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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 18 想うこと、想われること



「その顔気持ち悪いんでやめた方がいいですよ。」


「え、何?俺どんな顔してた?」


さわさわと顔を触ってみるが自分じゃよく分からない。

というかこの顔はシャルルの顔なので、本物の俺よりずっと整っているはずなんだがそれを差し引いても気持ち悪いって…こりゃ相当だぞ。


「ニヤニヤと笑って締まりのないその顔ですよ。シャルル様もいつも笑っているような方でしたが、そんなねっっっっとりとした気持ち悪い笑顔ではなかったです。シャルル様のはもっとこう、さわやかでしたから。」


「そりゃ、そうだろうよ。だって俺はシャルルじゃないからな。違って当然だろ?」


「なんだ、わかってるじゃないですか。そうですあなたはシャルル様じゃないんです。なのに何うじうじ考えてるんですか。貴方は貴方として生きていけばいいんです。誰に何言われてもいちいち気にする必要ないんですよ。それなのに無駄に真に受けちゃって…。言いたいことははっきり言うべきです。」


「……………慰めてくれてんの?」


「はぁ!?なんでそうなるんですか、気持ち悪さの権化ですか貴方は」


これでもかという程に眉間に皺を寄せるアンリをリュカが笑いながら見ていた。

どうやら当たりだったらしい。

アンリはいまだに暴言を吐き続けているが、何故かどれも激励の言葉に聞こえてくる。

昨日までの俺が見たらきっとびっくりするだろうな。

アンリに暴言吐かれて嬉しそうに笑ってるだなんて。


たぶん誤解されやすいっていうのはこういう事を言ってたんだろう。

確かにこいつの優しさは非常に分かりにくい。

口は悪いし言葉はきついし、良くも悪くもストレートすぎる。

でも、一回気づいてしまえばなんてことはない。

コイツは壊滅的に不器用なだけの優しい良い奴だ。

それを知ってしまえばなんと心地いい暴言だろうか。

いや、暴言が心地いいっていうのはちょっと意味合いが変わるかな?

とにかく、こいつの言葉はどれも誰かを想って出てくるものなんだ。

しかし分かりにくいのも事実だ。

このままだとこいつ…


「お前さ、その分かりにくさ直さないと一生彼女できないぞ?」


「いや、アンリはお…」

「どこまでも余計なお世話ありがとうございます。あなたもその泣き虫どうにかしないと一緒ですから。」


またしてもリュカを押しのけるアンリ。

ちょっと本格的にリュカとの主従関係が心配になってきたぞ。

大丈夫かなこの次期当主。

当主になっても実権握ってるのはアンリとかにならないといいけど。

何それ怖い、あり得そうで。


うーん、この凸凹(でこぼこ)コンビにシャルルが加わってた時はどんな感じだったんだろうな。


「そういえばリュカとシャルルは従弟なんだよな?…仲は良かったのか?」


「………あぁ。本当の弟のように想っていたよ。三年前からは一緒に暮らしていたしね。なにぶん私よりも出来がいいから、兄らしいことなんて何もしてやれなかったけれど。それでも大切な私の家族だった。」


「そして貴方はその可愛い弟の顔をしてあんなおふざけをしていたんです。思いしれアホ。」


「ぐふっ!」


クリティカルヒット!

ナユタに1000000000のダメージ!


「本当にすみませんでした。」


ナユタは特技、DOGEZAを使った。

しかし何も起こらなかった!


「いや、いいんだ。それに関しては私たちの理解が足りなかったんだ。貴殿をシャルルと重ねてみていた…、それがそもそも間違いであったのだと昨夜の内にジーク殿に叱られてね。貴殿の状況も心情も、我々は何もわかっていなかった。自分の稚拙さを思い知ったよ。」


マジか。

まさかここでジークの名前が出てくるなんて…。

あのお節介お兄様、そんなフォローまでしてくれてたのかよ好き。


「ちょうどその時に私が出て行った後のアンリの話を聞いたものだから、本当にもう…胃が千切れるかと思ったよ。」


「安心してください、呪いでもない限りそんなことで胃は千切れたりしませんから。」


千切れないにしろ穴は開くかもしれないんだから本当にほどほどにしとけよアンリ。

しかしなるほど、それで朝食の時に俺が居ないことを気にかけてくれたのか。

何か追い打ちをかけるように姿を現さなくて逆にごめんなさい。

でも、無理して同席してリバースしてたら間違いなくそこでもダメージ受けてただろうし、ゲロの後始末の手間を掛けなかっただけ今回の事はこっちが正解だったように思える。


「何て言うか、いろいろ気を使わせちまったみたいで悪かったな。あと出来るだけおふざけはしないようにします。」


「いや、それはこちらも同じだ。それと、私が言うのも何なんだが…。貴殿は周りの目など気にせず思うように行動してほしい。せっかく生きているのだ、思うままにこの生を生き抜いてほしいと私は願う。どうか…」


この後小さな声で何か続けたようだったけど、あまりに小さく消えそうな声だったので聞き取ることができなかった。


「……………。ま、あまり目に余るようなら文句は言うかもしれませんが。そこは諦めてくださいね、性分なので」


アンリがリュカを一瞥してからそう言い放つ。

リュカは少し暗い表情をしているが、やはりシャルルの事を考えているんだろうか。

いまだ行方知れずで、体だけがここで俺として活動しているんだ無理もない。

俺の体の方で無事に過ごしてくれているならいいんだが…


「さて、それでは我々はここらで失礼させてもらうよ。勉強の邪魔をして悪かったな。」


リュカは少し考えた後スッと手を差し伸べて続ける。


「どうか頑張ってほしい。君のこれからの道に女神ツェリアの加護があらんことを」


俺たちは固く握手を交わして笑い合った。

おぉ、何か青春っぽいぞ。

差し込む夕日が何ともドラマチックに演出してくれている。


「………なんだか照れるな。」


「わかる。こそばゆいぜ」


一通り笑い合った後、せっかくだからとアンリにも手を差し出してみたが「青臭さが移りそうなので結構です」と断られた。

ブレないやつだ。

しかしこういう場にも流されない男っていうのは意外とモテるらしいから、アンリの今後も大丈夫かもしれないな。

もしかしたら既に彼女が居るのかもしれないが…

うーん、それは何か嫌だな!


二人が書庫から出て行くのを見送り、ずっとそばで控えていたクロエに礼を言う。

きっと俺がここに居ることを二人に伝えたのもクロエだったのだろう。

ジークといいクロエといい、影で支えてくれる人が居るから俺は今もこうして笑ったりできてるんだなってつくづく思い知ったよ。


「本当にありがとうな、クロエ。今度ヌコにモテる秘術を教えるから、一緒に中庭でも散歩しようぜ。」


「私は仕事をしたまでですナユタ様、ですので改まったお礼は不要です。それと…、ヌコさんの件はよろしくお願いします。」


そう言ったクロエの顔が赤く見えたのは照れてるからなのか夕日のせいなのか。

思わず笑った俺を、クロエは不思議そうに見ていた。


こんな風に穏やかに過ごすことができるなんて思いもしなかったな。

クロエとさらに仲良くなれた。

リュカとアンリと仲直りができた。

こうして考えるとなんて子供っぽいんだろうと思うけど、それでも人が生きていく上では大事な事なんだと強く思う。


いくつになっても人間関係っていうのは人を悩ませる大きな要因の一つだけど、例えば今日のようにあっさりと解決することだってあるんだ。

むしろ昨日の事が無ければ、俺とリュカやアンリはこんな風に話したりできなかったかもしれない。

まさに人間万事塞翁が馬ってやつだな。

きっとこの先も色んな事があるだろうけど、今日の事は絶対忘れないようにしよう。

そう思えるほどに、今日の出来事は俺の大事な思い出になった。



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