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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 82 帰る家



変な体勢で眠ったせいか、体中がギシギシと痛い。

書庫で目覚めた俺は痛む体に苦戦しつつも、ホンに声を掛けると一度部屋に戻ることにした。

ホンはこのまま、ここにある本を読み終わるまで居座るつもりらしいので、とりあえず書庫に来たときにでもその都度様子を見るくらいでいいだろうと思う。

そういう訳で、俺は身支度を整えるべく一人で自室に戻ってきたというわけだ。

流石に自分が汗臭いままうろつくのは耐え難いしな。


部屋に着いた俺は真っ先に風呂に入り、汗と匂いをさっぱりさせる。

すると丁度いいタイミングで朝食が運ばれてきたので、それを一瞬で平らげてから一息つくことしにた。

結局昨日の夜は夕食を食べ損ねていたので、ヘルシーな食事が体と心に沁み渡るぜ。

流石に体の痛みはそのままだったが、風呂と食事でしっかり英気を養う事に成功した俺は、ちょっとやそっとの事じゃへこたれないメンタルを手に入れたのだった!


さて、レーヴの所に行くのは昼でいいとして、それまでは何をしていようか。

レオンの様子も気になるが、子供たちに会いに行くものいいかもしれない。

そんな風に今日の予定を考えていると、部屋のドアが控えめにノックされる。

俺は来客に心当たりがなく首を傾げつつ考えを巡らせ、そういえば子供たちが遊びに来ると言っていたのを思い出して急いでドアを開けた。

しかしそこにいたのは幼い子供たちではなく、優しい笑顔を浮かべたセバスちゃんが柔和な雰囲気を醸し出しながら立っていたのだった。

…あ、嫌な予感がする。


「おはようございます、ナユタ様。突然で大変申し訳ございませんが、少々よろしいでしょうか?」


「おはようセバスちゃん…まさかとは思うんだけど、王様関連です?」


「ほっほっほ、さすがはナユタ様。お察しが良くて私の仕事も楽になるというものでございます。」


「は、はは…ですよねー。」


「はい。陛下よりナユタ様へお話がおありになるそうです。どうぞ、玉座の間までお越しください。」


「………はい。」


正直今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、セバスの笑顔を前ではそれもできず、渋々ながらも大人しく着いて行くことにした。

まさかこんな所でフラグを回収することになるとは…な。

確かにちょっとやそっとじゃへこたれない!とは言ったけどさ、これってそんな可愛い消耗じゃないんだよね。

王様と話をするだけでも相当体力消費するのに、加えて何の話しか分からないとか…メンタル面までばっちりの隙のない布陣でいらっしゃる。

下手したら今日一日の体力・気力を、ここですべてを使い切ってしまうかもしれん。

すまんなレーヴ、後は任せた…。


「失礼いたします陛下、ナユタ様をお連れいたしました。」


「む?おぉそうか、余が呼びつけたのだったな。よく来たなナユタ。あぁ、じぃは下がってよいぞ。」


「はい、失礼いたします。」


そう言うとセバスは王様に頭を下げて部屋から出て行ってしまう。

あぁ、俺の唯一の心のよりどころが…

今日は朝だからか大臣さんたちも少なく、実質俺と王様の一対一の状態だった。

それがまた俺の胃を軋ませる原因となるのだ。


「そう固くなるな、其方を呼びつけたのは褒美の件だ。住まいをやると言ったのに何の返答もよこさないのでな、余が適当に見繕ってやったぞ。ありがたく思うがよい。」


「は、はぁ…それはどうも………え!?」


「そこに地図を用意させた、場所は自分の足で確かめるがよい。家具や生活に必要なものも一通りそろえさせたが…足りないものがあるようなら其方で買い足せ。」


「えっ、あ…うん!?」


「あぁ、そうそう。其方、模擬戦の魔法部門で優勝したそうだな?褒賞も受け取らず姿をくらませたと聞いたが…まったく其方はおかしなことばかりするな。騎士団長がおかしな顔で報告しにきたぞ?…そうそう、その褒賞の件だがな、少々上乗せして用意してやった。それも住まいへ運ばせたので確認しておくがよい。」


「ちょ、そんな急にいっぱい言われても…!」


「余からの話は以上だ。其方は今日中に新たな住まいへの移動を命ずる、人手が必要ならば好きに連れて行け。よいな?」


「っ、………はぁ、了解っす。」


相変わらず人の都合を考えない王様に、もはや慣れなのか諦めなのか分からない受け入れ態勢をとっている自分がそこにはいた。

まったく初見の話ばかりで眩暈を起こしそうだが、要はさっさと引っ越してね?って事なのだろう。

家だけでなく家具なんかも一式そろえてくれてるなんて、なんて素敵な王様でしょうねぇ?

俺は無理矢理自分を説得すると、使用人から地図を受け取りその新居の位置を確認する。

城からもそんなに遠くない場所だな…、とりあえずさっさと行こう。

と立ち上がったところで、思い出したことがあったのでもう一度王様に向き直り口を開く。


「王様、クフィミヤン男爵の御屋敷に鍵の付いた妙な手触りの本があったと思うのですが、何か聞いていますか?」


「む、なんだ唐突に。…いや、特に報告は受けておらぬ。」


「そう…ですか。おそらくその本は異世界の危険な魔導書なので、見つけ次第厳重に保管した方がいいと思います。」


「ふむ…、大臣。」


「はっ!」


「クフィミヤンの屋敷から押収した品を検め、その本を見つけだし余の前へ持って参れ。」


「かしこまりました!」


「それは見つけ次第、余が管理しよう。それでよいな?」


「はい、お願いします。では…失礼いたします。」


「うむ、せいぜい励むがよい。」


「…はい。」


玉座の間を出た俺は、思い出したかのように深く息を吐いた。

良かった、今日の話は王様にしては比較的易しい内容だったな。

ただ王様の用意した家に引っ越せってだけで、なんの無茶ぶりもされなかったのがせめてもの救いだぜ。

…ここまで考えて、我ながら感覚がぶっ壊れてきたなと思う。

俺はもう一度深く息を吐くと、荷物をまとめる為に自室へと戻るのだった。



――――



「おー、リアが部屋の前で待ってるなんて久しぶりだな。よっ、元気かリア。」


「………まぁまぁ不機嫌なのですが、仕方なく来てやったのです。ありがたく思えばいいと思うのです。」


「な、なんだよ、マジでテンション低いじゃん。どうした?ノエルと喧嘩でもしたか?」


「………。」


「え!?ま、マジで!?」


「そんなわけないのです!もう、ナユタはいちいちうるさいのです!リアの事は良いからさっさと部屋に入ったらどうなのです?」


「はっ、~~~~!!」


「な、何なのです?その妙な踊りは…。」


「いや、すっかり名前で呼んでくれるようになったもんだから、つい小躍りしちゃったぜ。」


「まったく意味が分からない上に不気味なのです!変な事ばかりしていないで、さっさと仕度をするのですよ!」


「え?仕度って、どこか出かけるのか?」


「何を寝ぼけた事言っているのです、あなたの引っ越しを手伝いに来たのですよ!」


「え!?なんで知ってんの!?…ってそっか、そりゃノエルから聞いてるよな。」


「姫様はまた怒ってらっしゃったのです。人の大事な住まいを勝手に決めて家具まで揃えちゃって…と。ですが普段よりはマシな方だろうと思い直して、リアを手伝いに派遣されたのですよ。」


「そ、そうなんだ…。うん、まぁ俺もいい加減あの王様には慣れたし、ノエルが怒ってくれるまでも無かったんだけどな。にしても、やっぱり気が利くよなぁ!さすが女神、優しさの塊っ!!」


「…ほら、しゃべってばかりいないでさっさと片付けるのですよ!」


「お、おう!」


とは言ったものの、俺の私物なんてほとんどないのでバック一つで十分足りたのだった。

せっかくリアが来てくれたけど、向こうは家具も揃ってるみたいだしやってもらう事と行ったら食材の買い出しに付き合ってもらうくらいかなぁ?

何はともかく新居に行ってみない事には何も始まらない。

俺とリアは王様に貰った地図を頼りに、新たな住まいへと向かうのだった。


――――


「なぁ…ここ、か?」


「ここ、なのですね。」


紆余曲折あって何とか地図に記された場所につくと、そこには一人で住むにはあまりに立派な庭付き一軒家が佇んでいた。

頑丈な塀で囲まれたその家は、門を潜ると最初に色とりどりな花の植えられた庭が迎えてくれる。

その庭に設置された飛び石を頼りに進むとようやく玄関が現れ、その扉を開けるとそこには豪華な家具が一式…!

そこまで見て、俺は堪らず扉を閉める。

目の前の現実を受け止められず、そのままドアノブに縋るように項垂れた。


「っ!無理だ…絶対維持できない!大体こんなでかい家に男一人で住むなんて事自体狂ってるのに、どうして無駄に豪華な家具を備え付けちゃうんだ!まだったか…油断するにはまだ早かったのか…!!」


「あー…とりあえず中に入ったらどうなのです?」


「俺に現実を見ろと!?いやだ、もう少し逃避していたいっ!」


「いくらそうして居たって、ここがナユタの家であることは変わらないのです。であるのなら、とっとと受け入れてさっさと済ませるべきなのですよ。」


「分かってるけど…、無理だよぉ!」


「はぁ…、では姫様にお願いしてたまにリアが手入れをしに来てあげるのです。だからさっさと…」


「本当か!?絶対来てくれるな?俺の事見捨てないな?庭の手入れとか、俺本っ当に無理だからな?!」


「わ、分かったのです!分かったから、手を離すのです!っ、もう、さっさと入るのですよ!!」


リアのおかげで俺の新居生活に一筋の光が差しこむ。

いくら一人暮らし暦が長いとは言っても、こんな立派な一軒家を一人で維持するなんてとてもじゃないが出来るわけない。

これが王様の厚意なのか嫌がらせなのかはともかくとして、これでようやくこの家で住むことに前向きになれる俺なのだった。


「さすがに必要なものは殆ど揃っているのですね。家具はもちろん食器や寝具も完璧なのです。掃除も行き届いているので今日から住んでも何の問題もなさそうなのです。」


「おぉー、リアのお墨付きを貰えたのなら俺も安心だ。んじゃ、やっぱり食材だけ買い出しすればしばらくは問題なさそうだな。」


「…食材?食事の買い出しではなく?ナユタは料理をするのですか?」


「うん?あぁ、まぁ上手くはないけどほどほどにな。ずっと一人で暮らしてたし…作ってくれる彼女も居なかったし、意地になってやってたのもあって簡単なものならある程度作れるぜ!」


「………意外、なのです。」


「お、見直した?」


「調子に乗るな、なのです!」


「ぐへぽっ!!」


久しぶりにリアからのいい一発を貰ってから、俺たちは街へと買い出しに出た。

俺の新居は城まで徒歩30分、繁華街へは10分もかからず行けるというなかなか良い立地の場所にあった。

城まではちと距離があるが走ればもう少し早く着くし、あの坂道はいい運動にもなるので結果的にはプラス効果として捉えている。

健康のためにも適度に運動しましょうってね。


―――


繁華街は相変わらずの賑わいで、この程度の小雨ならどうという事はないと言わんばかりに人で溢れかえっていた。

買い物となるとリアは特技:人見知りを発動するだろうから、とりあえず細かい荷物だけ持ってもらう事にして後の事は全部俺が一人で何とかしよう。

幸い軍資金はドン引きするほど用意されていたので、値段なんかを考えなくていいのは楽だな。


「すみません、小麦粉下さい。」


「あいよ、毎度!」


「…小麦粉なんてどうするのです?ナユタはパンが焼けるのですか?」


「いや、さすがにパンは焼けないけど、小麦粉は色々と応用が効くだろ?すいとんとかうどんとか、あとシチューとかグラタンなんかも…とにかくこれ一つあれば食で困る事もないだろ。あ!おっちゃん、豆もおくれ!家庭でよく使われてる、扱いが難しくない奴を適当に!」


「お、豆もかい?ありがとよ、んだら少しまけてやるよ。」


「マジか、ありがとうおっちゃん。」


こうして俺は小麦粉10キロと二種類の豆を1キロずつ買った…のだが…。

これがすこぶる重い!

いや、持ち上げられないほどではないにしても、これからの買い物に支障をきたすレベルで邪魔な上に重い。

くそ…なんで最初にこれを買ったんだ、俺。

とっさに目についたからって何も考えずに店に入ったのがすべての元凶だったな。


「んぐぐ…こりゃ一回家に戻らないとダメだな。すまんリア、二度手間だけどこのままじゃ買い物もままならないし、いったん戻ろ…」


「貸すのです。」


「え!?ちょ、お前には無理だ…ろ…?」


リアが俺から荷物を奪うので慌てて支えようと手を伸ばす。

しかし当のリアは、まるで中身が綿なんじゃないかと錯覚してしまうほど軽々とそれを抱え、肩に乗せては片手を添えて支えている。

特に無理をしている様子もないが…全部で12キロあるんだよ?


「おま、大丈夫なの?」


「まだまだ余裕なのです。さ、買い物を続けるのですよ。」


「怪力少女…」


俺の零した言葉にリアは一瞬ムッとしたようだったが、すぐに呆れ顔でため息をつくと次の店へ歩いて行ってしまう。

怒らせてしまったかと思ったのだが、この様子からしてまだ買い物には付き合ってくれるらしい。

俺は慌ててリアを追いかけ、助言を貰いつつ必要な買い出しを続けていった。


「お?おぉ!そこへ行くはいつぞやの導使節さまじゃないッスか~!お久しぶりッス、お元気ッスか~?」


「ん?あ、君はクフィミヤン男爵の所にいた門番くんか!おう、俺はおかげさまで息災だけど…君は?」


「俺っすか?俺は門番の仕事がなくなっちゃったんで、今荷下ろしの仕事で食いつないでるんッスよ!いや~、まさか男爵が捕まるなんて夢にも思ってなかったんで、マジびびったッス!!」


「そ、そっか、苦労してんだな。…あー、なんか俺に出来ることあるか?もし何か困ったことがあったら何でも相談してくれな?」


「ま、マジっすか~!?さすが導使節さまは噂通りの紳士っぷりっすね~!あ、紳士っぷりで思い出したんッスけど、何でも最近坊主で巨体の紳士な医者がッスね…」


「お、おう…相変わらず健在みたいで安心したわ。」


それからしばらく門番くん改め荷下ろし君の噂話を聞いた後、おすすめの店を何件か教えてもらいその日は別れることとなった。

職を追われたとは思えないほどのしゃべりっぷりを披露した彼が『またお会いできる日を楽しみにしてるッス~!』と明るく去っていくのを見て、俺はこのポジティブさは見習うべき長所だなとしみじみ思ったのだった。

相も変わらず俺の後ろに隠れていたリアがひょっこりと顔をだし彼が去ったのを確認すると、また買い物を続ける為に俺を急かした。

どうやら荷物持ちでは疲れなくても人混みでは疲れるようだ。

俺たちは荷下ろし君に教えてもらった店に寄りつつ、調味料や香辛料、野菜や肉なんかを見繕ってもらい家へ戻る事にした。

時刻はちょうど昼飯時、買ってきたものを片づけつつ調理器具の確認をしていると、おもむろにリアが食事の支度を始めていた。


「お、なになに、何か作ってくれんの?」


「日持ちするパンと、ついでに軽く食べられるものを作ってあげるのです。あくまで姫様から頼まれた事であって、リアが自主的にやっているわけではない事をその頭によく理解しておけなのです!」


「やったー、ありがとうリア!さすがにパンは買ってこなくちゃなーって思ってたところよ。リアの作るご飯はどれも上手いから楽しみだぜ!」


「ふ、ふん!そんな風に煽てたって何も出ないのですよ!…でも、夕食分も何か作っておいてあげるのです。」


「マジで!?やったー!」


そう言ってリアは俺だけ(・・)の分の昼食と夕食を作ってくれた後で、野菜を保存がきくピクルスにしてくれていた。

なんだかんだ言ってきっちり面倒見てくれるリアなのである。

そして相変わらず俺の前では食事をしない、嫌われてるわけではないと思うんだけどなぁ。


「それを食べ終えたらナユタはどうするのですか?」


「むぐ?…うーん、そうだな。いつも通りレーヴの様子を確認してから訓練場で体を動かして…夜に書庫まで様子を見に行ってから帰ってくる感じかな?なんか間違えていつもの部屋に帰りそうだから、そこだけ気を付けるぜ!」


「そう…ですか、分かりましたのです。」


「ん?なんかあるのか?…もしかしてノエルが手合せしてくれるとか!?」


「それはないのです。姫様はとてもお忙しいので…。」


「そうか、残念だけど仕方ないな。まぁ、引っ越したとはいえ城には毎日行くし、また時間が出来た時にでもお願いしようかな。」


「………。」


「…どした?」


「ナユタは…、…いいえ、なんでもないのです。」


「おう?変なリアだなぁ、…トマテ食うか?」


「いらないのです!…もう!今日はもうお暇しますのです、お邪魔しましたのです!」


「え!?そんな急に…ちょ、見送るから待って…!」


なぜかぷりぷりと怒っているリアを家の門まで送っていき、その背中が小さくなるまで見送る。

それから家へ戻った俺は、残りの昼食を食べ終えると出かける支度をした。

俺もこれから城に行くんだから、リアも待っててくれればいいのに…。

女心と秋の空とはよく言うけど、今日のリアはまさにそんな感じだったなぁ。

俺は深くため息をつくと、家の戸締りを確認してから城への道を進んで行くのであった。



――――



「…という事があったんだけど、どう思う?俺はどうしてリアを怒らせてしまうんだろうなぁ。」


「あのね、ナユタさん。それに対しての答えを僕が持っていると思うかい?何を期待しているのかは知らないけど、今の話で僕が言える事といえば”引っ越しご苦労様”位なものだよ?そんな年頃の娘との接し方に悩む父親みたいな事言われても、僕としては対応しかねるね。」


「ちぇ、なんだよレーヴの薄情もん。どうせ俺は可愛い娘の反抗期に戸惑う中年薄らハゲですよぉーだ。」


「いや、そこまでは言ってないけど…。」


俺はレーヴの返事を無視して、不貞腐れたように他人の部屋を徘徊する。

そんな様子の俺にレーヴも慣れ始めたのか、ため息をつきつつも邪魔さえしないのならと今日も薬の調合をしているようだ。

そういえばこの部屋もすっかりレーヴの家みたいになってきたな。

備え付けられた棚には薬の瓶がいくつも並び、その中にはそれぞれ違う薬が詰められているようだ。


…おや、この種類だけやけにたくさん作ってあるな?

他の薬は多くても二つか三つくらいなのに対して、この種類の薬だけ十個近く作ってある。

これって確か、昨日も使った傷薬…だよな?

ふむ………、あぁなるほど。

渡すわけにはいかないけど、それでも気になるには気になるからつい作ってしまっている…といった感じなのかな?

まったく、俺には余計な事するなとか言うくせに自分がこれじゃ説得力ないっつの。

こんなに作っちゃって…ここで店でも始める気かよ。


「あんまりその辺りをいじくらない方がいいよ、うっかり落として永眠したくはないだろう?」


「劇薬もあるの!?お前は薬師なのに毒とか作ってんじゃねぇよ!!」


「やれやれ、これだから素人は…毒も薄めれば薬になるんだよ。」


「え、あぁ、そういえばそんな話を聞いたことがあるような…?」


「まぁ、それはただの毒だけどね。」


「結局毒なのかよ!」



俺はその薬から素早く距離を取ると、窓際まで行きいつでも換気できるよう体勢を整える。

しかし良く考えたら触れてもいないものが落ちてくるわけもなく、慌て過ぎていた自分が恥ずかしくなった。

俺は恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻きながら窓の外に目を向けると、誤魔化すようにふと気になったことを口にする。


「そ、そういえば、今日はもうエルちゃんは来たのか?」


「……あぁ。」


「そっか。今日は来るの遅くなったからなー、すれ違っちゃったか。それで、どんな啖呵切ってた?」


「さてね、作業に集中していたからよく聞いてなかったよ。」


「ふう~ん。」


「………そのムカつく顔をどうにかしてくれないかい?」


「見えてないだろ!」


「雰囲気がムカつく。」


「横暴過ぎるっ!」


この後もレーヴの嫌味に耐えつつ調合の様子を見ながら時間を潰し、そうして訓練場ではいつものように体を動かし汗を流す。

今日はジークが登場しなかったおかげでレーヴの機嫌も悪くならずに済み、加えて運動量も自分で調節することが出来るという本来なら当たり前の幸せを噛みしめることが出来たのだった。

今後とも今日のように穏やかに過ごしたいものだ。


今日の最後にと、レーヴと実戦風の組手まがいな事をやってみたのだが…この男、意外と動けるようでなかなかに苦戦を強いられた。

大きな体を駆使したパワー型だろうと思っていたら、意外とフェイントや細かい隙を突いてくる技能型のやり手だったらしい。

少しでも油断すると強めの一発が入ってくるので、常に緊張感を持って臨むことが出来る非常にいい試合であった。

結果からするとレーヴ≦俺といった感じだったが、慢心しているとあっという間に追い抜かれそうなので今後も精進しなくてはならないだろうな。


程よい疲労感を纏った俺たちだったが、いつものようにその場で解散ではなく書庫まで行ってから解散することになった。

レーヴはもちろん部屋に帰る為だが、俺はホンの様子を確認するために書庫まで戻ってきたのだ。

まぁ、ここの蔵書量からして今も読み耽っている所だろうとは思うのだが、それでも万が一という事もあるだろうし様子を見るだけでもしておいた方がいいだろう。

そうして俺は、このだだっ広い書庫の中を歩きホンの姿を探した。

手の平サイズとはいえ小さいホンの姿を見つけるのは大変だろうと覚悟して探していたのだが、その姿は意外と早く見つけることが出来たのだった。

それもそうだろう、あれだけ発光していれば嫌でも目に付く。


「よぉ、調子はどうだ?」


「あっ!ナユタ様!おかげさまで着々と知識を蓄えられております!それもすべてナユタ様のおかげ、本当にありがとうございます!!」


「いや、そんなに言われるほどの事はしてないから。…なぁ、気のせいかな?お前なんかデカくなってないか?」


「ですです!既に500冊ほど読みましたので、目に見えて成長していると思います!」


「ごひゃ…!?一日でそんなに読めるもんなのか…、さすがは本の虫。よし、ここの本を全て読み終わった暁には、お前に”歩く大図書館”の異名を与えよう!ついでにそれっぽいパジャマも用意してやる。」


「わぁわぁ!ありがとうございます!私、張り切って読みますね!!」


「うむ、精進したまえ。…それじゃ、俺は帰るけど何か困ってることはないよな?」


「ないない!まったく以て皆無です、ナユタ様!」


「オッケー、んじゃまた様子見に来るから。またな。」


「はい!ごきげんようです、ナユタ様!」


本が読みたくてうずうずしている様子だったので、俺は早々にホンと別れ帰宅する事にした。

まだまだ住みなれない新・我が家だけど、今日はリアの作ってくれた夕食があるからそれを楽しみに帰るとしよう。

思えば夜にこうして城から出るのは初めてだなと、少しわくわくしながら家路についたのだった。



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