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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 32 思わぬ知らせ



次に俺が目を覚ましたのは、もうすっかり慣れ親しんだ自室のベッドの上だった。

額には冷たいタオルが置かれていて、体には綺麗に洗濯された服が着せられている。

およ、何がどうしたんだっけ?

直前の事を思い出そうとベッドから起き上がると、それと同時にドアが開いた。

ノックしないなんて珍しいな。


「あっ、ナユタ!よかった、目が覚めたのね。」


そこから現れたのはノエルで、心底安心したように声をかけてくる。

ノエル…あ、思い出した。


「あー…もしかして俺、のぼせた?」


「うん、そうみたい。ごめんね、私に付き合ってくれたせいで…。疲れていたのに無理をさせてしまって、本当にごめんなさい。」


「いや、ノエルのせいじゃないよ。俺の自己管理がずさんだったのが原因なんだからさ。」


よく考えてみればぶっ通しで体を動かしてた上に、水分補給もきちんとしないでいた。

そんな状態で風呂に入るなんて、気分が悪くなって当然なんだよな。

まったくバカは自己管理もできないから嫌だわねー。


「そういえばノエルは大丈夫だったのか?気分が悪くなったりとかしなかった?」


「えぇ、私は大丈夫。ナユタの方こそもう大丈夫なの?どこか痛むところはない?」


「あぁ、大丈夫。むしろ倒れたりしてごめんな?大変だっただろ、一人で抱え…て…?」


え?あれ、そういえばノエルはどうやって俺を部屋まで連れて来たんだ?

浴槽から出れば強制的に男女別々になっちまうんだよな?

急いでシュヴァリエか男の執事でも呼んだのか…?


「ううん、ナユタを運んでくれたのはクロエよ。メイドは掃除をする時用に空間遮断魔法の影響を受けない特別な魔導具を持たされているんですって。私がナユタの部屋に着いた時にはクロエが全部処置してくれた後だったわ。」


いやーん!俺は何回クロエに醜態をさらせば気が済むのぉーん!?

これ間違いなくムスコとご対面されてますよね!?

うぅ、もう恥ずかしくってクロエの顔見れないわ…。

あ、でもお礼は言いたいからやっぱり会わなきゃいけないか。

クロエに着替えさせられるのだって初めてじゃないし、今更恥も外聞もないか。

なにより当のクロエが何も感じてなさそうだもんね。


「クロエにちゃんとお礼とお詫びをしないとだなー。仕事忙しいのにまーた迷惑掛けちまったぜ。」


「…。クロエは迷惑だなんて思ってないと思うわ。」


「そうかなー?ここに来てから俺ってばクロエに迷惑かけ通しなんだぜ?いい加減呆れられてもおかしくないよ…。」


ゲロに始まり…手を引いてもらったり着替えさせてもらったり、勉強教えてもらったり仲直りの手引きしてもらったり。

思えば迷惑と心配しか掛けてなくないか?

いくら仕事とはいえちょっと嫌われてもおかしくないくらいの量な気がする。

うわ、なんか不安になってきた。

クロエって俺の事どんな風に思ってるかな?


「クロエはね、確かに表情が硬くて気持ちを表現する事がちょっと苦手みたいだけど、それでも何も感じないわけじゃないわ。ちゃんと怒るしちゃんと心配するしちゃんと嬉しく思うのよ。」


「それは…わかる。ヌコの話をしてる時のクロエは結構楽しそうだし、俺が落ち込んでる時はすぐ気が付いてくれてすごく心配してくれた。クロエは表に出さないだけで人一倍気づかいのできる子なんだよなー。」


「そうよ、クロエはちゃんと自分が感じたように行動しているわ。だからね、迷惑だって思っていたら心配なんてしないし、倒れた時駆けつけてなんてくれないと思うの。どうかしら?」


あ、そっか。

俺って本当にどうしようもなく馬鹿だなー。

クロエが嫌々俺についてたなら、こんなに親身になってくれるわけないのに。

折角クロエが示してくれた信頼を疑うようなこと言っちゃったよ。

クロエは最初から、俺の事気にかけてくれてたんだ。


「…ん、だな。普通嫌ってる相手にそこまでしないよな。あーあ、それも含めてクロエに謝っとかねぇと。友達を少しでも疑うなんて、どうかしてるぜ。」


「そこはありがとう、でいいと思うわ。きっとクロエだってそう言われた方が嬉しいはずよ。少なくとも私ならそう。」


「たしかに!俺でも謝られるよりそっちの方が嬉しいぜ。よっし!そうと決まれば善は急げ、だ。クロエの下へ、さぁ行こう!」


「あ、待ってナユタ。クロエなら夕食の時に会えるから、このまま食堂に向かいましょう。そろそろ仕度が終わるころだと思うし。」


「そっか、今行っても邪魔になるならそうするかな。うーん、改めて夕食と言われると…腹減ったなぁ。」


そう言って腹をおさえたタイミングで俺の腹が思い切り鳴る。

きゃー、恥ずかしいじゃないのよぉ!

もう、こんなところで空気読まなくてもいいのにっ!


「ふふふ、じゃあ行きましょうか?」


「…はい。」


微笑むノエルに連れられて、俺たちは食堂へと向かった。



「おや、気がづかれましたか。気分は如何ですかな、ナユタ殿?」


食堂に着くと、既に席に着いていたシュヴァリエが俺たちに気づくいて少し楽しそうに声をかけてきた。

いや、楽しそうっつーか、…なんかニヤニヤしてるな。

なんだよ…


「あぁ、おかげさまで。心配かけたみたいで、申し訳ない。」


「いえいえ、謝罪するのはむしろ私の方ですのでお気になさらないでください。」


「はい?どういう事です?」


疑問を口にする俺を横目に、シュヴァリエは顔の前で手を組み目を閉じる。

おいおいずいぶんと勿体ぶってくれるじゃねーか。

全然良い予感はしないんだが、まさか辺境伯ともあろう人がくだらない事を言う為に妙な間を置いているなんてことはないだろう。

ここは大人しく続きを待つとしよう。

いや、まさかね。


「実は当屋敷に複数のお客人がお泊りになるのは今回が初めての事でして、いままでは自慢の大浴場も身内の方のみで使われる機会しかなかったのです。ですので本日のような他人同士で入浴される場合にどんな事が起こるのか、私はきちんと予測していなかった…。ましてやうら若き男女が二人っきりになるなど…。ナユタ殿には大変面白い…失礼、お辛い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。私の不徳の致すところです、どうかお許しください。」


そう言ったシュヴァリエの声は、確かに申し訳なさを含んでいるように聞こえた。んだが…

組んだ手で隠しても見えてんだよ!お前笑ってんだろ!?

それに途中で面白いって言っちゃったからな!言い間違いにしたってそれは無いから、誤魔化しきれてないからっ!

どうせあれだろ?「あの状況で何もできない上にのぼせるとか童貞乙www」とか思ってんだろ!?

うるせー!ワラ、じゃねーよ!つーかそれ所じゃなかったつーの!

お前ある?湯船に浸かりながら体中に鈍り付けられたみたいにされたことあるのか!?

想像以上にしんどいんだぞ!暑さと重さと疲れの三重奏だぞ!?

思いのたけを込めてギリギリと歯を食いしばりながら睨みつけていると、それに気づいたシュヴァリエから素敵なウインクを頂いた。

いらねぇ!!


「そ、そもそもよぉ、あの状況でもしものことがあったらどうするつもりだったんだ?俺は 紳士 だから心配いらないけど、この先どんな不貞を働く輩がいるか分からないじゃねーの。あの湯着だけじゃちょっと力不足なんじゃねーか?」


「あぁ、その事でしたらご心配なく。もしそのような粗相をする方がいらした場合は、備え付けの魔鉱石により強制的に移動して頂き事になりますので。」


「強制的に、移動?…どこに?」


「はて、中庭の噴水あたりでしょうか?」


情け容赦ねぇのな!

物理的に頭冷やせってか!

しかも湯船から離脱するわけだから湯着もなんも無くなっちまって全裸で外に放置される…と。

コイツ、意外とえげつねぇこと考えてんだな。いや、やる方が悪いんだけどさ。

とぼけた感じで言っているが、おっかねぇ男だぜ。


「ん?そういえばさっき他人が一緒に風呂に入るのは初めてって言ったか?それじゃジークやリュカ達はあの風呂使わなかったのか?」


「いいえ、使っていたはずよ。ただなぜか一緒にはならなかったの。不思議ね、一体いつ頃入っていたのかしら?」


アイツら時間ずらして入ってたな…!

リュカ達は遠慮してたのかもしれないけど、ジークは知っててノエルと時間が被らないようにしてただろ!

くそ、この世界には食えない大人しかいないのか!


「さて、お話はこの辺りにしておきましょうか。そろそろナユタ殿も限界が近いようですし。」


「ぐっ。…そうしてください。」


やっぱり誤魔化しきれてなかったか、腹の音。

結構序盤からずっと鳴ってたから普段より大きめの声を出してたんだけどまったく隠せてなかったもんな。

おーよしよし、そんなに鳴かなくてもいいんでちゅよぉ?


「失礼いたします。」


シュヴァリエが合図すると同時に扉が開き、クロエと他数名のメイドが食事を運んできた。

あまりに速いのでまさか扉の前でずっと控えていたのかとも思ったけど、目の前に出される料理の暖かさからしてそれはなさそうだ。

話がいつ終わるか分からなかったってのに、このタイミングの良さ。

これが一流のメイドか…!


「あ、クロエ!さっきはありがとうな、助けてくれてさ。ここに来てから世話になりっぱなしだし、ちゃんとお礼させてくれよ!」


配膳してくれているクロエが俺の横に来たのを見計らって声をかける。

クロエは粛々と料理を置きながら、何でもないように口を開いた。

この間一切目が合わない、仕事中だからか?


「いえ、これも仕事で…」


「明日辺りにでもヌコにモテる秘術を教えるからさ、時間作れるか?」


「…はい。よろしくお願いします。」


視線を逸らしながらも了承するクロエの耳が少し赤くなってて、思わず笑ってしまう。

どうらやヌコと仲良くなれるのが嬉しいみたいだ。恥ずかしがらなくてもいいのにー!

でもよかった、やっぱりクロエとはこれからも仲良くやっていけそうだ。

何せ明日にはノエルも居なくなって俺一人になっちまうもんな。

これから俺はどうしたらいいのか分からないけど、まだしばらくはここに滞在して色々調べたり勉強することになるだろう。

その間クロエが居てくれるのなら楽しい毎日が過ごせそうだぜ。


「ふふ、良かったわねクロエ。」


「…はい、ありがとうございます。」


ノエルもクロエの耳が赤い事に気が付いたのか、優しい笑顔を向けている。

こうしているとなんだか姉妹のように見えてくるから不思議だな。

もちろんノエルが姉でクロエが妹だ。

うーん、萌え!



その後食事は何事もなく終わり部屋に戻ろうと席を立った時、突然目の前に青白い光の玉が姿を現した。

あまりに突然の出来事に思わず声を上げて後ずさりすると、その光はゆっくりと形を変え最後には梟のような姿をとった。

な、何これ。

まさか攻撃を受けている…?


「おや、これはノアヴィス様の使い魔ですね。」


「そのようです。何かあったのでしょうか?」


そう言ったノエルがそっと梟に触れると、梟は翼を大きく広げ人の言葉を話しはじめた。


「ここに、陛下からの勅命を申し上げます。異世界より召喚されし者、名をナユタ・クジョウ。貴殿には王都へと赴き陛下との謁見の機会を与える事とする。ついては明朝、クレアシア王国王女ノエル殿下と共に王都へと出発されたし。」


そこまで言うと梟は翼をたたみ元の光へと戻って消えてしまった。

えーっと、つまり王様が呼んでるからお城まで来なさいって事?

マジ?俺、今までの人生で会った一番偉い人ってウチの社長かせいぜい取引先の部長クラスまでなんだけど。

王様と会うのってどんな風すればいいの?

つか、礼儀作法とかまったくわかんないんだけど!


「陛下が…ナユタを?」


「あ、そっか。王様って言ってもノエルの父親なんだよな。なーんだ、ふー、そう思えば少しは気持ちが楽になるわー。あ、もちろん敬語は使うし変な事したりしないから安心してくれよ。」


「………。」


「そうだ!王様ってどんな人なんだ?やっぱ厳格な人?それとも意外に気さくな人だったりする?接し方が分からな過ぎて不安だからさ、せめて人となりだけでもわかってれば違うかなーって…。」


「…………。」


「えーっと、ノエルさん?もしもーし。」


「…はっ!ごめんなさい、ちょっと考え事を。えっと、何の話だったかしら?」


「いや、大したことじゃないんだけど…。なんかあるのか?」


「ん…、何かってわけじゃないんだけど…。」


「ふむ、陛下の御心は陛下にしか分からないでしょう。ともかく今夜は明日に備えて早めに休まれた方がよろしいでしょうな。」


「そう…ですね。ナユタ、こういった事情だから悪いのだけれど明日の朝までに支度しておいてくれるかしら?」


「え?あ、あぁ。仕度って言っても俺のものはほとんど無いし、すぐに済むよ。」


「ありがとう。それでは私はお言葉に甘えて先に休ませていただきます。」


「えぇ、それがよろしいでしょう。ごゆっくりお休みください。」


「お、お休み…」


ノエルは小さくうなずくと静かに部屋へ戻っていった。

心なしか顔色も悪く見えたけど、大丈夫かな?




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