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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 81 ジェンガは正しく遊びましょう。



「ンっ…はぁ、すごい…これしゅきぃ…」


「やんっ、ダメよ…団長…そんな所、ムリだってば…」


「っ、はっ。ほら、出来たぜ?」


「あぁん、団長…すごいぃ…もっと…」


「あら、ダメよぉ…次はわ・た・し。…んんっ!あっ、あぁっ、やんっ…震えちゃう…」


「下手くそめ、もっと大胆に動かすんだよ。ほら、こうやって…」


「ああぁんっ!だめよ、団長…そんなにしたら…壊れちゃうぅ!!」


な、な、何やってんのアイツ等!?

何やってんのつーか、ナニをヤッてるの!?

淫らで艶めかしい声が部屋の中からひっきりなしに聞こえてきて、俺の頭はいま絶賛大混乱中だ。

ど、どうしてこんなことに…!!


団長室の前までやってきた俺だったが、中から聞こえるクリエイティブな桃色ボイスにすっかり気後れしてしまい、ドアノブに伸ばした手を動かせずに呆然と立ち尽くしていた。

だって、これもう絶対最中ジャン!?

こんな所に突入できるような鋼のメンタルなんて、俺は持ち合わせてねぇよ!?

大体なんだよジークの野郎、人を呼びつけておいて部下とこんな………。

この声ってテレスとアリス姉妹、だよな?

くそ、次にこの二人と会う時どんな顔すればいいんだ!

気まず過ぎて目を合わせる自信がないっ!

もうほんと…どうすりゃいいのよ…。


…いや、何で俺がこんなに悩まなきゃいけないんだ?

悪いのはジークであって、俺じゃないじゃないよな!?

それなのにどうして俺ばっかり、こんなに頭を抱えなくちゃいけないんだ!

そうだ、俺は悪くねぇぞ!

確なる上は、騎士団の規律が乱れてると王様に密告す(チク)るしかねぇ!


「おや、あんたそこで何やってるんだ?そこは団長室だよ。」


「あ、あなたは…エトワール!!」


団長室の前で固まったまま悶々と考え込んでいると、後ろから凛々しく声を掛けられる。

そうして振り向いた先に居たのがエトワール、以前シュヴァリエ辺境伯の屋敷までジークを迎えに来たいろいろと大きなお姉さんだ。

エトワールは書類の束を片手に近づいて来ては、俺をじっと見つめてくる。

その眼光があまりに鋭かったので、俺はついたじろいでしまった。


「あんた、なんでアタシの名前を知ってるの?どこかで会った?」


「え?あー、シュヴァリエ辺境伯の所で一度…。覚えてないかな、ナユタっていうジークのダチでシャルルの…」


「あー!なんだ、ナユタか!そんな仮面なんかつけてるから気が付かなかったよ。ふーん、あんた少し雰囲気変わったね。…元気だったのかい?」


「おう、おかげさまで!エトワールも元気そうだな。」


「まあね、アタシは変わらないさ。…で?団長に用があるんだろ、入らないのかい?」


「いやぁ、それがちょっと…って、あーっ!だ、ダメ、今開けたらいろいろヤバいって!」


「は?」


俺の制止も聞かず、エトワールは容赦なしに部屋のドアを開けてしまう。

まずい!さっきの盛り上がりからして、三人はまだまだ最中のはずだ!

あいつ等のあられもない姿を見てしまった日には、それこそもう合わせる顔がなくなってしまう!

俺はとっさに手で顔を覆い中を見ないように努める…が、しっかりと指の隙間から視界を確保する。


「おう、エトワール。…と、なんだ坊主も一緒か。何してんだお前、さっさと入れよ。」


「え、あれ?あれれ?」


部屋の中にいたのはきちんと服を着た件の三人で、中央に置かれた机をぐるりと囲うように立っていた。

三人の距離は近すぎず遠すぎずで、とても今までお盛んだった人間には見えない。

あれ、なんで?幻聴…ではなかったと思うんだけど…。


「あんたたち、また変なもの持ってきて遊んでたね?働きなさい、早急に。」


「「はーい。」」


「団長も一緒になって遊んでないで、たまには注意しなさいよ。仕事増えるわよ、着々と。」


「いやー、今回のはなかなか面白かったからついな。あー…なんつったっけ、これ?」


「ジェンガ…だったかしら?昨日遊んだ行商人の人たちが試作品をくれたのよ。何でもこれから流行らせるつもりで、たくさん作ってるんですって。」


「ふーん。……お?どうした坊主、なに震えてんだ?」


「ま…」


「ま?」


「紛らわしい会話してんじゃねーよ!!!!」


俺は溜まった鬱憤を晴らすように腹の底から声を出した。

何かを察した姉妹がニヤニヤと見てきたが、俺はそれらを完全に無視してジークの肩を一発殴る。

ジークは不服そうに抗議するも、俺があまりにも怒っていたのでしぶしぶ口を閉じる。

当たり前だ、今抗議してるのは俺なんだから何の文句も言わせねぇよ…!

年頃の男の子は繊細なんだ、気を付けろ馬鹿ぁ!!


「あー、もういいかいナユタ。アタシも団長に少し用があるんだけど…。」


「あぁ、ごめんエトワール。先に済ませてくれて構わないぜ、俺はまだまだ怒り足りないし。」


「はぁ!?何をそんなにキレてんだよお前…。」


「よく分からないけど、団長が悪いんでしょ。それよりも、誘拐事件の話なんだけど…」


エトワールがジークと話をしている間、あの姉妹が俺を挟むように両隣へやってきた。

案の定警戒する俺をクスクスと笑いながら、二人はそっと顔を近づけて耳打ちをしてくる。


「「何を想像してたの?」」


「っ!!べ、別に…。」


「かーわいい、食べちゃおうかしら?」


「素直におねだりできればご褒美をあげるわよ?」


「や、やめろよぉ…」


「ん、あなた達まだいたの?テレス、治癒術の講義に行くんじゃなかった?アリスも、さっさと仕事に戻りなさい。」


「「はーい。またね、ナ・ユ・タ ?」」


二人は俺の耳に軽く息を吹きかけると、楽しそうに笑いながら団長室から出て行った。

俺はホッと胸を撫で下ろすとエトワールに礼を言う。

危なかった、素数を数えていなかったら即死だっただろう。

今日の所はエトワールがいたから助かったけど、今後騎士団に来る時は気を付けないとな。

特にあの姉妹が二人で一緒にいる時は…。


「…ってわけで、ちょっと怪しいからその屋敷に張り込んでみようと思う。」


「あぁ、それがいいな。巡回の経路も少し変えるか…。」


「その辺はアタシに任せてくれていいよ、上手い事やっとく。」


「あぁ、頼むわ。」


「了解。ナユタ!待たせたね、終わったよ。」


「お、サンキュー。」


「さんきゅー?なんだいそりゃ?」


「あー、ありがとうって意味の…方言、みたいな…?」


「ふーん、そんな方言があるのか。なんだか面白い言葉だね、アタシも使ってみていいかい?」


「あぁ、うん。それは構わないけど。」


「さんきゅ。じゃーね、ナユタ。また会いましょう、近々(きんきん)に。」


俺は手をあげてそれに答えてエトワールを見送ると、改めてジークと向き合った。

ジークはエトワールが持って来た書類に目を通しながら何かを考えていたようだったが、俺が睨んでいることに気が付くと至極面倒くさそうに顔を歪める。


「おいおい、マジでまだ怒ってんのか?つか何にそんなキレてんだよ。」


「……はぁ、もういいや。むしろもう話題に出さない方がいいような気がするし。…それで、俺に渡したいものってのはなんだよ?」


「ワケわからん奴だな、情緒不安定かよ…。まぁいい、ほらこれだ。事情聴取の時に返し忘れててな、お前のだろ?」


「あっ、俺の外套一号!何でお前が持ってんの!?」


「怪しい奴を追いかけてたら見つけたんだ、証拠品として保管するのは当たり前だろ。おっと、文句は受付ねぇぜ?元はと言えば全部お前が蒔いた種なんだからよ。」


「ぐぬぬ…、まぁしゃーねぇか。サンキュー、これでノエルとリアにも報告出来るぜ。」


「お、なんだお前、まだ姫さんと会ってんのか?変な気起こしてないだろうな?身分差考えて冷静になれよぉ?」


「う、うるせ―!余計なお世話だっ!心配しなくても俺たちはいい友人関係を築けてるよ、チクショウ!」


「はっはっは、まぁ姫さん相手じゃ分が悪いだろうな!そう高望みしないで、手ごろな所を責めていけよ。お前には町娘くらいが丁度いいぜ?」


「けっ、言っとけ。要件はそれだけなんだろ?んじゃ俺はもう行くからな。」


「お、なんだ?女と待ち合わせか?」


「残念だけど、待ってるのは大男だ。くそ…なんか非常にむしゃくしゃしてきたな。何で俺は、男と会う約束ばっかりしてるんだ…。」


「あぁ、なんだアイツか。って事は、また懲りもせず訓練場か…、ふーん。」


「………お前忙しいんだよな?仕事が山積みなんだよな?俺はもう行くけど、着いてきたりしないよな?絶対来ないよな!?」


「…ふっふっふ。」


あー、だめだ。

ごめんレーヴ、そしてエトワール。

コイツはまたサボって特訓(いやがらせ)に出かける気の様です。

レーヴの嫌そうな顔が目に浮かぶが、こうなってしまってはもう止められない。

ジークは意気揚々と身支度を整えると、俺の背中を叩いて団長室を後にした。

この後、俺たちが死に物狂いでジークの特訓をこなした事は言うまでもない。



――――



血反吐を吐きながらもジークの特訓に耐えきった俺とレーヴは、そのまま訓練場で別れる事となった。

今日はレーヴも自力で帰ると言って足を引きずりながら去っていったので、俺もわざわざ送る必要もないだろうと自室に向かい歩き出していた。

まったく、ジークが謎のやる気を出したせいで最初から最後までレーヴの機嫌が悪かったじゃねーか。

訓練場にジークと現れた時のレーヴの顔がトラウマになりそうだぜ。

あーあ、明日もきっと挨拶のように嫌味を言われるんだろうなぁ…。

そんな事を考えながら歩いて部屋まであと半分といったことろまで来たとき、俺の胸ポケットから一つの光が飛び出してきた。


「おぉ、ホン。起きたのか。」


「はい、おかげさまでよく眠りました。やや!?もしかしてここはお城の中!わーい、本が読める本が読めるー!!ささ、ナユタ様。本がたくさんある場所へ連れて行ってくださいな。」


「…え、今から?」


「ぜひぜひ!!」


「…はい。」


俺はしょんぼりと肩を落とすと、今来た道を引き返していく。

いや、忘れてたわけじゃないんだけど…明日でもいいかなぁなんて思ってた自分がいたのよ。

一度城に入ってしまえばあとは自由なんだし、それならいつ行っても同じかなーって…。

まぁ、せっかく来たなら早く行きたいですよねー。

俺はずるずると重い足を引きずりながら、テンションの上がったホンを連れて書庫へと歩みを進めた。


「なぁ、ホンはどうしてそんなに本が読みたいんだ?」


「え?うーんと…読みたいから、です!」


「そっかぁ、読みたいからかぁ…。」


「ですです!!人も植物や動物を食べたり、眠ったり息したりするじゃないですか!それと同じようなものですよ!」


「え!?じゃあホンは知識を得ないと死んじゃうのか?」


「う?うーん、死ぬとは少し違うでしょうか?私たち本の虫は、知識を得ることで成長し力をつけます。何も知らないまま、なんの知識も得られないまま過ごしているとどんどん弱ってしまって、いずれ誰にも気づかれずに消滅するんです。だから死ぬとは少し違いますが、存在に大きく関わる事なんです!この概念を人が理解するには少し難しいかもしれませんが…。」


「な、なるほどぉ、とにかく知識を得ることが重要なのは分かった。うん、でもそれならここはうってつけかもな。なんてったって蔵書量がハンパないからっ!」


そう言って俺は書庫の大きな扉を開く。

ほぼ毎日ここを通っているので今更感動も何もないが、ホンにとっては宝の山にも等しいようで、声にならない悲鳴を上げると文字通り本に飛びついて行った。

どうやらお気に召して頂けたみたいだ。

俺は夢中になってページを捲っているホンを眺めながら、久しぶりに適当な一冊を手に取ってイスに掛ける。

表紙を開き読み進めていくが、どうにも内容が頭に入ってこない。

疲労がピークの状態で読書なんてしたせいだろう、俺は一分としない内に眠りこけ朝までそこで爆睡してしまったのだった。



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