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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 28 雷鳴轟かすは神聖なる獣



二人の姿が見えなくなるまで見送ってから踵を返して玄関に向かう。

二人が小さくなっていくのに反比例して、俺の寂しさはどんどん膨らんでいくもんだからつい目に涙が溜まってきちまう。

最近すっかり涙もろくなったよなー、俺。

このままじゃまたアンリに泣き虫呼ばわりされちまうし、何とかして涙腺を鍛えないとな。

涙を拭ってからドアノブに手を伸ばそうとした時、突然背後からまるで雷が落ちたかのようなけたたましい爆音に襲われた。

あんまりに大きな音だったもんだから、俺は完全にビビッて腰を抜かしてしまった。


「な、なんだぁ?」


玄関から伸びる階段の下、さっきまで俺とリュカ達が話してた場所にいつの間にか白銀の馬…というか鹿のような見たことのない生き物が二頭…いる。

は?なんだあれ、いつの間に来たんだ?

つか、今雷落ちませんでした?君たち大丈夫なの?

しばらく座り込んでその生物を眺めている内に少しは落ち着きを取り戻すことが出来たのでゆっくりと立ち上がって改めてその生き物を観察する。

結構デカい。あとなんか全体的にビリビリしてるぞ。

やっぱり雷に打たれてたんじゃないですかー、お医者様ぁー!!


舐め回すようにその生き物を見ていて気が付いたんだけど、その内一頭に女の人が乗ってる。

何でいままで気が付かなかったんだと思うくらいクールな感じの甲冑美女。

左の腰には立派な剣を携えていて、背には弓…だろうか?それもまたずいぶんゴツイ感じのを背負っているようだ。

すげぇな、フル装備だ。これから奇襲でもかけに行くんですか?って感じ。


……………て、敵襲ぅー!?

こんな日中にしかも爆音と共に堂々と奇襲をかけるなんて余程自信があるのか馬鹿なのか…。

しかしこの装備、間違いなく戦う気だ。

これでちょっと立ち寄っただけだ、なんて誰が言っても信じないだろう。

まずいな…

今の爆音を聞いてジークたちはこちらに向かってくれてるだろうが、それまでは俺一人だ。

もし俺がここで逃げたりしたら使用人たちが襲われるかもしれない、それは絶対避けなきゃいけない。

例え俺の手足が千切れようとここは絶対通さないぜ!


そうだな、ちょっと卑怯だけど無力な振りをして敵の油断を誘ってみようか?

いや、それだと万が一の場合何もできずに殺されてしまうかもしれないか…、却下だ。

じゃあやっぱり先手必勝か!?

生憎と木刀は持ち歩いてないが、体に魔力が通りさえすればこの際物はなんでもいいだろう。

なんなら腕を振りかざすだけでも十分に不意を突けるはずだ。


相手はナイスバディ―な凛々しい女の人だけど、やらなきゃこっちがやられるんだ。背に腹は代えられない!

初の対人戦闘だ、何が起こっても対応できるように冷静さを欠かないように気を付けて挑むとしよう。

こんなに睨み合っているのになぜか何の反応もないけど、とにかく喰らいやがってください!


「ちぇぇぇり…」

「おう、エトワール。ずいぶん早かったじゃねーか。」


玄関から現れたジークは、片手を上げて侵入者へと歩みながら気安く声を掛けた。

おいバカ死ぬぞ!?


「貴方が何日もサボるから、アタシ直々に迎えに来てあげたんじゃない。労いなさい、心から。」


「サボりじゃねぇって言ったじゃねーか。おいおい、こりゃ全員信じてねぇな?ったくひどい奴らだぜ、俺は団長だっていうのに全く信用してねェでやがる…。」


「それは貴方の日頃の行いのせいでしょう?改めなさいよ、早々に。………で?あっちでアタシを睨んでいるのは、もしかしてシャルルか?」


そう言って襲撃者、もといエトワールという女性は玄関の柱の陰から覗いている俺を指差した。

それに振り向いてこちらを見たジークは、まるで変質者を見るかのような視線を俺に向けて「うわ…」と一言漏らした。

微妙にむかつくんだが…


「あー、アイツはなぁ…うわっぷ!」


「初めましてお姉さん。俺はシャルルの双子の弟でナユタと言います、どうぞよろしく。」


ジークが言い終わる前に足に魔力を込めて猛ダッシュをかまし、二人の間に割り込んでやった。

まだジークとネタ合わせが出来てないから余計な事を言われないようにする為と、いい感じに生まれた風圧でジークを驚かせてやりたかった為である。

ふー、ひやひやしたぜ。

押しのけたジークが小声で「へぇー」と言っていたからたぶんおおよその事は理解してくれたんだろう。

問題はこのグラマラスお姉さんだ。

どうやらジークの知り合いでシャルルとも顔見知りのようだが、果たしてちゃんと信じてもらえるだろうか?


「……………。」


「ごくり。」


「へぇ、シャルルに弟なんて居たんだ、知らなかったよ。ナユタって言ったっけ?アタシはエトワール、こっちこそよろしく。」


どうやら大丈夫だったようだ!

エトワールはニカッっと笑うと馬っぽい生き物からふわりと降りた。

改めて近くで見ると本当に美人だ。

キリッとした目元がクールな感じで格好いいのに、笑う姿は子供みたいに豪快だ。

こんなギャップ美人がお迎えに来たのに、なーんでジークは不満げなんですかねー?


「エトワールさんはジークを迎えに来たんですよね?ならエトワールさんも騎士団の人なんですか?」


「おい待て坊主、なんで俺は呼び捨てで敬語も使わないのにエトワールにはきっちり敬語使ってんだよ。」


「お前、そりゃ…。日頃の行いってやつだろ。」


「またそれかっ!」


そりゃそうでしょうよ。

初対面の時は絡みこそなかったけど軽く脅してきて、二回目の時は人の部屋にノックもせずに入ってきて気安くスキンシップしてきた奴ですよ?

そんな奴を今更どう敬えっていうんですかー?

これは当然の対応っていうんですよねー。


「く、ははははは!ずいぶんと仲が良いんだな二人とも。ふーん、見た目はシャルルと瓜二つなのに、中身がこうも違うなんて双子っていうのは不思議なもんだねぇ。」


ひとしきり笑ったエトワールは改めてまじまじと俺を見るとそんな感想を口にした。

事情を知らない人からしたら、結構双子って話は信じるに値するものなんだろか?

正直誤魔化せるか不安があったんだけど、エトワールとのやり取りをみるに安心して良さそうだな。


「それそうと、アタシにも敬語なんて使わなくていいよ。団長のダチなら尚更さ!そしてお察しの通り、アタシも騎士団の端くれさ。なんてこともない、目立たない騎士だけどね。覚えおきな、くれぐれも。」


改めて手を差し出されたので固く握手を交わす。

クールな見た目のギャップ姉さんは、どうやら姉御属性もついてるようだ。

てんこ盛りさんだなー。


「っと、こんなことしてる場合じゃないんだった。ほら団長、とっとと帰るよ。アタシだけであいつらまとめるなんて荷が勝ちすぎてんだよ。さっさと戻って仕事しておくれ。」


「わーったって。んじゃ坊主、世話にな…ってねぇな!むしろ俺が世話した!ならこれは貸しにしといてやるから、王都に来た時にでもまとめて返せよ。」


なーにが世話しただ阿呆め!と、言いたいところだが、実際まぁ少し結構ちょぴっとだけ世話になったし無言で睨むに止めておいてやろう。

ジークはそんな俺の頭を乱暴に撫でまわして、髪がぐちゃぐちゃになったところで満足したのかエトワールが連れてきたもう一頭の方に跨った。


「そう言えばその生き物ってなんなんだ?馬…じゃないよな?」


「ん?なんだい、あんた麒麟も知らないのか?さては田舎の出だろう?はは、恥ずかしがる事でもないさ。知っていても実際見たことある奴なんてのはほんの一握りしかいないからね。ナユタは田舎に戻ったらこのことを自慢してやりな。俺は本物の麒麟を見たことがあるんだぞってね!」


「お、おう。なるほどこれが噂に聞く麒麟かー知らなかったなーみんなに自慢しちゃおうなー。でもなんか、想像してたよりあんまり怖くないんだな。近寄り難くはあるけどさ。」


目の前に居る麒麟ってやつは、もちろん動物園に居るような首の長い生き物じゃないし絵巻なんかでよく見る龍みたいな怖い顔でもない。

どっちかって言ったら本当に馬か鹿に近いし、たてがみがある分馬寄りなようにも思える。

ただ馬や鹿との大きな違いを言えば、全体的に止めどなくびりびりと雷を発していることとかなりデカいってことだ。

大きな青白い馬が電気を帯びながら俺の目の前に居る、そんな感覚だ。

てか、これ乗ってて感電しないのか?


「近寄り難いのは当然だな。何て言ったって俺の麒麟は世界一強くて美しいからな!やっぱり主人に似るんだよなぁそういうの。」


「はいはい、団長の寝言はその辺にしてもらって。近寄り難く思うのは麒麟が神獣だからだろうね。この世界に存在する3頭の神獣、女神ツェリアの使い魔の末裔、その一角が麒麟ってわけさ。」


「?へぇー。」


「お前分かってねぇのに返事してんだろ?ま、お前には縁のない話だろうし暇な時にでも調べてみれ。」


「お前説明すんの面倒くさくなったな?」


「当然。」


まったくこんな性格でよく騎士団の団長なんて勤まってるよな。

いや、エトワールの口ぶりからしてあんまり勤まってはなさそうなんだけど…。


「おっと、忘れるところだったぜ。ノアヴィス老が坊主によろしくってよ。」


「は?よろしくって、どういうことだよ。まだ居るんだろ?」


「いや、もういない。急な呼び出しとかでな、早々に王都へ向かったぞ。」


ん?向かったぞって、ここにずっと居た俺に会わずにどうやって王都に向かったんだ?

それにジークたちもこれから王都に向かうのに何で一緒に行かなかったんだろう?


「なに難しい顔してんだよ。」


「いや、だってジークたちも王都に行くのに何で一緒じゃないんだ?それにどうやって屋敷から出たんだ?窓からってわけじゃないんだろ?」


「あぁ、そういう事か。そりゃな………、あとで姫さんにでも聞け。」


「団長、面倒くさくなったわね?」


「いやいや、俺もきちんと説明してやりたい気持ちはあるんだぜ?ただ俺を待ってる可愛い部下野郎どももそろそろキレる頃だろうと思って涙を飲んで姫さんに託したんだ。」


「はいはい。でも早く帰るのには賛成ね。今頃団長の部屋にはアリスたちが入り浸ってるだろうし。」


「なっ!何で止めねぇんだよ!ほら、さっさと行くぞ。」


突然焦り出したジークは手綱をしっかり握り直して麒麟を俺から少し遠ざけた。

すると麒麟の周囲から無数に(いかずち)生まれ始め、次第に強くなっていきながら頭上に暗雲を呼び寄せていく。

エトワールの麒麟もジークの傍に行くと同じように放電し始めた。

やばい、めちゃくちゃ格好いい!


「じゃあな坊主、せいぜい修行頑張るれや!」


「ではな、ナユタ。息災で。」


二人の声が辛うじて聞こえたかと思うと、再びけたたましい雷鳴が響き渡り目の前が真っ白い光に包まれた。

あまりに強い光に思わず閉じていた瞼を開けると、そこには既に何もおらず先ほどの暗雲が嘘のように晴れ渡っていた。

結局まともに別れの挨拶もできなかったじゃんかよ。

ま、いつか王都に行くことがあったら訪ねてやるとしよう。

そして今回の文句とちょっとの恩返しをしてやるのも悪くない。



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