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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 31 初体験②



え、まってまって、つまり…どういう事?

聞き間違いだったかな?先ほどノエルさんは一緒に入りましょうとおっしゃいませんでしたか?

違いますよね!すみません通報しないで、都合のいい妄想を展開しちゃっただけなんですごめんなさい!

例え目の前の入り口が男女で別れていなかったとしても、さっきのは聞き間違いだったんですよね!?


「どうしたのナユタ?さっきから様子がおかしいけど、そんなにくたびれちゃった?」


「い、いいいいえ、滅相もございません!むしろ元気すぎて困ってるくらいです!」


「ふふ、本当、元気いっぱいね。ナユタはお風呂が好きなのね。」


お風呂が好きとかそんな次元の話じゃないよ!!

こ、こ、こ、混浴とか、そんな空想世界の産物が実際に存在するなんて聞いてないよ!

例え存在していたとして、ノエルさんはよろしいんで?

お、俺と二人でお風呂に入るってお姫様的にも女の子的にも…さ。

いや、やっぱり駄目だよ!嫁入り前の女の子が男に素肌を晒すなんて…!


「それじゃ、入りましょうか。」


きゃー、ノエルさん大胆っ!

ってあれ、案外ノエルは平気そうにしてるな?

もしかしてこの世界で混浴は珍しくもなんともない…?

俺が意識しすぎてるだけで、むしろ何変な事考えてるのよ最低!みたいなことになっちゃう可能性あり!?

あかん!もうここは覚悟を決めて入るしかない!

軽い足取りで進むノエルに続いて俺も行こう。

こうなりゃなるようになれ!


「…………ん?あれ、ノエル?どこ行ったんだ?」


扉をくぐると目の前は脱衣所になっていて、なぜが先に入ったはずのノエルの姿が見当たらない。

辺りをくまなく探してみても、やっぱりどこにもいないようだ。

どゆこと?この距離で迷子になったとか…?


「おーい、ノエルさんやーい。」


「ん、なぁにナユタ?」


「うぉ!?ノエルか良かった、急に姿が見えなくなったから驚いたぜ。えー…、で?どこに居るんだ?」


声はすれども姿は見えず。

その声すらどこから聞こえてくるのかまったく見当がつかない。

近くのような遠くのような…距離を感じさせない不思議な聞こえ方だ。


「どこって、女性用の脱衣所よ。あ、そうか。ごめん、説明していなかったわね。この空間は魔法によって遮断されているの。入った瞬間男性と女性に分けられるから突然私が居なくなったように思ったのね、ごめんなさい。私たちは今、別々だけど同じ場所に居るのよ。」


「な、なるほどねー。いやー、そうそう。いきなり居なくなったからびっくりしたんだよー。そっかぁ、空間を遮断してるのか―。」


くそぅ…期待した…!!

そうだよ、めくるめく大人な世界を期待したよ、悪いか!!

だって思うじゃん!入口一つだったら脱衣所も一緒なんだって思うじゃんよ!

男の子の(不)純な気持ちを弄ばれた俺は、今猛烈に打ちひしがれているよ…

そうだよね、いくら世界が違うからって脱衣所から男女一緒の混浴はないよね。

というか、ノエルは一度だって混浴だとは言ってなかったもんね。

うふふふふ…


あー、もう!

切り替えだ!

本来の目的を忘れるな、俺はここに疲れを癒しに来たんだから。

汚れた服なんてさっさと脱いで、ぱぱっと洗ってゆっくり湯船に浸かろう。

風呂とはそのためにあるんだから!

俺はやや乱暴に服を取っ払うと浴室へと続く両開きの扉を押す。


「うわ、すげぇ…」


そこは一面大理石のような艶やかな石造りで所々に職人の技を感じさせる意匠が施されている。

手前側の洗浄スペースには木でできたイスとシャワーが備わっているので、湯船に浸かるまでのルールは日本と変わらないのかもしれない。

そしてやはり目が行くのは奥に鎮座している大きな浴槽だろう。

古代ローマの風呂を思わせるような柱が施された丸い形のそれは、乳白色の湯が張られたそれはそれはでっかい浴槽だった。


「すげぇ…。もうすげぇとしか言えねぇくらいすげぇ。」


「気に入ってもらえたみたいでよかった。あ、壁についてる青い宝石が泡の出る魔術鉱石だから、それで体を洗うといいわ。」


「お、おう。ありがとう」


またしてもどこからかノエルの声が浴室に響く。

思わず大事な部分を隠すが、どこを見てもノエルの姿はない。

あぁ、別々だけど同じ場所ってこういう事か…なるほどだから普通に話ができてるんだな。

うーん果たしてこれを混浴にカウントしていいのか悪いのか…

しかし、うっかり漏らした語彙力底辺のコメントまで拾われるのはなかなか恥ずかしいものがありますな…。

居ないと分かっているのに、全裸であることにも若干の羞恥心が芽生える。


とりあえずノエルに言われた通り、おそるおそる壁に埋め込まれている青い宝石に触ってみる。

ん?何も起こらな…


「うわっぷ!!」


突然触れていた宝石から覆いかぶさるように大量の泡が発生して俺の体はあっという間に埋め尽くされてしまう。

う、息が…!


「ん~~~、ぺっぺっ!」


何とか顔を覆う泡を払いのけ、口に入った泡を吐き出す。

おいおいこれ、下手したら危なかったんじゃないのか?

今までこれで窒息した客人が居なかったのなら、俺がその第一号になるところだったぞ。


「ナユタ大丈夫?…あ、もしかしてずっと宝石に触れたままだった?これ一度触れるだけでかなり泡が出るから自分で上手に調節しなくちゃいけないの。そっか、ナユタの部屋には石鹸が置いてあるだけだから魔術鉱石を使うこと自体初めてだったのね?ごめんね、また言い忘れてしまったわ。」


うん、まぁ結果的に無事だったし大丈夫じゃないけど大丈夫。

そんな事よりも、なんで俺の部屋のシャワー室には石鹸しかないって知ってるんですか!?

いつ、どこで知ったのかそこん所詳しく教えてもらえませんかね!?

クロエですか、クロエですね!?

…思わずアンリの物真似をするほど動揺してしまったぜ、落ち着け俺、瑣末なことじゃないか。

俺のプライベートなんて、ほぼクロエに筒抜けなんだから…うぅ。


「…とりあえず俺が言えるのは、今の俺はなかなか面白い格好をしてるってことくらいかな。」


それが今の心理状況で言える精一杯のセリフです。


「ふふふ、それは…ちょっと見たいね。」


「んんっ!」


俺も見たいです、と言いそうになって下唇を噛んで耐えた。

ここで変態発言をしてしまったら今まで積み上げた好感度がいとも簡単に崩れ去ってしまうぞ。

耐えろ、耐えるんだ俺。


「ひ、羊になった俺を想像してくれればだいたい合ってると思うよ?」


「まぁ、それは可愛い。今度、羊を模した寝間着を探してくるわね。」


なけなしの理性をフル稼働して何とか可愛い系の話に持って行く事に成功したが、このままでは長くはもたないかもしれない。

すまない理性、風呂の間は酷使してしまうだろが頑張って耐えてくれ…!


「それじゃ私は一足先に湯船に浸かるね?ナユタもどうぞごゆっくり。」


「あぁ、ありがとう。」


ふー、と思い切り息を吐いて全身の泡を落としていく。

なんとかボロを出さずに済んだが、この後も一切油断はできないな。

ついうっかり○○○とかピーーーとか言っちゃったらもう…本当に全部終わるからな。

言葉っていうのは厄介だ、一回言ってしまったが最後もう取り返しがつかないから。

ま、姿が見えてない分まだ理性の減りを抑えられているし、このままいけば乗り越えられるだろう。

最初こそ混浴だ何だと期待してはいたが、よくよく考えたら童貞が可愛い女の子と裸の付き合いをして無事で済むわけないんだよな。

下手したら破裂してたかも、いや、(ナニ)がとは言わないけどね。


「さて、俺も湯船に浸かるかね。」


なんだかひどく久しぶりな気がするけど、最後に湯船に浸かったのはいつ頃だったかなー?

独り暮らしだとわざわざお湯を張るのがめんどくさいから、あんまり浸かろうとは思わなかったんだよね。

お風呂自体は好きなんだけど、やっぱり手間と時間を考えると疎遠になりがちなんだよな。

そんな事を考えつつ湯船の淵に足を掛けた時、不意に下半身が何かに覆われる。

いやー、なにごとー!?


「ん?何だ、これ?」


「それは湯着だよ。湯船に浸かる時に身に着けるものなの。ここに居る間は絶対に脱げないけど、湯船から出れは自然と脱げるから安心して。」


「あぁ、湯着か。俺は見たことないけど日本…、俺が居た世界にもあったよ。こういう感じなんだなー」


「そうなんだ、ちゃんとこっちの世界と同じところもあるんだね。初めてならお湯を吸って重くなったとき少し気になるかもしれないけど、すぐに慣れると思うわ。」


「へぇ、そうなのか。それじゃ試してみ…よ…」


「ん?」


あれ、なんかさっきからすごく近くで声がしないか?

湯船に片足突っ込んだ瞬間から、いままでどこから聞こえてくるのか分からなかったノエルの声が急に隣の方から聞こえるような気がする。

いやいや、そんな馬鹿な。

この風呂は空間ごと切り離されて完全に男女が別々になっているはずだ。

そんなラブコメの主人公みたいな都合のいいトラブルは起きるはずがない。

もしそんなことが起きたとしても、それは間違いなく夢か妄想だ。

例え隣に濡れた髪を頭の上で束ねたノエルが湯船に浸かっていたとしても、それは幻覚か何かなんだ。


「ナユタ、入らないの?」


いえぇぇぁああぁ!?しゃべったぁー!?

幻覚じゃないんですかあなた!

え、でも何で何で?空間が男女で別々の遮断なんでしょー!?

これはまさか世にいう例の…


もしかして:事故


「ご、ごめん、俺何も見てないから!まだちょっとしか見てなかったから!セーフだよセーフ!!何なら記憶消す魔法とかかけてもいいから!ついでに目玉も潰してもいいからー!!」


「ど、どうしたの急に…?記憶を消すだなんて物騒な…、え、目玉も!?ちょっと急にどうして…あ。なるほど、私の姿が見えたから驚いているのね?ふふ、この湯船にはね、空間遮断魔法が掛かっていないの。だからお湯に入ると周りの人が見えるようになるのよ。たぶん大概の混浴はそうなっていると思うわ。」


やっぱり混浴なんですね、やったー!

どこか慣れている様子のノエルだけど、それでも少し恥ずかしのか頬が少し染まっている。

いや、頬が赤いのは湯船に浸かっていたせいかもしれないけど。

しかしシュヴァリエの奴、何てグッジョブ…じゃなくて心臓に悪い浴場を作りやがるんだ。

もし客人同士で間違いが起こったらどうするつもりで…あ、それでこの湯着ってわけか。

なるほど一応は考えてはあるのか。

これを脱ぐためにはまた遮断された空間に戻る必要があるし、もう一度湯船に入ろうとすれば強制的に湯着がきせられる。

上手いこと出来てるじゃないか!

…だがしかし、それでも童貞にこの状況は厳しい!せめて心構えをする時間が欲しかった…


高鳴る胸に手を当て天井を仰ぎ深く息を吸う。

俺は賢者、あらゆる煩悩をも凌駕する悟りを開きし者。

このような着衣水泳ごときでいちいち心を乱すようなことはありゃせんのです。

いずれ全ては無に帰すのじゃ、そこに意味を求めるなどとなんと愚かな事か。

そもそも…


「風邪ひくよ?」


「……はい。」


賢者ごっこをやめて大人しく湯船に腰を下ろす。

あ~、これだよこれ沁みるぜぇ…。

やっぱり手足を伸ばせる大きな風呂って最高だよなー。

凝り固まった筋肉が解されていくのがよぉく分かる。

はぁ~、気持ちいい~


「ふふふ、気に入ったみたいね。さっきまで強張ってた表情がゆるゆるよ?まぁ、気持ちは分かるけど。」


そう言ってノエルが伸びをすると、今までお湯の中に隠されていたしなやか腕が露わになる。

まるで陶器のように透明感のある白い肌を直視してしまった俺は、せっかく生まれた悟りの欠片をあっさりと捨て去った。

この湯着という物はタオル生地で出来た水着のようになっていて、女性用がどういう作りなのかは分からないが少なくとも腕は無防備にも曝け出されている。

そして何と言っても胸元がUの字にカットされているのだ。

胸元が、U字に、カットされているのだ!!

それゆえ本来垣間見えることなどないはずの宝の谷がこれ見よがしに姿を現している。

あぁ、そこに落ちる雫になりたい…


しかし何とけしから物を用意しているんだ、あのシュヴァリエという男は。

混浴の件といい、湯着の件といい…今度酒でも持ってじっくり話をする必要がありそうだな。

いい趣味だぜ、おっさん!


「ね、ナユタ…。あのね、実はお願いがあるんだけどいいかな?」


俺が湯着の可能性に想いを馳せていると、顔を赤らめたノエルがおずおずと可愛らしい仕草で訪ねてくる。

おいおい、どんだけ俺の理性を試すつもりだい?

簡単に崩れ去りそうなんだから、お手柔らかに頼むぜぇ。


「な、何かな?」


「うん、実はね。私、いつも湯船に浸かる時はお湯に魔力を流して体に負荷をかけて過ごすようにしているの。魔力の制御と身体の強化を同時に出来るし、時間の有効活用にもなるでしょう?でもそのせいか普通のお湯に浸かっているとなんだか落ち着かなくなちゃって…。変なお願いだとは思うんだけど、このお湯に少しだけ負荷かけてもいいかしら?ほんの少しで良いから。」


その愛らしい言い方は100点満点なのに、言ってることが丸っきり筋トレオタクのそれです。

え、負荷をかけるの?体を癒しに来ているのに?

それって本末転倒じゃないの?

きっと冷静だったらそこまで考えが巡って止められたのかもしれないんだが、生憎と今の俺の頭の中は理性と煩悩が血で血を洗う死闘を繰り広げている真っ最中だったので「お、負荷掛けんの?いいじゃーん、もう思いっきりかけよう!ノエルがやりたいだけいっちまえ☆」と笑顔で答えてしまった。


そして長かったが、ここで冒頭に戻るのだ。


俺の返答にノエルは驚きつつ意気揚々とお湯に魔力を流し始め――実際魔力が流れていたのかは分からなかったけど――ノエルが一度水面を指先で弾くと、お湯がすべて鉛に変わったんじゃないかと錯覚するくらいずっしりと重くなった。

ちょ、出る出る!内臓が飛び出しますってこれ!

慌てて体全体に魔力を通して負荷に耐えられるよう強化をしたが、これノエルはどうやって耐えてるの…?

つかマジかよ、思い切りいけとは言ったけどここまでやっちゃうと逆に体に悪いんじゃないかと思うんだが。

今更だけどもう少し弱めるようにお願いしようかしら…


「どうかな?いつもの半分くらいにしてみたんだけど、もう少しかけた方がいい?」


「いやー、今日は疲れもあるしこのくらいで十分なんじゃないかなー?」


なんてこった、ストイックが過ぎるでお嬢さん!

これでも一応、気を使っていただいてたのね!

今はまだ何とか笑顔を保っていられるけど、これ以上負荷を掛けられたら本当にいろいろ出て来ちゃうから!

R18Gの作品になっちゃうから、どうかここで留めてください!


「そうね、今日はたくさん動いたしこのままでしばらく浸かっていましょうか。程よい刺激で疲れも取れるかもしれないものね!」


たぶんそれはない。と頭の中で思いつつ、笑顔で肯定しておく。

俺の笑顔だいぶ引き攣ってるな…


やばい、思ってた以上にキツイかもしれない。

今日の訓練では身体強化をどれだけ早く正確に出来るかに重きを置いていたんだけど、今の状況はそれをどれだけ持続させられるかが試されている気がする!

強化レベルこそ低くていいのだが、なにぶんこんなに長時間魔力を流し続けた経験がないもんだから、うっかりすると弱音か涙が零れてしまいそうだ。


この状態をまだ保っていなくちゃいけないの?

俺、マラソンより短距離の方が得意なんだけど…

ゴールが分からないマラソン程辛いものはないよな…

あー、何も考えずに余計な事いうから…

いかん、ダメだ考えるな。

ネガティブな思考は著しくやる気を削いでしまう。

もっとやる気が出るような素晴らしい事を考えてこの場をどうにか凌がないと。


はぁ、はぁ…うっ。

ダメだ、泣きそうだ。

何でこんなことに…。

あれ、本当になんでこんなことになったんだっけ?

確か俺、ノエルと初めての混浴を経験していたはずだよな?

幸せ絶好調のドキドキタイムを過ごしていたんじゃなかったけ?

それが今や隣ではにかむノエルの可愛らしさや色っぽさすら右から左へ通り過ぎてしまう…。

必死に余裕を見せようと笑ってみせるが、どうしても視線を合わせるのが辛くて思わず俯く。

あ、谷間。

良いな…あそこに埋もれて眠れたらさぞ気持ちいいだろうな…

あー、なんかふわふわするな。

耳鳴りもひどくて何も考えられないや。



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