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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 29 クロエの秘密



文字通り嵐のような別れを済ませた俺は、屋敷に戻り食堂へ向かった。

するとそこにはノエルとクロエの二人だけがおり、何やら楽しそうな雰囲気でおしゃべりをしているようだ。

あらやだ、おじさん邪魔しちゃったかしら?

二人の仲睦まじい空気に若干躊躇してしまい、扉を開けたままその光景を見るに徹しているとこちらに気が付いたクロエが軽くお辞儀をした。

次いで気付いたノエルが楽しそうに笑いながらこちらに駆け寄ってきたので、とりあえず手と手を合わせて拝んでおいた。

生き返るようですわ―


「お別れは済んだ?あの雷鳴から察するにエトワールさんが迎えに来ていたでしょう?ならジークさん、本当にサボりだと思われていたのね。あ、そうそう、ジークさんから聞いていると思うけれど、ノアヴィス様がお急ぎの用があるとかで転移魔法で王都にお帰りになったわ。ナユタにくれぐれもよろしくっておっしゃっていたわよ。」


さすがノエル、ジークが面倒くさがって説明を省いたところまでしっかりと教えてくれる。

これぞ我らが天使ノエル様ぞ。


「へぇ、転移魔法なんて便利なものまであるのか。日本で暮らしてた時に何度どこでもドアが欲しいと思ったことか。それがこの世界じゃ誰でも簡単に好きな場所に行けるっていうんだから本当にいい世界に来たもんだぜ。」



夏と冬に行われる某有名マーケットの行き帰りだとか、深夜に小腹が空いたけど家に食べるものが何もない時とか活躍の機会は無限大だよなー。

よし、この魔法絶対覚えよう。


「どこでもドア…が何かは分からないけれど、転移魔法はかなり難しい魔法だから誰でも使えるわけではないのよ?少しでも手順を間違えると知らない場所に飛ばされてしまったり、最悪の場合霧散してしまうんだから。」


がーん。

そんなリスクの高い魔法なのかよ。

どこでもドアをくぐったらうっかり死んでましたーくらいの絶望感だぜ。

魔法センス底辺の俺がこの魔法を覚えられるとしたらいったい何十年後か。…何百年後か?ははは


「うん…、わかった…。とりあえず今の俺には手の届かない魔法みたいだから、もう少し簡単な魔法の習得に専念するわ…」


そうしてナユタは考えるのをやめた。

しょぼーん。


「そうね。まずナユタは自分の魔力に合った魔法が何なのかを知るところから始めないと。四大魔法…もやるとして、クロエが言っていたように特殊な属性を持ってるかもしれないし色々試しましょうね!」


「え、試しましょうって何。まさか、これから?」


「もちろん!ナユタも自分にあった魔法があるなら早く知りたいでしょう?なら早いに越したことないわ!」


あれー?なんかノエルちゃんがやる気満々だなー。

目はキラキラしてるし頬もほんのりと赤い。

さすが騎士団の訓練所に乗り込むほどの特訓好きは気合が違いますなー。

明日王都に帰るのに支度とかしなくていいんですかねー?

とか言いつつ俺も負けないくらいやる気に満ち溢れてるから、このテンションにも全然着いて行きますけどぉね!

というかむしろ俺が引っ張って行く!!


「よっしゃ、んじゃ昨日の続きと行きますか!ノエル、クロエ、俺に続け―!!」


「申し訳ありませんが私は他の仕事がございますのでご一緒することはできません。」


「なんですって!?でもでも、クロエは俺の身の回りの世話をするのがお仕事なんだろ?だったらこっち優先でいいじゃーん。クロエが居ないとさーみーしーいー!」


言うな、自分でも気持ち悪いと思ってやってるところあるから。

ただ友人たちとお別れしたばかりのおセンチなマイハートが、クロエ不参加を嘆きまくった結果の言動だと察してほしい。

思えばこの屋敷で過ごした時間の半分以上をクロエと共有してきたんだ、たとえそれが仕事だったとしてもその事実は変わらない。

これからもこの屋敷にいる内は当然一緒に居てくれるんだと思ってたから、まさかのお断りにナユタ君は驚愕です。

俺の仕事と他の仕事、どっちが大切なの!?


「それなのですが、私に与えられていたナユタ様に関する全ての任は本日をもって解除されました。これより通常の業務に戻ることになります。」


「解除?なんで急にそんな…」


「ナユタ様が危険な人物でない事が証明されましたので、私がナユタ様のお傍に居る理由が無くなったのです。これは喜ばしい事だと思います。本日よりナユタ様はこの屋敷の正式な客人となられました。もう自由にお過ごしいただいて良いのです。」


え、クロエが俺の傍に居たのって、身の回りの世話をすることが目的じゃなくて俺が危険人物かもしれないからだったの?

まってまって、それっておかしくないか?

もし仮に万が一、俺が超危険人物だったとしたらクロエが一番危ないんじゃないの?

人質にされたり、傷つけられたり…下手したら命だって危ないかもしれないじゃないか。

そんな危険な仕事を、こんな女の子にやらせてたの?

…ちょっとシュヴァリエが何考えてんのかわかんないんだけど。


「なんでシュヴァリエはクロエみたいな女の子にそんな危ない仕事をさせてたんだ…?」


「ナユタ?」


「だってそうだろ?もし本当に俺が危ない奴だったら、クロエが最初に犠牲者になるんだぜ!?なんでそれを良しとするんだよ!まるで噛ませ犬じゃねーか、クロエをなんだと思ってんだ!」


「ナユタ様こそ私をなんだと思っておいでなのでしょうか?私は主様にお仕えするメイドです。この命は主様の為にあるのですから、結果命を落としすことになったとしても本望です。」


「そんなのダメだろ!全っ然ダメだ!ただのメイドに、こんな女の子に…命を賭けろなんて男のすることじゃねぇよ。」


守られるべきなんだ。

ちゃんと守ってやらなくちゃ…、俺がちゃんと…。


「…。本来ならお話しすべきではないのでしょう、ナユタ様の為にも私の自身の為にも。ですが、我が主がこのような誤解を受けているとなっては捨て置けません。私はシュヴァリエ様の忠臣です、私の敬愛する主様は非道を良しとすような方ではありません。…それに、このように心を砕いてくださっている方に隠しておくのも胸が痛いのです。」


「?」


「私が正す事は一点のみです。ナユタ様、私は特殊な状況下において武力をもって対応するために雇われた戦闘特化型のメイドなのです。先ほどナユタ様がおっしゃられた”ただのメイド”ではございません。」


「………………………。ええええええええええええええ!?」


戦闘…特化型!?何それメイドにそんな種類があるの!?

こんな無表情でもじもじしている可愛い女の子が、メイドな上に戦闘もこなすの?

厨房という名の戦場で戦う的な意味じゃなくて、本当に本物の戦闘…?


「え、戦えるの…?」


「はい。」


「魔法使ったり剣で切ったり?」


「…詳しくは申し上げられませんが、とある魔法が使えまして。」


メイド服の魔法少女か。

んー…あり!

じゃなくて!

マジで戦闘少女なの?

こんな細身で?メイド業だって完璧にこなしてるのに?


なんつーか、ノエルもクロエも本当に見た目じゃ分からないんだよなー…

どっからどう見たってか弱い系女子オーラが出てるってのに、いざ蓋を開ければこれだもんなー。

この世界の美女は戦闘必須なの?

女の嗜み的な感覚でいらっしゃるの?


そしてたぶんだけど、クロエって相当強いんじゃないかなって思うんだよね。

だってそれなら説明がつくんだよ、ノエルのあの積極性に。


考えてみればおかしいと思うべきだったのだよ、諸君。

なぜ一国の姫君が、一介のメイドに過ぎないクロエとあれほど積極的に関わりを持とうとしていたのか。

あらゆる場面で二人は一緒に居ることが多かったし、さっきだって俺が来るまで二人っきりで楽しくお話ししていたじゃないか。

ここではっきりしておくと、この屋敷にはクロエ以外のメイドも執事もちゃんと存在するし、目立たないだけできっちり最高の仕事をしてくれている。

特に食事を作ってくれてる人には心から感謝申し上げたい。

ここに来てから俺の食生活はかなりレベルアップしました、ありがとう。


おっと、話がそれてしまった。

先ほど述べた通り、複数居る使用人の中でなぜクロエだったのか。

ここで思い出して欲しいのは、俺が中庭で特訓をしていた時の事だ。

確かにクロエはこう言ったんだ。

俺が魔法をうまく使えなくて、もしかしたら特殊な属性を持っているのかもって話になった時に…「私にも身に覚えがあります」って。

そう!賢い諸君ならもう分かっただろう。

おそらくクロエは何らかの特殊な魔法が使える上に、それを活かした戦闘を得意とする強者(つわもの)なんじゃないだろうか!?

だから、ノエルはクロエに興味を持った。戦いオタクだから!

そして多分あわよくばクロエと手合せしたいと思っている。戦いオタクだから!!


我ながら名推理だと思うんだけど、いかがだろうか?


でも、もしこの憶測が正しいんだったらシュヴァリエの判断にも少しは納得できる。

あくまでも少しは、だけどな。

戦えるメイドを対象の傍に置くことによって相手の油断を誘えるし、いざと言う時でも戦士として渡り合うことが出来る。

そして尚且つ、監視してても怪しませないと来たもんだ。

合理的といえばそうだろう。

納得はできないんだけどね!

下手したら命を落とすような危険な仕事に女の子をつかってんじゃねーよ。


「…まだ、何か気がかりなことがおありでしょうか?」


「んー、いや。これは俺がただ納得できないだけであって、クロエは何も悪くないから気にしないでくれ。意外と頑固おやじ属性持ってるからさ、俺ってやつは。やれやれ、手のかかるボーヤだぜ!」


「…ナユタ様に、ご心配頂いているのは伝わっております。ですがこれは私が選んだ道です。私がそうしたいと心から思えることなのです。どうかそれだけはご納得ください。」


そんな真っ直ぐに見つめられたら何も言えなくなっちゃうって。

わかったよ、クロエにはクロエの貫きたい信念があるんだよな?

それを他人の俺がとやかく言う資格はないだろう。余計なお世話ってやつだな。

だからもう、この話はここで決着としよう。

クロエが危ない事をするのはやっぱり納得できないけど、それでもクロエが選んだ道なら応援するほかにねぇーよな!


「うん、わかった。クロエはすごいな。そんな風に自分の道ってやつをはっきり決められてさ。俺がクロエくらいの年の頃にはそんな格好良い事できなかったぜ?せいぜいボンヤリとした進路を決められた程度だったなー。」


田舎に居るのが嫌で、思い出したくない記憶も多い実家を出たいがために東京の大学に進学した。

結局何を勉強したかったのか、どんな仕事に就きたかったのかもはっきりしないままどんどん大学生活が過ぎて行っちゃってさ。

で、気が付いてみれば異世界に来てしまったってわけだ。

なーんか前半がしょうもない分、後半の波乱万丈摩訶不思議具合が際立つなー

前半が波乱万丈でも異世界に行った時点で見劣りしそうだけどな。


「私は、たまたま恵まれた機会が在っただけです。私自身は未だに力の及ばない事が多く、不甲斐ない思いばかりしております。」


「なるほど…。クロエみたいに戦闘を得意とするメイドでも、まだまだだって思うことがあるんだな?」


「思ってばかりです。私がもっと強ければ、もっと役に立てれば、そんな事ばかり考えてしまいます。強くなれればいいのですが…。」


「それ、解決できるぞ?」


「え?」


クロエにしては珍しい、完全に虚を衝かれた声が出たな。

ふっふっふー、油断したねクロエ君。

俺は今この時完全に言質を取っていたのだよ。


言ったね?今、強くなりたいって言ったよね?

よーし、じゃみんなで強くなっちゃおー!


「ノエル隊長!どうやらクロエ隊員は更なる強さを手に入れる為、修行を行いたい様であります。やはり強くなる近道は努力!鍛えて何ぼの世界ですからな!いかがなさいましょうか、ノエル隊ちょぉう!」


「え、わ、私!?んー、確かにクロエが訓練に参加してくれるのなら嬉しいけど、お仕事だって大事よね?あまり無理強いしてはいけないわ、ナユタ。」


「ぐぅ…!!クロエ隊員!俺という監視対象が居なくなって暇を持て余しているのじゃないのかい!?監視以外にいったいどんな仕事があるというのだね!?」


「食材の買い出し、庭園の手入れ、屋敷周辺の見回りと大浴場の清掃、その他雑務が少々…。」


「…メイドか!」


「メイドですが?」


くそぅ、完全に論破されてしまったぞぉ。

味方だと思っていたノエルにまで裏切られて敗北の色が濃くなってきたか…!?

いや、いくら訓練大好きやんちゃっ子のノエルでも、人の仕事の邪魔まではしないか。

バーサーカーじゃあるまいに…。


この後も何とか説得を試みるも空振りに終わり、ノエルに慰められながら中庭へと向かう俺であった。



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