第一章 25 夢を見た朝は運命の日
雪の降る夜。
行き交う人が足早に去っていく中、一人の男がそっと声を掛けてくる。
その男はスッと指を一本立てるとこう問いかけた。
―――煙草の火はいかがですか?
ないないない!
そんな仕事で食っていけるかってんだ。
路地裏で微笑みながら冷たくなってる最期なんて俺は嫌だね。
例え生きてたとしても放火魔か何かに間違われて牢屋行きが関の山だ。
せっかく恵まれた魔力量なんだから、それを活かせる仕事をしたいって言うのに何でこう…ままならないのかねぇ。
「はぁ~あ、人生こんなんばっかだぜ。これじゃ俺、ただの魔力タンクじゃん。回復アイテムみたいなもんじゃーん。」
「おや、ナユタ殿は魔法が使えないのですかな?」
「そうなんだよじいちゃん。俺こんな小さい火くらいしか頑張らないと出せないんだぜー?笑っちまうだろー?」
そういって指先から3㎝ほどの火を出す。
さっきよりはすんなり出せるけど、それでもこの程度ですわー。
「ふむ、姫様。ナユタ殿のレトワルの様子は如何ですかな?」
「えーっと、特別活性化している様子はありません。通常時との変化も微かにあるかな…程度です。」
俺の事をじっと見つめるノエル。
やだ、照れちゃうわー!って言ってる場合じゃないか。
俺を見つめるノエルの目が、いつもの色より少し濃くなっているような気がする。
それに俺のレトワルの様子を見てる?
レトワルって見えるようなものなんだっけ?
「なぁ、ノエルのその目ってどうなってるんだ?」
「え?あぁ、そういえばナユタにはまだ話していなかったわね。以前、人のレトワルは魂のようなものっていう話はしたわよね?通常それは人には見えない、でも稀にレトワルを知覚できる人が居るの。そういった人たちは巫女と呼ばれて国に重宝される…、かくいう私もその一人。レトワルを視覚として認知できる目を持っているの。」
「すっげー、魔眼みたいなものか!何にしてもかっこよすぎるだろその設定!くぅ~、封印した俺の中二心がうずくぅ!」
魔眼とか邪気眼とか男の子なら一度はあこがれた設定なはずだ。
あと体のどこかに封印された何かしらがうずいたりしてさ。
あの時は本気でそう思ってたからなー、楽しかったよなー。
友達と無駄に設定盛り込んだりしてさ、「前世では最後まで共に戦えなかった友と、今再び相見えることが出来ようとは…!」とか言って【戦友】と書いて【とも】って読ませたりしてさ!
…うん、黒歴史だわー。
「うーん、魔眼ってわけではないのだけれど。とにかくこの目でナユタのレトワルを見るかぎりだとうまく魔力を練れてないというよりは…、その属性に指示を出すための魔力をあまり生成できてない感じかな?んっと、つまり…」
「つまり才能がまったくないわけじゃねぇが、平均以下ってことか。残念だったな坊主、四大魔法は諦めた方がいいかもしれねぇぜ?」
そんなぁ…。
これじゃレベルを上げて物理で殴るのとさして変わらないじゃん。
魔法も物理もお手の物、最強魔法剣士ナユタの物語が始まる前に終わっちまったぜ…。
「ふむ…。まぁ焦ることはありませぬぞ。今はゆっくり生活に馴染むことが大切ですじゃ。本来、魔法や剣技などはじっくりと育てていくもの、一朝一夕で成果が出ないからといって諦めてしまうにはナユタ殿はあまりに若い。どうかじっくりと自身のレトワルを育ててやって下され。」
「ん~~~、じいちゃんっ!」
さすが年の功、いいこと言うぜ。
そうだよな、言ってしまえば俺の魔法は生まれたばかりの赤ん坊同然なんだ。
これから何ができて何が好きで何が苦手か分かってくるのに、今できないからって見限っちゃダメだよな!
勉強嫌いだった俺だけど、それでもせっかく手に入れたチャンスを棒に振るほど馬鹿でもない。
初級魔法からコツコツと頑張っていこうじゃねーの!
「よっしゃー!そうと決まれば特訓だ!ジーク、悪いがまた初めから頼むわ。じいちゃん、さっきといい今といい本当にありがとな。俺、じいちゃんみたいに魔法が使えるよう頑張るからさ!」
ノアヴィスはまた「ふぉふぉふぉ」と笑って、踵を返すと屋敷へと戻って行った。
せっかく誰もが夢見る魔法の国に来たんだ、みんなの期待を背負ってると思って0から特訓だ!
今の俺はこれまでにないくらいやる気に満ちて高揚している。
この気持ちをバネに何度だって飛んでやるぜ!
それから気合十分の俺とちょっと面倒くさくなってきたジーク、そしてやっぱり参加してきたノエルの三人で夕暮れまで魔法の特訓をして過ごした。
夕食の時間が近くなる頃にはさすがのジークも疲れたようで、続きは次回にして各々部屋に戻ることになった。
シャワーを浴びてからいつものように美味い夕食を食べ部屋に戻ってくると、俺の体は思い出したかのようにどっしりと重くなり急速な眠気に襲われた。
日中あれだけ体を動かして魔力を消費したのだから当然だろう。
のろのろとした手つきで寝巻に着替えるとそのままベッドに倒れこんだ。
あー、充実した一日だったなー。
二人のお蔭で大きさこそ変わりはしなかったが、火魔法を出すまでの時間はだいぶ早くなった。
できれば明日も一緒に特訓してほしいもんだなぁ。
そして少しでも成長を感じられるような成果を出せたらいいんだけどな。
あぁ、明日はどんな特訓をしようかな?
そんな風に明日を待ち遠しく思いながら、俺は深い眠りについた。
――――――――…
夢を見た。
とても懐かしく寂しい夢だった。
真っ暗な場所に俺はたった一人だった。
ずっとずっと、気が遠くなるほどずっとひとりで居た。
たまに俺の横を光が走り抜けていくが、どれも俺の声は届かなかった。
時々聞こえる、何かが砕ける音だけが俺の鼓膜を揺らすのだ。
あとはひたすら、暗い闇が広がるばかりだった。
俺は寂しかった。
それが寂しいという気持であることを俺は知らなかったが、それでも確かに寂しいと感じていた。
その寂しさだけを抱えたまま、俺は永い時を過ごしていた。
ある時大きな光が生まれた。
俺は眩しくて目を閉じてしまったが、どうしてもその光が見てみたくて恐る恐る目を開けた。
するとどうだ、俺の周りにはとても美しい景色が広がっていたんだ。
頭上には大きく暖かな光があり、眼前には生命がその命を瞬かせている。
そして俺のいるこの星もまた、眩い光を放っていた。
こんなに美しいものが俺の傍にいてくれるのだと、俺はとても嬉しかった。
そうしてしばらくは寂しさに襲われることなく過ごすこととなる。
それでもやがて気づく時が来た。
俺はこの星においてもたったひとりなのだと。
誰も俺を見ていない。
誰も俺を分かってくれない。
俺は待った。
俺の傍に寄り添うものを。
俺の声に気づく光を。
ずっとずっと、待っていた。
目を開けてしばらくはこれが夢なのか現実なのか分からなかった。
何か夢を見ていた気がするんだけど、何だったっけ?
うーん…、ダメだ思い出せん。
なーんか懐かしい夢だった気がするんだけどなぁ?
「ま、夢なんて大抵思い出せるもんじゃないし。覚えてても何も意味ねぇから別にいっか!」
とりあえず顔を洗って着替えよう。
今日も魔法の特訓をするんだ、気合入れていくぞー!
着替え終わってから軽くストレッチをしていると、部屋のドアがノックされる。
お、きたきた。
いつもは着替え終わったタイミングでクロエが登場するのに、今日は珍しく余裕があったな。
さてはクロエの奴寝坊したのかな?
寝起きの顔だったらぜひ見てみたいので、わくわくしながら返事を返す。
「失礼いたします。」
そう言ってドアを開けて入ってきたのは、クロエとノエルの二人だった。
わーぉ!まさかの両手に花、再び!
これは朝から嬉しいサプライズだ。
「グッドモーニングっ!ってこれは通じないか。おはよう、ノエルとクロエ。二人でお出迎えなんて嬉しい事してくれるねー。」
「おはよう。ナユタ…、よね?」
「ん?応ともさ!つーか他に誰が居るんだよ。なぁクロエ。」
「そうよね、良かった…。体調はどう?何か変わったこととかない?」
ノエルはホッとしたように、でもどこか寂しそうに笑いながらそう言った。
なんだ?昨日といい今日といい、なーんか変なんだよなぁ。
「至って健康!元気いっぱいナユタマンだぜ。そういうノエルはどうよ?元気ですかー?」
「え、私?私は、元気だよ。うん、ナユタが元気で良かった。それじゃ、みんなのところに行きましょうか。」
そう言うと先導して部屋を出て行った。
ん?みんなのところって食堂の事だよな?
なんでそんな言い回しをするんだ?
なんかクロエもあんまりしゃべらないし。
なんかまたトラブルですかねー?
ま、何にしたってここに居るだけじゃ始まらないし、大人しくついて行きますか。
みんなが待ってるっていうなら好都合、そこでちゃんと説明してもらおう。




