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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 33 そして王都へ



残された俺はどうにも落ち着かなくてなんだかこのままだと眠れそうになかったから、とりあえず呑気にお茶を飲んいるシュヴァリエに話を聞いてみようと思う。

よく考えてみれば、この屋敷の主にしてこの辺りの領地を治めているというなかなかに高い身分であるこの男と二人っきりで話をするというのはこれが初めてじゃないか?

いや、今更緊張も何もないんだけど、改めて話をするとなると何を話たらいいのか分からなくなるものだな…

この男、俺がこの屋敷で出会った誰よりもキャラが薄いと思っていたのだけれど、どうにも先ほどのやり取りから察するにそんなことはないように思える。

むしろ他の奴らが濃すぎたんだよな。

一国の姫君であるノエル。

国を代表する魔術師、大賢者ノアヴィス。

国王、延いてはこの国そのものの守りを任されている騎士団の頂点、騎士団長ジーク。

そして俺個人と深い関わりのあるリュカとその従者であるアンリ。

どれをとっても強い個性を放つ人物ばかりの中、この面々をまとめる役割に徹していたシュヴァリエをキャラが薄いと思ってしまうのは致し方ないと言えるだろう。

ま、普通に考えて辺境伯にまで登りつめている男が凡夫であるわけがないんだけど。


さて、それを踏まえた上で何を話したらいいものか。

さっきの口ぶりから察するに、どうもあのノエルの反応に何か心当たりが有りそうではなんだけど…。

それを素直に教えてくれるようなただの善人ではないんだろうな。

うーむ、となると今聞きたい事で答えてくれそうなのは…


「さっきの使い魔ってノアヴィスのなんだろ?どうしてそれが王様からの伝言を伝えにくるんだ?」


「ふむ、そうですね。簡潔にお話ししますと、ノアヴィス様を含めた七長老は大聖教会という女神ツェリアを祀る組織に所属しておりその運営と管理を行っています。この大聖教会という組織にはこの世界の人族のほとんどが関わりを持っている為、かなりの力を所持していると言えます。それ故七長老は強大な力を争いごとに使わぬよう王家に忠誠を誓っているのです。普段から力を貸す代わりに戦争などの争い事には手を貸さない、それが三国の王家と大聖教会が結んだ取り決めです。ですので今回のような陛下からの勅命を使い魔を通じて伝えたりしているのですね。」


なるほど、大聖教会と王家の間に協定が結ばれているからノアヴィスは配下でもないのに王様に力を貸しているのか。

この世界のほとんどの人が少なからず関わってるんならそりゃ膨大な力だもんな。

それらを利用せず利用させずにいる為には、こうして適度な距離を保つのが一番いいってわけか。

もし大聖教会が独立するなんて言い出したら王家としてもただ事じゃないし、この協定は願ってもない話だったのかもな。


「んー、つまり。ノアヴィスは俺の事を王様に報告して、それを聞いた王様が俺と話してみたくなった…って事なのかな?」


「…そう、ですね。一概には言えませんが、だいたい合っているのではないでしょうか?」


「なんだよ、ずいぶん含みのある言い方するじゃねぇか。…やっぱ何かあるのかな?」


「それは行ってみなければわかりませんね。何、悪いようにはならないでしょうから観光でもするつもりで行かれると良い。」


「本当かよ…。」


正直ノエルの反応を見てから変な胸騒ぎがするんだよな。

いきなり殺されるなんてことはない…と思いたいけど、何か良くないことが起こる様な気がする。

こんな気持ちで観光気分になんて浸れるかっての。


そんな不安が顔に出ていたのか、お茶を飲んでいたシュヴァリエが再度口を開いた。


「少なくともそれ(・・)を身に着けていれば大概の事は大丈夫でしょう。下手に貴族を刺激することは何者でも避けたいでしょうからね。」


そう言ってシュヴァリエは俺の目を見ながら自分の胸元をトントンと叩いた。

思わず俺も自分の胸元に手をやると、チャリっと音を立てる冷たい金属が指に触れる。

今朝、リュカがくれた紋章のペンダントだ。


「それはユエル家に属する者だけが身に着けることを許されるユエル家の紋章です。余程の痴れ者でもない限り、あなたに手出ししようとする者は居ないでしょう。」


「これ、そんなに有名なのか?」


「そうですね、この国にいる内は問題の方からあなたを避けてくれることでしょう。」


マジか。

実は滅茶苦茶いいもの貰ったんじゃね?

これで水戸黄門ごっこが出来るじゃねーか!夢が広がる無限大っ!

…いや、やらないけどね。


「そっか…。やっぱりユエルの家にはちゃんとお礼しに行かないといけないな。ブリュムド領だっけ?王都からは近いのかな?」


「ふむ。馬車なら一日、早馬なら半日といったところでしょうか?」


「…麒麟なら?」


「麒麟?…あぁ、ジーク殿が乗っていたからですね?あれなら半時と掛からないでしょうな。もっとも、麒麟は乗るものを選びますから使えるかどうかは素質次第ですが。」


えー、そうなのか。

麒麟に乗って颯爽と空を駆けてみたかったのに、こりゃ望み薄だな。

いや、この体は勇者のものだしワンチャンあるか…?


「さ、おしゃべりはこの辺りにして私も失礼させていただきます。まだ少々執務が残っておりますので。」


「そっか、長々と悪かったな。あと、ちょっと気が早いけど色々世話になった。ここで過ごせてよかったよ、クロエとも仲良くなれたし。」


「………、それが一番の誤算でしたよ。まさかあのクロエがあなたに気を許すとは思いもしませんでしたから。これを喜ぶべきか否か…、今後のあなたの行いに期待するばかりです。」


そう言ったシュヴァリエは本当に嬉しそうに笑って食堂を後にした。

なんだかお父さん味を感じる後姿だったな。

一時はクロエを噛ませ犬扱いしている嫌な奴かと思っていたけど、どうやらクロエの事をちゃんと大切に想ってくれているようだ。

実はクロエの本当の父ちゃんだったりしてな。


さて、俺がここにいるとメイドたちが片づけられないようだから、俺も部屋に戻りますかね。

荷造り…ってほどの荷物は何もないんだけど、それでも勉強に使った紙や用意してもらった下着なんかはありがたく貰って行くとしよう。

どれも大切な思い出の品だ。

はぁ、あんまり実感はわかないんだけど明日にはここを発つんだな…

やべ、クロエとの約束…守れないじゃん。


―――――…


翌朝、いつものように目が覚めて着替えを済ませるとクロエが朝食を知らせにやってくる。

早々に約束を果たせないことを謝ると、「どうぞお気になさらないでください」と少し寂しげに口にした。

ぐ、何という罪悪感…!


食堂に着くと既に俺以外は揃っていて、すぐに食事が運ばれてきた。


「おはよう、ナユタ。昨日はよく眠れたかしら?」


「おはよう、ノエル。ばっちり眠れたぜ!ノエルは…、あんまり眠れなかったみたいだな?」


昨日とは打って変わって明るい雰囲気に戻っているノエルだが、その目元にはうっすらと隈が出来ていて苦笑いを浮かべている。

どうやらあのまま眠れなかったようだ…。

何に悩んでいるのか話してくれれば俺も力になれるかもしれないんだけど、当のノエルがなんでもないと言い張るのでそれ以上は聞けないでいた。

頼ってもらえないのは俺の精進が足りないせいだな…。

なぁに!頼られないなら頼れる男になりゃいいんだ!気張れよ那由他、男は度量!!


「いや、しかし寂しくなりますなぁ。姫様だけでなくナユタ殿まで行ってしまわれるとは、屋敷が静まり返ってしまいます。」


「私も寂しく思っていますよ、辺境伯。またいずれお邪魔させてくださいね。」


「えぇ、もちろんです。その際はどうぞナユタ殿もご一緒に。」


「あぁ、その時はお土産を持ってくるよ。」


他愛のない話をしながら和やかに食事は進んでいく。

初めてここで食事をした時のようなピリピリとした雰囲気は微塵も感じない。

あぁ、いつの間にこんな風に食事ができるくらい打ち解けられたんだろうか。

最初はここに居る全員が敵…とまではいかないにしても、ここに居る全員が俺の事を敵だと思ってるんじゃないかって勘ぐってたのに、今じゃこんなに笑って未来の話をする事ができてる。

それも全部みんなのおかげだ。


分かろうとしてくれた、信じようとしてくれた、助けようとしてくれた。

そして分かってくれた、信じてくれた、助けてくれた。

そんな人たちだったから、俺はこうして笑えていられるんだ。

あまりに大きい恩だけど、いつか必ずお返しができればいいと思う。


「失礼いたします。姫様、迎えの方がお見えになられました。」


食事を終えて歓談していると、一人のメイドがやってきてノエルにそう告げる。

どうやら王都からの迎えが到着したようだ。

やれやれ、もう出発の時間ですか。

名残は尽きないが、王様の命令じゃ仕方ない。


「んじゃ、行きますか。シュヴァリエ辺境伯、本当に世話になった。…ありがとうございました!」


「おやおや、改まらずとも良いのですよナユタ殿。今生の別れというわけでもないのです、どうぞまた我が屋敷においで下され。」


「俺の世界じゃ”親しき仲にも礼儀あり”って言うんだよ。ま、ここの大浴場にも再挑戦したいし、次もまたよろしく頼む。」


シュヴァリエは最後に俺と握手をした後ノエルとも挨拶を交わし、玄関先まで見送ってくれることになった。

クロエにも挨拶したいんだけど、どこに居るんだろう?


「ぎょっ!」


荷物を持って玄関を出てみると、目の前には馬車のような乗り物がありその脇に仮面を被った二人組の男が立っていた。

その男たちは黒いローブをすっぽりと被っていて、見ていると不安になってくるような模様が施された仮面を着けている。

キモッ…

え、あれって本当に王都からの迎えなの?

見るからに変質者、誘拐犯みたいな風貌なんだけど、大丈夫なの?


「リアは…、リアリスニージェはどうしたのですか?」


「……中でお待ちです。どうぞお乗りください。」


「……………。」


ノエルは一瞬顔を顰めるが、それ以上何も言わずに馬車に乗り込もうとする。


「あ、ちょっと待った!なぁ、クロエは居ないのか?最後に挨拶したいんだけど…。」


昨日の夜も今日の朝も配膳を済ませたきり一度も姿を見せてくれなかった。

仕事が忙しいのかもしれないけど今日を逃したら次いつ会えるかわからないし、最後にきちんとお別れを言いたい。


「やれやれ、クロエ。ナユタ殿がお呼びだ、いい加減姿を見せて差し上げなさい。」


シュヴァリエが柱の方を向いて声をかけると俯いたままのクロエが姿を現した。

あんなところに隠れてたのか!

ん?なんで隠れてたんだ?


「クロエ、良かった!挨拶できないままお別れかと思ったぜ。忙しかったのか?」


「…いえ、そういうわけでは。」


「ん?あ、もしかして俺たちが居なくなっちゃうから寂しくて顔出せなかったとか?ってさすがにそれは無いか!はははごめんごめん!」


「……………。」


「…え、マジで?」


依然として俯いたままのクロエの耳がほんのりと赤くなった。

うわーマジでかー。

こんな可愛い生き物置いて行かなきゃいけないなんて無理なんですけど。


「クロエっ!」


「ひ、姫様!?いけません、一介のメイドにこのような事…!」


俺の背後から駆け寄ってきたノエルがそのままクロエに抱きついた。

うわぁあああぁあ!誰かぁ、カメラぁ!!

この奇跡的な一枚を撮り逃すなんて神が許しても俺が許さねぇぞ!

くっ、せめて手元にスマホがあればっ…

思わず血涙を流しかねないくらい悔しい…、世の中にこんなに悔しい事があるなんて…。


「クロエ、どうか息災で。何か困ったことがあったら必ず私を思い出してね。必ずよ?」


「はい、どうか姫様も…。」


「えぇ。ありがとう、クロエ。」


そのあとノエルはクロエの耳元で何かを囁いたみたいだったが、さすがにこの距離じゃ何て言ったのかは聞き取れなかった。

きっと夢のように甘く花のように可憐な言葉を囁いたに違いないので、俺は今のシーンも心のアルバムに保管しておいた。


「えぇっと、すげぇ世話になったなクロエ。迷惑もかけたし、心配もさせたし…。いや、そうじゃない!そうじゃなくって!クロエと仲良くなれてすっげぇ嬉しいよ!だから、ありがとうなクロエ。ヌコの約束は次会った時に必ず果たすから!今度は絶対だから!」


「…はい。絶対、ですからね?」


「っ~~~~!ゆ、指切りしよう。今度こそ約束破らないように!」


「指切り…ですか?」


あまりにクロエが可愛かったのでついガキっぽい事を言ってしまったが、どうやらこの世界には指切りというものはないようだ。

そりゃそうだよな、あれは日本独自の文化だし。


「俺の故郷では約束を破らないために指切りっていうおまじないをするんだよ。こうやって…お互いの小指を絡めて…」


「こ、こうでしょうか?」


「そうそう!で、歌う。ゆーびきーりげんまん、うーそつーいたーらはりせーんぼんのーます、ゆびきった!」


そうしてクロエと結んだ小指を離す。

クロエはなんだか不思議そうにしていたけど、これで約束は絶対破れないといったらほんのり笑ってくれた。

こりゃ本当に破れないぞぉ…。

密かに気合を入れてから、再度クロエに挨拶する。


「うっし!じゃ、もう行こうか。またな、クロエ!次に会えるの楽しみにしてるから!」


「はい、私もです。」


そうして俺とノエルは馬車に乗り込みシュヴァリエ邸を後にした。

後ろ髪引かれる思いはあるけど、次にここに来た時の楽しみが倍になると思って今は王都へと向かう事にしよう。

王様は俺に何の用があるんだろうなぁ…


「ひめさまぁ!お会いしとうございましたぁ!ご無事で何よりでございますぅ!!」


「誰だお前!?」


馬車の中でさっそく新たな出会いをしながら、俺たちは着々と王都への道を進んで行った。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

これにて第一章~始まりの出会い編~が終わりとなります。

続いて第二章~王都編~が始まりますのでよろしければこのままお付き合いください。

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