少しでも早く姫様とお会いしたかっただけなのです。」


「ふふ、私もよ。…あ、見てナユタ。あれが我がクレアシア王国のオロール城よ。」


「うわぁ、すっげぇ綺麗な城なんだな…。」


俺の持つ海外の城のイメージは某ランドの灰かぶり城くらいなのでだいぶ貧相な知識しか持っていないんだが、そんな俺でさえこの城が類を見ないほどの美しさなのはわかった。

まさに、絵にも描けない美しさってやつだな。

そしてやっぱり城下町より少し高い所にあるんだなぁ、見上げる首が痛いぜ。


それにしても今からあそこに行くのかと思と変な汗を掻いてくるなぁ…

はっ、いかんいかん!いまからこんなに緊張してたら身が持たんぞっ。

もっと別の事を考えなくては…そうだ、街の様子でも見て気分を落ち着かせよう!

どれどれー。

…あ、あの緑のリボン付けた子可愛い。…お、八百屋だ。…ん?なんだあのマーク。もしかしてあれがギルドか?

はー、それにしてもこの城下町…と言っていいのか分かんないけど、かなり活気があっていい感じだなぁ!

思えばこの世界に来てからこんなに人が居るのを見るのは初めてだが…うんうん、どんなに世界が変わっても人の営みってのはそう大きく変わらないもんだ。

武具屋や宿屋が多く見れるのは王都ならではなのかもしれないけど、それでもここで生活している人たちは俺が居た世界の人間とほとんど変わらない…いやむしろ、こっちの世界の人の方がなんか活き活きしているように見えるなぁ。

元気にニコニコ働いてて、見てるこっちも気分がいいぜ。


「楽しそうね、ナユタ。何かいいものでもあった?」


「んー、いや。何て言うか元気な街だなーって思ってさ。色んな人たちが一生懸命働いてて、子供たちも楽しそうに遊びまわってて、そう言うのってなんかいいなってさ。」


「何を年寄みたいなことを言っているのです。隠居するにはまだ早いのですから、あなたもキリキリ働くのですよ!」


「へいへい、働き者のリアさんに負けないように頑張りますよーと。」


「ふふん、当然なのです!」


自慢げに胸を張るリアと、それを楽しげに見ているノエル。

柔らかい時間にしみじみと幸せを感じる。

…あぁ、寂しいなぁ。二人とはもうすぐお別れなのか。

一生会えなくなるわけじゃないにしても、ノエルは姫様だしリアはその側近だし、気軽に会いにはいけないよな…

手紙とか書いたら返事出してくれるかな?


「あ、やっと着いたみたいなのです。長旅お疲れ様なのです、姫様。」


「…えぇ。でも私はこれからが頑張り時だわ。ナユタも…、何かあったら必ず私に知らせてね?困った時は必ず助けに行くから。」


俺の両肩に手を置いて力強く言い放つノエル。

やだ、ノエルったらイケメン過ぎっ!思わず胸がときめいちゃったわよ!


「あ、ありがとうノエル。俺も…出来る事少ないけど、何かあったら頼って欲しい。全力を持ってそれに答える準備は出来てるから!」


「ありがとう。たぶんナユタの力を借りることは多いと思うから、よろしく…お願いします!」


「おう、任せておけっ!…なんか、まだ馬車から降りたわけでもないのに別れの挨拶しちゃって恥ずかしいな?」


「ふふ、確かにそうね。」


ノエルと笑い合っている内にいつの間にか城内へ入っていたようで、ゆっくり停車したかと思えば外からドアが開けられる。

馬車を降りるとそこには使用人たちがズラーッ…ってあれ?誰も居ない?


「私はこのままナユタを連れて陛下の下へ向かいます。あなたたちはそのまま戻って構いません、お疲れ様でした。」


「はっ。…殿下、先ほど街に入る際耳にしたのですが、昨晩例の”粛清者(しゅくせいしゃ)”の動きがあったようで…。」


「そう…ですか。分かりました、十分に注意しましょう。…下がって構いません。」


御者の二人は無言で頭を下げるとそのままこの場を後にした。

はて、粛清者?

聞き慣れない単語だな、ノエルは気を付けると言っていたし…危ないもんなのか?


「ではナユタ、行きましょうか。疲れているでしょうけど、というかこの後さらに疲れる事になるでしょうけど、嫌でも陛下への謁見は早めに済ませてしまった方がいいと思うわ。」


「まぁ、早めに済ませるのには賛成なんだけどさ。なんつーか、そんな言い方して大丈夫なのか?不敬だーって言われたりしない?」


「そうね…、誰かが聞いていたら怒られるかもしれないけど。今は私たちしかいないのだから大丈夫よ。さ、こっちよ。」


おやおや、規律やら礼儀やらに厳しそうなノエルなのにこんなことも言うんだなぁ。

父親に対して反抗的な思春期の女子みたいなところが残ってたりするのだろうか?

それにしても…歩くのが早い!

本当にさっさと済ませたいといった感じがひしひしと伝わってくるぞぉ。

城内の細かな装飾とか、中庭の美しさとかそんなのは後で見ればいいと言わんばかりの高速移動だ。

もはやこれは競歩なのでは?

まったく疲れを感じさせない強靭な足腰をお持ちなのですね、姫様!

つーか驚くべきなのは、これを誰も咎めない上にこの速度にリアが着いて来ていることだ。

なにコイツ、チビの癖に何でこんなに早いんだ!?


「ふー、ここが王の間よ。扉の前に騎士が居ないから陛下はまだ中に居るのね…、んん、いらっしゃると思いますのでさっさと済ませに参りましょう。」


言い直せてないです姫様、さっさとって言っちゃってます。

ノエルがこんなに露骨に嫌そうな雰囲気を出すっていったいどんな奴なの?

この国の王様なんだよね?大丈夫かな、俺。

出来るだけ波風立てないように、ひっそりと乗り切れるよう頑張ろう…。




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