第三章 1 野宿
西に向かい歩みを進めていた俺たちは、既に沈みつつある太陽を横目にため息をついていた。
出発した時間が遅かったせいでいくらも進まない内に日が傾き始め、こうして早々に野営できる場所を探す羽目になってしまった。
ここからでもまだ城壁が目視できる。
まさかこんな場所で野宿することになるとは…なんだか切ない気分になって仕方ない。
「あ、そうだ。一応テントみたいなのは用意したから、とりあえずこの辺りに組み立ててみるか?テントっつーか、布の屋根だけみたいな奴だけど…。」
「テントぉ?おにーさん、そんな大きなものどこに隠し持って………わー、なにそれぇ。不思議な袋だねぇ、どうやってそんなに小さな袋から出し入れしてるのぉ?」
「どうだ、すごいだろう!これはかの天才魔具師レオン・ツヴァイルが作った最新魔道具!その名も、他次元拡張……他次元式……通称ノーキだ!なんでも入るし、なんでも出せる!優れものだぞ!」
「ふぅーん、よくわかんないけどぉすごいねぇ。あ、それはこっちじゃなーい?そんでここを繋いでぇ…そこ違うよぉ、おにーさん貸してぇ?……ほらぁ、できたぁ。」
「お、おう!何とか完成したな、これで雨は凌げるだろう。……レーヴ君は何か怒っているのかな?さっきから何もしゃべらないけれども。」
「…怒ってはいないよ。ただ少し、焦っているのかもしれないね。あのモルガンとかいう男は今どこで何をしていて、僕たちとどのくらい距離があるのか。それを考えると…どうにも落ち着かなくなる。」
そう言って自分の腕を握りしめるレーヴは俯き眉を顰める。
確かにこの調子ではいつモルガンに追いつくかも、どのくらい被害が出るかも分からない。
しかしそんな考えても仕方のない事で自分を追いつめても、事態が好転することはないだろう。
むしろこちらの消耗を促すだけだ。
俺は力を込めすぎで青くなってきているレーヴの手に触れると、普段通りの冷やかすような口調で声を掛ける。
「まったく、これだから素人君は。そんなんじゃ奴に追いつく前に参っちまうぜ?ま、お前が居なくても俺一人でちゃちゃっとやっつけて捕まえられるから全然余裕なんですけどねー!エルちゃんの目も俺が完璧に取り返してやるから、何ならお前は城で待っててもいいんだぜ?その場合、エルちゃんが俺に惚れちゃうかもしれないけど、恨むんじゃねぇぞ?」
「………ふ、エルが君に惚れるわけないだろう?天地がひっくり返ってもありえないさ。」
「あーはいはい、知ってますよーだ。エルちゃんが会いたいのは俺じゃなくてお前ですよねー。…だから、こんな所で自滅なんてしてらんねぇぞ。お前が迎えに行かなきゃなんの意味もねぇんだからな。」
「あぁ…そうだね。まったく、君の手の上で踊らされた感には腹が立つよ。それに納得させられてる僕にも、ね。」
レーヴは自分で掴んでいた手をほどくと、俺とヴィヴィで張ったテントの中に入る。
やれやれ、まったく心配かけさせるんじゃねぇっての。
俺もその後を追うようにテントに入ると、ノーキから薪を取りだして火を起こす。
どうもこのテントの中央部に開いている穴は焚き火の煙を抜けさせるためのもののようなので、丁度その位置に煙が来るよう調節しながら火を大きくしていく。
うーん、テントと焚き火があるだけで、もうキャンプっぽいよなぁ。
これで飯盒炊飯なんかできれば俺のテンションも上がりまくるんだけど、生憎この世界には飯盒も無ければ米もない。
いや、米っぽいパラパラしたものはあるんだけど、アレはどちらかと言ったら麦なんだよなぁ。
あぁ…考えれば考えるほどカレーが食べたくなる。
キャンプ飯と言えばカレー、これはもう鉄板だろう。
キャンプと言えばカレー、カレーと言えば福神漬け、これはもう外せないパートナー的存在だ。
え?らっきょう?知らん。
「はぁ…いつか絶対この世界でもカレーを食ってやるかんな…。」
「おにーさん、顔怖いよぉ…?」
ふっふっふと小声で笑う俺をヴィヴィは怖いと言ったが、これは野望を抱いた男の顔だ、畏怖を抱いてしまっても仕方がないだろう。
しかし野望は野望、いまここにある訳ではないので今日の所は諦めるとしよう。
だが安心してほしい、俺には秘密兵器”リアの作ったお弁当”がある。
例え舌がカレーの味を求めていたとしても、それを力ずくで矯正するだけのポテンシャルをこの弁当は持っているのだ。
それだけではない!
普段ならすっかり冷めて少し寂しい気持ちになってしまう弁当だが、このノーキに入れられていたことにより出来立て熱々を詰めた最強の弁当となっているのだ!!
これぞレオンとリアが織りなす親子の合わせ技、ザ・パーフェクト弁当だっ!!!!!!
「さぁ、皆のもの拝むがいい。これがリアお手製の弁当だっ!」
「おぉー、すごくおいしそーだねー。なになにぃ、僕も食べちゃっていいのぉ?」
「あぁ!もちろんだぞ!」
「リアって確か、君が連れてた人形だっけ?戦闘だけでなく料理も作れるなんて、天才の作る物は侮れないね。」
「おいレーヴ、次リアのこと人形って言ったら殴るからな?容赦なく右ストレートをお見舞いしてやるからな?脅しじゃないぞ、ガチおこだぞ?」
「わ、悪かったからそう詰め寄らないでもらえるかな?見えなくとも圧がすごい。」
「うむうむ、わかればいいのだ。ではみなさん、ご唱和ください。…頂きます!」
「いっただっきまぁーす。」
「…いただきます。」
それから俺たちはリアの弁当に舌鼓を打ちつつ談笑した。
昼に食いそびれた分を夜に回したので、リアの弁当はあと一食分。
これは明日の朝に頂くとしよう。
そして予定より一人多くなったので足りなくなるかとも思った弁当だったが、ヴィヴィが小食だったのとリアがいつものように大量に作ってくれていたおかげで余裕だった。
そうして食事を済ませた俺は沸かしておいた湯でお茶を淹れると、それを手渡しながら疑問を口にする。
「そういえば、どうしてヴィヴィが同行するのか、その理由をまだ聞いていなかったよな?昨日別れた時はそんな素振りなかったし…って事はだ、その後にその考えを変える出来事があったって事だ。違うか?」
「さっすがおにーさん、微妙に良い勘してるぅ。半分正解、半分不正解だよぉ。」
「…というと?」
「おにーさんと別れるまでは着いて行く気なんて全然なかったしぃ、その後の事で同行する事が決まったのは正解だよぉ。でもこれは僕の意思ではなくてぇ、ただの仕事なんだぁ。がっかりしたぁ?ざぁんねん、僕の厚意じゃありませんでしたぁ。」
「っ、仕事って事はお前っ!」
「あ、ちがうちがーう。もう…僕、前にも言ったよぉ?僕に任されるのは殺しばかりじゃないってぇ。詳しい事は言えないけどぉ、今回の仕事内容を簡単に説明すればぁ”おにーさんたちを手伝え”なんだぁ。」
「俺たちを、手伝う?それが仕事の内容って…いったい誰が何のためにそんな事を依頼したんだ?」
「それは言えなぁい。依頼人に関してはぁ、言っちゃいけない決まりになってんだぁ。」
「守秘義務ってやつか…。でも、このままじゃ俺はお前を信用できねぇよ。俺は一度、お前に殺されかけてるし、嘘ついて本当は暗殺の依頼でしたなんて事になったら間抜けすぎて笑えねぇよ。」
「…だよねー。でも本当の事だしぃ、信じてもらえなくとも僕はおにーさんたちに着いて行くしぃ、一緒にだって戦うよぉ。うーん…、なんならこれからぁ僕は離れて行動しようかぁ?それなら少しは安心できるでしょぉ?僕は仕事が出来れば何でもいいしぃ…別にそれで心が痛むわけでもないし、ねぇ?」
…そう言われてしまうとこっちの心が痛む。
ヴィヴィが言うのなら信じたいという気持ちは確かにあるんだ。
しかしだからこそ、その裏を掻いてこんな風に言っているんじゃないかとも思ってしまう。
ヴィヴィが生粋の暗殺者で、仕事の為ならなんだって利用して完遂する人間である事を知っている故の葛藤だ。
だけどこれでもしヴィヴィの言っていることが本当で、なのに距離を取って行動したとしたら…ヴィヴィはもちろん俺たちの命も危ないかもしれない。
距離があるという事はそれだけ反応が遅れるという事だ。
あと一歩届かずに助けられませんでした、ではお互いに何の意味もないだろう。
例えヴィヴィが嘘を吐いていて俺たちを暗殺するつもりであったとしても、きっと目の前で死にそうになっていたら見捨てることは出来ないんだから。
であるのなら、俺の中での答えは決まりだな。
だか今回の旅は俺一人で全部を決めていいものじゃない。
少なくとも同行者がいる以上、そいつの意見も聞いてみるべきだろう。
「レーヴ、お前はどう思う?俺はこのままヴィヴィも一緒に行動したいんだけど…。」
「……。ヴィヴィさんを最初に見た時に、この子が人を殺す人間であることは分かっていた。この幼さでここまで闇が深いのは、そういう事をしている者くらいだからね。」
「………。」
「だから…僕も気になる事があるんだけど、聞いてもいいかい?」
「うん、いいよぉ。」
「君はあの街を出る時に、大聖教会の加護を受けた御使いだと言ったね?それを証明する証書も持っていたという…。アレは、どうしたんだい?」
「あれはぁ、この仕事を引き受けた時に貰ったんだよぉ。」
「という事は君に仕事を依頼したのは大聖教会に縁のある人間、もしくはその当事者という事だね?」
「それは言えませぇーん。」
「言えないという事は依頼人に関係している、という事でいいかな?」
「…ありゃ?もしかして僕、墓穴掘ったぁ?…んんっとぉ、いや大丈夫だった、のかな…?んもう、僕ってばそんなに頭良くないんだからぁ、あんまり変な事言わないでよぉ。」
「これは失礼。でもそれなら君の依頼にも納得がいくんだよ。」
「納得?どういうことだ、レーヴ。」
「大聖教会が掲げている女神ツェリアは絶対神、この世界に唯一存在する神なんだ。しかし対する邪竜神教は邪竜こそがこの世界を創造した神であり、絶対的な支配力を有する生き物全ての先導者であると考えている。彼らにとっては女神ツェリアなんて、姿のないただの偶像にすぎないんだよ。だから…」
「だから大聖教会は邪竜神教が邪魔、なんだな?唯一の神を冒涜する異端者として、その存在を消し去りたい。」
「その通り、だからこそ奴らの活動には過敏に反応する。もし目立つ場所に奴らが居ようものなら、出来るだけ早急に消し去りたい。でも大聖教会は争いを行わない事を信条にし、どの国にも属さない不可侵条約を結んでいる。そんな大聖教会の人間が誰かを消したいと思ったら?」
「暗殺者を雇う…か。なるほど、それならヴィヴィが俺たちに同行する理由も大聖教会の身分証を持っていた理由にも納得がいく。まさか騎士団に着いて行くわけにもいかないしな!」
「そうだね。暗殺者たちだけで動くという手もあっただろうけど、それだと目的を同じくしている騎士に見つかった時に厄介だろうし。僕たちはちょうど良い隠れ蓑にされているわけだ。」
「………、はぁ。僕、このおじさん苦手かもぉ。なんだか何を言っても見透かられてるみたいだよぉ。」
「まぁ実際、君の闇の揺らぎ方をみて判断していたから、見透かす…という表現もあながち間違いでは無いかもしれないね。」
「闇の揺らぎぃ?そういえばさっきも僕の闇がどうとかって言ってたよねぇ?それって何の事なのぉ。」
不服そうに頬を膨らませるヴィヴィに、俺は笑いながらレーヴの特殊魔法の話をする。
同じ特殊魔法持ちという事でヴィヴィはなかなか興味があったようなのだが、一通り話を聞き終わる頃にはまた不服そうに頬を膨らませていた。
さっきまで楽しいそうにレーヴの目の前をウロウロしていたのに、ずいぶん急変したな…。
「どうした?なんか気に食わない事でもあったのか?」
「んー気に食わないって言うかぁ…聞けば聞くほど暗殺者向けで良いなぁと思って。あーあ、王宮魔術師なんかじゃなかったらぁ、ぜーったい引き抜いてたのになぁ…ざぁんねん。」
「はは、一足遅かったな。でも王宮魔術師になってなくてもコイツは暗殺者にはならなかったと思うぞ?」
「えー、そうなのぉ?」
「……そう、思うかい?」
「あぁ思うね、お前は絶対暗殺者にはならない。少なくとも今のお前は、無闇矢鱈に人の命を奪おうだなんて思ってないはずだぜ?」
「…どうかな?少なくとも今は確実に一人、殺したい人間が居るから。その延長線上で暗殺の仕事を請け負う事になってもおかしくないんじゃないかな?」
「誰かに頼まれて殺すのと、誰かを想って殺すことは違う。ま、お前にそんな事させないためにも、俺が同行してるんだけどな。」
「…やれやれ、そういえば君は僕の監視役だったね。すっかり忘れたよ。」
レーヴは呆れたように笑っているが、俺にとっては笑いごとじゃない。
確かにモルガンは憎いし絶対にその身柄を確保するが、それは殺す為でも殺させてやる為でもない。
あの野郎にきちんと罪を認めさせ、そして償わせるためだ。
だから俺がこの旅で一番神経を尖らせるべき事柄は、レーヴが暴走してモルガンを殺してしまわないように見張るという事。
罪を償うというエルちゃんとの約束を、コイツに破らせない事だ。
だから俺はコイツがモルガンを見つけ出しても殺してしまわないようにこうして同行しているのだ。
「…僕の霧魔法ってさぁ、本当は特殊魔法じゃなくてぇ三神魔法なんだよねぇ。ただ使える人間が極端に少ないからぁ、実質特殊だよね?って事でそっちに分類されてるんだぁ。」
「へぇ、そうなのか。そういえばそんな話をなんかで読んだな…確か四大魔法と三神魔法、この世界の魔法は大きく分けて八つに分類できるってやつだ。」
「そーそー。地水火風の四大魔法、雷霧重の三神魔法。そして奇跡の御業、治癒魔法。もっと言えばそれこそ闇魔法とか召喚魔法とかあるんだけど、昔はこの八つに分けた考え方をしてたんだってぇ。」
「ちょっと待ってくれ、雷霧…重?三神魔法の三つ目は遥か昔に失われて、現在も解明されていないんじゃなかったのかい?重というのは一体…。」
「うーんとぉ、僕もよくは知らないんだけどぉ、重力?とかいう何かを操る魔法があったんだってぇ。この世界を安定させるために自らを犠牲にした神様の使いが眠ってしまってぇ、もうその魔法を使える人がいないー…んだったかなぁ?」
「重力魔法!そんなものも存在してたのか、この世界は!あ、でも今はもうないのか…それはちょっとショックだなぁ。」
「……もう無くなっちゃった三神の内の一つと、たぶんもうすぐなくなっちゃうもう一つ。今までは辛うじて保たれてるこの世界もさぁ、そろそろ危ないんじゃないかなぁって思うんだよねぇ。…ねぇ、おにーさんはどう思う?」
「どう、って言われてもなぁ…。この世界の成り立ちを正しく理解出来てる気がしないし、それに知らない事もまだまだたくさんある。お前のいう危ないが何を指してるのか知らないけど、その時は頑張ってどうにかするしかないんじゃねぇかな?」
「なるほどぉ、おにーさんは頑張ってくれるんだねぇ。そっかそっかぁ……、それならいいかな。」
「ん?なんだって?」
「なんでもないよぉ。ふぁ~、眠くなってきちゃったなぁ。一応警戒はしておくけどぉ、あんまりあてにしないでねぇ?それじゃ、僕はもう寝るからぁ。」
何とも気の抜けたあくびをしながら、ヴィヴィは火の側で横になりすぐに寝息を立て始める。
先ほど小さな声で何か言っていたような気がするんだが、この様子からして本当に何でも無かったんだろう。
俺はノーキから毛布を出すと、それをヴィヴィにそっと掛けてやる。
暗殺者だとはいえヴィヴィはまだ子供だ、こんな所で風邪でも引かれてたら大変だし、今夜はゆっくり休んで貰おう。
「さて。とりあえず火の番は俺がしてるから、レーヴも少し寝ておけよ。つっても寝ずの番はする気ないから、途中で交代してくれよな?」
「分かってるさ。それじゃ、お言葉に甘えて先に休ませて貰うよ。何かあったらすぐに起こしてくれ。」
「あぁ、そうさせてもらう。んじゃ、おやすみ。」
レーヴにも毛布を投げてやり、俺の分も取りだしてからそれに包まり火を絶やさないよう薪をくべる。
こうしていると本当にただのキャンプのようだが、そう安心していられないのがこの世界だ。
俺はまだ遭遇したことがないのだが、この世界には邪竜から生まれ落ちたという魔物が存在する。
人族に限らず生きとし生けるものすべてに牙をむくそれは、邪竜が村や街を襲うたびにその数を増やしているらしい。
それゆえ旅をする者は出来るだけ野宿を避け街や村で宿を取り、どうしても野宿をする場合は結界を張って朝まで警戒しながら過ごすのだという。
だから俺たちも結界を張って過ごすべきなんだが…
「まさか、誰も結界を張れないとは思わなかったよなぁ。」
そう、俺も含めてここに居る全員が多重結界も界層結界も使えないという事が先ほど判明したのだ。
以前リアとノエルに説明されたがいまいち原理が理解できていない俺はもちろん、四大魔法が使えない特殊魔法使いの二人ではどうにもできなかった。
しかし召喚魔法ならどうだろうと二人に問うてみた。
召喚魔法の応用として使用される界層結界ならワンチャンぶっつけ本番でも行けるんじゃないかと思ったのだ。
しかし答えはどちらも”ムリ”。
召喚とは言っても闇魔法でしかないメメントモリには…まぁあんまり期待してなかったけど、ヴィヴィに関しては『召喚魔法はぁ…あー、出来ないって事にしておいてぇ?』だ。
なんだその引っかかる言い方は、それ絶対出来るやつじゃん。
と言おうかとも思ったが、本当に突っ込んでほしくなさそうだったので自重した。
しかしなまじ二人の才能が特殊である為か、ずいぶんと戦力のバランスがおかしなことになっている。
なかなか居ないと思うぞ、パーティの半分以上が特殊魔法使いで四大魔法も召喚魔法も使えないってのは。
ついでに言うと治癒魔法を使える者もいないので、攻撃に極振りした狂戦士パーティとも言える。
まぁそんな感じで、無防備のまま野宿を強いられた俺たちは各々休みつつ警戒を怠らないようにしよう…という結果に落ち着いたのだった。
こんな事になるのなら、リアに着いて来てもらえばよかったぜ。
そうすれば結界の心配も飯の心配もなく、さらに俺が癒されるというオプションまで付いていたのに。
…まぁ今更それを言ったとしても切なくなるだけだし、すっぱり諦めて見張りに集中するとしよう。
―――
あれから二時間は経っただろうか?
今のところ魔物の気配もなく、時々爆ぜる薪の音を耳にしながら穏やかな時間を過ごしていた。
あまりに穏やか過ぎてついウトウトしてしまいそうになるが、その度に手の甲を抓っては襲いかかる眠気を必死に晴らしていた。
しかしそれももう限界が近い、そろそろレーヴを起こして交代してもらおうか。
そう思ったその時、何かのうめき声が俺の鼓膜を揺らしたのだった。
俺は一気に眠気が冷めて、剣を手に取ると周囲を警戒する。
「………気のせい、か?」
そう口にするとまたしても例のうめき声が聞こえてくる。
クソ、この声はいったいどこから聞こえてくるんだ?!
俺は緊迫した空気の中必死で耳を澄ませて声の出所を探す。
レーヴやヴィヴィを先に起こした方がいいかと考えてくると、また鼓膜を揺らす声がする。
「…ぐ、っ…うぅ」
確かに聞こえるその声を辿るように視線を動かすと、それは俺のすぐ傍から聞こえてきていた。
…というか、その声の主はレーヴだった。
俺はほっと息をついて剣を置くと、眠るレーヴの様子を窺う。
どうやらレーヴは悪夢でも見ているようで、酷くうなされては時折言葉にならない声を漏らしているようだった。
ふむ…もともと交代してもらうために起こすつもりではいたし、それが悪夢でうなされてるというのなら尚更早く起こしてやったほうがいいだろう。
俺はレーヴを起こそうとその肩に手を伸ばす。
「エル…なぜ…っ。」
「っ!!………。」
そりゃ、うなされもするよな。
歯を食いしばり顔を歪ませているレーヴを見て、俺は自分の迂闊さに心底呆れた。
普段通りに振る舞うレーヴにどこか安心していた俺だったが…よく考えろ、そんなわけないだろう?
あのレーヴがそんな簡単にエルちゃんの死を受け入れられるはずがないじゃないか。
何を勝手に納得していたんだ、俺は。
コイツはまだ葛藤している。
エルちゃんを殺したモルガンへの復讐だとか言っておいて、その実、心の中ではまだそれを受け入れられていない。
当たり前だ…エルちゃんが亡くなってまだ二日しか経ってないんだからな。
そんなもの、整理がつくわけがないじゃないか…。
それなのにコイツときたら、自分の心も無視してただエルちゃんの屈辱を晴らす為だけに旅に出たんだ。
こんな風にうなされるような心理状態だっていうのに、それすら瑣末な事だと言わんばかりに無視して…
「だからさ、お前不器用過ぎだって…。」
そんなボロボロの心のまま、それでも許せないという怒りだけで奴を追いかけると決めたのか。
こんなにもお前は悲鳴を上げているというのに、それでも進まずにはいられないのか。
まったく、本当に不器用で頑固で意地っ張りで…エルちゃんの言ってた通りの大馬鹿野郎だ。
だから。
放っておいたら自滅の道を歩みかねないこいつを、俺がきちんと見張っていよう。
なぁに、もともとコイツを監視する事が俺の仕事だったんだ、いままでやっていた事と何も変わりはしない。
だから、エルちゃん。
安心して見守っててくれな。
君の目を取り返したら、必ずレーヴと会いに行くから。
それまではひやひやすることもあるだろうけど、絶対に俺たちで成し遂げるから。
もうちょっとだけ待っててな?
「……おい、レーヴ起きろ。そろそろ見張りを変わってくれ。」
未だにうなされ続けているレーヴを無理やり夢から引きづり起こし、何事も無いように見張りを頼む。
そうして目覚めたレーヴに後を頼むと、俺は少し離れたところに移動して毛布を被った。
先ほどまで襲われていた睡魔はすっかり消えてしまっていたが、それでも明日の事を考えて無理やりにでも眠ろうと瞼を閉じる。
すると途端に考え事が頭の中を巡り始めて俺の不安を駆り立て始める。
モルガンの居場所や襲われているかもしれない村々。
周囲に居るかもしれない魔物や置いて来たリアたちの事。
色んな事が俺を攻め立てるように次々となだれ込んでくるが、俺はそれらを深呼吸一つでねじ伏せる。
大丈夫だ、きっと全部うまくいく。
モルガンの事もこの先の事も今考えても仕方がない。
周囲に魔物がいたとしても今はレーヴが見張りをしてくれているし、リアの事だってみんなの事だって俺が心配するような事は何もないんだよ。
そうやって何度も深呼吸しながら頭の中を空っぽにしていくと、次第に意識が遠のいていった。
大丈夫、今やるべきは体を休める事だ。
たくさん考えなくちゃいけない事があるけど、それは明日でもいいじゃないか。
だから休もう、少しでも休もう。
明日は今日よりもっとたくさん歩かなくちゃいけないんだから…。




