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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第三章 邪竜神教編
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第三章 3 ディミル村の冒険者



リネット村から一時間ほど歩いたところで突然ヴィヴィが立ち止まり、俺たちに手を上げ止まるよう合図を送ってくる。

そのまま岩陰に隠れるよう指示され、俺とレーヴが身を低くかがめ移動をした。

ヴィヴィも小さな岩に隠れ、前方の様子を注意深く窺っているようだ。

何が来るのか?

魔物か盗賊か…それともまさか。


「(……どうやら、魔物が近づいてくるようだよ。)」


「(分かるのかレーヴ。数は?種類は?)」


「(魔力感知じゃ種類までは特定できないさ。でも数だけなら…三体、かな。さほど大きくはないようだけど…、そろそろ視認できる距離に来るよ。)」


レーヴの言葉にうなずき、俺は岩陰から少し身を乗り出す。

魔物なんて見たこともないから俺が確認しても意味は無いかもしれないが、それでも視認しているのとしていないとではとっさにとれる行動の選択肢に違いが出るので気づかれないよう気を付けながら相手の姿を探す。


「(…いた、子供くらいの大きさの緑色をした魔物だ。俺のファンタジー知識がこの世界でも通用するのなら、おそらくアレはゴブリンだろう。)」


「(ゴブリンか、魔物の中でも最下種として有名だけど…。)」


「(馬鹿野郎、知らないのか?昨今のゴブリンは手ごわい・多い・狡賢いで侮りがた立ち位置に来てるんだぞ。大抵の新米冒険者はゴブリンによって殺されるってもはや定番化しつつある。)」


「(そうなのかい?いや、その手の話にはあまり詳しくなくてね。…一応聞いておくけど、今の話はこの世界での事で良いんだね?)」


「(………。)」


「(なるほど、ではナユタさんは当分口を開かないように。)」


「(……はい。)」


もはや怒りさえしないレーヴに釘をさされ、俺は口を噤んだまま再度ゴブリンの様子を確かめる。

奴らはいったい何をしているんだ?

フラフラと覚束ない足取りで歩いていて、まるで三匹とも酔っぱらっているみたいだ。

まさか魔物が酒を飲むなんてことはないだろうし、弱っているんだろうか?

そう思ってもう少ししっかり見ようと身を乗り出すと、動かした足で小石を蹴り飛ばしてしまう。

それはカラカラと音を立てて転がっていき、草むらの中に入るとその姿は見えなくなった。

しかし立てた音が消えるはずもなく、岩陰から顔を覗かせている俺と立ち止まってこちらを向いたゴブリン達はばっちりと目が合ったのだった。

ハ、ハロー…


《グェアァァァァァ!!!》


「ちっ、気づかれたか!」


「だろうね!あんな音を立てて気づかれないわけがないさ!どうする?」


「俺は正面から、お前はそのまま裏に回れ!」


「了解。」


ゴブリン達は先ほどまでのふらついていた足取りが嘘のように素早く俺たちとの距離を詰めてくる。

俺はすかさず剣を抜き、襲いかかるゴブリンを迎え撃つ。


(まずは…一匹!)


俺の頭を狙って跳んできたゴブリンの首を刎ね、そのままもう一匹に蹴りを入れる。

それを見た三匹目がひるんでいたが、そこをレーヴが後ろから攻撃し息の根を止めた。

最後に蹴りをくらって伸びていたゴブリンに剣を突き立て、魔物との戦闘はあっけなく終了した。


「なんか、こんなもんかーって感じだな?」


「まぁ相手はゴブリンだったし、数も少なかったからね。これで慢心しているとこの先で簡単に死ぬから、油断だけはしないでくれよ。」


「分かってるって。っと、ヴィヴィー?終わったから出てきていいぞー。………ヴィヴィ?」


「…居ないのかい?」


いくら呼んでも返事が返ってこないので、俺とレーヴは先ほどまでヴィヴィが隠れていた岩へ近づいていく。

しかしそこにもヴィヴィの姿はなく、最悪の状況が頭の中を駆け巡った。

まさか、他のゴブリンに…?


「っ、ヴぃヴぃ!どこだ、返事しろ!!」


「なぁにぃ?そんなに怒鳴らなくてもぉ聞こえてるよぉ。」


「ヴィヴィ!!」


その声に振り返ると、そこにはいつも通りのヴィヴィの姿があった。

特に怪我をしている様子も怯えている様子もなく、へらへらと笑っているのでひとまず安心する。

だがそれならなぜ最初に呼んだ時に返事をしなかったんだ、そのせいでこっちは心臓が止まる思いをしたんだぞ?


「お前なぁ…隠れてるのは良いけどせめて返事くらいしろよな?マジでお前が攫われたか殺されたかしたのかと思っただろ?」


「きっしし、僕がそんなヘマするわけないでしょぉ?遊撃隊がおにーさんたちに向かって行ったから、隠れてこっちの様子を見ていた本隊を殺しに行ってたんだよぉ。」


「本隊…?」


「そ、さっきおにーさんたちが戦ってたのは囮だよぉ。アイツ等群れの中でも弱い個体にああいうことさせてぇ、そうして油断した人間を殺しに来るんだよぉ。まったく、気を付けてよねぇ。僕が本隊を見つけてなかったらぁ、もぉっと大変な事になってたんだからぁ。」


「………マジか。」


「ま、おにーさんたちは魔物との戦闘経験がないみたいだしぃ?今回は大目に見てあげるけどぉ。でも次からは気を付けてよねぇ?僕が隠れろって言ったら隠れる、逃げろと言ったら逃げる。それさえ聞いてもらえるなら身の安全はほしょーするよぉ。」


どうやらヴィヴィは、暗殺だけではなく魔物退治にも精通しているようだ。

大の大人が二人して小さな子供に説教されている図はなかなかにシュールだが、言っていることが正しすぎでなんの反論もできなかった。

ぐっ、これが経験値の差か。

返り血を浴びた様子もなく、息一つ切らしていないその姿はさながらベテラン冒険者のようだ。

なるほど、新米冒険者とはまさしく俺たちの事だったか。

それから俺たちは先頭を行くヴィヴィの後に大人しく着いて歩いたのだった。


―――


「あ、見えてきた。アレがおじーさんの言ってた村じゃないかなぁ?」


そう言ってヴィヴィが指をさした先には、確かにリネット村より大きな村があった。

薄い木の板ではあるようだが村を囲うように壁が作られていて、そこの村も近くに川があるようだった。

このあたりは川沿いに村を作る風習でもあるのだろうか?


「やれやれ、この時間じゃこの村で聞き込みをしてそのまま泊まる事になりそうだね。まぁ宿に空きがあればの話だけど。」


「僕は別に宿じゃなくてもいいよぉ?馬小屋とか家畜小屋とかぁ、屋根があるだけで満足だしぃ。」


「ヴィヴィさんは逞しいね。まぁとりあえずの問題は、すんなりと村に入れてもらえるかどうかだけどね。」


「確かに。まぁ大丈夫だろ、きちんと話せばきっと入れてもらえるって。どう見たって俺たちは怪しい集団には見えない………よな?」


「さぁ?当事者にそれを聞いても、客観的に僕らがどう見えるかなんて分からないだろう?」


「ごもっともで。それじゃ当たって砕けろの精神で参りましょうか。」


「砕けたら困るんじゃないのぉ?…それにさぁ、ずっと言おうと思ってた事があるんだけどぉ。」


「ん、なんだ?それは今言った方がいい事か?」


「うーん、そだねー。村に近づく前に改善した方がいい事、かなぁ。」


「そうか。で、なんの話だ?」


「うん、あのねぇ。さっきの村でもそうだったんだけどぉ、村の人たちは誰よりもおにーさんを警戒してたんだよぉ。」


「え!?う、嘘だろ?この中で唯一善良な一般市民なのに!?」


「…あぁ、何となく話の結末が分かったよ。」


「レーヴまで!?なぜだ!なぜ俺が一番警戒されるような事態に陥っていたんだ!!」


「うんとねぇ、たぶんだけどぉ。おにーさんがこの中で一番怪しい見た目をしてるから、かなぁ?」


「怪しい…見た目…だと!?」


「うん、昨日からずっと思ってたんだぁ。おにーさんにとってはそれが日常なんだろうけどぉ、初対面の人から見たらかなり不気味なんだろうねぇ。」


「不、気味…。そんな、俺が何をしたって言うんだ…!」


「あ、まぁだわからないんだぁ。それともわざとなのかなぁ?おじさん、僕ってどうすべきぃ?」


「そうだね…ここまで来るとわざとの可能性も否定できないけど、おそらく自覚がないだけだろうから直接指摘してあげた方がいいかもしれないな。」


「そっかぁ、おにーさん鈍いから仕方ないねぇ。…それじゃおにーさん、心の準備はいいかなぁ?」


「心の準備が必要な事柄なんです!?ちょ、ちょっとまって…いま深呼吸を…」


「あのねぇ…」


「慈悲は無いのですか!?」


「…その仮面ってぇ、着けなきゃダメなのぉ?」


「………、あらま。」


思わず膝から崩れ落ちる。

おい、嘘だろ俺。

いったいこれで何回目だ?

もういい加減このやり取りにも飽きがくる頃だろうが、あんまりしつこいと嫌われちゃうぞ?


「おにーさん、だいじょぶ?」


「そこそこだいじょばない。」


「あらー、結構重傷だねぇ。それじゃあ僕とおじさんだけで先に行ってこよーかぁ?」


「いや…行く。ここで立ち止まってちゃ男が廃るからな…!」


「君の格好づけ所ってそこなのかい?」


「……、いくぞっ!」


「おぉ~。」


誤魔化しきれていない感がひしひしと伝わってくるが、ここは無理にでも押し通す。

要は仮面をとれば全て解決なんだから、もうこれ以上の指摘はご遠慮願いたい。

なぜなら心がズタボロだから!

俺は仮面をノーキにしまい、改めて目の前の村へと向かったのだった。


近づいていくと分かるが、この村を囲う壁は薄いながらもなかなかの高さを有していた。

大人二人が縦に並んだとしても届かないくらいはあるだろうか?

リネット村に立ち寄ったばかりだから尚更立派に見える。

それだけこの村は防衛に力を入れることが出来るほど潤っているのか、それともそうせざるを得ないほど周囲の治安が悪いのか。

騎士団も立ち寄るという場所なだけあって魔物の数は一定数居るのだろうけど…。


「いらっしゃい、旅の方。こちらへは何しに?」


「こんにちは。俺たちはとある犯罪者を追って王都から来た旅の者です。情報収集と、出来れば宿も借りられればと思っています。」


「………。」


「……あの、何か?」


「あぁ、いやすまないねお兄さん。どこかで見た事あるような気がしたんだけど…、気のせいだったみたいだな。」


「よ、よくある顔ですから…あははは。」


「ははは、いや失礼したね。えっと、それじゃ滞在は一日って事でいいのかな?」


「はい。今夜泊まって、明日の朝にはお暇します。」


「そうかい。ふむふむ、三人の旅人さん…明日まで滞在っと。はい、いいですよ。ようこそディミル村へ!」


そう言って村の入り口に居たおじさんは何かを書きとめるとあっさり俺たちを中に通してくれた。

特に身分証なんかは出してないんだけど…大丈夫なんだろうか?

俺たちからすれば余計な手間と時間を消費しなくて済むのはありがたいけど、村の治安を守るという観点からすると些か心配になってくる。


「…すんなり入れちゃったけど、この村の治安って大丈夫かな?なんなら早めに出て野宿でも俺は構わないんだけど。」


「んんー…たぶんだけどぉ、別にならず者が入って来ても何とかなるからなんじゃないかなぁ?」


「……あぁ、騎士団が出入りしてるからか。確かに騎士が目を光らせてたら悪さもしづらいだろうけど、でも絶対ないとは言い切れないんじゃないのか?」


「うん、実際悪さをする奴はいるんじゃないのかぁ?でもぉ、そんな事をしたらきっとあの人たち(・・・・・)に追い出されるんじゃない?」


「あの人たち…?」


ヴィヴィの言うあの人たちへと視線を向けると、そこには見るからに冒険者と言った風体の男女の姿があった。

その人たちは俺たちを値踏みするように観察していたようで、俺と目が合うとニヤリと笑って去っていった。

ヤンキーかよ、こっわぁ…。


「冒険者ギルドの人たちだねぇ。どうやらこの村にはギルドの拠点があるみたいだから、ずさんな管理体制でも治安を維持出来ているんじゃないのかなぁ。」


「冒険者…そうか、あの人たちが!すげー、初めて見るけど想像通りの格好してるんだな!見るからにって感じでこう…夢が広がる!」


「君がどんな夢を抱いているのかは知らないけど、本来の目的は忘れないでくれよ。僕らは観光に来たわけじゃないんだ。」


「分かってるって!…おぉ、ビキニアーマーだ!クレイモアかっけー!!」


「…はぁ。ヴィヴィさん、このうるさいお兄さんを宿まで引っ張って行ってもらえるかい?」


「りょーかぁい。ほらー、おにーさんこっちですよぉ?迷わないように僕の手をしっかり握っててねぇ?」


「ちょ、こら!そんなことしなくても大丈夫だよ!」


「はいはい、なんの説得力も無いからキリキリ歩いてくれ。」


俺の説得が聞き要られる事はなく、そのまま宿までの道をヴィヴィに手を引かれて歩く事となった。

見た目幼女のヴィヴィに手を引かれる男というのは冒険者多しと言っても目立つようで、周囲から向けられる好奇の目と聞こえそうで聞こえないヒソヒソ話が俺の心を抉ってくる。

堪らず俯いてやり過ごそうとしていたのだが、それでも宿までの道中囁かれっぱなしだった。

もう穴があったら入りたかったぜ。


だが宿に入ってしまえばこっちのものだ。

人の目なんてものはせいぜい宿屋のオヤジとラウンジで食事を摂ってる数人だけ。

加えてヴィヴィはすんなり手を離してくれたので、もうあんな好奇の目に晒されることなどないだ…


「シャルル!!お前、生きていやがったのかよ!!」


「え…?あ、いや俺は…。」


「ったく、生きてるなら生きてるでギルドに顔出せってんだ!んとによぉ…お前が死んだって噂を聞いた時にゃ嘘だと思ったが、お前全然顔出さねえからよぉ…。」


「いえ、あの、すみません俺は…」


「なぁに、気にすんなって!どうせあれだろ、また貴族のなんたらで駆り出されてたんだろ?だからおめー、いい加減にギルド一本に絞れっていっただろ?お前だってこっちの方が性に合うって言ってたじゃねぇかよ!」


「そうじゃなくて!ちょっと話をきいてくださ…」


「あぁ、噂の事なんざ気にすんな!俺が何とかしといてやっから、お前は…そうだな。ささっとギルド行って生存証明してこい!このままだと資格はく奪で、また木版(初級)からやり直すことになっぞ?」


「おじさーん、この冒険者の人さっきから何いってるんだろーねぇ?」


「さてね。新手の勧誘か、あるいはこの村の盗賊のやり口なのか…。まさか人違いに気づかず勘違いしたまま話を勝手に進めてる…なんて事はないだろうしね。」


「あ?なんだお前ら、シャルルの連れか?」


「いや違う、僕らはこの男の連れだ。」


「…は?シャルルの連れなんじゃねぇか。なんだてめぇ、俺の事おちょくってんなら容赦しねぇぞ?」


「やれやれ、ここまで思い込みが激しいとはね。それとも僕らの話をきちんと聞いていなかったのかな?」


「そうかそうか、てめぇは俺に喧嘩売ってんだな?よし、いいだろ…表へ出ろ!」


「やめろって!」


「止めんなシャルル!このデカブツ野郎のスカした面に一発入れなきゃ治まんねぇよ!」


「レーヴ!」


「売られたからには買ってあげないと不憫だろう?」


冒険者の方は槍を手に宿の外へ出て行く。

その後に着いて行こうとするレーヴを止めようとするが、なぜかそれはヴィヴィに制止された。

何だよこの状況、どうしてこうなった!?

慌てて二人の後を追うと既に人だかりができていて、その中央で冒険者とレーヴが対峙していた。

それはさながらガンマンの早打ち勝負の様で、周りは囃し立てていたが本人たちは本気の形相だった。

マジでやるつもりなのかよ、この二人…!

つーか、俺のポジションって何!?ヒロイン?

俺ノ為ニ争ワナイデー!?


「ん?なんだてめぇ、まさかその目…見えてねぇのか?」


「なんだ、今頃気が付いたのかい?…だとしたら、手加減でもしてくれるのかな?」


「はっ!ほざきやがれ。目の見えねぇ武人ほど厄介なもんはいねぇんだよ、手加減どころか全力で相手してやる。」


「やれやれ、冒険者っていうのはみんな君みたいなのかい?血の気が多くてまるで野犬だね。」


レーヴの一言で周囲の冒険者が一斉に殺気を放ち始める。

どうやらレーヴは目の前の男だけでなく、この村にいる全ての冒険者に喧嘩を売ってしまったようだ。

渦中に居ない俺ですら嫌な汗を掻くほどの殺気を一身に受け、しかし余裕そうに笑みを浮かべたレーヴは手に持っていた杖を端へと投げた。

どうやら本当に戦うつもりらしい。

構えを取るレーヴに対して冒険者の方も自分の得物をレーヴへ向ける。

まさに一触即発。

静寂と緊張が入り混じる最中、最初に動いたのは冒険者の方だった。


「しゃぁああぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」


「まぁ、何をやっていますの?」


「え!?あっ、ちょ、ばっ!」


一気に距離を詰めようと直進した冒険者の目の前に、いつの間にか一人の女性が立っていた。

その女性はこの場に似合わない柔らかな口調で冒険者と対峙している。

女性に気がついた冒険者も急停止しようと試みたようだったが…見事に躓きあらぬ方向へと転がっていったのだった。

その際首が変な曲がり方をしていたように見えたけど、果たして生きてるだろうか…。


「ってぇな!いきなり現れんじゃねぇよ、クソババア!」


「まぁ、なんて口の悪い!そんな風に育てた覚えはありませんわよ?」


「育てられた覚えもねぇよ!ちっ、ほんとに何しに来やがった!!」


「何しに…ですって?あらあら、まさかそんな事も分かりませんの?あたくしがどうしてここに来たか、本当にちっとも…ですの?」


「うぐっ!そ…れは…」


「それは?」


「ちっ、別にいいだろこんくらい!ちょっと遊んでやろうと思っただけだよ!んな事でいちいち来なくても…」


「私闘は厳禁。これは冒険者になる際、最初に教わる事ですわよねぇ?」


「…だけどよぉ!」


「だけどとかでもとかどうでもいいんですのよ?貴方はただ一言『ごめんなさい』と言えば良いのです。それをなんです?先ほどから聞いていれば言い訳ばかり…権利はく奪、されたいのですか?」


「~~~~!!あぁもう!わーったよ、やめりゃいいんだろ?ちっ、いちいちこんな所にまで出てきやがって…何様のつもりだってんだ。」


「まぁ、偉いですわね!あと残すは一つだけですわ。」


「あぁ?まだ何かあんのかよ!?」


「ごめんなさい、は?」


「………。」


「ご め ん な さ い 、は?」


「ご…ごめんなさい。」


「まぁまぁ、やれば出来るではありませんか!さすがは冒険者ギルドでも少しは名を轟かせていない事もない、中途半端な立ち位置の槍使いですわね!」


「褒めるか貶すかどっちかにしろ、キレづれぇわ!!ちっ、おいそこのデカブツ!命拾いしたな、次会ったらテメェのスカした顔をボコボコに…」


「まぁ、まだ分かっていないのですわね?…ちょっとごめんあそばせ。」


「お、おい、なんだよ…こっち来んな…おい、やめろ!どこ連れてく気だ!や、やめ、悪かったからやめっ………………ぎゃーーーーー!!!!!」


―――その断末魔は、村中に届いたという…。


周囲に集まっていた村人や冒険者たちも、それを聞くや否やまるで示し合わせていたかのように散っていった。

残されたのは俺たちだけで、どうしたもんかと考えあぐねていると、路地裏に消えていったゆるふわお姉さまが静々と戻ってきたのだった。

片手に先ほどの冒険者を引きずって…。


「まぁまぁ、先ほどはこのお馬鹿さんが失礼をいたしましたわ。私闘はご法度と何度教えても聞かず…本当にいけない子。」


レーヴの目の前に来たその人は投げ捨てるように槍使いを下ろすと、色っぽく微笑みかけてくる。

思わず息を飲むほどの色気だ、目の前にいたのが俺だったら鼻血を出していたかもしれない。

しかし当のレーヴは気にも留めていないようで、投げ捨てられた槍使いには一切触れずその女性にそのまま話しかけた。


「失礼ですが、あなた方は?なにぶん自己紹介も無しに喧嘩を売られてしまいましたので、何も知らずにここに居るのです。」


「まぁ!あの子ったら本当にどうしようもない子ですわねぇ。では改めてあたくしから説明を。あたくし達はギルドに登録された冒険者。あたくしはメアリアン、あちらで眠っている子はグリムと申しますの。あなたの…お名前は?」


「初めまして、メアリアンさん。僕はレーヴ、あっちにいる連れと旅をしている者です。」


「まぁまぁ、お仲間もいらっしゃいますのね?ぜひご紹介を………、シャルル?」


「え?あ、いや違くて。さっきも勘違いされたんですけど、俺はシャルルではありません。」


「……そう、ですわよね。シャルルは亡くなったと聞いておりますもの、ここに居るはずがありませんわ。ごめんなさいね、そこの御方。よろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「俺はナユタと言います。シャルルでなくてすみません、さぞガッカリされたでしょう。」


「まぁ、ナユタさんはお優しくていらっしゃるのですね。良いのですよ、貴方が謝るような事ではないのですから。」


「…、すみません。」


「あらあら、困ったお方。…そちらのお嬢さんは何というお名前なのかしら?」


「僕はヴィヴィでぇーす。」


「まぁ、ごめんなさい。男の子でしたのね?あまりに可愛らしいから勘違いをしてしまいましたわ。」


「いいよぉ、別にどうでもいい事だからぁ。」


「まぁまぁ、貴方もお優しいのですね。…そうですわ、よろしければこれからご一緒に食事などいかがかしら?あの子の事でお詫びもしたいし、何よりあなた方も聞きたい事がおありになるのでしょう?ね、レーヴさん?」


「………そうだね、それもいいのかもしれないけど。」


レーヴはこちらに振り向き同意を得るようにそう言った。

それに対して俺は少し迷う。

この人…いや、この人たちはシャルルの事を知っている。

もしかしたらシャルルと一緒に冒険へ出ていた人たちかもしれない。

そうなると気を付けなくてはいけないのは、俺の体がシャルルその物であると気づかれないようにする事だ。


俺は今、シャルル双子の弟として世間に認識されている。

少なくとあのパーティー会場に居た人たちはそう認識しているはずだ。

なぜなら王様がそう言ったから。


俺の事をシャルルではなくシャルルの弟であると一国の王が紹介してしまった以上、ここでこの体がシャルルそのものであることを知られるのはまずい。

もしその事実が明るみになり人々の間に広まってしまったら、きっと俺の存在が怪しまれるだろう。

シャルルの中にいるあの男は誰なのか、と。

だがそれだけならまだ弁明のしようもあるだろう。

正直に話すなり記憶がないのだとはぐらかしたり、やりようはいくらでもある。

しかしそこに王様が絡んでくるとなれば話は別だ。

英雄シャルルの体を奪った謎の男と、それを知っていて擁護した国王。

もしこの国にラプラント公爵のような人間がまだいるのだとしたら、この事実は王様の地位を揺さぶる格好の材料と成り得るだろう。

”民を誑かし悪しき者と手を組んだ暗君”

その肩書を民に風潮すれば、きっと王様を信じきれなくなる人たちも出てくるはずだ。

そんな事になれば国は傾き、ゆくゆくは内乱にまで発展する可能性もある。


もちろんそんなのは俺の妄想で、考えすぎだと言われればそれまでだろう。

俺という存在にだって、そこまでの利用価値は無いのかもしれない。

でも、それでも、可能性がある以上は警戒するべきだと思う。


目の前の女性は冒険者だ、きっといろいろな情報がその耳に入ってくるのだろう。

その証拠に俺たちが情報を求めている事を知っているような口ぶりをしていた。

門番から聞いたのか、それとももっと前の段階で知ったのかは分からない。

しかし少なくとも俺たちの事をこの短時間で知ることのできる人物なら、話をする価値は大いにあると思う。

ノーリスク・ハイリターンを望めないのはどの世界も同じだろう。

ならば、ここはあえてリスクを抱えてでもこの人から話を聞いておくべきだ。

きっとこれは俺たちにとって大いに意味のある出会いだと思う。


「……よろしくお願いします。」


俺の回答にその女性…メアリアンは微笑みで応え、俺たちは彼女と共にギルドの経営する飲食店へと向かったのだった。


「あ、え?この人はそのままでいいんですか?」


「えぇ、もちろんですわ。往来の目に晒されれば、少しは学習するでしょう。」


まるでギャグ漫画のようにズタボロにされた槍使いグリムは、道のど真ん中に捨てられたまま放置されることになった。

周囲の人々は遠巻きに見ながら笑っていて、助け起こすようなことはしないらしい。

どうやらこの村ではよくある光景みたいだな。

まったく、情け容赦なしだ。



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