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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 24 シャルルの置き土産



魔力を込める、魔力を込める…

魔力の出し方は何となく掴めて来たけど、普通の魔法の時と一緒な感じで大丈夫なのか?

ただ自分の中に生まれた熱を巡らせてるだけって感じなんだけど、このまま振ってファイアーソードみたいにならないかな。

火力的に無理か、俺の力じゃせいぜい聖火ランナーのトーチってところだな。

これでちゃんと魔法が使えてたら魔法剣士になれたりするんだろうけど…。

その夢もだいぶ遠そうだし、とりあえず木刀振って体を動かすくらいの気持ちでいればいいや。


っよし、思いっきり魔力を込めてやったこの木刀を…思いっきり振る!


「は?」

「なっ!」

「え?」

「…。」


俺が木刀を振り下ろした直後、凄まじい轟音が響き渡り中庭に一本の道ができていた。

その道は草花をなぎ倒し地面を抉り小屋を半壊させ、そのまま屋敷の敷地外にまで続いていた。

わお。


「お、おぉ、お前今何やった!?庭が抉れたぞ?それも敷地の外まで!たかが木刀一本で何をやったらここまで出来るんだよ!」


「お、俺だって何が起こったんだかわかんねーよ!つか本当に何が起こったんだ!?ビームでも出たってのか!?」


「ナユタの魔力が込もった木刀がすごい速さで振りおろされて…」


「その風圧で草花と地面は綺麗に吹き飛びました。」


ま?

俺はたださっきの魔法の時と同じように魔力を込めただけですぜ?

特別何かをイメージしたわけでもないし、魔力に指示なんてのも出してない。

ただ普通に振り下ろしただけのつもりだったのに、まさかこんな大惨事になろうとは…。

でも待てよ?

これはもしかして俺の秘められた才能が開花した的な話なのでは!?


「ってそんな事よりも庭!やべぇよ、どうしよう。これはさすがにシュヴァリエさんに怒られる…!」


「ま、怒るだろうな。」


「ジークさん!大丈夫よナユタ、シュヴァリエ辺境伯はとても温厚でお優しい方だからきっと許して下さるわ。大丈夫…よね、クロエ?」


「一介の使用人に主の考えを推し量る事は出来ません。が、もし個人的な事を申し上げてもよろしいのでしたら、あちらの奥で半壊している温室には我々使用人一同が丹念に世話をしてきたハーブがありました。いえ、ただあったというだけなのですが。えぇ、ただそれだけの事です。」


「ごめんなさーい!!」


額を地面にこすり付けてクロエに土下座した。

あの無表情のクロエからひしひしと伝わってくる悲壮感。

表情は一切変わっていないはずなのにすごい罪悪感だ!

まずいぞ、まずい!

このままだとあまりの罪悪感で死んでしまう!

何とかして出来るだけ庭を元に戻さねーと、胃が爆散する…!


「ふぉふぉふぉ、何やら聞こえたかと思えばこれはこれは…。ずいぶんと派手になさいましたな。これはナユタ殿が?」


「ノアヴィスのじいちゃん!うおー、どうしようこれ!絶対怒られるやつだよー!!」


正面玄関の階段を下りてきたノアヴィスはいつもの笑顔のまま髭を撫でながら悠長にこの惨状を眺めていた。

そんなノアヴィスの足元に縋りついた俺は、さながらドラえもんに泣きつくのび太君よろしく滝のような涙を流しながら全力で助けを求めた。

助けてノアえもん!


「ふむ、安心召されよナユタ殿。この程度でしたら儂のような老骨でもお役に立てますじゃ。ほれ、そんなことを言っている間に終わりましたぞ?」


「ふぇ?」


鼻をすすりながらさっき俺が作った一本道を見てみると、何という事でしょう。

なぎ倒された草花は生き生きと蘇えり、抉れた土は平らに舗装され、半壊していた温室もあーら不思議。

何事もなかったかのように元通りになりましたぁ~、ってえええぇ!?

すげ、本当に元通りだ。

荒れ果ててたのが夢だったんじゃないかと思うほど元通り。

これが大賢者の魔法なのか…!

ぱねーぜ、じいちゃん!

そういえば屋敷に竜が襲ってきた時、みんなの魔法で庭が少し荒れたみたいなことを言っていたのに今となっては見る影もない。

なるほど、あれもノアヴィスの魔法で直してたのか。

まさに全能の大賢者って感じだぜ。


「助かったぜ、ありがとうなノアヴィスのじいちゃん。あんな事になるなんて夢にも思わなかったっつーか…。もう本当にすみませんでした、反省してます。」


「なぁに、若い者の失敗は成長への一歩ですからなぁ。この程度、可愛いものですじゃ。しかし建物や地面はともかく植物の方は今後の世話を気を付けてもらわなくてはなりませんでしょうなぁ。」


ちらりとノアヴィスがクロエを見るとクロエは「かしこまりました」と答え頭を下げた。

それを見たノアヴィスは何度か頷くとそのまま話を続ける。


「ところであれはどういった経緯で出来たものだったのですかな?」


「あー、俺がですね。その、調子に乗って魔力を乗せすぎたみたいで、えぇ、木刀に。それでこう、びゅっと振り下ろしましたところあのような惨状に…。ただ言い訳になってしまうんですけどね。火の魔法を使おうとした時、自分が想像していたよりも小さいのが出て来たものですから今回もそんなものだろうと。まさかこのような事態になるとは露ほども想像できませんでして…。まことに申し訳ございませんでした!」


取引先に謝るくらいの心持ちで思い切り頭を下げる。

これはもう誰が何と言おうと俺の不始末だ。

たまたま助けてもらえたから良かったものの、俺一人だったら目も当てられない結果になっていただろう。

那由他、調子に乗るのやめます…。


「なるほどなるほど。それはまた大変な目に合われましたなぁ。しかしその木刀であそこまでの威力が出せるとは…。ふむ、ナユタ殿には騎士としての才覚があるのやもしれませぬなぁ、ジーク殿。」


「あ?あー、そうだな。魔法はクソみたいだったが、剣技は鍛えれば見れなくもないかもな。」


「マジで!?」


俺には剣の才能があったのか!

生まれてこのかた二十数年、俺自身も知らなかった能力が今目覚めようとしている…!


「ふむ、ではナユタ殿。」


「おう!」


「先ほどの一撃、この儂に打ってみてはくれませぬかな?」


「ん?」


…………………は?

え、何て?


ごめん昨日のシャワーの時に耳に入った水がまだ詰まってるのかもしれない。

儂ニ打ッテミテハ クレマセヌカ?

チョット、何言ッテルカ ワカラナイデース!

いや、本当に何言ってるんだこの爺さん。

あれを人に当てるだなんて、グ、グロイ事になっちゃうじゃん!


「ふぉふぉふぉ、ナユタ殿はお優しいですなぁ。案ずることはありませぬぞ、きちんと防ぎますゆえ。ささ、遠慮召されるな。」


「えぇ~。」


助けを求めるようにジークに視線を送るが、なんてこともなさそうに腕を組んでこちらを見ていた。

なんだよ、心配じゃないのか?

あれをまともに喰らうって、普通ただじゃ済みませんぜ?

いくら大賢者っていってもご年配の方にそんな事しちゃいけないと思うんですよ、僕は。

一応ノエルとクロエにも視線を送ってみたが、早くやらないの?くらいの感覚で首を傾げられるにとどまった。

マジかよ、全然気が進まないんですけど…。

言うからにはちゃんと防げるんだよね?大丈夫なんだよね?


「えーっと、じゃ失礼しまーす…。」


さっきと同じように魔力を練るのは怖かったので、気持ち少なめになるように調節する。

調節とかしたこともなかったけど、グロイのは苦手なので全力で頑張らせていただきました。

それでは喰らってください、那由他ビーム(物理)


「ふむ、ほっ!」


軽い掛け声と共にノアヴィスの正面に黒い渦ができると、俺のビーム(風圧)はいとも簡単に飲まれてしまった。

あ、あれ?なにそれ、ダイ○ン?


「なるほどなるほど、よく分かりましたじゃ。」


「え、大丈夫…なんだよな?ずげーな、一瞬で全部飲み込まれちまった。」


「ふぉふぉふぉ、ナユタ殿は煽てるのが上手じゃのぉ。そんなに驚いてもらえるのも久方ぶりじゃて。」


楽しげに笑う爺さんには傷はもちろん汚れ一つ着いていない。

確かに弱くなるように調節したけど、こんな簡単に防がれるとは…。

さっきついた才能という自信がぽっきり折れちまいそうだぜ。


「さ、さすが大賢者と呼ばれるだけあるんだなじいちゃん。すげー魔法だったわ。んで、何が分かったんだ?」


「ふむ、先ほどの一撃がどのようにして生まれたのか…じゃな。」


「どうやって生まれたか?魔力が木刀に込もって早い一撃になった…んじゃないのか?」


「その答えでは点数はあげられませぬなぁ。あれは木刀に魔力が込められたがゆえに起きたのではありませぬ、ナユタ殿の体に(・・)魔力が通ったことによって発動した魔法ですじゃ。」


「俺の、体…?」


それって


「そう、シャルル殿の体じゃな。どうやらその体にはあらかじめ魔法を刻んであるようですなぁ。おそらく半永久的強化魔法の類じゃろうが、まったく無茶をならるお方じゃ。道理でナユタ殿が4日も起きないわけじゃ。」


「え?俺が起きなかったのってその魔法と関係あんの?」


「えっと、確か半永久魔法は、かけた物体が破壊されない限り効果を持続するという魔法でしたね?ただし常に魔法が発動している状態なので当然その分魔力も消費し続けるとか…。」


「左様。ましてシャルル様の肉体に掛けられたそれはかなり複雑な術式ですな。これは高度な魔法ですぞ?対象の身体能力を極限まで高める代わりに、消費する魔力も絶大じゃ。万人に扱える魔法ではありませぬなぁ。」


えーっと、つまり?

この体は超人的身体能力を持っているけど、常に魔力がガリガリ減っていってるって事?

なにそれスリップダメージMPヴァージョン?

あれ、でも魔力って枯渇すると失神するって話じゃなかったっけ?

あぁ、それでさっきの俺が起きなかった話に繋がるのか。

眠って魔力が回復していくそばからどんどん消費しまくってたってわけだ。


「ん?でもさ、そうなるとシャルルも魔力枯渇したら数日は寝込むって事になっちゃわないか?そんなことになったらむしろ戦いに不利じゃね?」


「んー、いや。そんな話は聞いたことないな。あいつは常にギルドの依頼でどこかしらに居たし、暇があっても祭典やらなんやらに呼び出されてたし。数日も寝てたなんてことになってたら、その話がこっちにも流れてくると思うんだが…。」


「おそらくそれはレトワルの差、だと思います。シャルル様のレトワルは常に膨大な魔力を作る事ができましたから、減る量よりも作る量の方が多かったという事だと思います。」


「はー、なるほどな。だからアイツ結構考えなしに魔法打ったりしてたのか。クソ羨ましい奴だぜ。」


そっか、俺はこの世界に来るまでレトワルも魔力とも無縁だったから、いわばレベル1の状態だったんだ。

それがこっちに来て早々ガリガリ魔力が無くなっていくもんだから慌ててレトワルが魔力を作り始めた。

そうしてこの魔法の消費量より生産量の方が上回った時に目が覚めた…と。


「え。もしかして俺、死んでたかもしれないんじゃ…。」


「ふむ、よくぞ気が付かれましたな。目の付け所が良いですぞナユタ殿。とりあえず今生きていることが不思議なくらいの奇跡が起きた、とだけ言っておきますじゃ。」


シャルルの野郎!

何て無茶な事をさせやがるんだ!

赤ん坊に10tトラック持ち上げさせるようなものだったんじゃねーのかコレ!?

つか、本当によく生きてたな俺。

よーしよし、よく頑張ったなー偉いぞ俺のレトワルとかいうやつー。


「ま、よかったじゃねぇか。今生きてんだし、何より一般人の魔力とは比較にならない魔力量を手に入れられたわけだしな!」


「おぉ!それは確かに!この常時発動型の魔法のお蔭で俺の魔力量はEXなんだな!やりたい放題待ったなし!」


「おう、よかったな坊主!1つ言っちまうと魔法の才能が底辺だから、完全に宝の持ち腐れなんだけどな!」


そうじゃーん!

俺、ライター程度の火魔法しか出せないのに魔力無尽蔵とか何の意味もないじゃん!

いつ使うんだよあんなちゃっちい魔法。

せいぜいタバコの火をつける時に役立つ程度だよ…。

もういっそ煙草の火売りにでもなっちゃおうかな?



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