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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 26 真実を知りて覚悟を決める



食堂の前までつくとクロエは扉をノックした。

返事を聞かず扉を開けると、神妙な顔をした面々がこちらを見つめ座っていた。

怖ぇな、何だよこの威圧感は。

まるで最初にここに来た時みたいな雰囲気じゃねぇか。


「ごめんねナユタ、朝食の前に話がしたいの。少しだけ…いいかしら?」


その言葉に軽くうなずくとノエルはもう一度ごめんね、と言って席に座った。

俺もそれに続いて席に着く。

何だよこの空気、これじゃ本当にあの日の再現みたいじゃねぇか。

何の話か知らないけど茶化していい雰囲気でないことはひしひしと伝わってくる。

正直すでに、胃が痛い。


「朝食の前に申し訳ない。しかしこれはとても大切な事なのでご理解いただきたい。それで、姫様。彼は…」


「はい。彼はナユタで間違いありません、シュヴァリエ辺境伯。レトワルに変化もなく、意識もはっきりしています。」


「お、おい。なんだよ俺で間違いないって。何の話を…」


「………そうですか。いや、申し訳ないナユタ殿。急な話ですから混乱するのも無理はないでしょうな。では、順を追って説明いたしましょうか。」


そう言ってシュヴァリエが目配せをすると、まずノアヴィスが口を開いた。


「ナユタ殿が異世界からこちらに来て今日で8日目、儂らにとってこの日は大きな分岐点となる日なのですじゃ。」


「分岐点…?」


「左様。儂らがナユタ殿ときちんと言葉を交わした日、あの時点で儂らには3つの可能性がありましてのぉ。1つはナユタ殿が偶然シャルル殿の体に入ってしまった彷徨える魂だった場合。2つ目はナユタ殿が邪竜そのもの、もしくはそれに準ずる何らかの存在であった場合。そして3つ目は…。」


「3つ目は?」


「…2つ目に関してはもはや疑う者などおりますまい。それはナユタ殿と言葉を交わし心を通わせたことで証明できましたな。あの竜の紛い物がナユタ殿を襲ったことも、その理由の1つとなりましょう。そして1つ目の可能性の話ですがの、これがナユタ殿にした質問の理由なのですじゃ。もし、ナユタ殿が偶発的にシャルル殿のお体に入られた魂だったとしたら、そうして活動していられる時間は最大でも7日間だったのですじゃ。故に」


「あぁ、だから昨日からやけに体調を聞かれたり、俺が俺かどうか確認したりしたのか。」


「そういう事になりますな。」


なるほど、それに関しては納得がいった。

この7日間、実際は3日ほどだが…で俺が何者なのかを探ってたってわけか。

そっかぁ、俺はてっきり怪しい事をしないように見張られてたんだと思ってたんだけど、なるほどそういう訳があったのかぁ。

ま、信用されてなかったって点ではどっちでも同じようなもんだけどな。

当然のように俺の話は信じてもらえてなかったし、しっかり敵という可能性も視野に入れてたわけね。

仕方ない事だと分かってはいるが、傷つくもんは傷つく。

ちょっと裏切られた気分だぜ。


「んで?俺は結局何って事になったんだ?」


「…シャルル様が召喚した異世界のシャルル様。私たちはそうだと思っているの。」


ノエルが言うには、俺は竜を倒したシャルルが何らかの危機的状況に見舞われ、それを打開すべく召喚した別世界のシャルルであるらしい。

この世界のシャルルと魂の形を同じくする【異世界同一存在いせかいどういつそんざい】というものらしいんだが、今までこの召喚魔法を成功させた例はおろか使用された記録さえ残っていないので本当にそんなものが存在するのかは正直半信半疑なんだそうだ。

じゃあ俺がシャルルと全く関係ない人間ってこともあり得るってことか。

でもなー、顔がなー…。


ノエルによると驚くことに、ここにいるノアヴィスですらこの魔法を使用することは難しい…と言うか実質不可能なんだそうだ。

そんな魔法をどうしてシャルルが使えたのかは分からないが、今ここに俺が居ることでシャルルがその魔法を使用した可能性が非常に高いらしい。


「はー!結局姫さんの勘が正しかったってことだなぁ。女の勘って奴はおっそろしいな。」


「確信はしていますが確証はありません。この推論を裏付けるための実質的な根拠は得られていないんですから。」


「あー、根拠と言っちゃ弱いかもしれないんだけどさ、似てるんだよね。元の世界の俺とシャルルの顔が、さ。全く同じってわけじゃないぜ!?ただ、なんていうか…この顔は俺、何だよなぁ。」


もちろん顔面偏差値が違うのは言うまでもないことなんだが、あの時、鏡で見たこの顔は間違いなく俺だと思ったから。

だからシャルルと俺が異世界同一存在ってやつだと言われても、やっぱりかぁくらいにしか思わなかった。


「………そう、なんだ。ナユタがそう言うなら間違いなさそうだね。」


「マジかよ。こりゃびっくりだぜ。じゃあ坊主の世界に俺も居るかもしれねぇってわけか。…嬉しかねぇな。」


ジークの言葉にノエルが少し眉をひそめた。

別に今の言葉で傷つくようなことは無かったんだが、それでもノエルのその気遣いはとても嬉しく思う。

ノエルは俺の味方をしてくれるんだと思ったら心が少し軽くなった。


「でもさ、シャルルは何でそんな不確定な魔法を使ったんだろうな?」


「これは憶測なのだけれど、シャルル様はこのままでは竜を討伐しきれないと確信めいた何かに気が付かれたのではないかしら?だからナユタをこの世界に呼んで、自分の代わりに竜を討伐してもらおうと考えた…。」


「え、なんでわざわざ。そんな魔法が使えるならそのまま倒しゃ良かったんじゃねーか。百歩譲って俺を召喚するしかなかったとしても、シャルルはいつ元に戻る気なんだ?というか、シャルルは今どこにいる?」


俺が疑問を口にするとなぜが全員の顔に影が落ちた。

今まで話していたノエルも強く唇を噛んで目を伏せている。

何だよ、なんでみんなしてそんな顔すんだよ。

ここで黙っちゃったら、最悪な想像しちゃうじゃんかよ。

帰って来るんだろ?元に戻れるんだよな?

黙ってないで何か言えよ。

これじゃまるで…


「…シャルルは死んだんだ。」


絞り出すような擦れた声でそう言ったのは、今にも泣きそうな顔をしたリュカだった。

俺が何も言えないでいると、苦悶の表情を浮かべるリュカが再び口を開く。


「姫様が確認して下さったから間違いない。シャルルのレトワルは失われた…、もう、戻ることはない。」


「っ!何でだよ!だって俺を召喚したのはシャルルなんだろ?そんな誰も使えないような魔法を使える奴がそんな簡単に…。」


「簡単になんて言わないでほしい。きっとシャルルだって精一杯戦ってとても苦しんで、悩んで…、その結果貴殿を召喚することを選んだはずだ。それが容易な選択だったとは、私は思わない。」


「でも!だけど…お前はそれでいいのか?そんなの受け入れられるのかよ!大切な弟分を亡くして、その体を赤の他人が使って…。」


あぁ、やっとわかった。

リュカが最初に俺を睨んでいた理由。

そりゃそうだよな、シャルルは死んだのに俺みたいなふざけた奴が好き勝手やってのうのうと笑ってるなんて許せないよな。

認められるわけないよな。

俺、なんて無神経だったんだろう。


「ナユタ殿、私が言ったことを忘れてしまったのか?確かにシャルルはもういなくなってしまった。それをきちんと受け入れることはとても難しく、また時間のかかる事だろう。しかし私がシャルルを失った事と貴殿がここで生きる事は、まったく別の話だ。それを後ろめたく感じる必要はない。それに貴殿は、シャルルがめぐり会わせてくれた私の新しい友人だ。それを赤の他人だなんて寂しい言葉で括ってくれるな。」


「で、でも…。俺はシャルルには…。」


「あー、もう!うじうじと鬱陶しいですね、あなたは。あなた自分で言ったでしょう。シャルル様とあなたは別人だって、違いが出るのは当然だって。私たちもそれでいいと言っているんです。何度その小石に躓く気ですか!そんなものさっさと蹴り飛ばして先に進めばいいんです。そんなことも分からないんですか、分からなかったんですね!…でも、もうわかったでしょう?」


「ナユタ殿。私は貴殿に言ったはずだ、生きているのだから思うままに生き抜いてほしい、と。どうか…シャルルの分まで。」


はっきりとした声でリュカは俺にそう言った。

そっか。

あの時お前は俺を許して、認めてくれたんだったな。

リュカにとってこれは、もう決着のついた話なんだ。

リュカもアンリもシャルルの事忘れたわけじゃないし忘れる事なんてないんだろうけど、それでも俺にシャルルを重ねるようなことはしないでくれている。

俺を一人の人として、友人として認めてくれているんだ。

はは、なーんだ…。

シャルルの体に居ることを一番認めたくなかったのも、そして今も認められずにいるのも俺だったんだ。

みんなはとっくに覚悟を決めてたんだな…。

格好わりぃ…

アンリの言った通り、俺は何度これに躓く気なんだろうな。


俺はどこかで、いつかシャルルが現れて俺を元の世界に返してくれるんだと思ってた。

だからはこの体は、来たるその時まで預かってるに過ぎないんだって…。

でもシャルルはすでに死んでいて、もちろん俺を迎えに来るわけなくて。

俺を召喚した魔法も使える奴がいないとなると、いよいよ俺は認めなくてはいけなくなる。


本当のことをいうとそれ(・・)にはうすうす気が付いていた。

でもどうしても受け入れたくなくて、ずっと目を反らし続けてきたんだ。

それを考えないようにするために、この世界の歴史を調べたりさして興味もない騎士の本を読んでみたり、魔法が使えるかもしれないと知ってからは特訓しようだなんて言ってみたりしてさ。

結局は全部、現実逃避でしかなかったんだ。

考えるのが怖くて、その結論に至るのが嫌で逃げ回ってた。

でも、もうやめだ。

いい加減覚悟を決めて受け入れないといけないよな。

これ以上格好悪くて情けない姿を見せてたら愛想尽かされちまうぜ。

他でもない、俺自身に。


俺はイスが倒れるほど勢いよく立ち上がると両手を後ろで組んで胸一杯に息を吸い込んだ。


「俺の名前は九城那由他!日本の平凡な会社員でシャルルに召喚された異世界の住人だ!この世界の事はまだよく分かってないけど、ここにいるノエルとジークそしてリュカとアンリとクロエの友人になれた超絶幸運な恵まれた男!さらに紆余曲折あってやっとこの体で生きることを決意した一生元の世界には(・・・・・・)帰れない(・・・・)、覚悟を決めた男だぁ!!」


改めて言葉にすると足が(すく)みそうになる。

実際、俺の膝は情けないくらいに震えちまってる。

でも俺は受け入れるって決めたんだ。

これ以上逃げず目の前の現実から目を背けたりしない、そんな格好いい男になるんだ。


口はかろうじて弧を描いているが、涙が溢れて止まらない。

でも俺はこれを情けないとは思わない。

こういう時に泣いちまう奴なんだよ、九城那由他って男は。

それが俺って奴なのさ。

そんでこの後にっこり笑うんだぜ?


心配そうに見つめるノエルを見て。

腕を組んで強い視線を送ってくるジークを見て。

泣きそうな笑顔を浮かべるリュカを見て。

決意を抱いたようなまじめな顔をしているアンリを見て。

いつもの無表情が少し崩れかけてるクロエを見て。

俺がここでやれることは少ないかもしれないけど、それでも何かあるのなら。

せめてみんなが笑って過ごせるように、俺に出来る精一杯をこの世界で燃やそう。

だからこれは最初の一歩だ。

みんなに貰った全部を大事に胸に仕舞って、不出来な笑顔で心からにっこりと!


「だからこれからも、よろしくな!」


さぁ、始めよう。

俺の頑張りはここからだ。

これから俺がヨボヨボの爺さんになるまで悔いの無いよう精一杯戦かおう(生きよう)

それがシャルルにしてやれる俺からの最大の敬意だ。


「お断りします!」


「お前は言うと思ったよ!!」



俺たちの戦いはこれからだ!的な終わり方をしてますが、第一章はもう少し続きます。

よろしくお願いします。

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